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2007年4月

2007年4月30日 (月)

とんとむかし

   七福神

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、ふうす村に、げいそどくーあという欲たかりがいた。
 ねおが親の病で、ゼニ貸してくれと云った。
「いくらだ。」
「いやほんのこれくらいありゃ。」
「返せるか。」
「そりゃ必ず。」
「では田んぼ一枚でな。」
 といって、田んぼかたに貸し、また入り用になって、田んぼ取りして、とうとう田んぼみな取り上げた。
 ねおは母親死んで、もとは自分の田んぼ耕して、かつがつ稗や粟食って、みんなげいそどくーあに入れ揚げた。
「おらの米は、うめえって評判だのに。」
 ぼやいたってもう、どうもならん。
 しふうりんは、小間物屋しくじって、元手借りてもって、何か商いはないかと聞くと、絹物がいいといった。
 口聞いてくれて、そこそこに商って、流行り出して、気がつくと、上がりはたいてい持って行かれる。
 止めるに止められず、
「蛇の生殺しみてえだ、なんとかならんが。」
 と聞くと、
「女房質に入れるか、おまえにやもったいないべっぴんさまじゃが。」
 という。なんで女房だ、
 そんなわけにゃ行かぬといって、しふうりんは、げいそどくーあ肥やすために、絹商いした。
 まーるこは芸者衆であったが、だんなに死に別れて、げいそどくーあに泣きつくと、二つ返事で
「はいよ。」
 と、引き受けた。
 でもって、田舎大尽に押しつけ、たんこぶのある隠居に押しつけ、だれかれたらい回しで、はては猿回しといっしょに大道で踊る。
 すっからかんになって、
「お猿しゃんしゃん、春は花、
 ぴーとろどんと、秋紅葉。」
 猿がなついて、涙ほーろり。
 いっさはさむらいであったが、家宝の名刀を質に取られて、請け出そうっては、法外に値上がり、主人に知られるわけにゃ行かん、げいそどくーあの手足になって、人斬りもすりゃ、怪しげなこともする、
「そうさおまえとわしは一蓮托生。」
 げいそどくーあが云った。
 なにが一蓮托生だ、今にぶった斬っててやる。
 みのやの女将は、げいそどくーあのお囲いであったが、通って来る男を、
「惚れたか、そんじゃ買わせろ。」
 といって、法外な金出させ、でたらめ云って、人斬りいっさを差し向けた、
「困るんじゃねえのか、婿どん。」
 と云ったらそれっきり。
 味をしめて三人四人。そうしたら本気に惚れた相手ができて、いっさがげいそどくーあの前に、だんびら引っこ抜いて立った。
「家宝の名刀はもういらん、女将と二人で暮らす。」
 と云った。
 げいそどくーあがなんて云うかと、
「うん名案を思いついた、二人で幽霊をやれ。」
 と云った。
「なんだそりゃ。」
「世の中に坊主ほど、あくどい商売はない、まるもうけだあな、中にもうからん坊主があってな、寺ごと引き受けた。」
 という。
 二人でもって、ころあい計って、墓場にふわあっと出る。わっはっは。
 その通りしたら、評判になって、一目この目でってのがわんさか押しかけた。
 木戸銭取って、うすら坊主がお経を読む。
 縁起話をこしらえて、またそれが当たって、芝居にもなった。
 気がついたら、坊主も幽霊役の女将もいっさも食うや食わず、
「そうさあんまり食っちゃ、幽霊にならぬ。」
 と、げいそどくーあに持って行かれた。
 きゅうという女の子は、哀れで云うことがとんちんかんだといって、赤い旗さして薬売りさせ、けっこうに流行って、扱き使われ。
「なんでまあ空働き。」
 七人は集まって相談した。
 七人掛け合ったって、のれんに腕押しのげいそどくーあ。
 仕方がない。
「わしらの儲けは、浮き世じゃ返らん仕組み。西方浄土じゃ。」
 ふだらく渡海だ、と云ったら、
「ではわしも行こう。」
 と、げいそどくーあ、
「浮き世のお宝も、西方浄土。」
 といって、舟を仕立て、稼ぎ貯めたお金を、積み込んで出発した。
 米の俵に、しふーりんの絹に、まるこの満作踊りぴーひゃらどん、人殺しの名刀に、幽霊弁天、なんにもならんの坊主に、不老長寿の薬を載せ。
 七福神の宝船はこれ。
「おまえらじゃどもならん、舵取りがいる。」
 といって、げいそどくーあが舵になった。めでたしだとさ。

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とんとむかし

  ふうろのふくろ

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、いいし村に、ふうろのふくろという、神隠しがあった。
 いつもはやぶであったり、田んぼであったり、木が茂っていたりする。とつぜん道がつく。
 よっほという子が、母親に叱られて、そこら歩いていて、そんなとこ行ったらいけんと思っていたのが、もみじの下道見て、入って行った。
 村よりいい道が続いて、しばらく行くと沼があった。
 よっほは石を投げた。
 とぽっと音がして、水の辺に、見たこともない美しい女が立つ。
「笛がいいか、太鼓がいいか。」
 と、聞いった。
 よっほは笛は吹けんし、
「太鼓。」
 と云ったら、女は消えて、手には太鼓とばちがあった。
 よっほはその太鼓を叩いて、歩いて行った。
 木枯らしが吹いて雪が降って、赤いべべ着て、餅食って正月があって、ぱあっと花が咲いて踊りがあって、刀をふるって喧嘩があって、雲の浮かぶ山があって、
「ほう。」
 とだれか呼ぶ。
 そうしてどうなった。
 よっほがいなくなって、村中で捜した。
 なんのことはない、家の松の木の下で寝ていた。

 あたべえという四十男が、かまを研いでいたら、向こうに道がある、はてと見ればない、またあって、三度めに渡って行った。
 山路だった、
「あおなえ山に登るんか、こんげな道あったけかな。」
 と行くと、どでっかい腹抱えた、石の布袋さまがある、はてな、
「千本桜、めでたや長寿延命。」
 と、のぼりが立って、あたりいちめん花盛り。
 ぼんやりしていたら、
「どうして行かん。」
 と、声がした。
「よみがえりの泉。」
 と聞こえて、あたべえは登って行く。
 湧き水があった。その水を飲んで若返った。
 あたべえは、十五の少年になって帰って来た。
 でもやっぱり四十男だったし、そのあと、
「よみがえりの酒。」
 とて、甘酒こさえて売り出して、儲かったそうの。

 きよという行かず後家があって、親もねえなった、兄のもとに身を寄せていた。
 兄嫁は、とやこう云わなかったが、どうじゃといって、兄は縁談をもって来る。
 三人の子があって、先立たれて困っているというにすけ。
 断るのに苦労した。
 きよが使いに出たら、向こうからにすけが来た、見たこともない道がある、きよはそっちへそけた。
 歩いて行くと、どっか覚えがある。三本杉の、右へ上ると何軒かあって、たへえの家も、ー
 たへえの家があった。
 とつぜん思い出した。青い手拭いを。
 たへえの山仕事に来ていた、名も知らぬ、忘れえぬ人。
 手拭いを洗ってやった、置き忘れて行ったのを。胸がきゅんとなって、通り抜けたら、もう道はなかった。
 きよは、でもって、三人の子持ちへ嫁いで、いっそ幸せであったという。

 にどというばあさまが、水汲んで、やれしんどといって、手桶置くと、ばっちゃん水が流れて行って、池になった。
 顔映すと、恐ろしい鬼であった。
 にどは狂って走り回る。
 せがれを殺し、せがれの嫁を食らい、まごの手足をもぎ、地獄の沙汰して、橋のたもとへ来た。
 橋をわたるとお寺であった。
 気がつくとにどは、お寺にある、鬼の額になっていた。
 にどばあさが、川へはまって浮かんで、葬式になった。
 せがれもせがれの嫁も、まごも、ひどいできものができて、ほうそうにかかったんだとも、それが、お寺にある、鬼の額を仰ぐと、きれいに治ったという。
 お寺の縁起とごっちゃになっている。
 にどさまといって、でっかい目をした山姥の木像があって、まったく別の大寺に祀ってある。
 ふうろのふくろは、また道を開けるそうだ。

