とんとむかし

2007年5月10日 (木)

とんとむかし

  やふの剣

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、湯殿のやふのお館に、物もらいが来て、
「わしがこの家の主だ。」
 といった、
「七つのときに行方知れずになった。」
 神代から、湯殿山は世のしずめと云われて、やふのお館は、また二荒のお館という名門であった。
 たしかに、三つで行方知れずになった、双子の兄がいた。
 物もらいの云うことなど、聞いてはいられぬ。
 こやつは笛を手に、門付けして歩くという噂、
「用はない、行け。」
「ふたらのやふのお館、わしが継ぐべき正当の者。」
 物もらいは居直る、
「いいから去れ。」
「名をふたらのきよえ。」
 兄はそういう名であった。
 兵が出て、追い払おうとする、物もらいは三人を叩き伏せた。
 用人が出た、
「いくら欲しい。」
「ちがう、わしがここの主だ。」
「なぜに。」
「聞こえるか。」
 物もらいが云った。
 とつぜん、美しい笛の音が鳴りとよむ、
「ふたらの一はわが剣、ふたらの一は笛。」
 どこに聞こえるのか。
 風景ぜんたいに鳴っているのか。
 舞い歌い、
「ゆどのやま、
 いにしへ神の、
 召すにより、
 名をし聞こえん、
 ふたらのきよえ。」
 一興して笛は納まった。
「わかった、おまえさまを信じよう、伝えに聞いた一人で二人、二荒の、よろずに抜きん出た、浮き世の道を。」
 用人は平伏した。
「では、しばらく。」
 引き込んで、次は年寄りと、二人の美しい女が出た。
「これらの名を云え。」
 女を指して、年寄りが云った、
「跡継ぎなれば、知らぬはずはなかろう。」
 物もらいは、二人をと見こう見した。
「知らぬが。」
「なんとな。」
 年寄りは、呪文を唱えた、
「のうまくさまんだ、もっほどーちえ、あんらかん、ふんだりすかやすーとら。」
「なんだそれは。」
 物もらいは怒った。
「うむ、陰陽の要。」
 年寄りは立つ、
「あたしはかえで。」
「わたしはすぎ。」
 女たちが名告る。
「もしやまことのふたらさま。」
 年寄りは引っ立てる、
「こやつはただの物もらいだ、お館をゆすって、銭にしようとする。」
「かえでとすぎはきよえの盾。」
 耳に残って、二人は去る。
 腕だけはしたたかだ、油断するな、つまみ出せ、殺してもかまわんと聞こえて、押し寄せた。
 柄ものをとって囲む。
 そやつらを薙ぎ倒し、
「配下の者を、殺すわけには行かぬ。」
 物もらいは云った、
「無益なことはやめて、主となるものを出せ。」
 防いでもきりがない。
 軒は破れ、倒れ傷つくもの、
「待て。」
 しずまれといって、若人が出た、
「わしが主だがおまえは。」
 と云う。
 どこか体が弱いらしく、いさかいを避ける、
「出るなと云われたが、そちの申し状はいったいなんじゃ。」
 と聞いた。
 ものもらいは仁王立ち、
「わしが正当の主だ、そっちはなんだ。」
「十六に跡を継いで、今にいたったが。」
「ふたらの一は汝、ふたらのもう一はどこへ。」
「なんとな。」
 物もらいは用人を見る。
 用人はわきを向いた、
「まあよいは、引き取れ、もしおまえが正当だというなら、やふの剣をとって来い、ゆずらんでもないぞ、館を。」
 主なるものは云った。
「うむ。」
 伝説の剣は、ふたらの巖に蔵されると云われて、千年の時を経て、今はその所在も知れぬ。
 陰陽の世を支配するという、やふの剣。
 物もらいは総勢を見回した、
「そのようなものはなくとも、うぬらを平らげることはやすい、だが取って来ようぞ、わしにも興がある、かの神変不思議。」
 主に向かって云った、
「そのあかときは、館を明け渡すか。」
 主はうなずいた。
「では。」
 物もらいは、太刀を取った。
 舞いながら去る。
 美しい女が現れて、笛を吹く、
「さうやさうさう、
 これは美はし、
 笛の音や
 行くはふたらの、
 太刀の舞い。」
 ゆるやかに舞う太刀の一振り。
 柳の枝が十二に切られて落ちる。
 人みな息を呑んだ。
 十歩を歩んで、
「しからのあけみ。」
 と呼ぶ。
 声にしたがい美しい女は、物もらいの腕なに消えた。

 やふの剣はふたらの七代が隠したという、天変地異が起こって、世ならぬものが現れ、切って捨てると、すなわち世ならぬ力が宿って、いたずらに殺傷する。
 お館は七代によって安堵し、やふの剣は名を上げたが、
「両刃の剣なり、使い手を選ぶ。」
 といって、巌に封じた。
 やふの剣に母を殺し、おのれはめくらになったという。
「まずは郷へ帰ることじゃ。」
 姿を現して、美しい女が云った。
「これからはわたしが案内しよう、お仲間を集めることじゃ、一人では叶わぬ。」
 波のように、風のように笛は鳴り、ふたらのきよえという、物もらいの道行き。
「わしはおおかみに育てられたと聞くが。」
 きよえは云った。
「そういうこともあったかも知れぬ。」
 笛の女は云った。
「いずれじいのはかりごと。」
「じいはなにもの。」
「陰陽をはかって、末世を救おうとする、しからの長老の、それが務め。」
 笹の原を行き、無数のねずみが襲う。だけかんばの山を行き、猿の群れが襲い。きよえは殺しもせず、うるさったく払いのけ、しらびその、くみの里へ来た。
「ぴーひゃらとんび。」
 笛が鳴ると、縄の帯しめた怪童が飛び出した、
「さいた、おん前に。」
「やふの剣を取りに行く、従え。」
 きよえは云った。
 怪童のさいたはうなずいて、あとへ従った。
 烏の襲うさるけ谷内を行き、ひきの鳴く、おんやの里へ来た、
「ぴーひゃらひき。」
 笛の音に、すげ笠の大男が現れた。
「ねおう、おん前に。」
「やふの剣を取りに行く、従え。」
 大男のねおうは、つきしたがった。
 山蛭の道を行き、蛇のやわたを抜け、おせどの里へ来た。
 刀のおうろと、三又の槍のまだらがつき従った。
 湯殿の山にけむり立つ。
 しからというは、これは七代さまの、隠れ里と。
 笛の音に、虹がかかる。
 宝のありかという、美はしの里。
 まっしろに年老いた狼のつがいが、しからのじいのかばねを守っていた。
 すでに死んだ。
 彼が申し状のように、ふたらのお館へ入ることは叶わなかった、
 葬るしかないか。
 笛が鳴り響む。
 村中が集まった。
 しからのもがりは簡単であった。
 みなして一言を手向けして、歌っては荼毘に付す。
「日は落ち、
 月は上り、
 いくとこしなへ、
 草ぼうぼう、
 煙じょうじょう。」
 煙が龍になった。
 紅蓮の炎を吐く。
「伝えの通りだな、では問をう。」
 きよえが云った、
「やふの剣の在処は。」
「やふの滝を通ひて、しんごんの巌。」
 吐きかける炎が、道順を示す。
 きよえは心に印す。
「真言はいかに。」
「のうまくさまんだ、うんけんそわか、しずやしずなんだい、あ。」
 告げ終わって、龍は消えた。
 美わしの里からは、弓のてんまといしゅみのはふと、棒のだんが従った。
 あしたを待って、一行は出発した、
 あかつきをおおかみが吠える、
「さきおひをよみす。ぴーひゃらぴ。」
 笛が応じた。
「敵が襲うと云っている、らじにいの族二つ、りんざの族、てらんの族、そうしてわけもわからぬもの。」
 やふの剣は、宝を隠すという。
 無尽蔵の宝をという、伝へを真に受けるものら。
 ぐろという者が待つ、
「里の者だ加えてくれ。」
 という。
「ちがうよそものだ。」
「妻は里のものだ、夫婦で賄いをしよう。」
「そんなものはいらん。」
 ねおうが云った、
「身の回りはする。」
 だが仲間になった。しまという妻のほうが油断ならぬ、取り入ってふてぶてしく。