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とんとむかし

   海賊物語

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、いわまた村に、六郎という子があって、人買いに売られた。その子が海賊になって、いわまた村も襲われて、たしかにあれは六郎ではないかと人の云う、まだ十六ほどでもあったか。
 それから何年かした。
 いわまた村に、百合の花が咲く、すかしひめさゆりという名だそうで、他の地にはなく、それを取りに来た、よそ者がいた。
「花なんぞ取ってどうするんだ。」
 人が聞いたら、
「舟のへさきにな。」
 といった、
「へえ、花を飾るんか。」
「ばかいえ、型取るんだ。」
「してなんの舟だ。」
「海賊船さ。」
 男はうそぶいた。
 すかしひめさゆりは、六輪に咲いて、ぶっちがいの剣を龍がくわえる、しらぬひ龍という、みな殺しのしるし、
「出た、ゆりはな龍。」
 海賊船ゆりはな龍。
 帆を下げ、むかでのような櫂。
 とうてい逃げ切れぬ。降参して、身ぐるみはがれ、客の貴人を奪われ、舟はほうり出された。
 六郎太夫というのが頭領だった。
「花丸太夫というおいらんがいたな、二枚舌のさ、けったくそわりいでぶっ殺した、わっはっは、死霊の守護神だあな。」
 六郎太夫は云った。
「花のさきがけ。」
 海賊の理由はようもわからん。
「おれの兄はめっかちでな。」
 頭の兄という、海賊の兄貴分は、不倶戴天の敵に捕まって、
「てめえの目ん玉食らったら、助けてやろう。」
 と云われ、目ん玉、手突っ込んで引っこ抜いて、ぐわっと飲み込んで、
「うめえ。」
 といって、気を失った。
 でもって命一つを助かって、敵の娘を妻って、海賊船を手に入れた。
 六郎太夫はその片腕となった。
 なりのでかい六郎を、人買いは海賊に売った、二束三文。
「そうさ、命てえものは粗末にしちゃいけねえ。」
 兄貴は云った、
「だがそう云って兄は、わしに娘の親を殺してこいといった。」
 おれは疑われておる、おまえは若い、見た目すんなりしておる、
「妻をどうしようがいいいぞ、あいつを連れてけ。」
 という、わしはまあ、とやこういきさつあって、兄を殺ったほうが、物はすんなり行くと考えた。
 兄貴は龍がお守り、すかしゆりと二つの魂が守ってくれる。
 六郎太夫は笑った。
 かく物語るは、海賊船百合花龍を、しまいまで見取った、ひいえのあやと申す者、しかり大和人ではない、唐人じゃ。
 百合花龍は、名を馳せた。
 軍船三そうと、唐舟を襲ったのは、
「法外な値でがらくたを売りつけよる、はったりどもを成敗。」
 といって、一そうで踊り込んだ。
 それは見事な采配だったな。
 いや自分は、お宝というより、文物のまあなんだな、野卑な大和人に、ものの価値を知らしめる、服部いやさはったり博士としてな、ついて来たわけだった。
 軍舟は足も速いし、いしゅみや大砲をそなえて、巴にせまる、百合花龍はそいつをまったく無視して、狙いのお宝舟に迫る。
 よく風を読んでおったな、まっしぐらに突っ込んで、へさきをつける。
 軍舟のどんぱちが応えない、なぜか狙いも外ける。
 鉄甲を貼りつけたか。
 乗り移って来る、日本刀をふりかざして、恐ろしいのなんのって、首をはね、手足をもいで血の海。三、四人たたっ切られて、しゅんと鎮まる。
 降参だ。
 軍舟は味方を攻めるわけにゃ行かぬ、うろうろするところへ、大砲がうなって、うわっと三そう沈めちまった。
 女どもとお宝と、まあその、いやわしは鼻をそがれて、鮫にほうられるところを、
「わたしめがいないと、せっかくのお宝も、ただのがらくたも、首尾ようは売れんでな。」
 といったら、
「きんたま縮み上がらんやつもいたか。」
 六郎太夫は笑って、
「好きな女を選べ、ついて来い。」
 といった。
 黙っておれば、取るものはとって、あとは舟とともにほったらかしだったんだが、さだめだな、わしは公人に献上の、そりゃもう美しい女をほっほ、選んだな。
 代わりに一生を異郷のさ、海賊の奴隷となって、ー
 まあそういうこったな。
 唐舟のお宝は、信じられぬほどに、高価に売れた。
 貴人公人、侍大将ども、町人また金に糸目はつけず。女たちもお宝であった、唐人のはした女を、天竺の踊り子といって、どうせ女は化物だ、にんじんやれいしといった不老長寿の薬をつけて、金銀珊瑚なぞはただのお飾りと、まあまったくの荒稼ぎ。
「奪うだけでは、いえあのう、お働きだけでは、富はなし、食うだけが関の山。」
 わしの云うことの、さよう真偽を見抜く、六郎太夫は、並みの男ではなかった、
「売らんかな、これのみが財。」
 頭は鼻のない男を、連れて来た。
「こいつはわしを売った人買いだ、お礼に鼻を削いでやったがな。」
 という。
 海賊にも売れば、貴人にも売る、しこたま稼いでいるはずが、貧相なやつさ、名をひれんがという。
 ひれんがは云った。
「おれは地獄にいた、稼ぐはしからおっかあが台無しにする、無間地獄だあな。観音さまが哀れんで、一回はシャバに出してやる、かいなしを抜け出せとさ、でもって同じだ、稼いでもかせいでもばくちうっちまう。」
 ふーん使えそうだ。
 ばくちうたせて、ひいえのあれ、わしは使った。
 人買いひれんがのくもの巣、切っても切れぬ糸。
 目をつけたものは必ずという。
 そういうわしは、見事にわなにはまって、美しい妻を人質に、逃げ出すわけにも行かず。
 稼ぎは豪快に使って、情報を仕入れたり、舟に注ぎ込んだ。
 しばらくは雑魚ばかり。
 官舟をやると、あとが悪い、もっとも近頃は私舟と変わらない。
 唐人との貿易は、行きは絹と黄金だ。
 大名舟を襲って、さむらいどもをぶった斬って、名を馳せたはいいが、もうけはあんまりなく。
 戦があるらしい。
 海賊どものてんでん勝手が繋がる。
 呼び出しがかかった。
 百合花龍は、井村の水軍であった。海賊にもそれなりの仁義が有った。
 六郎太夫は、手下の二人を人質見習いに、石神井戸という、親分格の舟に差し出していた。
 石神井戸から、まかり出ろと云って来た。
 二人の手下のうち、年上が船頭式、一丁前の海賊になる式を上げる。
「めでたく首座となった、百合花のお越しを願う。」
 というのだ。
 六郎太夫はいまいましかった。
 包んで百両がとこはかかる、そりゃまあ、仲間内には幅が利くが。
「なんとか行かずにすます法はないか。」
 頭領はひいえのあれに聞いた、
「まず無理ですな。」
 あれは云った。
「金がかかる、おまけにあの二人、石神の手先になるぞ。」
「大いにありますな、配下になるにはどっちが大舟かってわけで、うっふう、首座をばっさりってのも、間が抜けてますで。」
 あれは、鼻かけのひれんがを呼んだ、
「おまえのくそ知恵は無限だでな。」
 いきさつを話すと、
「二人の姫を伴うがよろしい。」
 と云った。
「なんだと。」
 石神は女人は、そりゃ海賊だで舟には乗せぬ、忌み嫌う。だが貴人公人の女は、髪の毛やかぶりものを請けて、守り神にする。
「将来舟をもったあかときにはてんでさ、いやさ首座がな。」
 おまじないぐらいにはなる。
 六郎太夫は、百合花龍を向けた。
 戦はできる。
 でなきゃ海賊とは云われぬ。
 二人の姫と、なんで二人の姫なんだ、ひいえのあれにひれんがが従った。
「まあおめでたい式だでな。」
 四日の旅だった。
 大舟が行く、
「あいつは安藤の舟だな、能登を回って京へ行くぞ、黄金だ。」
 迎えうて。
 百合花龍は風を読んで、巧みに先回りする、
「姫を乗せて海賊は、どうかと思いますが。」
 ひいえのあれが云った。
「なんだと、わしの鉢巻にゃそんな遠慮はないわ。」
 頭はいった、
「連れてこい、二人面倒みてやる。」
 姫の出自は聞いたが、忘れてしまった、
「ふむ。」
 美しい。
 若しや替玉なんぞじゃなく、
「日よりもよげじゃ、楽しゆう。」
「よろしいにな。」
 二人は、海賊の頭に取りすがる。
 疑うさえ知らぬ。
 逃げるならぶった切る、
「えい、二人押し込めておけ。」
 追いやって、先頭に立つ。
「しょうもない、一発打って停船させろ。」
 その通りして、相手は止まる。
「ぐんと寄れ。」
 へさきをとっつけて、頭領は云った。
「海賊百合花龍よ、知らんなら今から覚えい、戦は今日はせん、百両を申しつける、差し出せ。」
 しばらくあって、先方は、まっ白いひげの長者が、百両を差し出す。
「我らが黄金何十万あろうが、百両とはな、豪気な海賊よ。」
 といった。
 辺りを払う風格。
「うるさいそういうこった。」
 百両を取った、
「うむ百合花と、気に入った、もし戦ならおまえさん方手も足も出ん、安藤水軍だが。」
 長者が手を上げると、いかなる武器か、音もたてず、百合花の鉄甲を貫く。
「何かあったらわしらへ来い、わしの名はへいせい。」
 白ひげの長者は云った。
 舟は離れた。
 首尾ようというより、ー
 井村水軍の長はいない。
 石神が名乗りを上げた、百合花龍に配下になれということ。
 石神井戸は井村の青龍をかかげる。ひいえのあれがうながすと、百合花龍のへさきに、橘の家紋が上がる。
 なんとそれは、ー
「姫二人まさか。」
「はいまさかでありまする、わたしめに仰せつけたはあなたさまで。」
 ひれんががにっと笑う。無気味を通り越して、いっそ無邪気なふうで、頭領は呆れた。
 石神は物も言えぬ。
 やんごとなききわの。
「太夫どのに惚れたと申された、おっほ。」
 ばかもん、そんなこっちゃない式だ。
 おれみてえな卑しいもんが。はて鼻なしの人買いが。
 式は上座が頭領になって、軍舟を操る、
 首座もんまきは、十八歳、もう一人からつは十七、捨子であったのを拾って育てた。食わせるとよく食って、十のころには大人の大きさがあった。
 海賊に仁義などない。
 どうなる、石神の軍舟は三そう、見事な展開だった。百合花龍の行く手をやくして、責め立てる。
 降参のしるしに旗を投げる。
 親舟がいっきに来るか、百合花を分捕れば、井村の長は転げ込む。
 旗を投げ、ついでに梯子網を下ろした。
「見事じゃ、天晴れ。戦利品の代わりに、百合花の酒を飲ませよう、上がれ。」
 と呼ばわった。
 二人の姫が瓶を抱える。
 首座もんまきとからつと、三十人われがちに駆け昇る。
 その帰り舟に、もんまきとからつと、百合花の精鋭が乗り込んだ。
 六郎太夫が先頭に立つ。
 電光石火の攻め。
 頭領石神しゅうしんの首をなぐ。
 すれば従った。
 十八のもんまきと、石神の利き腕よしあきらを頭領に、したがわぬは手足をもいでふかの餌にし、ふかの餌は一人ですんだ。
 二人の姫のうち、しょうこを、石神の守りにし、えいこを百合花の守り神にし、二そうの海賊船は出立した。
 伝え聞いて、井村水軍の長にという、幾つか百合花龍に加勢しようとしたが、六郎太夫は首を振った。
「われらは海賊だ、徒党を組んで食って行かれるものか。」
 二そうだけでも、へたすりゃ転ぶと云った。
 たしかに獲物がなかった。
 村を襲うことはしたくなかった。
 食いものと水と、たいしたものはなかったし、手下どもがなにをやらかすか。
 もんまきとからつは、海賊に襲われてみなしごになった。
 仕返しをしようと思ったという。
「ふーん。」
「頭領について行けばいいとさ。」
 ひえだのあれもひりんがも笑った。
 中国船を二そう、官船を一そう襲って、お宝を奪い、目利きの二人がこれはというものを、水揚げした。
 雲行きが変わった。
 井村水軍が組織した。
 大名大河内が力を伸ばし、海賊を一掃して、平和な貿易をという、
「そりゃ海賊の、まあさ。」
「成れの果てってもんかな。」
 あくどい商売を一手に引き受ける。
 百合花と石神は攻め立てられ、囲まれて、四そうを倒し、血路を開いた。
「ようし、あいつらを獲物にすりゃいいぜ。」
 百合花と石神は出没して、火矢を放って燃やし、船ごとぶっつけてみな殺しにし、泳ぎの達者なやつが夜陰に紛れて舵をこわし、堂々乗り込んで女にしびれ酒なと。
 戦には頭領が先頭に立つ。
 勇猛果敢であった。
 大河内の水軍はなりをひそめ、
「ほっほまたむかし通りの、静かな海に戻ったわ。」
 と云っていたが、ほかの舟もまるっきり見えぬ。
 つまり獲物がない。
「えい丘へ上がるよりねえか。」
 といって、百合花龍のとりで、赤根崎に引き上げたところを、襲われた。
 大河内の兵隊だった。
 さしもの海賊も陸戦には破れて、どうにか海へ逃れると、軍船が待っていた。外国の船だった、帆が三つもあり船足も早く、武器もすざまじいものであった。石神はくだかれ、百合花が脱出した。
 姫は二人救い出した。
 船を乗り捨てて、姫二人と、ひれんがとひえだのあれと、もんまきとからつとだった。
「安藤へ行こう。」
 頭領は云った。
 いくたび危うい目にあって、
「二人の姫をわたせ、命は助けてやろう。」
 と云って来るのを、
「いやじゃ。」
 と、姫たちは云い、
「わしらは一蓮托生よ、みなで腹かっさいて死ぬさ。」
 と、男どもは云って、死に物狂いに活路を開き、どうやら安藤へついた。
 へいせいという、白ひげの長者が迎えた。
 だれも手出しはできぬ、みちのくの都であった。
「姫は橘のさるやんごとなき、一をわしがもうし受けたいが。」
 という、
「一はそなたの御料にな、でもってわしのせがれと、つまりおまえさんと義兄弟だ。」
「いえ、海賊のような卑しの者など。」
 という頭に、ひれんがが云った、
「頭領おまえさまの出自は、姫に勝るとも劣らぬ、わしはそれを知って買いに行った。」
 そっと耳うちする。
「鼻をもがれたは罰があたった。」
 と笑う。
 さるお方の落とし種。
 一目みて尋常ならぬと知ったと、白ひげの長が云った。
 二組はめでたく祝言をあげて、安藤は舟を引き出物にする、
「これ一そうで、大河内など問題にならぬわ、ふっふ日本国でさえな。」
 と云った。
 見たこともない舟だった。
 帆もなければ櫂もない、信じられぬ速さで進む。
 もんまきとからつが操舵を覚えた。
 二十人が選ばれて乗り組む。
 ひいえのあれとひれんがは舟を下りた。
 姫として、
「海賊はもう飽きた、わしらは何をしたらいい。」
 頭領が云った。
「ほっほ、おまえさんがそう云うのを待っていた。」
 長は云った。
「この世の出口はここ安藤にある、入り口は別にある、それを捜しに行け。」
 もしや竜宮であるかも知れぬと。
 舟は出発した。
 行って帰らぬ旅。二十年後に安藤はとつぜん消えた、栄えた都は、遠浅の湖になった。
 出口と入り口がつながった。
 するとー

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とんとむかし

   金の観音さま

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、ゆきの村に、あ−れあさという女がいた。
 赤ん坊を猿にさらわれて、気がふれたという。
 ひーろき山の猿は、神さまの使いだった。
 あーれあさは、蒲団のようなもの着て、縄の帯しめて、ぶつぶつ云ったり、いきなり大声上げたりして歩いていた。
 ふり乱した髪に、やんまがとまったり、ちょうちょが群れたりする。
「神さまのお使いじゃ。」
 といって、平気で人の家に上がりこむ、がきの物取って食う、臭いし汚いし、裸足で、なんせ困りものだった。
 失せものがわかるという、あーれあさが来て、だれか、
「おらとこん猫どこ行った。」
 と聞いたら、
「木の上。」
 という。お宮のえのきのてっぺんに、下りられなくなっていた。
 そんでまた、だれか、
「かまどっか置き忘れた。」
 と云ったら、
「けつ。」
 と、なんてこった、てめえの腰にさしていた。
 そんじゃとて、掘っ立て小屋こさえ、鳥居建てて、神さまのお使いといって住まわせた。
 お供えもある、出歩かずともいいと、一石二鳥だ。
 伝え聞いて、失せものや、病気がどうの、嫁入りの方角はなと、ひえなんぞだめだ、まっしれえ米持って来いなと、そんでまあ、いっときは流行ったが、ある朝死んでいた。
 お墓こさえたら、猿がお供えする。
 石かけや柿や、ようもわからんものや。花であったり。
 三寸の観音さまが、上がっていた。
「これは。」
 と、坊さま云って、お堂が建った。
 金無垢の観音さまじゃ。
 ずいちょうじゃという。
 ひいろき観音という、これはそのお寺の縁起話。
 あーれあさは、生んだ子食って、気がふれた。物を盗むくせがあって、金の観音さまを盗った。そいつを坊主が利用したと。
 罰当たりなこと云っちゃいかんとさ。
 はてな。

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とんとむかし

  十三仏さま

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、しんご村の、よそうべえどの、いまわのきわに、坊さまが、十三仏さまの話して、初七日から三十三回忌まで、各おすがりもうす仏さまがある、
「まずはお不動さま、そうしてお釈迦さま。」
「そんなんより、」
 と、よそうべえどのがいった、
「きれいどころ十三人、よろしゅうに頼んどいてくれ。」
 この罰当たりめがというには、もういくばくもないし、お布施もあることだし、
「ようまあ手合わせなされ。」
 と、坊さま云って、あいよとよそうべえどのは、どっか幸せそうに手合わせて、大往生した。
 よそうべえは旅装束で歩いていた。
 手甲脚伴はいいが、富士山にでも登るのかな。白い着物着て、六根清浄、えいなんだこの三角の布切れは、捨てちまえといって行くと、やけにだだっぴろい河だ。
 変な婆さまがいて。
「三文払え、渡り賃だ。」
 と云った。
「けちなこというな、ほれ。」
 一両出して、舟を廻せと云った。
「向こう岸は新戸だな、おきゃんで知られた鉄火芸者の。」
「ふいっひっひ、銭の分だけ夢見るけ。」
 婆さま云ったら、舟がついた。
 乗り込んでよそうべえは、賑やかな夕暮れの町、脂粉の香りが漂う、ひたち屋とあって、池にはお不動さん、
 いよっと声かけて、入って行った。
「おこんはどうした。」
「あれどなたさま。」
「川向うのよそうべえだ。」
「あい、よそうべえさまお着き。」
 火事出してばっかりの新戸は、お不動さまお祭りしたら、ぴったり納まった、おこんねえさんの発明だ、お賽銭も上がる、
「おやまあ、おまえさまのうなったってお聞きもうしたが。」
 えらいばあさま出る、
「このとおりぴんぴんしてらあ、おこんねえさまどうした。」
「おこんはわたしじゃが。」
 なんだと、ついこないだ花の道行きは、こうふところに手さし込んで、
「おなつかしゅう、よう訪ねて下すった、あれから何十年、ついぞ忘れたことは。」
 涙と鼻水すすりあげて、どうなってるんだこやつは、よそうべえは飛び出した。
 なんかの間違いだ。
 え−と二十一んとき勘当されて、いっち評判のおこんねえさんと、火事だ、じゃんじゃん半鐘が鳴って。いっそみんなばれちまって、てんやわんやの。
 うーん、でもってお不動さんてなんだ。

「不退転の不動明王だ、まずもってー 」
 どっかで声がした。
 だからどうだってんだ。
 よそうべえは歩いて行った。
 なに初七日だって、霧がかかってさ、夏だってえのに野暮だあ、釈迦ん堂があったな。赤い屋根の、中見たこたねえけど、きざはしで遊んで。
 めくらおにしたっけな。
 よそうべえは釈迦堂の中にいた。始めて入った、おっかねえ本尊さまと思ったら、やさしいお顔のまあ、柄にもなく手合わした。
 極楽とんぼと云われて、お店の金に手出して、とうとう見つかって、ひでえめみたっけ、雨ん中はいつくばって、乞食もしたっけな、おこんはそっぽ向きゃがって。
 人を殺めたってえだけはなくって、不義理親不孝、盗人まがいや、すんでに放火。
 六歩歩んでもう一歩、
「死んだって償いはできねえ。」
 釈迦堂の中でふるえていたのを、助け出されて、ー
 死んだつもりになって、二十年。
 お店を三倍にして。うふうまあ柄にもねえ。
 一本道が続いていた。
 文殊菩薩さまだ。
「さよう、文殊普賢街道というてな、渡るか。」
 という、
「浮き世にゃ帰ってこれんぞ。」
「はい。」
 神妙によそうべえ。
 そういうきっと定めなんだ。
「三人よれば文殊の知慧と云ってな。」
 よそうべえは辿って行った
 めんどくせえ、知恵なんかいらねえや、思ったとたん地割れする。
 すんでに足をとられ、
「くわあ。」
 生きてる証拠とよそうべえ。。
 痛いかゆいは我慢もするが、けむってえのはといって、お店の主ってえのは。
 なんだか美しい風景だった。
 山川草木の、月あり花あり、かりょうびんがか、
「あれはおきよだ、女房もいる、おくみも。」
 ほんのり笑もうたり、悲しい眉であったり、
花のような、まぼろしのような。
 弟がいた、丁稚の三郎や、喧嘩仲間のよしぞうが、それが童わべになって、戯れ遊ぶ、白雲のような、茂みかげ。
「そうか、もとこういうことであったか。」
 人みな、浮き世の顔作っていただけなんだ。
 なにしろ歩いて行った。
 音声が聞こえる。
 お侍が怒鳴っている。
 借金取りが矢の催促。
 飲み仲間の喧嘩。
 女の悲鳴、
「なんだこれは。」
 腹の中に聞こえる。
 池があった、蛙合戦。
 普賢菩薩さま。
 一本道はおしまい、
 へえ、死ぬともうしゃばも恋しくなくなるか。
 なにやらおかしくなった。
「退屈ってのしかねえか。」
 かなわんと思ったら、子守歌が聞こえる。
「おどまかんじんかんじん、
 あん人たちゃよかしゅ、
 よかしゅよかおび、よかきもん。」
 ああどっか遠くの子守歌だ。
 なんでこんなに悲しい。
「はあてなあ。」
 よそうべえはお遍路さんになって、歩いていた。
「水は天から貰い水。」
 手合わせたら、お地蔵さま。
 なんまんだぶつ阿弥陀さま。
 蝉しぐれったら弥勒さま。
 それから、どうしてこうなった、てめえの家の軒先に立っていた。
「退屈だ。」
 苦労の甲斐あって、商いは順当に行く。
 でもってさ、わっはっはてめえの出る幕がなくなった。
 主ともなると、
「あーあ。」
 欠伸、芸者遊びだっても、銭金だけのこと。なに楽しかろうや。
 足腰や痛む、にのへのお薬師さんお参りして、おびんずるさんにお参りして、そんでばあさは観音講だとさ、ご利益があるったって、ないったって。
 なんという。
 目の覚めるような美人だった。
 勢至菩薩の生まれ変わり、浮き世離れしている、
「いやさ浮き世というなら、浮き世そのもの。」
 財のありったけして、よそうべえは受け出した。
 人に見せるももったいなや、棗屋敷という、離れに住まわせて、
「夏の日は棗の花に咲き満ちて、
 雨降り我れはここに宿仮る。」
 とて、老いの身をしのぐはずのなつめ。
 ぼんぼり点した。
 巨大などくろになって、ふーっと見据える。
 よそうべえは腰を抜かした。
 それっきり寝込んだ。
 蛇が這うような夏、苦しい、早う楽になりたい、
「いっそ蛇になりたい。」
 よそうべえは蛇になって這い出した、
 外へ出た、
 まぶしい。
「大日如来って、お日さまのー 」
 そやつを荷車が轢いた。
 のたうちまわる蛇、
「苦しい、」
 ぽっかり虚空蔵。
 十三仏さまを寄進いたします、すっかりお店を継いだ、それはせがれの声だった。
「遺言でありましたから、三十三回忌まで待って必ずという。」
 なに、せがれでなくって、やつは孫だ。
「なんとな。」
 そうか、へたな坊主の説教聞いたおかげで、三十三年間も悟れなかったぜ。
「わっはっは。」
 よそうべえは笑った。
 まごも坊主も、あたりを見回す。