 やふの谷はせんどの回廊を行く。
 両側をなでのつく絶壁、
「さいたとまだら行け。」
 ねおうが云った。
「弓のてんま、ところを取れ。」
 さいたとまだらが行く。
 石が一つころげ落ちて、なにごともなく。
「ぐろ夫婦来い、さあわしとな。」
 さいたが引っ立てる。
「石の落ちたあたりだ、てんま。」
 云いおいて行く。
 なでついて、ねおうを目指して襲いかかる、てんまの弓が四人を射た。
 引き上げ切れずに二人、がけをずり落ちる。
 さいたとまだらが押さえ込んだ。
 叫び上げる。
「龍の真言を、地図を示せ、われらこそ宝を継ぐもの。」
「ちがうな。」
 名告りも聞かず、きよえは刺し殺す。
 もはや襲うまいといって、行く。
 回廊を抜けて、清見の、うまらの原であった。
 錦ののぼりが立つ、
「らじにの旗だ。」
 おうろが云った、
「光明はわれにあり、戦をもって明かそうぞ。」
 正義を見よとて、百人二百人襲いかかる。
 ふたらのきよえは受けて立つ。
 さいたは槍、ねおうは長刀、まだらは三つ又の槍、てんまは弓、はぷはいしゅみ、お−ろは刀、だんは棒。
 一人十数人を薙ぎ倒し、きよえはらじにの本拠を襲う。
 三つ又を縄にからめ取られて、まだらが宙吊りになった。
 笛が鳴りとよむ。
 うまらの原が波をうつ。
 はぷのいしゅみが、まだらの縄を切った。
 ぐろが、ねおうに首ねっこを押さえられ、
「こやつ戦泥棒だ。」
「いえわしらは、賄いに用立てようと。」
「まあよい。」
 ねおうが突き放す。
 きよえは、らじにの頭領を捕えた。
「云え。」
「七代さまの正統はわしらだ、龍の真言を聞きたい、地図とな。」
「では刀をとれ。」
 頭領は、光明の刀をとる。
 きよえは一撃に倒して、むくろを烏どもにほおった。
 しまの目が金色に光る、賄いの夕闇、
「どういうことだ。」
「もしや。」
 のうまくさまんだ、呪文だ。年寄りが、世ならぬものを呼んだ。封じ込めるはずが。

 りんじが襲いかかる。
 これは黒衣の集団。
「宝はくれてやろう、剣はわれらがもの。」
 という、ぶなの森であった。
 ぶなから湧いて出る。
 槍のさいたが頬をえぐられ、刀のおうろが二人を倒してひじを切られ、だんが棒をふるって、追いつめられ、
「走れ。」
 きよえは叫んだ、
「森を抜けろ、せんじょうの原に弓といしゅみだ。」
 払いのけぶちかまし、必死に突っ切った。
 手だれがようやく逃げおうせ、ぐろ夫婦は息も切らさず。
 ぐろは、倒された衣を剥いで着る。
 しまはこうもりに変化する。
 まわりから、無数の影が浮かんで、敵も味方もなくまつわりついた。
 せんじょうの原だ。
 森を抜けて来るりんじを、えんまの弓とはふのいしゅみが射貫く。
「我らを追う他はないからな。」
 きよえがいった、
 笛の美しい女が現れ、
「世ならぬものは、よこしまに、おろかものに頼って出現する、わたしに任せておけ。」
 笛の音に、ぐろとしまが舞う、
 森に入って、りんじを引っ張り出す。
 りんじの頭領が浮かれ出る。
 幻影に血迷う、そやつをひっとらえた、
「剣を受けるはわれら。」
 りんじの棟梁はいった、
「笛の女をしからに返せ、まぼろしではない、実際こそは。」
 きよえは首を刎ねた。
 せんじょうの原のはて、しずめの滝をわたる。
 てらんが現れた、
 もえぎの鎧。
「さよう一番の難所よ、ここを抜ければ、じきに手に入る、剣はくれてやろう、宝を貰う。」
 てらんの棟梁がいった、
「宝をよこすならば、すんなりと通すが。」
 激戦になった。
 ねおうときよえとおうろの他は、倒されるか、滝に呑まれて押し流される。
 笛があとを追う、
「笛を頼りに泳げ。」
 渦巻き流れる。
 美しい衣のあとへ、おうろが落ちた。
 きよえとねおうは、切り伏せ、突き刺して滝の洞へ。
 どうめく滝の裏、
「行け、抜けるとしんごんの巖。」
 二人は暗黒を行く、
「待てえおうわんわん。」
「何をおうわんわん。」
 こだまを、笛の音が追い。
 これは笑い声。
「おうっほっほ笛の女、おまえに代わってお仲間どもは助けてやったぞ、だれしもを救うもの、てるぜ。」
 なんというみにくい、
 びったりとひっついて。
「おうさ、またわれらが世。」
 虚ろに男の声。
 世ならぬ戦。
 笛が高鳴って、世ならぬ戦の激しさ。
 きよえもねおうも手が出せず。

 洞を抜けて日にまぶしく。
 てらんの棟梁がいた。
 叫ぶ。
「剣を、宝はわがもの。」
 きよえは刺し殺す。
 そのむくろが蘇る、
「宝ももらおうか、つるぎもな。」
「剣も欲しいが宝もな。」
 無数によみがえる。
「こやつはなにもの。」
 きよえとねおうは、切り伏せ、突き刺し、
「はっはっは、死んだものは二度とは死なぬ。」
 腕を伸ばして、きよえとねおうの首をしめる、
 万力のように、
「あけみ。」
 笛が鳴る。
 万力のような腕がほどけ、
「巖へ。」
「よし。」
 二人は走った。
 うなり声がして、虎がおどり出る、
 ばけもののような大こうもりと。
 巴になって、美しい笛の女を襲う。
 むくろどもが手をさしのばす。
「剣に頼る他ない。」
 巖は草むして立つ。
 なにをどうすればよい。
 真言を唱えた、
「のうまくさまんだ、うんけんそわか、しずやしずなんだい、あ。」
 なんにも起こらない。
 きよえが、無造作に手をつっこんだ、
 黄金の剣を引き抜く。
「きえい。」
 一振りすると、ものみな失せた。
 さんと日の光。
 しんごんの巖に一礼して、二人は引き返す。
「みな命を失った、わしらのみ生きているのは、どうしたことだ。」
「剣を手にしたということ。」
 滝を抜けるとさいたがいた、
「そうか、生きていたか。」
「笛の音に浮かび上がって、岸にたどりついた。」
「世ならぬものは。」
「なにまやかしさ、わっはっはわしらがあんなものに。」
 おうろが待っていた。
「やつらを退治てくれようとて、流れにはまった、やっつけたら虎になったぞ、おっそろしげな幻にな。」
 道行きにしたがい、まだらがいた。
 だんもいた。
 柄ものをもつ者は弓のてんまだけだったが、みな無事であった。
「まやかしに、引き入れられるわけはない。」
 みなまた笑った。
「笛はどうした、滝から浮かび上がらせてくれたが。」
「あの美しい女だけがいない。」
「うむ。」
 消えていた。
 地の底に奪われたか。
 ぐろも失せ、しまは姿を現わして逃げた。
 総勢して、やふのお館に乗り込んだ。
 主に剣を示す。
「そのものがまことであれば。」
「まことさ。」
 黄金の剣を、きよえは抜きはなった。
 そっ首を刎ねんいきおい、
「わ、わかった。」
 きっさきに光が走り、霧が吹くように龍のおもかげが浮かぶ。
「そのものは世を支配するという、持ち主の願いを聞くという、して宝のありかは。」
 主は聞いた。
「そうか、願いを聞くのか。」
 きよえはいった、
「待て、おろそかに願うべきではない。」
 主は慌てた、
「あけみを救え剣よ、しからの妹を。」
 光ぼうは炎になって突っ走る、雷鳴って、地の底から、なにものか現れ出る、あたりはしずまりかえった。
 傷だらけの虎とこうもり。
 美しい女を、そこへ残して消えた。
 息も絶えるあけみ、
「しからにほうむって。」
 と聞こえ、一管の笛になった。
 剣をなげうって、きよえは笛を拾った。
「引こうぞ、ものみな終わった。」
 きよえはいった。
 主が黄金の剣をかすめとる、
「これさえあれば。」
 抜きはなって、どこか軟弱であった主が、金剛力士のように立つ、
 目は妖しい炎、
「笛をもってとっとと失せろ、物もらいども。」
 そのあたりが燃える。
「龍の炎がまつわりついて、消したら燃えうつった。」
 おうろがいった。
「わしも世ならぬものに、とっつかれておった。」
 たちまち燃えひろがって、火は館を覆う。
 剣をもった主を追うごとく。
「かえでとすぎを、あれはお蔵の鍵。」
 笛がさやめき、かえでとすぎを救って、館を抜け出した。
 年寄りや用人はどうなったか。
 焼け落ちたあとにかなさびた剣があった。
「宝のあるゆえに、しからは美しの里。」
 笛が云った。
「はい。」
 かえでとすぎが鍵になった。