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とんとむかし

  三つの宝

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、三戸のお宮には、三つの宝物が奉納されていた。
 青い珊瑚と紅い玉と雲石である。
 いっとうや村に、しんがやという若者があって、きよという娘に恋をした。
 言い寄って、夫婦になろうというのへ、娘の親はお大尽で、青い珊瑚を取って来たらと云う。
 それはできない相談てこと。
 時に浜に打ち上げる、ほんのかけら。
 妖しく見入る瞳のような、竜宮のことずてのような、この世ならぬ、お宝。
「かけらならひょっとして。」
 しんがやは必死になって、捜した。
 浜をさまよい歩いて、行方知れず。
 きよは物持ちの家に嫁いで行った。
 あるとき漁師の網にかかったという、夫が大枚を出して買い上げる、それは青い珊瑚だった。
 きよが取った。
 美しい。
 見入るうちに、手が浮かび上がる。
 人の白骨が。
 他の人には見えずに。
 波にさらわれた、しんがやの。
 きよはしまい狂って死んだ。
 青い珊瑚は、持ち主が変わり変わり、三戸のお宮に奉納された。
 紅い玉は、さ−るけ山のはなれ屋敷に、二人の美しい娘がいた。
 水晶の玉を持っていた。人の宿世が映るといって、占い商売をして、ずいぶん当たって、二人男狂いして、派手な暮らしぶりだった。
「わたしも年老いる。」
 姉が云った、
「このままでいようには、なんとすりゃいい。」
 妹が云った。
 占ってみようとて、玉に手をかざすと、
「あした貴人が来る、その肝を食らえ。」
 という。
「貴人とな。」
「たっとき命のつぎ穂。」
 あくる日、まだ少年といっていい、美しい若者がきた。
 肝を取るか、物狂いしつくしてそのあとに、さようじゃと、二人。
 とつぜん若者は龍になって、天駆ける。
 炎に焼かれて、山のはなれ屋敷は、燃え落ちた。
 あとに紅いの玉が残った。水晶が変化したという。
 炎であろうか、人の血を吸うものといって、三戸のお宮に奉納された。
 雲石は、水盤に入れると、霧を吹いて雲のわくようになる。
 お殿さまが狩りの帰りに、田舎屋敷に立ち寄った。しこめというにふさわしい女が、茶を出し、手料理してもてなした。殿を迎えていかにもうれしそうなしこめが、心に残った。
「あれなら奥もりんきを起こすまいて。」
 狩りの帰りや、遊び女を引き連れたりして立ち寄る、たんびに酒もよく、料理もよくなり、あっけらかんとして、変わりなく。
「しこめというは、この世の宝。」
 殿は、奥方のかつての着物を与えた。しこめは大喜びであった。舞うてみせろといったら、かぶりを振った。
 強いて酒を飲ませて舞はせて、すばらしいものであったと聞こえ、奥方のりんきに触れた。
 ある日お殿さまが来てみたら、田舎屋敷はがらんどうでだれもいず、台所にすすけた石があった。
 しこめが石になった。そういって、すすを払い水にひたすと、霧が雲のように吹いたという。
 奥方が石にもりんきして、三戸のお宮に奉納したなと。
 猿が出た。
 その猿に、三つのお宝がとっつく。
 青い珊瑚は角になり、紅い玉は一つ目、へそには雲石。恐ろしい化物になって辺りを歩く。
「地獄のお使いじゃ。」
 と人は云った。
 そうしてもって、行方知れず。
 絵馬があった。きりんを描くものであって、なぜかおめでたい、縁起絵馬となって、話が伝わる。

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とんとむかし

   かえるの眼鏡

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、たらだ村に、三郎という者があった。
 わなを仕掛けたら、なんかしらん、お化けがかかった。
 こりゃ、食えそうもねえと云ったら、
「青葉の仙人だ。」
 という、
「ひでえことをしやがる、たたるぞ。」
「仙人だと、うんだば外してやるで、なんかくれ。」
 三郎が云うと、朴の葉っぱ丸めて、さしだして、
「仙人の遠眼鏡。」
 といった。
 わなを外すともういなかった。
 そやつ覗いてみると、極楽が見えた。
 蓮の花が咲いて、夢のように美しい人が行く、かりょうびんがの鳥が歌う、
「ふええ。」
 といって三郎が、もう一度のぞくと、地獄が見えた。
 鬼のさすまたに貫かれて、血の池や、針の山に追い上げられる、わめき狂う亡者、お父かと思ったら、そりゃ三郎だ。
 ぶったまげて、それっきり。
 あくる日のぞいたら、ただの風景。
 もう一回のぞくと、なんにも見えん。
 はあてなと思ったら、それっきり三郎は、目も見えずなった。
 かえるのめがねといって、葉っぱ丸めてのぞくと、
「明日が見える。」
 といって、
「宝のありかが見える。」
 人の心が見えるといって、そりゃ子供の遊び。

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とんとむかし

  化けの皮

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、三郷村に、さんずい吉野というおさむらいがあって、あるときお殿さまから、
「奥が病である、二人とはいない美しい奥方だ。」
 と云って、
「聞くところによると、しらぬいしんの滝つぼにかわうそが住んでおる、その化けの皮を取ってまいれ、よろず病に効くそうじゃ。」
 と申される。
 さんずい吉野は、旅装束して、大小さして出かけて行った、となりのばあさに留守を頼んで、
「いつけえる。」
「一月だあな。」
「そうけえ、嫁っこつれて来るだか。」
 と云った。
「さあな。」
 でもって、山二つに、さんがめ神社があって、さんずい吉野は、お役目首尾よう果たすよう、祈願した。まいない納めて、団子を食った。
 団子が一つ転がって、
「わしの団子。」
 あと追いかけたら、緋袴はいて、巫女さまが立つ、
「おみくじはどうじゃ。」
 といった、
「おまえ団子か。」
「なら食ってみるか。」
 にっと笑う。
 吉野はおみくじを引いた、大凶と出た。
「返り打ちにあって死ぬとある、これじゃ困る、なんとかしてくれ。」
「ではいま一度引くか。」
 引いたら、今度は吉と出た、
「犬も歩けば棒に当るとある、これならいいか。」
 巫女さまもうかっただけだ、といって行くと、
「どうだおらもらわねえか、吉だで。」
 巫女さま追っかけた。
「もう年だで、考えねえとな、あっはおまえさまもいいかげんじゃが。」
「わしはお役目の旅じゃ。」
 犬も歩けば棒にあたるたって、吉野は逃げた。
 はてな、わしはなんで嫁いねえんかと。それよりかわうそだ。
 奥方さまなんの病だか、きっとお医者さまじゃだめだ。
 なにしろ化けの皮だ、吉野は先を急いだ。
 十里歩いて、西のさんもん屋敷へ泊まった。
 さんもん屋敷は鉄砲打ちで、やっぱりお殿さまの御用をつとめる。
 鉄砲をかまえた、
「なにをする。」
 一刀にと、
「おまえさまつきものがある。」
 主がいった、
「空砲をうつ。」
 とっか−ん音がして、なにものかふわあと外ける。
「どうじゃ。」
「うんすっきりした。」
 でもってなにがとっついた、
「お内儀さまは達者かな。」
 鉄砲うちが聞いた、おないぎとはかかのことだ、
「うんまああいかわらずさ。」
「それはなにより。」
 そうか、嫁さがしという、となりのばばからして、もうおかしくなって、
「で、かわうその化けの皮とは、どういうものかの。」
 吉野は聞いた。
「さよう、まあ並みの者ではとれんの。」
 鉄砲うちは云った、
「わしも何度か挑んでみたが、片足を失い、化かされてもって、半年阿呆やっておったわ。」
 ふうむ、聞こえた豪の者がと、吉野はどっきりした。
「それが奥方さまの病に効くというのか。」
「ふむ。」
 わしは加勢せんぞと、鉄砲うちは云った。
「ようもわからん。」
 天井を向く。仕方がない、さんずい吉野は一人ででかけて行った。
 しらぬいしんの谷は、鉄砲うちに聞いたとおり道をたどって、突き当たりにほこらがあった。
「そこにかわうその皮がある、なんだったら、それひっかついで帰れ。」
 と、鉄砲うちが云った。
 かわうその皮らしいのがぶら下がっていた。
 餅を供えた。
 翌日もちが失せていたら、しらぬいしんの谷へ入ってもいいという、供えた餅がなくなった。
「おっほっほ。」
 笑い声。
 山二つの巫女さまだった、
「せっかくかかさまにと思ってついてきたのに、足の早いお人、やっと追いついた、お腹が空いたでお餅もらう。」
 といって平らげる、
「そうか、見ようによってはめんこい。」
 わしもここらで年貢の納め時か、吉野は思った。
「このあたりはへた入ったら出られぬ、わたしが案内しよう。」
 巫女さま先に立つ、
「ここの生まれじゃ、お殿さまの御用をはたしたら、夫婦になろう。」
 川があった。
 温泉が湧く、
「あれがかわうその湯。」
 巫女さまいった。
 かわうそがひたりに来る。
 捉まえて、宙吊りにしておくと、親分が取り返しに来る。吉野は温泉にひたって待った。
 すっぽんがいて 足に食らいつく、
「こいつをえさに。」
 と、すっぽんを吊るした。
 そうしたら、頭の禿げ上がった、でっぷり親父がきて、
「すっぽんをくれ。」
 という、
「いいよ。」
 いいざま、吉野は切りつけた、
「ぎゃあ。」
 悲鳴が上がって、人の大きさのかわうそが逃げる。川へはまってそれっきり、あとに腕が一本。
 そいつを吊るして待ったが、現れん。
 巫女さまが、しらぬいしんの知らずの谷を案内する、
「わたしだってようも知らん、でも化けの皮とるには、行かずばならん。」
 といって、二人は入って行った。
 熊が襲ってきた、すんでにかわして、巫女さまがかわうその腕を投げた。
 腕はぬうっと伸びて、うわばみになって熊をのす、
「しらぬいしんはかわうその里、くまごときに。」
 と聞こえ、腕を拾って、かわうそが去る。
「あとついて行っても、ばけの皮はなかろ。」
 吉野はいった。
「そうだの。」
 道は三方に別れ、白鷺が舞い降りて、
「しらぬいしんのお祭り。」
 といって行く。
 どんがらぴーと笛や太鼓に、にぎやかに舞い踊る。
 立派な門構えに、人が出迎える、
 案内されて、赤いしきもの敷いて、吉井と巫女さまは座った。
 祝言であった。
 さかずきを取る。
「三世ちぎりの、
 めでたや、
 ささが、
 浮き世のさ、
 おっほう化けの皮。」
 雄蝶雌蝶に飲み干す。
 はあてどうなった、花嫁と花婿は、からくり人形になって、祭り囃しの、屋台のてっぺんにいた。
 練り歩いて行く。
 赤い舌をちろりと出して、花嫁、
「流転三界きつねとたぬき。」
「法界三世化けの皮。」
 目吊り上げて、花婿。
 ほうほう、どっこい。
 仕掛けが外れて、二人けし飛んだ。
 かわうその化けの皮を取ってこいとの、お殿さまの御用。
 はあて真っ暗闇。
「ほう。」
 と呼ぶ、
「どうしたおさむらい。」
 声に向えば、反対がわにほう、
「かわうそは化かすか。」
 しーん。
「化けの皮ってどんな代物だ。」
「かわうその皮さな。」
「はっはっは。」
「わっはっは。」
 八方に笑う、
「剥いで取ってみろ。」
「そうするか。」
 刀を振り回して、吉井は馬鹿らしくなった。
 眠くなって寝た。
 あしたになったら、腕のない大かわうそが死んでいた。
 ひきずって行って、皮を剥いだ。
「ばけものかこやつは。」
「へい、こんなでかいのは見たこともねえです。」
「手厚く葬ってやってくれ。」
 吉井は過分に包んで、剥いだ皮を持つ。
 来た道と思ったのが、いつかけわしい山中であった。
 雪の山。
 どうしたことだこれは、
「祝言の相手が、待ちぼうけだ。」
 巫女さまがいた。
「夫婦になったのに、なぜ。」
「かわうその化けの皮を手に入れた、もう帰る、女房もいた。」
 吉井がいうと、
「そう。」
 花嫁が云った。
「じゃその皮をお見せ。」
 包みを開くと、
「これは、雪晒しににないと。」
 という、
「へたすりゃくされる。」
 そうだなといって、化けの皮を雪の辺にさらした。
「祝言の、」
 と、巫女さま、
「あらあたしじゃまずい。」
 おっほと笑って、におうように美しい奥方さま。
 かつてお目もじしたことがある、吉野はへいつくばった。
「雪晒しができた。」
 涼しい声がして、化けの皮がまっしろになる。
「こっちへ。」
「はい。」
 奥方さまに手渡すと、その手は吉井を取る。
 化けの皮は消え、ー
 吉井がまっしろい化けの皮になって、それを取る奥方さまが、吉井になった。
「お役目ははたした、では届けよう。」
 そう云って山を下る。
 さんもん屋敷の鉄砲うちが待つ。
 ど−んとうつと、たしかに手応えがあって、ふわっと消えた。
「うーむ、ではこやつが。」
 まあいいか、化けの皮が手に入ったといって、鉄砲うちは、お殿さまに献上した。
 化けの皮は何かを分泌した。
 それを服んで奥方の病は治る。
 もしかそやつー