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とんとむかし

  両手に花

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、せんど村に、げんごろうという男がいた。
 びっこでめっかちで、嫁なしだった。
 やまいも掘りの名人だって、お殿さまにも献上したそうの。ある日、やまいもを二本掘って、わらずとにして、売りに行ったら、お宮に乞食がいて、そこらへんでくそひった。
「うわあくせえ、お宮でねえか、なんたらこな。」
「出るものはしかたがねえ。」
 乞食は云った。
「しかたねえって、始末はしてけ。」
 げんごろうはいって、通りすぎた。でもどっかくせえ、なんとしたや、わらじのはしっこに、とっついた。
「くっそ乞食。」
 川で洗って、草っぱに拭いて、そんでもどっかくせえ、
「くう、なんて日だ。」
 げんごろうのやまいもといって、売り歩いたが売れぬ。
「あ−あそういうこった。」
 と、帰って来たら、なんと乞食が死んでいた。
「くそひった乞食だっても。」
 げんごろうは、村役、坊さまつれてきて、
「くっせえ縁だでしかなええ。」
 といって、とむらい出した。
 したら、夢に乞食が出て、
「せんどの宮のお使いである。」
 と云った。
「なにをえらそうこいて、へっぴり乞食が。」
 と、げんごろう、
「嫁が欲しいか。」
 という、
「ふん、嫁っこの二人ももってこう。」
 といって、眠くなって寝た。変だな夢ん中で眠るぜ、くそふんずけたせいだ、寝る子は育つといって、あした朝。
 めっかちでびっこに、花の着物きた女がいて、そうして、もみじの着物きた女がいて、
「お早うさん。」
「お目覚めなされたか、おっほ。」
 といった、
「きえ−。」
 げんごろうは、破れ蒲団ひっかむった。
 はあて、そのまんま夢の、としかさをお花といい、二つ下をかえでといった、
「おまえさまがた、どっから来なさった。」
 旅の者でという、
「どこへ行きなさる。」
「おまえさまの嫁になる。」
「二人で。」
「はい。」
「間違いにしちゃあんまり。」
 そんなで半月たった。
 げんごろうは、やまいも掘って、ほかのことは知らず、二人嫁さまは、よく笑い、にぎやかでもって、用をいとわず。
 村中よったくって、だれかれいた。
「おらどっち貰えばいいだか。」
 げんごろうははや、
「うーんどうすべえ。」
 お花にかけあえばうふうと笑う、かえでにせまればおほうと笑う。とつぜん、泣いたり怒ったり、
「こりゃたまらん、一人暮らしがええ。」
 たって、嫁欲しい。
 せんどの宮の、そりゃお祭りだった。
 村中よったくって、美しい嫁さま二人もいた、めっかちとびっこの、やまいも掘りのげんごろうが、舞いを奉納、
「おら不調法だ。」
 たって聞かぬ。
 花もかえでも浮き浮き。はあて両手に花の舞い、
「花も咲く、
 もみじも散るは、
 めっかちびっこの、
 やまいも掘りが、
 両天秤、
 ありゃさ。
 月はぺっかり。
 流転三界。」
 どんがらぴーと妙に拍子が合って、
「お殿さまだて、
 珍重どっこい、
 両手にぶーらり、
 やまのいも。」
 どーんと大受け、そうしてこうして、どうなったか、おとのさまに招ばれて、美しい二人妻と、やまいもの舞い。
 二人妻、おとのさまに召し上げられて、げんごろうは、年寄って、乞食して歩いていた。
 ひり下して、見りゃお宮の前、
「なんたらこんげなとこで。」
 怒鳴り声が聞こえた。
「二人抱けてりゃ、乞食しなかったな。」
 というふうに聞こえて、ふっと目が覚めた。
 やまいも二本と昼寝していた。
 そういえばくせえ、まだどっかとっついたか。
 せんどのお宮には、変な舞いが伝わっておった。
 へっぴり踊りだとさ。

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とんとむかし

   まのび漬け

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、いまいの村に、きたろうという男があって、用でもないときに、ふやけたような鬼つら出す、
「縁起でもねえ。」
 と人は云ったが、たいてい能無しの、役立たず。
 ごすけの嫁がお産でもって、産婆どのおくれててんやわんや、のっこりきたろうが来る、
「塩貸してくれ、ちっと切らした。」
「それどこじゃねえ。」
 嫁うなるし、どうにもなんねえ、
「塩まいてくれっかもう。」
「おうまくほどでええ。」
「あっち行け。」
 産婆どのようやく来た、おおわらわしてもって、
「おんぎゃあ。」
 たら生まれた。
 きたろうは火燃やす。
 よせばいいのにさ、
「ぎゃあ火傷する、なんたらこの産湯は。」
 追ん出され。
 あるとき、建て前があって、餅と銭とまくで、みんなよったくっていた。大家さまのとこだで大盤振舞で、中にもお供え餅ぐらいの紅白、降って来るといった、
「すげえ、みとの次郎兵衛さまとこ以来だ。」
「あんときゃ一分銀へえっていた。」
 それってんで、いいかげんまいて、おくれてのっこり来た、きたろうの頭へ紅白がどっかん、きたろう目回した。
「えっへ、おらもん。」
 だれかそいつ拾って、うわあと云って、きたろうはほったらかし。
 間がわるくって、ふんのびたで、
「まのび餅。」
 だってさ。
 そんなんできたろうは、嫁なしの、年も四十を過ぎた、
「おらあ嫁っこ欲しい。」
 ふだんなんにも云わんのが云った。
「そりゃまあの。」
 と、母親。
 ねえってわけでもねえんだが、
「旅に出る。」
 きたろうは云った。
 嫁さがしの旅に出るそうの、
「四十男がの。」
 縁起でもねえとは云わず、なぜかみんな、はなむけ持って来て、
「がんばりや。」
 と云った。
 川中の町に、紺屋どんあるで、そこへ務めりゃ、嫁めっかるか。
 紺屋どんだって、四十男いらん、お店の前に、ぽけえとつっ立っていたら、
「仕上がったで、法被。」
 どっさり荷わたされ、
「いそやの衆によろしくな。」
 といった。
 磯屋は、知られた漬けもの屋で、二十里も先だが、
「はいよ。」
 といって、きたろうは荷かついで、歩き出した。
 いそやっていうのは、うんめえもんこさえたが、
「つけもんに嫁さんとかけて。」
 いそやと解く、その心は、
「わしが重石。」
 へんだなこんげじゃだめかといって、行く。
 野越え山越え、お地蔵さまあって、
「嫁さまよろしくな。」
 と願をかけたら、
「ほっきょかけたか。」
 ほととぎすが鳴いた。
 その心は、
「うーんわかんねえ。」
 と行くと、日が暮れた。
 ぽっかり月が出た。
 宿を借りねばなんえが、向こうに灯が点る。家があって、
「ごめんなしって。」
 一夜の宿を乞うと、
「おらあち、病人がいるでだめだ。」
 と云った、
 そうかと行くと、また灯が見え、旅のもんだというと、
「今うちは病人があって。」
 と、ことわる。もう一軒も病人、
「そうか、流行り病でもあっか。」
 ちょうど満月、真昼のような月明かりを、のっそのっそときたろう、一晩中歩くべえかったら、だれか背中に、
「おーい。」
 と呼んだ。
「なんだあ。」
「おまえさま、いそやのお店の人かあ。」
 と聞く。
「いや、そうでねえだが、紺屋どんから法被預かって持って行く。」
 きたろうが云ったら、
「そうか、申し訳ねえ、そんだらわしとこ宿してるで、泊まれ。」
 と云った。
 ついさっき、うちには病人がいてといった家だった。
「そりゃ、ありがてえ。」
 きたろうは、そこへ泊まって、飯まご馳走になって、もらい風呂して寝た。
 月明かりが部屋照らして、ふいとまどろんだら、だれかぬうっと覗く、
「うわ。」
「病人てこいつかあ。」
 といって、軒から入って来た。
「おらあいそやのもんだが、紺屋行けば、もう持って行かれたいうし、宿へ来たら、病人いるでいう、だってもおら泊まらにゃなんねえ。」
「ふーんそうかあ。」
 きたろうは起き上がって、嫁さがしからの、わけ話して、
「へえ、世の中おらよりも、間抜けなもんいるだか。」
 といった、
「うんまあそんげなもんだで。」
 男はうなずいて、二人一つ蒲団に寝た。
 あした朝家の人は、いそやの使いが、二人になってるのみて、たまげて、
「だどもまあ、ほととぎすだって、鳴くわな、二人朝飯だけは、食って行け。」
 いそやに払いはまかってもらうでと、嫁さがしも、飯ま食った。
 きたろうは、いそやの法被わたして、
「そんじゃおらは。」
 といって、おそうに出た。
 しばらく行くと、道っぱたの道祖神に、いそやの男が倒れこんでいた、
「どうした。」
 と聞くと、
「嫁捜していると云ったな。」
 と云う、
「そうだが。」
「後家さんでええか。」
「そりゃもうええで。」
 と、きたろう、
「おらは死ぬ、きんなも出てな、そんでもって用事遅れたが、心の臓に刺す、もうだめだな。」
 ふきのはっぱに水を汲んでだすと、
「ほうほ、気が利くな。」
 それ含んで、
「おらのかか貰え。」
 といって、息引き取った。
 きたろうは法被担いで、いそやへ行って、かくかくしかじか話して、ねえなった男の葬式になった。
 葬式おわって、後家さまに問うと、
「はあ、おまえさんさえよけりゃ。」
 と、云った。
 そんできたろうは、その男のあとへ座った。いそやも手が足りず、
「まあよう似たお人かなあ。」
 といって、お店にやとわれて、いっしょに暮らした。
「どっか間の悪い人。」
 と云われてっから、母親も呼んだ。
 きたろうは人にも知られ、なぜかいそやの跡を継いだという、
「まのび漬け。」
 という、いそやの名物は、なすにきゅうりの粕漬は、きたろうの発明だったそうの。