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とんとむかし

  大根かあちゃん

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、あいとんぎ村の、ひるとんぎのかあちゃんは美人であって、用をいとうってわけではなかったが、寝てばっかりいた。
 野良から帰って、飯だっていうと、飯があってもう寝ていた。
「食うまも惜しんで寝てるから、美人なんだ。」
 と云うと、
「美人でない。」
 かあちゃんは云った、うっふうまっしろいきりの、大根のお化けだってさ、すうすうかあちゃんは、寝ていた。
 鮭と大根と煮て、共食いだといって、かあちゃんと食べた。夢に、かあちゃんがすたすた歩いて行って、にっと笑う、
「畑へ帰るのか。」
「共食いなんかいやだし。」
 かあちゃんはいった。
「でもうんまかっただろ。」
「おいしかったけど。」
 といって大根になった。ひるとんぎは、
「やっぱりかあちゃん。」
 といって、引っこ抜いて、持ち帰った。
「そうお。」
 かあちゃんは云った。
 人の悪口も云わねえようだし、たいていものは三日もかかったし、
 さるとん大尽で、家を建て替えた。
 立派なお屋敷が、なんでか知らん、新屋敷に住むと、たたりがある、十日ばかし、人に住んでもらえと、八卦に出た。
「新屋敷よごさねえ、きれいな人。」
 というんで、ひるとんぎのかあちゃんが頼まれた。
「お礼に浴衣やるで。」
 という。
 かあちゃんが、浴衣着て寝ていたら、こわーいものが現れた、
「恨めしや、これうわ。」
 かあちゃんは寝ていた、
「なんとか云ってくれんと、とっつかれん。」
 三晩続けて出たら、かあちゃんが起きた、
「とっつこうか、ひっつこうか。」
 ばけものがいった、
「あたしは大根。」
 かあちゃんがいうと、そやつは大根になった。
 大根に浴衣かぶせて、もういられんと云って、帰ってきたら、さるとん大尽から、汚い菅笠が届いた。
 かさが浴衣着て寝てたとさ。
「十日いなかったから、浴衣はやらん。」
 と云った。
 菅笠まつったら、次々いいことがある。
 さるとん大尽は傾いて、ひるとんぎ長者。
 主の神さまの引っ越し。
 果報は寝て待てとさ。
 すげがさに浴衣着せた、お祭りがあった。

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へきがんろく

第十三則 巴稜銀椀に雪を盛る

本則・挙す、僧巴稜に問ふ、如何なるか是れ提婆宗。(白馬蘆花に入る。什麼と道ふぞ、点。)巴稜云く、銀椀裏に雪を盛る。(汝が咽喉を塞断す。七花八裂。)

巴稜は雲門の嗣。提婆宗は仏心宗というと同じく、第十五祖提婆尊者、龍樹に見え、水鉢に一針を投じて行く、すなわち仏心宗を伝える。仏語心を宗となし、無門を法門となすと、馬祖云く、おおよし言句有るは是れ提婆宗、ただし箇を以て主となすと。他にはないんです、無心心無うして、来たる如しの如来かな、ただこの事。如何なるか是れ提婆宗。(白馬蘆花に入る、銀椀に雪を盛るのと同じだがな、なんと云うぞ、点、とどまっていろというんです、振り返ることありますか、なけりゃぼんくら、たとい振り返ってなにほどか見る、見るにものなし、見るものも見られるものもなし、無心とはこれ、如来とはこれ、あらゆる一切を救い得て妙。)巴稜云く、銀椀裏に雪を盛る。(汝が咽喉を塞断す、どうですか七花八裂ですか、三十棒。)汝今これを得たり、宜しくよく保護すべし、銀椀に雪を盛り、明月に鷺を蔵す。類して等しからず、混ずる時んば処を知ると、洞山大師宝鏡三味にあります、坐って坐って坐り尽くして下さい、ついに汝今これを得たりと、まったくの初心です。はーいあなたが死んで三年たった風景、風景なにかわらずや、あなたというよこしまが失せ。

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2007年4月29日 (日)

へきがんろく

頌・金烏急に、(左眼半斤、快鷂おえども及ばず、火焔裏に身を横たふ。)玉兎速やかなり。(右眼八両。ごうが宮裏にか窟を作す。)善応何ぞ曾て軽触有らん。(鐘の扣に在るが如く、谷の響を受くるが如し。)展事投機洞山を見ば、(錯りて定盤星を認む、自ら是れ闍黎恁麼に見る。)跛鼈盲亀空谷に入る。(自領出去。同坑に異土無し。阿誰か汝が鷂子を打って死す。)花簇簇錦簇簇。(両重の公案。一状に領過す。旧きに依って一般。)南地の竹兮北地の木。(三重も也有り。四重の公案。頭上に頭を安ず。)因つて思ふ長慶と陸大夫。(癩児伴を牽く。山僧も也恁麼、雪竇も也恁麼。)道ふことを解す笑ふ合し哭す合からず。(呵呵。蒼天夜半更に冤苦を添ふ。)夷。(咄。是れ什麼ぞ。便ち打つ。)

金烏は日玉兎は月、光陰箭の如しですか、歳月人を待たずのほうが合ってますか、(斤と両とどっちがどうなってんのかな、鷂はたかです、はやぶさですか、わっはっは日を仰ぎ月を眺め半斤八両、しかもまあこの烏鷂の追えども及ばす、火焔裏に身を横たう、麻三斤、なにをまあぼろくず、いやさ風の吹くほどにもってこってす。ごうがは女に亙、女に我、月の神様です、宮殿にかくつをなす、とげがつっ刺さったんです、如何なるか是れ仏。)善応なんぞかつて軽触あらん、かすっともかすらないんです、元の木阿弥、はーい箇の麻三斤ぐさっと致命傷ですか。いったいなんだろうという、意味があるんだろうかという、毒素次第に身を食む。食み尽くして空ですか、もと空ですか。鐘のたたくに似て、谷に響きを受けるが如くですか、まさにこうあって、如何なるか是れ仏。)洞山はじめ雲門に参ず。門問ふ、近離いずれの処ぞ。山云く、渣渡。門云く、湖南の報慈。門云く、幾時か彼の中を離る。山云く、八月二十五日。門云く、汝に三頓の棒を許す。晩になって入室す、親近して問ふて云く、それがし科いずれの処にか在る。門云く、飯袋子、江南湖南、すなわち恁麼にし去るやと。洞山言下に於て瞎然大悟。云うことがまあふるっておったな、大千法界無人行です、門云く、身は椰子の大きさの如くして、大口を叩きおってと、なかなかどうして。展事投機して洞山を見れば、びっこの鼈盲の亀がだだっ広い谷間を行くように、そりゃ滑稽なだけでなんの得るところもない、言事を展ぶるなく、語機に投ぜずです。(あやまって定盤星を認める、秤の無駄目です、だからどうのやるんです、いらん目盛りに頼る、わかりますかこれ。なーんだおまえさんもやってるじゃないか。うっふ。同じ穴のむじな、せっかくのはやぶさ殺してなーんにもならぬわ。)花簇簇錦簇簇、南地の竹北地の木。あるようほら麻三斤です、空谷なんてものあるわけがない、馬鹿めが、二度三度繰り返さなくってもさ。陸亘大夫南泉に参ず。泉遷化す。亘喪を聞いて寺に入って下祭し、卻って呵呵大笑す。院主云く、先師と大夫と師資の義有り。何ぞ哭せざる。大夫云く、道ひ得ば即ち哭せんと。院主無語。亘大いに哭して云く、蒼天蒼天。先師世を去ること遠しと。後長慶聞いて云く、大夫笑うべし哭すべからずと。癩児伴をひく、どうしようもねえごったくどもめ、わしも雪竇もさ。わっはっは。

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2007年4月28日 (土)

へきがんろく

第十二則 洞山麻三斤

本則・挙す、僧、洞山に問ふ、如何なるか是れ仏。(鉄しつり。天下の衲僧跳不出。)山云く、麻三斤。(灼然。破草鞋。槐樹を指して柳樹を罵って秤鎚と為す。)

洞山守初は雲門の嗣、僧因に洞山に問ひ、如何なるか是れ仏、仏とは何かと問う、(鉄しつり、しつはくさかんむりに疾、りはくさかんむりに黎、辞書引いたけどどっちも出てないな、植物名なんだろうけど、鉄びしにでもしとくか、天下の衲僧跳不出、そう云われるとどうもこうもならんですか、仏とは何か、解けば仏、自縄自縛する縄をほどく、如何なるか仏と問う、そやつをほどく、どうにもこうにもならんやつをです。)洞山麻三斤とて知られたこれ、どう思いますか、取り付く島もないんでしょう、即ち取り付く島もない=あなたです=仏と解説して、結局なんにもならんでしょう。麻三斤の親切を思いとって下さい、思いとるとは仏を知ること、他にはなく、(灼然、どうだというんです、明白洞然、草鞋を破る、師を、法を求める行脚の旅ここに終わるってわけです、如何なるか是れ仏が破れ去る。求めずばもとっからある、不思議なことにそれが納得できない、不思議なことに元の木阿弥。知らないことをどうやって知るんですかと聞く、知らないんですと答える、さあどうですか、この世に禅問答なんてないです、ちんぷんかんぷんはシャバです、正確無比。たまたま槐えんじゅを指して柳をののしって、秤鎚となす、まあさ一応のめどとしたとは、これ仏かシャバ世間か。)如何なるか是れ仏、趙州云く、殿裏底。風穴云く、杖林山下の竹筋鞭。あるいは云く、三十二相。言下に悟る幾人ぞとさ、あっはっは。どうにもこうにもならんな。

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2007年4月25日 (水)