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2007年4月30日 (月)

とんとむかし

   七福神

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、ふうす村に、げいそどくーあという欲たかりがいた。
 ねおが親の病で、ゼニ貸してくれと云った。
「いくらだ。」
「いやほんのこれくらいありゃ。」
「返せるか。」
「そりゃ必ず。」
「では田んぼ一枚でな。」
 といって、田んぼかたに貸し、また入り用になって、田んぼ取りして、とうとう田んぼみな取り上げた。
 ねおは母親死んで、もとは自分の田んぼ耕して、かつがつ稗や粟食って、みんなげいそどくーあに入れ揚げた。
「おらの米は、うめえって評判だのに。」
 ぼやいたってもう、どうもならん。
 しふうりんは、小間物屋しくじって、元手借りてもって、何か商いはないかと聞くと、絹物がいいといった。
 口聞いてくれて、そこそこに商って、流行り出して、気がつくと、上がりはたいてい持って行かれる。
 止めるに止められず、
「蛇の生殺しみてえだ、なんとかならんが。」
 と聞くと、
「女房質に入れるか、おまえにやもったいないべっぴんさまじゃが。」
 という。なんで女房だ、
 そんなわけにゃ行かぬといって、しふうりんは、げいそどくーあ肥やすために、絹商いした。
 まーるこは芸者衆であったが、だんなに死に別れて、げいそどくーあに泣きつくと、二つ返事で
「はいよ。」
 と、引き受けた。
 でもって、田舎大尽に押しつけ、たんこぶのある隠居に押しつけ、だれかれたらい回しで、はては猿回しといっしょに大道で踊る。
 すっからかんになって、
「お猿しゃんしゃん、春は花、
 ぴーとろどんと、秋紅葉。」
 猿がなついて、涙ほーろり。
 いっさはさむらいであったが、家宝の名刀を質に取られて、請け出そうっては、法外に値上がり、主人に知られるわけにゃ行かん、げいそどくーあの手足になって、人斬りもすりゃ、怪しげなこともする、
「そうさおまえとわしは一蓮托生。」
 げいそどくーあが云った。
 なにが一蓮托生だ、今にぶった斬っててやる。
 みのやの女将は、げいそどくーあのお囲いであったが、通って来る男を、
「惚れたか、そんじゃ買わせろ。」
 といって、法外な金出させ、でたらめ云って、人斬りいっさを差し向けた、
「困るんじゃねえのか、婿どん。」
 と云ったらそれっきり。
 味をしめて三人四人。そうしたら本気に惚れた相手ができて、いっさがげいそどくーあの前に、だんびら引っこ抜いて立った。
「家宝の名刀はもういらん、女将と二人で暮らす。」
 と云った。
 げいそどくーあがなんて云うかと、
「うん名案を思いついた、二人で幽霊をやれ。」
 と云った。
「なんだそりゃ。」
「世の中に坊主ほど、あくどい商売はない、まるもうけだあな、中にもうからん坊主があってな、寺ごと引き受けた。」
 という。
 二人でもって、ころあい計って、墓場にふわあっと出る。わっはっは。
 その通りしたら、評判になって、一目この目でってのがわんさか押しかけた。
 木戸銭取って、うすら坊主がお経を読む。
 縁起話をこしらえて、またそれが当たって、芝居にもなった。
 気がついたら、坊主も幽霊役の女将もいっさも食うや食わず、
「そうさあんまり食っちゃ、幽霊にならぬ。」
 と、げいそどくーあに持って行かれた。
 きゅうという女の子は、哀れで云うことがとんちんかんだといって、赤い旗さして薬売りさせ、けっこうに流行って、扱き使われ。
「なんでまあ空働き。」
 七人は集まって相談した。
 七人掛け合ったって、のれんに腕押しのげいそどくーあ。
 仕方がない。
「わしらの儲けは、浮き世じゃ返らん仕組み。西方浄土じゃ。」
 ふだらく渡海だ、と云ったら、
「ではわしも行こう。」
 と、げいそどくーあ、
「浮き世のお宝も、西方浄土。」
 といって、舟を仕立て、稼ぎ貯めたお金を、積み込んで出発した。
 米の俵に、しふーりんの絹に、まるこの満作踊りぴーひゃらどん、人殺しの名刀に、幽霊弁天、なんにもならんの坊主に、不老長寿の薬を載せ。
 七福神の宝船はこれ。
「おまえらじゃどもならん、舵取りがいる。」
 といって、げいそどくーあが舵になった。めでたしだとさ。

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とんとむかし

  ふうろのふくろ

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、いいし村に、ふうろのふくろという、神隠しがあった。
 いつもはやぶであったり、田んぼであったり、木が茂っていたりする。とつぜん道がつく。
 よっほという子が、母親に叱られて、そこら歩いていて、そんなとこ行ったらいけんと思っていたのが、もみじの下道見て、入って行った。
 村よりいい道が続いて、しばらく行くと沼があった。
 よっほは石を投げた。
 とぽっと音がして、水の辺に、見たこともない美しい女が立つ。
「笛がいいか、太鼓がいいか。」
 と、聞いった。
 よっほは笛は吹けんし、
「太鼓。」
 と云ったら、女は消えて、手には太鼓とばちがあった。
 よっほはその太鼓を叩いて、歩いて行った。
 木枯らしが吹いて雪が降って、赤いべべ着て、餅食って正月があって、ぱあっと花が咲いて踊りがあって、刀をふるって喧嘩があって、雲の浮かぶ山があって、
「ほう。」
 とだれか呼ぶ。
 そうしてどうなった。
 よっほがいなくなって、村中で捜した。
 なんのことはない、家の松の木の下で寝ていた。