へきがんろく

頌・凛凛たる孤風自ら誇らず。(猶ほ自ら有ることを知らず。也是れ雲居の漢。)寰海に端居して龍蛇を定む。(也緇素を別たんことを要す。也白七白分明ならんことを要す。)大中天子曾て軽触す。(什麼の大中天子とか説かん。任ひ大なるも也須らく地おり起こるべし。更に高きも天有ることを争奈何せん。)三度び親しく爪牙を弄するに遭ふ。(死蝦蟆。多口にして什麼か作ん。未だ奇特と為す。猶ほ是れ小機巧。若し是れ大機大用現前せば、尽十方世界乃至山河大地、尽く黄檗の処に在って命を乞はん。)

凛凛たる孤風自ら誇らず、まさにこれ黄檗、なを自ら有ることを知らずと、それではぼんくらではないかって、世間一般ほかと比較して、上を見ればきりもなし下を見ればきりもなし、まあこの辺でという、いじましいったら、ヒットラーでなくんば第一人者とならず、騒々しく傍迷惑、もとおぎゃあと生まれて、りんりんたる孤風自ら誇らず、花も月も雲もまさにこの通りあり、実に別段のことなし。寰とは天子の幄ですか、寰海という仏心大海です、端居して幄握するんです、将軍は塞外天子の手足ですかあっはっは。いながらにして龍蛇を定める、緇は黒い、素は白いんです、白に七これも黒い、いずれがどうかよくわからんです、おおざっぱではない精緻を極めるさま。大中天子は唐の宣宗であって、即位するまでに有余曲折あった、道に参ずること久しく、塩官の会中にあって、書記和尚となる、黄檗に見えて、仏についても求めず、法についても求めず、衆についても求めず、礼拝して何の求むる所ぞと問う。檗云く、仏についても求めず、法についても求めず、衆についても求めず、常に礼すること是の如し。大虫云く、礼することを用いて何か為ん、檗即ち掌す、ひっぱたいた。大虫云く、大そ(鹿が三つで雑っぱですか。)生。荒っぽいやつだと云う。檗云く、這裏什麼の所在ぞ、そと説き細と説くといって、また掌す。大中のちに国位を継いで、黄檗に賜ってそ行の沙門となす。大虫天子かつて軽触す、命の危ういところを逃れてついに天子となるいきさつと、黄檗の虎の髭を撫ぜたこととです。(大中天子がなんだ、どんな大だろうが地から起こる、上にはどんなに高いたって天がある、あっはっは、次の著語に引くんですか。)三度び爪牙に弄するに遭う、もう一度云ってらあ死んだがま。多口未だ奇特とせず、いいかもし大機大用現前せば、十方世界流転三界ことごとく黄檗に命を乞はんと。はい、だれしも別なし。)

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2007年4月24日 (火)

へきがんろく

汝ら諸人、尽く是れとう(口に童)酒糟の漢、越州の人多く酒かすを食らうとある、人をののしる言葉、酒かすを食うを常とす、学者どもというよりはあなた方、人の発酵し終わったかすを食らって、ああでもないこうでもないやっている。せっかく参禅でさえ、自己に参ずることをせず、物差しをあてがって、てめえの頭なでくってばかり。水を打って盆にささえらる、どうじゃと来るやつを、だからと挟む。一口に呑み尽くす以外になく、平地に乱を起こす、もとの平地、まったく納まるとは元の木阿弥。恁麼に行脚せば、師を訪ね参禅弁道は、求めるに従い煩瑣ですか、いよいよ困難ですか。ただじゃあただが得られない、わずかに悩を除く、一朝一夕には行かないという、さあどうですか。道著す、いかなるか是れ大道、大道長安に通ずと、はいただのアスファルトの道、そんなほこりまるけのもんじゃないという。草鞋をいくつ踏み破り、天を動かし地を揺るがす、なぜか。いずれの処にか今日あらん、今日たった今、花は花のように咲き、雲は雲のように浮かぶ。今日を用いて何かせん、やっぱり群を抜き衆を扇動ですか、あっはっは。かえって大唐国裏に禅師無きことを知るや。これさ威張るなっていうんです、雲居の漢。まあさそんなこっちゃぜんぜんないんです、師失せてはじめて参禅、ついにこの世から出外れて下さい、するとようやく一箇、坐が坐になって来ます、それまではまるっきり問題外を知る。時に僧あり出て云く、只諸方の徒を匡し衆を領するが如きんば如何、あったっていいじゃないかという、よう知っとるはこやつ。禅無しとは云わず、ただこれ師なし、従い蛇足せにゃならん、せっかく大長刀振り上げといて、黄檗たるものがあっはっは竜頭蛇尾。

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2007年4月23日 (月)

とんとむかし

  流人花

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、にいみの沖の島に、げんのうと呼ばれる、流人があった。
 本名はようもわからぬ。
 鉄の足かせつけて歩き回って、げんのうは、砂金を取る。どうにか飯にありつけた。いくらかになることもあった。
 番所の犬に吠えつかれ、噛みつかれして、げんのうは、長いことそうしていた。
 浜百合の花が咲く。御赦免花といった。
 三つ四つ花をつけ、時には四五十もつけることがあった。舟が来て、一人二人、また何十人となく、許されて帰って行く。
 げんのうの番は、ついに来なかった。
 浜百合が、たった一つ咲いた。
 げんのうの番であったか、花を手折ると、死ぬという。
 げんのうは、手を伸ばす。
「死ねば許される。」
 母を殺し、弟を殺した。獄門を免れて、ここに来た。
 思い起こしてもわからなかった。
 それがわかった。
 げんのうは笑った。
 母と弟が迎えに来ていた。
 三日して、流人の死んでいるのを、島の人が見つけた。
 百八つも花をつけた、浜百合の下に。
 流人を手厚く葬るのが、島の習わしであった。
 げんのう塚という、お墓が今もある。
 船頭であったという、嵐に舟が沈むときに、たまたま乗り合わせた、母と弟を、見殺しにして、人を救ったという。
 おれのせいだと云い張って、流人になった。
 まことかどうかは、知れぬ。

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とんとむかし

   雪見灯籠

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、いらこ村に徳兵衛という、石工があった。
 徳兵衛に、このあたりきっての、太郎右衛門屋敷から、石灯籠を、こさえてくれと云って来た。
 雪見灯籠というもので、お池の辺りに建てる、むかしそこにあったという、なにかあって先代さまが、取り払ったという、徳兵衛は、松の按配や、雪の風情を見して、じっくりと手間をかけた。
 すると夢に、美しい人が現れて、
「西びさしから、こう灯が見えますように。」
 と、指図する。
「ようわかりました。」
 徳兵衛はそう云って、行ってみると、たしかにそうあったと思いあたる、
「たましいであろうか。」
 見事な石灯籠が、そこへおさまりついた。
 西のはなれには、年寄りが住んでいた。
「お屋敷の人ではないらしい。」
 と、だれか云った。
 三代まえに、さよという美しい人がいて、男狂いして、婿どのがあったのに、だれそれと駆け落ちして、大騒ぎであったなと聞こえる。
「それじゃあの。」
 なと思ったが、三年たって、お屋敷の西のはなれが焼けた。
 年寄りが焼け死んだ。
 石燈篭もどうかしたといって、徳兵衛は見に行った。
 さいわい欠けてはいず。
 石かけがあって、寄せようとすると、白骨が出た。
 前にはなかったはず。
 徳兵衛は、お取調べを受けたが、古い骨であることがわかった。
 お墓をこさえてくれと云って来た。
 火事以来、主の太郎右衛門さまは、ふせったきりだそうで、奥様が切り回す。
 年寄りは、おさよさまと駆け落ちして、うらぶれて帰って来て、はなれに住んだ。
「おさよさまはじきに帰って、二三年はいて、行方知れずになった。」
 白骨はおさよさまのもの、二人ともに葬ろうという。
 石灯籠を見に行った。
 太郎右衛門さまが、取り乱してふらつく、
「灯をつけて楽しんだ、めぐりめぐって童歌を歌った、そうしたらはなれに火をつけろという、わしは火をつけた。」
 奥様がその手をとって、つれて行く。
 狂っている、どういうことだ、徳兵衛はかぶりを振った。

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とんとむかし

  ふたおうの実

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、ゆうわの由良の港から、三艘の舟が出て行った。
 一そうには、白銀の弓とあらとうの武士が乗り、一そうには、黄金の笛と、にっただの舞い手が乗り、別の舟には、かんの君といよの姫君が乗った。
 あらとうが先に、鳴りしをの海を行き、げんのなだにさしかかると、渦潮の旗を押し立てて、いんずの舟が行く手を遮った。
「みつぎ物は持って来たか、例外はないぞ。」
 いんずの使いは云った。
「黄金一枚。」
「黄金三枚、一そうにつき一枚だ。」
「何そうでも一枚と聞いた、不当の品は払わぬ。」
 いんずの射手が弓をつがえるより早く、あらとうがその胸を射貫き、
「一枚はわたそう、受け取れ。」
 黄金を受け取って、いんずの舟は引き上げた。
 三そうの舟は、向きを変える、戦は避けたほうがいい。
 炎を吐いて、いんずの水龍が、行き過ぎる。
 にっただの笛が鳴り、
「かんの君といよの姫君を、われら大王の洞へともなうものなり、ゆめ疑うなかれ。」
 と告げ、水龍は、
「せんもない、その帰りには、待ち受けようぞ。」
 とて吠え狂う。
 三そうの舟は、えるのおの入り江に、潮を待つ。
 えるのおは、流れ寄せる舟を、剥いで暮らす。
 襲うものは、あらとうの白銀の矢が、薙ぎ倒す。
「われらにいつーはしの紫を。」
 えるのおの長が云った。
 若衆が、毛槍の舞いを舞う。
 華麗であった。
「かんの君のお言葉が欲しい。」
「盗賊に与える辞はない。」
 舞いは白刃に変わる。
 にっただの笛に、血しぶきを上げて倒れ。
 潮に乗って、三昼夜、とつぜん大海に虹がかかる。
 戦の旗であった。
 弓矢の嵐。
「幻影だ、射つな。」
 矢は体を貫き、槍はへさきをつんざいて、手応えはなく。
「耳目をふたげ、見ても聞いてもいかん。」
 でくとおの幻影という。
 空しく行き過ぎる。
 あらとうの弓がうなり、にっただの笛が空鳴りする。
「犬に身を変えしもの。」
 にっただの長が云った。
 くろなごを右に、あみんの海を過ぎ、しらさぎの舞う、あまうさの浜であった。
 みそぎの島という。
 あらとうはいつかしにつなぎ、にっただはたちばなにもやい、かんの君といよの姫君のいつーはしは、波間に漂った。
 朱よりも赤い酒が、いつーはしのへさきに、注がれた。
 しらさぎが飛ぶ。
 茂みゆれる丘があった。
 食事をとる。
 三そうは大海へ出て行った。
 かんの君は黒衣をつけ、いよの姫君は白衣をつけて廻る。
 いつーはしの還が現れた。
 二人は還の内側に、浮き上がって見える。
 虹がたつ。
 レンズの目のような。
 巨大な蟹が、ゆらめき現れた。
 右のはさみに、あらとうがつき、左のはさみに、にっただの舟がついて、巴にめぐる。
 大王の洞がぽっかり開いた。
 白衣と黒衣の人を飲み込んで、消えた。
 あらとうとにっただは待った。
 七日七夜ののちに、白衣の人は西へ漂い、黒衣の人は、東へ漂う。
「東をとるか。」
「西をとるか。」
 黒衣をすくいあげると、かんの君は舟に乗り移り、白衣のまぼろしは、あらとうの舟につき、裸身のまぼろしは、にっただの舟につく。
 三そうは帰途についた。
 あみんの百の、戦舟が待ち受けた。
 火矢が襲い、水牛の盾を押し並べる。
「いつーはしを、その郷に帰すわけには行かぬ。」
「なぜに。」
「現し世はまだ終わってはおらぬ。」
「あらとうは知らぬ。」
「海の藻屑にしようぞ。」
「なぜに。」
「諸の悲しみのゆえに。」
「にっただは知らぬ。」
 命を捨てての、はげしい戦いに、あらとうの白銀の一矢は、一そうを引き裂いて、にっただの黄金の笛は、二そうをぶっつけあった。
 あらとうの三人が死に、にっただの四人が狂った。
 次いで、くろなごの百の、戦舟が待ちかまえ。
 石弓が襲い、まんもすの盾を押し並べる。
「いつーはしを、その地に返すわけには行かぬ。」
「なぜに。」
「三界はなほ我らがもの。」
「にっただは知らぬ。」
「血しぶきの潮にしようぞ。」
「なぜに。」
「諸の苦しみのゆえに。」
「あらとうは知らぬ。」
 身を投げうっての、はげしい戦いに、六日七夜して、かろうじて生き残って、二そうの舟は、いつーはしを守る。
 守り守って、襲い来るものをほうり、げんのなだを過ぎて、いんずの水龍に不意を突かれた。
 あらとうのへさきは張り裂け、にっただのの舟はかじを折られ。
 かんの君の黒衣がひるがえって、水龍をほうり。
 そうして嵐が襲った。
 由良の浜辺に、ふたおうの実が流れついた。
 かんの君が変化した果実。
 芽生えて、次の世を花開く。

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とんとむかし

  美しい花嫁

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、みよしの里の、美しいうるか姫は、やまどりのお城に、お輿入れ。
 花嫁行列が行くと、田んぼの一本けやきが云った。
「三つのとき、わしの所へお嫁に来るといった、だのにどうして。」
「そんなこと知らない。」
「だって、天のように頼りになるって。」
「ついて来たら、考えてあげる。」
 うるか姫は云って、花嫁行列は行き、一本けやきは、ぶるぶる揺れた。
 かえるの鳴く、あやめ池が云った。
「四つのとき、わしの所へお嫁に来るといった、だのにどうして。」
「そんなこと知らない。」
「だって、まっ白い雲の枕だって。」
「ついて来たら考えてあげる。」
 うるか姫は云って、花嫁行列は行き、あやめ池は、おうそろ泡だった。
 火事のような、つつじ小路が云った。
「五つのとき、わしの所へお嫁に来るといった、だのにどうして。」
「そんなの知らない。」
「だって、二人でお祭りに行こうって。」
「ついて来たら、考えてあげる。」
 うるか姫は云って、花嫁行列は行き、つつじ小路は、どんざん花を吹き上げた。
 ついたてのような、崖が云った。
「六つのとき、わしの所へお嫁に来るといった、だのにどうして。」
「そんなの知らない。」
「だって、平たい石が歌うからって。」
「ついて来たら、考えてあげる。」
 うるか姫は云って、花嫁行列は行き、崖は六つの石を落とした。
 ホーホケキョと鳴いて、うぐいすが云った。
「七つのとき、わしの所へお嫁に来るといった、だのにどうして。」
「そんなこと知らない。」
「だって、谷わたりをしようって。」
「ついて来たら、考えてあげる。」
 うるか姫が云ったら、うぐいすは、花をくわえて、かんざしになって髪に止まる。花嫁行列はねって行った。
 やまどりのお城の、清うげな若さまが、お出迎え、
「美しい、わたしのうるか姫。」
 といったら、かんざしが、
「ホーホケキョ。」
 と鳴く。若さまは首をかしげた。
 二人座って、めでたいな、固めのおさかずきの回りを、花のかんざしが、舞い飛ぶ。
 若さまは仰天した。
 花嫁があーんと泣く。
「なんで泣く。」
 と、聞いたら、
「三つのとき、一本けやきにお嫁に行くといって、四つのとき、あやめ池に行くといって、五つのとき、つつじ小路にお嫁に行くといって、六つのとき崖にいって、みんな忘れたのに、うぐいすがついて来た。」
 と云った。
「そんじゃみんないっしょに暮らせばいい。」
 優しい花婿は云った。
「花のかんざしとなあ、ふれて来てくれ、うぐいす。一本けやきは橋にして、あやめ池の水を汲んで、つつじ小路の花をさし、がけの石は置物にしようって。」
 うぐいすは行ったきり、帰って来ない。
「はあてどうした。」
 花婿は、お吸いものをべろうり飲んだ。
 うぐいすは、花をくわえて舌足らず。
「けやきは死んで、あやめ池の耳を切って、つつじ小路の鼻をそぎ、崖はお仕置だ。」
 と聞こえた。
 しまいぱくっと口を開けて、花を落とした拍子に、うぐいすは、みんな忘れてしまったとさ、めでたし。

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とんとむかし

  鬼の舞い

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、あんだたら山に、鬼が三匹住んでいた。
 灰色鬼のザンカと、青鬼のドンカと、桃色鬼のシンカと、それからびゅうっと山下ろしに、春のぼっけの花に、ぺっかり月と、鹿の鳴き声とだった。
 空が真っ赤になって、ガラスの雨が降る、寒い日が続いて、ザンカの鼻は黄色になり、ドンカの角は、赤錆びて、シンカのおしりはくされて、
「もうここにはいられん。」
「ぼっけの花も咲かぬ、ますも取れん。」
「三日月も見えん、住むところを捜そう。」
 といって、三匹は旅に出た。
 風は凍って、ぺっかりみどりの月が見送った。
 三匹は川伝い、峰伝い歩いて行って、おっとろぞ山の白鬼トオイを訪ねた。
「住むところがなけりゃ、ここに住め。」
 といって、トオイは毛むくじゃらの、背中をかいた。
「ぼっけは咲かんが。めっかちきのこは生える。」
「ありがたいが、一宿一飯でいい。」
「わしらのお里を捜してみる。」
「それから世話になろう。」
 といって、三匹は、干物のますをご馳走になって、
「いい舞いをな。」
「そっちもな。」
 といって、あしたは出て行った。
 おっとろぞの向こうに、いるの川があって、いるの蛇を首に巻いて、川神が呼ぶ。
「三匹の鬼や。」
 三匹とも、面倒みようという、
「灰色は門柱にしよう、青いのは水おけがいいな、桃色鬼は、わたしと夫婦になろう。」
「ありがたいが門柱はいやだ。」
「みずぶくれになる。」
「ひとりもんがいい。」
 といって、すり抜けると、
「云うことを聞かない、くされ鬼め。」
 といって、首に巻いた蛇を、投げつける。
 蛇はうわばみになって、襲いかかった。
 三匹鬼は、手をつないで広がった。うわばみは、それをいっぺんに呑み込もうとして、口が裂けた。
 そこで、ここをくっさけという。
 いるの川をわたると、霧が晴れて、かやっぱらが、ふーらんさやと鳴った。
「ここにしようか。」
 と、ザンカが云った。
「すすきはまっしろけだし。」
「雲はどっしろけだし。」
 ドンカとシンカが云った。
 三匹は鬼の舞いを舞った。
「どっしろけ、まっしろけ、
 三匹鬼が、ます食って、
 百年生きて、あんだたら、
 ぼっけの花が、春に咲く。」
 三匹は舞ったが、影法師は笑わぬ。
 ではだめだ。
「食っては行かれん。」
「風がきつい。」
「霧もな。」
 といって、そこをあとにした。
 真っ青な山が、いくへにも重なって、ここは百花繚乱の原、
「しかろっぺの花の原。」
「むかしからだれも住まん。」
「古代のかばねが埋まっている。」
 念のため、三匹は鬼の舞い。
「どっしろけ、まっしろけ、
 鬼は三匹、いも食って、
 一晩寝いって、雨降った、
 ぷうっといったら、山下ろし。」
 影法師は、すすり泣き。
 こけももを食って、きつねが狂った、それを見て、鹿があかんべえした、だからしかろっぺ。
 荒海の岸を行くと、塩が吹きつけて、三匹鬼はまっしろになった。
 白い海の怪物が出た。
「わしはもとは、竜宮の使い、鬼のきもが食いたい。」
 といって、虹の冠をかざす。
「角一本ならやらんでもないが。」
 ザンカが云った。
「きもが欲しい、腹が減っているし、三匹分だ。」
「なんできもだ。」
「きもはうまい。」
「強欲め。」
 三匹は、もと竜宮の使いと戦った。
 冠をむしって、おひれを半分千切って、とうとう追っ払った。
 すると、村人がやって来た。
「うるの祭りには、怪物が出て、人を取って食う、鬼を三匹飼うと、いったい何人食う。」
 と聞いた。
「そうさな、二人あて食って、年に六人かな。」
 ザンカが云った。
 村人はよったくって、協議する。
「年に六人ずつ、一00人食われるには、十六年とちょっとかかる、怪物は十五年で、九九人食った、すこしはいいか、いや三匹ではなく二匹にしてくれ、一匹ならもっといいが。」
 と云う。
「三匹でなくては、怪物に食われる。」
「一匹で年に六人食えば、別だ。」
 村人は困った。
「それじゃたいして変わらん。」
「わしらは人食い鬼ではない。」
 シンカが云った。
「怪物が出たら、三人食われる間には、駆けつけよう。」
「痛めつけておいたし、当分は出んだろうがな。」
 といって、白い海をあとにした。
 よさそうなお里があった。
 山にはけものがいっぱいいて、しゃんしゃこの実がなって、さけやますの川が流れ、しろうずの花が咲く。
 鬼は三匹、舞いを舞った。
「どっしろけ、まっしろけ、
 鬼は三匹、叫んだら、
 月はぺっかり、しろうずの、
 向こうの山に、虹が出た。」
 ぴーとろと笛が鳴って、影法師ではなく、白鬼赤鬼だんだら鬼が、降って出た。
「どこから来た。」
 と聞く。
「あんだたら山から来た。」
「戦をしに来たか、それともトーロ餅を食いに来たか。」
 と云う。
「トーロ餅ってなんだ。」
「うんまい餅さ。」
「ではそれを食おう。」
 三匹の鬼はトーロ餅を食った。
「うんまいっていうより、あんましうまくねえが。」
 と云おうとしたら、口が聞けず、手足がしびれて、
「うう。」「うう。」「うう。」
 と、三匹は云った。
 三匹鬼は白鬼赤鬼だんだら鬼の、けんぞく十七匹の、いいなりになった。
 けものの柵をこさえ、しゃんしゃこの実をすりつぶし、ますのかごにますを取り、ぶんなぐられ、むち打たれて働いた。
 三年めに、
「うう。」
 ザンカが云うと、
「うう。」
「うう。」
 ドンカとシンカが云って、心が通じて、手足も生きた。三匹鬼は、怪力を発揮して、白鬼赤鬼だんだらを、ひっとらえた。
「うう。」
「もっと食わせろって。」
「うう。」
「嫁が欲しいって。」
「うう。」
「わかった、止めろ、シーロの葉っぱをとって、舐めたら、もの云えるようになる。」
 と云う。
 シーロの葉っぱは苦かった。三匹鬼は、こらしめだといって、白鬼赤鬼だんだら鬼に、舐めさせた。
「苦い、助けてくれ。」
 といって、涙と鼻水を垂らしたので、ここをおにんはなみずという。
 ザンカとドンカとシンカは歩いて行った。
 深い谷間であった。埋もれ木が、お化けになって出て、
「そっちへ行くな、虻が出る。」
 という、引き返すと、
「そっちへ行くな、蜂が出る。」
 という、どっちへ向かっても、ぶよが出る、ひーるが出る、行くなという。
 三匹鬼は怒って、埋もれ木をぼこぼこにした。
 すると三匹病気になった。
 大熱が出て、浮き足だって、
「おーい、こーい。」
 と呼びながら、谷を流れて行った。
 ここをおにんよびといって、今でもおーいこーいと聞こえる。
 ザンカとドンカとシンカは、元気になって、きーきろの山を越えて、たいがの河をわたって、そこに仲良う、百年は住んだという。
 だからここを、ひゃくねんという。
 きーきろさんがの神が呼んだ。
「世の中は変わる、灰色鬼のザンカ、おまえは雪の門を守れ。」
 と云った。
「青鬼のドンカはしいらん森を守れ。」
「桃色鬼のシンカはわしの巣を守れ。」
 と云った。
 三匹鬼は、おーいはーいとこだまに返して、それぞれに守った。
 雪の門は崩れ落ちる、きーきろの風が吹いて、黄金の氷を押し包み、そいつが解けると、のーげの林が芽を吹いた。
 その実を食べに、たいがの大烏がやって来る。
 烏を追い払い、追い払い、灰色鬼のザンカは、
「ひーらきーらきろ。」
 と、そびえ立つ、雪の門を守った。
 しいらん森は、銀色の雨が降る、雨にはしいらんのきのこが生えて、それを食べに、たいがの大鼠がやって来る。
 ねずみ網にねずみをとり、追い払い、青鬼のドンカは、
「しいらんふわんきろ。」
 と、深い霧にしげる、森を守った。
 風のしっぽが鳴って、夏になると、きーきろのわしが、双子を生んで育てる。
 その卵を取りに、たいがの大蛇がやって来る。
 蛇をひっとらえ、またひっとらえ、桃色鬼のシンカは、
「どうさあさったく。」
 と、大空を舞い飛ぶ、わしを守った。
「ようも稼いだ。」
 きーきろさんがの声が聞こえた。
「眠れザンカよ雪の門、
 眠れドンカよしいらんの森、
 眠れシンカよ峰のわし、
 今はこれまで、
 きーきろさんが。」
 たいがの風が吹いて、三匹の鬼は眠った。
 人々がやって来た。
 紅葉の美しい谷あいに、三つの大岩が立つ。
 灰色と青と桃色の。
「あの大岩を鬼に見立てて、このあたりを鬼の舞いともうします。」
 ガイドが云った。
 吹き下ろす風に、こんなふうに聞こえ、
「どっしろけ、まっしろけ、
 三匹鬼が、昼寝して、
 ぴいっと鳴いて、鹿の舞い、
 千年たったら、大欠伸。」
 千年めだという、さあて。