 あたべえという四十男が、かまを研いでいたら、向こうに道がある、はてと見ればない、またあって、三度めに渡って行った。
 山路だった、
「あおなえ山に登るんか、こんげな道あったけかな。」
 と行くと、どでっかい腹抱えた、石の布袋さまがある、はてな、
「千本桜、めでたや長寿延命。」
 と、のぼりが立って、あたりいちめん花盛り。
 ぼんやりしていたら、
「どうして行かん。」
 と、声がした。
「よみがえりの泉。」
 と聞こえて、あたべえは登って行く。
 湧き水があった。その水を飲んで若返った。
 あたべえは、十五の少年になって帰って来た。
 でもやっぱり四十男だったし、そのあと、
「よみがえりの酒。」
 とて、甘酒こさえて売り出して、儲かったそうの。

 きよという行かず後家があって、親もねえなった、兄のもとに身を寄せていた。
 兄嫁は、とやこう云わなかったが、どうじゃといって、兄は縁談をもって来る。
 三人の子があって、先立たれて困っているというにすけ。
 断るのに苦労した。
 きよが使いに出たら、向こうからにすけが来た、見たこともない道がある、きよはそっちへそけた。
 歩いて行くと、どっか覚えがある。三本杉の、右へ上ると何軒かあって、たへえの家も、ー
 たへえの家があった。
 とつぜん思い出した。青い手拭いを。
 たへえの山仕事に来ていた、名も知らぬ、忘れえぬ人。
 手拭いを洗ってやった、置き忘れて行ったのを。胸がきゅんとなって、通り抜けたら、もう道はなかった。
 きよは、でもって、三人の子持ちへ嫁いで、いっそ幸せであったという。

 にどというばあさまが、水汲んで、やれしんどといって、手桶置くと、ばっちゃん水が流れて行って、池になった。
 顔映すと、恐ろしい鬼であった。
 にどは狂って走り回る。
 せがれを殺し、せがれの嫁を食らい、まごの手足をもぎ、地獄の沙汰して、橋のたもとへ来た。
 橋をわたるとお寺であった。
 気がつくとにどは、お寺にある、鬼の額になっていた。
 にどばあさが、川へはまって浮かんで、葬式になった。
 せがれもせがれの嫁も、まごも、ひどいできものができて、ほうそうにかかったんだとも、それが、お寺にある、鬼の額を仰ぐと、きれいに治ったという。
 お寺の縁起とごっちゃになっている。
 にどさまといって、でっかい目をした山姥の木像があって、まったく別の大寺に祀ってある。
 ふうろのふくろは、また道を開けるそうだ。

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とんとむかし

   海賊物語

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、いわまた村に、六郎という子があって、人買いに売られた。その子が海賊になって、いわまた村も襲われて、たしかにあれは六郎ではないかと人の云う、まだ十六ほどでもあったか。
 それから何年かした。
 いわまた村に、百合の花が咲く、すかしひめさゆりという名だそうで、他の地にはなく、それを取りに来た、よそ者がいた。
「花なんぞ取ってどうするんだ。」
 人が聞いたら、
「舟のへさきにな。」
 といった、
「へえ、花を飾るんか。」
「ばかいえ、型取るんだ。」
「してなんの舟だ。」
「海賊船さ。」
 男はうそぶいた。
 すかしひめさゆりは、六輪に咲いて、ぶっちがいの剣を龍がくわえる、しらぬひ龍という、みな殺しのしるし、
「出た、ゆりはな龍。」
 海賊船ゆりはな龍。
 帆を下げ、むかでのような櫂。
 とうてい逃げ切れぬ。降参して、身ぐるみはがれ、客の貴人を奪われ、舟はほうり出された。
 六郎太夫というのが頭領だった。
「花丸太夫というおいらんがいたな、二枚舌のさ、けったくそわりいでぶっ殺した、わっはっは、死霊の守護神だあな。」
 六郎太夫は云った。
「花のさきがけ。」
 海賊の理由はようもわからん。
「おれの兄はめっかちでな。」
 頭の兄という、海賊の兄貴分は、不倶戴天の敵に捕まって、
「てめえの目ん玉食らったら、助けてやろう。」
 と云われ、目ん玉、手突っ込んで引っこ抜いて、ぐわっと飲み込んで、
「うめえ。」
 といって、気を失った。
 でもって命一つを助かって、敵の娘を妻って、海賊船を手に入れた。
 六郎太夫はその片腕となった。
 なりのでかい六郎を、人買いは海賊に売った、二束三文。
「そうさ、命てえものは粗末にしちゃいけねえ。」
 兄貴は云った、
「だがそう云って兄は、わしに娘の親を殺してこいといった。」
 おれは疑われておる、おまえは若い、見た目すんなりしておる、
「妻をどうしようがいいいぞ、あいつを連れてけ。」
 という、わしはまあ、とやこういきさつあって、兄を殺ったほうが、物はすんなり行くと考えた。
 兄貴は龍がお守り、すかしゆりと二つの魂が守ってくれる。
 六郎太夫は笑った。
 かく物語るは、海賊船百合花龍を、しまいまで見取った、ひいえのあやと申す者、しかり大和人ではない、唐人じゃ。
 百合花龍は、名を馳せた。
 軍船三そうと、唐舟を襲ったのは、
「法外な値でがらくたを売りつけよる、はったりどもを成敗。」
 といって、一そうで踊り込んだ。
 それは見事な采配だったな。
 いや自分は、お宝というより、文物のまあなんだな、野卑な大和人に、ものの価値を知らしめる、服部いやさはったり博士としてな、ついて来たわけだった。
 軍舟は足も速いし、いしゅみや大砲をそなえて、巴にせまる、百合花龍はそいつをまったく無視して、狙いのお宝舟に迫る。
 よく風を読んでおったな、まっしぐらに突っ込んで、へさきをつける。
 軍舟のどんぱちが応えない、なぜか狙いも外ける。
 鉄甲を貼りつけたか。
 乗り移って来る、日本刀をふりかざして、恐ろしいのなんのって、首をはね、手足をもいで血の海。三、四人たたっ切られて、しゅんと鎮まる。
 降参だ。
 軍舟は味方を攻めるわけにゃ行かぬ、うろうろするところへ、大砲がうなって、うわっと三そう沈めちまった。
 女どもとお宝と、まあその、いやわしは鼻をそがれて、鮫にほうられるところを、
「わたしめがいないと、せっかくのお宝も、ただのがらくたも、首尾ようは売れんでな。」
 といったら、
「きんたま縮み上がらんやつもいたか。」
 六郎太夫は笑って、
「好きな女を選べ、ついて来い。」
 といった。
 黙っておれば、取るものはとって、あとは舟とともにほったらかしだったんだが、さだめだな、わしは公人に献上の、そりゃもう美しい女をほっほ、選んだな。
 代わりに一生を異郷のさ、海賊の奴隷となって、ー
 まあそういうこったな。
 唐舟のお宝は、信じられぬほどに、高価に売れた。
 貴人公人、侍大将ども、町人また金に糸目はつけず。女たちもお宝であった、唐人のはした女を、天竺の踊り子といって、どうせ女は化物だ、にんじんやれいしといった不老長寿の薬をつけて、金銀珊瑚なぞはただのお飾りと、まあまったくの荒稼ぎ。
「奪うだけでは、いえあのう、お働きだけでは、富はなし、食うだけが関の山。」
 わしの云うことの、さよう真偽を見抜く、六郎太夫は、並みの男ではなかった、
「売らんかな、これのみが財。」
 頭は鼻のない男を、連れて来た。
「こいつはわしを売った人買いだ、お礼に鼻を削いでやったがな。」
 という。
 海賊にも売れば、貴人にも売る、しこたま稼いでいるはずが、貧相なやつさ、名をひれんがという。
 ひれんがは云った。
「おれは地獄にいた、稼ぐはしからおっかあが台無しにする、無間地獄だあな。観音さまが哀れんで、一回はシャバに出してやる、かいなしを抜け出せとさ、でもって同じだ、稼いでもかせいでもばくちうっちまう。」
 ふーん使えそうだ。
 ばくちうたせて、ひいえのあれ、わしは使った。
 人買いひれんがのくもの巣、切っても切れぬ糸。
 目をつけたものは必ずという。
 そういうわしは、見事にわなにはまって、美しい妻を人質に、逃げ出すわけにも行かず。
 稼ぎは豪快に使って、情報を仕入れたり、舟に注ぎ込んだ。
 しばらくは雑魚ばかり。
 官舟をやると、あとが悪い、もっとも近頃は私舟と変わらない。
 唐人との貿易は、行きは絹と黄金だ。
 大名舟を襲って、さむらいどもをぶった斬って、名を馳せたはいいが、もうけはあんまりなく。
 戦があるらしい。
 海賊どものてんでん勝手が繋がる。
 呼び出しがかかった。
 百合花龍は、井村の水軍であった。海賊にもそれなりの仁義が有った。
 六郎太夫は、手下の二人を人質見習いに、石神井戸という、親分格の舟に差し出していた。
 石神井戸から、まかり出ろと云って来た。
 二人の手下のうち、年上が船頭式、一丁前の海賊になる式を上げる。
「めでたく首座となった、百合花のお越しを願う。」
 というのだ。
 六郎太夫はいまいましかった。
 包んで百両がとこはかかる、そりゃまあ、仲間内には幅が利くが。
「なんとか行かずにすます法はないか。」
 頭領はひいえのあれに聞いた、
「まず無理ですな。」
 あれは云った。
「金がかかる、おまけにあの二人、石神の手先になるぞ。」
「大いにありますな、配下になるにはどっちが大舟かってわけで、うっふう、首座をばっさりってのも、間が抜けてますで。」
 あれは、鼻かけのひれんがを呼んだ、
「おまえのくそ知恵は無限だでな。」
 いきさつを話すと、
「二人の姫を伴うがよろしい。」
 と云った。
「なんだと。」
 石神は女人は、そりゃ海賊だで舟には乗せぬ、忌み嫌う。だが貴人公人の女は、髪の毛やかぶりものを請けて、守り神にする。
「将来舟をもったあかときにはてんでさ、いやさ首座がな。」
 おまじないぐらいにはなる。
 六郎太夫は、百合花龍を向けた。
 戦はできる。
 でなきゃ海賊とは云われぬ。
 二人の姫と、なんで二人の姫なんだ、ひいえのあれにひれんがが従った。
「まあおめでたい式だでな。」
 四日の旅だった。
 大舟が行く、
「あいつは安藤の舟だな、能登を回って京へ行くぞ、黄金だ。」
 迎えうて。
 百合花龍は風を読んで、巧みに先回りする、
「姫を乗せて海賊は、どうかと思いますが。」
 ひいえのあれが云った。
「なんだと、わしの鉢巻にゃそんな遠慮はないわ。」
 頭はいった、
「連れてこい、二人面倒みてやる。」
 姫の出自は聞いたが、忘れてしまった、
「ふむ。」
 美しい。
 若しや替玉なんぞじゃなく、
「日よりもよげじゃ、楽しゆう。」
「よろしいにな。」
 二人は、海賊の頭に取りすがる。
 疑うさえ知らぬ。
 逃げるならぶった切る、
「えい、二人押し込めておけ。」
 追いやって、先頭に立つ。
「しょうもない、一発打って停船させろ。」
 その通りして、相手は止まる。
「ぐんと寄れ。」
 へさきをとっつけて、頭領は云った。
「海賊百合花龍よ、知らんなら今から覚えい、戦は今日はせん、百両を申しつける、差し出せ。」
 しばらくあって、先方は、まっ白いひげの長者が、百両を差し出す。
「我らが黄金何十万あろうが、百両とはな、豪気な海賊よ。」
 といった。
 辺りを払う風格。
「うるさいそういうこった。」
 百両を取った、
「うむ百合花と、気に入った、もし戦ならおまえさん方手も足も出ん、安藤水軍だが。」
 長者が手を上げると、いかなる武器か、音もたてず、百合花の鉄甲を貫く。
「何かあったらわしらへ来い、わしの名はへいせい。」
 白ひげの長者は云った。
 舟は離れた。
 首尾ようというより、ー
 井村水軍の長はいない。
 石神が名乗りを上げた、百合花龍に配下になれということ。
 石神井戸は井村の青龍をかかげる。ひいえのあれがうながすと、百合花龍のへさきに、橘の家紋が上がる。
 なんとそれは、ー
「姫二人まさか。」
「はいまさかでありまする、わたしめに仰せつけたはあなたさまで。」
 ひれんががにっと笑う。無気味を通り越して、いっそ無邪気なふうで、頭領は呆れた。
 石神は物も言えぬ。
 やんごとなききわの。
「太夫どのに惚れたと申された、おっほ。」
 ばかもん、そんなこっちゃない式だ。
 おれみてえな卑しいもんが。はて鼻なしの人買いが。
 式は上座が頭領になって、軍舟を操る、
 首座もんまきは、十八歳、もう一人からつは十七、捨子であったのを拾って育てた。食わせるとよく食って、十のころには大人の大きさがあった。
 海賊に仁義などない。
 どうなる、石神の軍舟は三そう、見事な展開だった。百合花龍の行く手をやくして、責め立てる。
 降参のしるしに旗を投げる。
 親舟がいっきに来るか、百合花を分捕れば、井村の長は転げ込む。
 旗を投げ、ついでに梯子網を下ろした。
「見事じゃ、天晴れ。戦利品の代わりに、百合花の酒を飲ませよう、上がれ。」
 と呼ばわった。
 二人の姫が瓶を抱える。
 首座もんまきとからつと、三十人われがちに駆け昇る。
 その帰り舟に、もんまきとからつと、百合花の精鋭が乗り込んだ。
 六郎太夫が先頭に立つ。
 電光石火の攻め。
 頭領石神しゅうしんの首をなぐ。
 すれば従った。
 十八のもんまきと、石神の利き腕よしあきらを頭領に、したがわぬは手足をもいでふかの餌にし、ふかの餌は一人ですんだ。
 二人の姫のうち、しょうこを、石神の守りにし、えいこを百合花の守り神にし、二そうの海賊船は出立した。
 伝え聞いて、井村水軍の長にという、幾つか百合花龍に加勢しようとしたが、六郎太夫は首を振った。
「われらは海賊だ、徒党を組んで食って行かれるものか。」
 二そうだけでも、へたすりゃ転ぶと云った。
 たしかに獲物がなかった。
 村を襲うことはしたくなかった。
 食いものと水と、たいしたものはなかったし、手下どもがなにをやらかすか。
 もんまきとからつは、海賊に襲われてみなしごになった。
 仕返しをしようと思ったという。
「ふーん。」
「頭領について行けばいいとさ。」
 ひえだのあれもひりんがも笑った。
 中国船を二そう、官船を一そう襲って、お宝を奪い、目利きの二人がこれはというものを、水揚げした。
 雲行きが変わった。
 井村水軍が組織した。
 大名大河内が力を伸ばし、海賊を一掃して、平和な貿易をという、
「そりゃ海賊の、まあさ。」
「成れの果てってもんかな。」
 あくどい商売を一手に引き受ける。
 百合花と石神は攻め立てられ、囲まれて、四そうを倒し、血路を開いた。
「ようし、あいつらを獲物にすりゃいいぜ。」
 百合花と石神は出没して、火矢を放って燃やし、船ごとぶっつけてみな殺しにし、泳ぎの達者なやつが夜陰に紛れて舵をこわし、堂々乗り込んで女にしびれ酒なと。
 戦には頭領が先頭に立つ。
 勇猛果敢であった。
 大河内の水軍はなりをひそめ、
「ほっほまたむかし通りの、静かな海に戻ったわ。」
 と云っていたが、ほかの舟もまるっきり見えぬ。
 つまり獲物がない。
「えい丘へ上がるよりねえか。」
 といって、百合花龍のとりで、赤根崎に引き上げたところを、襲われた。
 大河内の兵隊だった。
 さしもの海賊も陸戦には破れて、どうにか海へ逃れると、軍船が待っていた。外国の船だった、帆が三つもあり船足も早く、武器もすざまじいものであった。石神はくだかれ、百合花が脱出した。
 姫は二人救い出した。
 船を乗り捨てて、姫二人と、ひれんがとひえだのあれと、もんまきとからつとだった。
「安藤へ行こう。」
 頭領は云った。
 いくたび危うい目にあって、
「二人の姫をわたせ、命は助けてやろう。」
 と云って来るのを、
「いやじゃ。」
 と、姫たちは云い、
「わしらは一蓮托生よ、みなで腹かっさいて死ぬさ。」
 と、男どもは云って、死に物狂いに活路を開き、どうやら安藤へついた。
 へいせいという、白ひげの長者が迎えた。
 だれも手出しはできぬ、みちのくの都であった。
「姫は橘のさるやんごとなき、一をわしがもうし受けたいが。」
 という、
「一はそなたの御料にな、でもってわしのせがれと、つまりおまえさんと義兄弟だ。」
「いえ、海賊のような卑しの者など。」
 という頭に、ひれんがが云った、
「頭領おまえさまの出自は、姫に勝るとも劣らぬ、わしはそれを知って買いに行った。」
 そっと耳うちする。
「鼻をもがれたは罰があたった。」
 と笑う。
 さるお方の落とし種。
 一目みて尋常ならぬと知ったと、白ひげの長が云った。
 二組はめでたく祝言をあげて、安藤は舟を引き出物にする、
「これ一そうで、大河内など問題にならぬわ、ふっふ日本国でさえな。」
 と云った。
 見たこともない舟だった。
 帆もなければ櫂もない、信じられぬ速さで進む。
 もんまきとからつが操舵を覚えた。
 二十人が選ばれて乗り組む。
 ひいえのあれとひれんがは舟を下りた。
 姫として、
「海賊はもう飽きた、わしらは何をしたらいい。」
 頭領が云った。
「ほっほ、おまえさんがそう云うのを待っていた。」
 長は云った。
「この世の出口はここ安藤にある、入り口は別にある、それを捜しに行け。」
 もしや竜宮であるかも知れぬと。
 舟は出発した。
 行って帰らぬ旅。二十年後に安藤はとつぜん消えた、栄えた都は、遠浅の湖になった。
 出口と入り口がつながった。
 するとー

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とんとむかし

   金の観音さま

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、ゆきの村に、あ−れあさという女がいた。
 赤ん坊を猿にさらわれて、気がふれたという。
 ひーろき山の猿は、神さまの使いだった。
 あーれあさは、蒲団のようなもの着て、縄の帯しめて、ぶつぶつ云ったり、いきなり大声上げたりして歩いていた。
 ふり乱した髪に、やんまがとまったり、ちょうちょが群れたりする。
「神さまのお使いじゃ。」
 といって、平気で人の家に上がりこむ、がきの物取って食う、臭いし汚いし、裸足で、なんせ困りものだった。
 失せものがわかるという、あーれあさが来て、だれか、
「おらとこん猫どこ行った。」
 と聞いたら、
「木の上。」
 という。お宮のえのきのてっぺんに、下りられなくなっていた。
 そんでまた、だれか、
「かまどっか置き忘れた。」
 と云ったら、
「けつ。」
 と、なんてこった、てめえの腰にさしていた。
 そんじゃとて、掘っ立て小屋こさえ、鳥居建てて、神さまのお使いといって住まわせた。
 お供えもある、出歩かずともいいと、一石二鳥だ。
 伝え聞いて、失せものや、病気がどうの、嫁入りの方角はなと、ひえなんぞだめだ、まっしれえ米持って来いなと、そんでまあ、いっときは流行ったが、ある朝死んでいた。
 お墓こさえたら、猿がお供えする。
 石かけや柿や、ようもわからんものや。花であったり。
 三寸の観音さまが、上がっていた。
「これは。」
 と、坊さま云って、お堂が建った。
 金無垢の観音さまじゃ。
 ずいちょうじゃという。
 ひいろき観音という、これはそのお寺の縁起話。
 あーれあさは、生んだ子食って、気がふれた。物を盗むくせがあって、金の観音さまを盗った。そいつを坊主が利用したと。
 罰当たりなこと云っちゃいかんとさ。
 はてな。

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とんとむかし

  十三仏さま

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、しんご村の、よそうべえどの、いまわのきわに、坊さまが、十三仏さまの話して、初七日から三十三回忌まで、各おすがりもうす仏さまがある、
「まずはお不動さま、そうしてお釈迦さま。」
「そんなんより、」
 と、よそうべえどのがいった、
「きれいどころ十三人、よろしゅうに頼んどいてくれ。」
 この罰当たりめがというには、もういくばくもないし、お布施もあることだし、
「ようまあ手合わせなされ。」
 と、坊さま云って、あいよとよそうべえどのは、どっか幸せそうに手合わせて、大往生した。
 よそうべえは旅装束で歩いていた。
 手甲脚伴はいいが、富士山にでも登るのかな。白い着物着て、六根清浄、えいなんだこの三角の布切れは、捨てちまえといって行くと、やけにだだっぴろい河だ。
 変な婆さまがいて。
「三文払え、渡り賃だ。」
 と云った。
「けちなこというな、ほれ。」
 一両出して、舟を廻せと云った。
「向こう岸は新戸だな、おきゃんで知られた鉄火芸者の。」
「ふいっひっひ、銭の分だけ夢見るけ。」
 婆さま云ったら、舟がついた。
 乗り込んでよそうべえは、賑やかな夕暮れの町、脂粉の香りが漂う、ひたち屋とあって、池にはお不動さん、
 いよっと声かけて、入って行った。
「おこんはどうした。」
「あれどなたさま。」
「川向うのよそうべえだ。」
「あい、よそうべえさまお着き。」
 火事出してばっかりの新戸は、お不動さまお祭りしたら、ぴったり納まった、おこんねえさんの発明だ、お賽銭も上がる、
「おやまあ、おまえさまのうなったってお聞きもうしたが。」
 えらいばあさま出る、
「このとおりぴんぴんしてらあ、おこんねえさまどうした。」
「おこんはわたしじゃが。」
 なんだと、ついこないだ花の道行きは、こうふところに手さし込んで、
「おなつかしゅう、よう訪ねて下すった、あれから何十年、ついぞ忘れたことは。」
 涙と鼻水すすりあげて、どうなってるんだこやつは、よそうべえは飛び出した。
 なんかの間違いだ。
 え−と二十一んとき勘当されて、いっち評判のおこんねえさんと、火事だ、じゃんじゃん半鐘が鳴って。いっそみんなばれちまって、てんやわんやの。
 うーん、でもってお不動さんてなんだ。

「不退転の不動明王だ、まずもってー 」
 どっかで声がした。
 だからどうだってんだ。
 よそうべえは歩いて行った。
 なに初七日だって、霧がかかってさ、夏だってえのに野暮だあ、釈迦ん堂があったな。赤い屋根の、中見たこたねえけど、きざはしで遊んで。
 めくらおにしたっけな。
 よそうべえは釈迦堂の中にいた。始めて入った、おっかねえ本尊さまと思ったら、やさしいお顔のまあ、柄にもなく手合わした。
 極楽とんぼと云われて、お店の金に手出して、とうとう見つかって、ひでえめみたっけ、雨ん中はいつくばって、乞食もしたっけな、おこんはそっぽ向きゃがって。
 人を殺めたってえだけはなくって、不義理親不孝、盗人まがいや、すんでに放火。
 六歩歩んでもう一歩、
「死んだって償いはできねえ。」
 釈迦堂の中でふるえていたのを、助け出されて、ー
 死んだつもりになって、二十年。
 お店を三倍にして。うふうまあ柄にもねえ。
 一本道が続いていた。
 文殊菩薩さまだ。
「さよう、文殊普賢街道というてな、渡るか。」
 という、
「浮き世にゃ帰ってこれんぞ。」
「はい。」
 神妙によそうべえ。
 そういうきっと定めなんだ。
「三人よれば文殊の知慧と云ってな。」
 よそうべえは辿って行った
 めんどくせえ、知恵なんかいらねえや、思ったとたん地割れする。
 すんでに足をとられ、
「くわあ。」
 生きてる証拠とよそうべえ。。
 痛いかゆいは我慢もするが、けむってえのはといって、お店の主ってえのは。
 なんだか美しい風景だった。
 山川草木の、月あり花あり、かりょうびんがか、
「あれはおきよだ、女房もいる、おくみも。」
 ほんのり笑もうたり、悲しい眉であったり、
花のような、まぼろしのような。
 弟がいた、丁稚の三郎や、喧嘩仲間のよしぞうが、それが童わべになって、戯れ遊ぶ、白雲のような、茂みかげ。
「そうか、もとこういうことであったか。」
 人みな、浮き世の顔作っていただけなんだ。
 なにしろ歩いて行った。
 音声が聞こえる。
 お侍が怒鳴っている。
 借金取りが矢の催促。
 飲み仲間の喧嘩。
 女の悲鳴、
「なんだこれは。」
 腹の中に聞こえる。
 池があった、蛙合戦。
 普賢菩薩さま。
 一本道はおしまい、
 へえ、死ぬともうしゃばも恋しくなくなるか。
 なにやらおかしくなった。
「退屈ってのしかねえか。」
 かなわんと思ったら、子守歌が聞こえる。
「おどまかんじんかんじん、
 あん人たちゃよかしゅ、
 よかしゅよかおび、よかきもん。」
 ああどっか遠くの子守歌だ。
 なんでこんなに悲しい。
「はあてなあ。」
 よそうべえはお遍路さんになって、歩いていた。
「水は天から貰い水。」
 手合わせたら、お地蔵さま。
 なんまんだぶつ阿弥陀さま。
 蝉しぐれったら弥勒さま。
 それから、どうしてこうなった、てめえの家の軒先に立っていた。
「退屈だ。」
 苦労の甲斐あって、商いは順当に行く。
 でもってさ、わっはっはてめえの出る幕がなくなった。
 主ともなると、
「あーあ。」
 欠伸、芸者遊びだっても、銭金だけのこと。なに楽しかろうや。
 足腰や痛む、にのへのお薬師さんお参りして、おびんずるさんにお参りして、そんでばあさは観音講だとさ、ご利益があるったって、ないったって。
 なんという。
 目の覚めるような美人だった。
 勢至菩薩の生まれ変わり、浮き世離れしている、
「いやさ浮き世というなら、浮き世そのもの。」
 財のありったけして、よそうべえは受け出した。
 人に見せるももったいなや、棗屋敷という、離れに住まわせて、
「夏の日は棗の花に咲き満ちて、
 雨降り我れはここに宿仮る。」
 とて、老いの身をしのぐはずのなつめ。
 ぼんぼり点した。
 巨大などくろになって、ふーっと見据える。
 よそうべえは腰を抜かした。
 それっきり寝込んだ。
 蛇が這うような夏、苦しい、早う楽になりたい、
「いっそ蛇になりたい。」
 よそうべえは蛇になって這い出した、
 外へ出た、
 まぶしい。
「大日如来って、お日さまのー 」
 そやつを荷車が轢いた。
 のたうちまわる蛇、
「苦しい、」
 ぽっかり虚空蔵。
 十三仏さまを寄進いたします、すっかりお店を継いだ、それはせがれの声だった。
「遺言でありましたから、三十三回忌まで待って必ずという。」
 なに、せがれでなくって、やつは孫だ。
「なんとな。」
 そうか、へたな坊主の説教聞いたおかげで、三十三年間も悟れなかったぜ。
「わっはっは。」
 よそうべえは笑った。
 まごも坊主も、あたりを見回す。

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とんとむかし

  三つの宝

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、三戸のお宮には、三つの宝物が奉納されていた。
 青い珊瑚と紅い玉と雲石である。
 いっとうや村に、しんがやという若者があって、きよという娘に恋をした。
 言い寄って、夫婦になろうというのへ、娘の親はお大尽で、青い珊瑚を取って来たらと云う。
 それはできない相談てこと。
 時に浜に打ち上げる、ほんのかけら。
 妖しく見入る瞳のような、竜宮のことずてのような、この世ならぬ、お宝。
「かけらならひょっとして。」
 しんがやは必死になって、捜した。
 浜をさまよい歩いて、行方知れず。
 きよは物持ちの家に嫁いで行った。
 あるとき漁師の網にかかったという、夫が大枚を出して買い上げる、それは青い珊瑚だった。
 きよが取った。
 美しい。
 見入るうちに、手が浮かび上がる。
 人の白骨が。
 他の人には見えずに。
 波にさらわれた、しんがやの。
 きよはしまい狂って死んだ。
 青い珊瑚は、持ち主が変わり変わり、三戸のお宮に奉納された。
 紅い玉は、さ−るけ山のはなれ屋敷に、二人の美しい娘がいた。
 水晶の玉を持っていた。人の宿世が映るといって、占い商売をして、ずいぶん当たって、二人男狂いして、派手な暮らしぶりだった。
「わたしも年老いる。」
 姉が云った、
「このままでいようには、なんとすりゃいい。」
 妹が云った。
 占ってみようとて、玉に手をかざすと、
「あした貴人が来る、その肝を食らえ。」
 という。
「貴人とな。」
「たっとき命のつぎ穂。」
 あくる日、まだ少年といっていい、美しい若者がきた。
 肝を取るか、物狂いしつくしてそのあとに、さようじゃと、二人。
 とつぜん若者は龍になって、天駆ける。
 炎に焼かれて、山のはなれ屋敷は、燃え落ちた。
 あとに紅いの玉が残った。水晶が変化したという。
 炎であろうか、人の血を吸うものといって、三戸のお宮に奉納された。
 雲石は、水盤に入れると、霧を吹いて雲のわくようになる。
 お殿さまが狩りの帰りに、田舎屋敷に立ち寄った。しこめというにふさわしい女が、茶を出し、手料理してもてなした。殿を迎えていかにもうれしそうなしこめが、心に残った。
「あれなら奥もりんきを起こすまいて。」
 狩りの帰りや、遊び女を引き連れたりして立ち寄る、たんびに酒もよく、料理もよくなり、あっけらかんとして、変わりなく。
「しこめというは、この世の宝。」
 殿は、奥方のかつての着物を与えた。しこめは大喜びであった。舞うてみせろといったら、かぶりを振った。
 強いて酒を飲ませて舞はせて、すばらしいものであったと聞こえ、奥方のりんきに触れた。
 ある日お殿さまが来てみたら、田舎屋敷はがらんどうでだれもいず、台所にすすけた石があった。
 しこめが石になった。そういって、すすを払い水にひたすと、霧が雲のように吹いたという。
 奥方が石にもりんきして、三戸のお宮に奉納したなと。
 猿が出た。
 その猿に、三つのお宝がとっつく。
 青い珊瑚は角になり、紅い玉は一つ目、へそには雲石。恐ろしい化物になって辺りを歩く。
「地獄のお使いじゃ。」
 と人は云った。
 そうしてもって、行方知れず。
 絵馬があった。きりんを描くものであって、なぜかおめでたい、縁起絵馬となって、話が伝わる。

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とんとむかし

   かえるの眼鏡

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、たらだ村に、三郎という者があった。
 わなを仕掛けたら、なんかしらん、お化けがかかった。
 こりゃ、食えそうもねえと云ったら、
「青葉の仙人だ。」
 という、
「ひでえことをしやがる、たたるぞ。」
「仙人だと、うんだば外してやるで、なんかくれ。」
 三郎が云うと、朴の葉っぱ丸めて、さしだして、
「仙人の遠眼鏡。」
 といった。
 わなを外すともういなかった。
 そやつ覗いてみると、極楽が見えた。
 蓮の花が咲いて、夢のように美しい人が行く、かりょうびんがの鳥が歌う、
「ふええ。」
 といって三郎が、もう一度のぞくと、地獄が見えた。
 鬼のさすまたに貫かれて、血の池や、針の山に追い上げられる、わめき狂う亡者、お父かと思ったら、そりゃ三郎だ。
 ぶったまげて、それっきり。
 あくる日のぞいたら、ただの風景。
 もう一回のぞくと、なんにも見えん。
 はあてなと思ったら、それっきり三郎は、目も見えずなった。
 かえるのめがねといって、葉っぱ丸めてのぞくと、
「明日が見える。」
 といって、
「宝のありかが見える。」
 人の心が見えるといって、そりゃ子供の遊び。

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