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とんとむかし

  いちろじ

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、はんのき村に、いちろじという、お化けのような、頭でっかちの子があった。
 十五になったら、田んぼこさえたり、大工の見習いになったりしたが、いちろじは、ごくつぶしであって、そこらとことこ歩いていた。
「ああゆうのは、じき死ぬんだが。」
 死んだほうが、親孝行だと云われて、頭でっかちの、いちろじのあとを、子供らがとっついて行く。
 いちろじは、遊び方を工夫したり、しんけんに喧嘩したりする。
 子供が物を食わせて、
「いちろじ、食ったもん、頭にたまるんか。」
 と聞くと、
「わかんねけど、お地蔵さまいなさる。」
 と云った。
 お寺の門前の、六地蔵の一つが、そっくりという人がいた。
「目がよう似てる。」
 という、石かけ拾って、飲むまねしたら、頭の中に入ったんだ、
「ごとっといったりする。」
 という。
 いちろじは、なんでも知っていた。
「今何時だ。」
 と聞くと、
「二つ半。」
 ぴったり当てたし、
「あっこに鯉は何匹いる。」
 と聞くと、三びきといって、やぶ下さぐると、たしかに三尾いた。
 子供は子供の仕事がある。
 一人きりでいるときは、でっかい頭に、とんぼを四疋ものっけて、せんど川という、流れ川に見入っていた。
 そうしたら、
「ありゃ売れる。」
 と、だれか云った。
 お化け頭の子を、ふくすけといって、商売繁盛の福の神。
 ほんとうに売れた。
 ごくつぶしが、ぜにんなったかといって、いちろじは、大きな呉服屋に、あつい座蒲団敷いて、すわっていた。
 にぎやかな通りの、お客がいっぱいあって、
「おじぎをして。」
 と云われ、
「笑って。」
 と云われて、ちぐはぐ。
「そんなんでは、ご飯は食べられませんよ。」
 と云われて、どうしてよいか、わからず。
 夕日がさして、お客も店も、せんど川のように見える、いちろじはふっと笑った。
 大きな頭を、上げ下げする、はいとか、いいお天気ですという他、云ってはいけなかった。
 子供がよったくる。
 いつか人気者になった。
 お店のお金がなくなって、女が疑われた。
 申し開きに困って、
「あたしではない、いちろじ。」
 と聞くと、
「はい。」
 と云った。
「ではだれが。」
 と聞くと、だまっている。だれかれ指さして、それは思いもかけぬ男に、こっくりと頷いた。
 そのとおりであった。
 きっとなんでも知っていた。
 いちろじは、とつぜん又売りされて、場末の小屋で、大きな頭を上げ下げしていた。
 ひどい扱いであった。
「はい。」
 と云い、
「はーい。」
 という、ばくちの合図だった、げんこが飛び、刃がかすめたりする。
 いちろじの命はつきかけていた。
 村を出て、三年になる。
 せんど川だった。
 なっぱやはしが行く。
 こいやどじょうだの、
「いちろじ。」
 と呼ぶ。
 それは、お地蔵さんであった。
「はい。」
 と答えて、息を引き取った。
 親方が号泣した。
 鬼のような男が、
「もうわるいことはすまい。」
 と云った。

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とんとむかし

雲竜の柳

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、もえぎ村に、六郎という子があった。
 夕方、使いに出て、家のとぎれる、一つ屋敷行くと、
「もおし、水を。」
 といって、女の人が倒れ込む。ふきの葉っぱに水くんで、含ませると、
「これを、えちぜの殿さまに。」
 といって、書き付けをわたして、息絶えた。六郎は、もえぎの親さまのもとへ、駆け込んだ。
「これこれしかじか。」
 書き付けを出すと、
「わしらが見るわけにはゆかん。」
 といって、人をつれて、六郎といっしょに、一つ屋敷へ行った。
 女のしかばねが、くさっている、旅衣が、ぼろっとくずれて、されこうべになった。
 人みな立ちすくんだ。
「これはどういうことだ。」
「水をくんだ、ふきの葉があります。」
 六郎はいった。
 石の塚があった。
「三日まえの豪雨だ、なでついて、仏さんが転げ出たんだ。」
 一つ屋敷には、行き倒れや、名も知れぬ人を、ほうむった塚がある。
「わしらの見たものは、まぼろしじゃ、手厚く、ほうむりなおしてやれ。」
 親さまがいった。書き付けがあった。
「それもじゃ。」
「待ってください、お殿さまにといいました。」
 だれも届けようとは、いわなかった。
「百何十年もまえのこと。」
「へんなもの届けて、打ち首になっては。」
「わたしが行きます。」
 六郎がいった。
 えちぜのお城には、一晩二日の道のり、親さまと肝入りが、子どもの思い、一途のゆえにと添えて、六郎は、お城へむかった。
 松の向こうに、真っ白にそびえる。
 はじめて見るお城だった。
 お取り次ぎに、差し出して、半日というもの、お庭にかしこまる。
「もえぎ村の六郎、おもてを上げい。」
 まっすぐ見上げた。
「いい面がまえじゃ。」
 お殿さまであった。
「すべてをお話しもうせ。」
 六郎は、水をと、女の人がいったことから、申し上げる。  
「だれに頼まれた。」
「はあ。」
「だれに頼まれたかと聞いておる。」
 別にあの、どう聞かれたって同じの、
「村長は見なかった、おまえは字が読めぬとな。」
「はい。」
「いかがいたしましょう。」
「よしなにせい。」
 六郎は帰されなかった。
 牢屋のような、食事が与えられ、二日にいっぺんは、とやこう聞かれる。
「水呑みの、六番めの子とな、父母はなんで死んだ。」
「流行り病です。」
「そうかな。」
 そんな一夜、いいにおいがして、美しい女の人が、入って来た。
「六郎とやら、これを着なさい。」
 旅衣を投げる、おさむらいのものだった。
「ついて来なさい。」
 といって、先に立つ。
 外に人が立つ。
「どうしても行くのか、かえで。」
 お殿さまであった。
「腹ちがいの、はねっかえりのおまえを、わしはとりわけ好きであった。なぜか、もう帰って来ないような気がする、その子はしっかり者じゃ、きっと役に立つであろ。」
「わたしたちが今あるのは、刀という、あの人方のおかげです。」
 かえでという、女の人はいった。
「今もわたしたちを、救ってくれました。」
「うむ。」
 かえでと六郎は、お城をしのび出た。
 夜明けには木戸を抜け、
「いうことを聞くのよ、取り立ててやったんだから。」
 おしのびだといいながら、お茶を飲み、団子を食べ、昼を過ぎると、もうくたびれたといって、宿を取る。
「一つ部屋でいいの、まあお聞き。」
 かえでさまはいった。
「おまえの持って来た、書き付けには、おかたなはうんりゅうのやなぎのしたにとあった、お刀は雲竜の柳の下に、将軍さま御拝領のお刀が、なくなったんです。一人二人切腹したって、追っ付きません。よからぬことばっかりして、押し込め同然の、中の兄が盗み出したんです、それがあったんです、西のお庭の柳の下に。」
 六郎にはさっぱりわからなかった。
「そうです、古い紙片でした、文字もかすれて。百何十年のむかし、刀と呼ばれる、戦国往来の一党がありました。わたしたちの祖先は刀を利用したんです、お刀は雲竜の柳の下に、あるいはおなんりゅうとつづめて、首尾よう敵の陣中に入った、合図を待つという、知らせだったんです。」
「そうですか。」
「祖先は刀を見殺しにして、そうです、そのむくろを引き取って、ほうむったといいます。」
 六郎にはどうでもよく。
「でもつながりがあったんです、西の柳はそのしるし。」
 わたしたちは、そのお墓にお参りするんですという、次の日は、山越えに行く。野育ちの六郎は、息を切る美しい人の、手となり足となった。
「ちょっと休んで。」
 一町も行くという、
「おっほほ暑い。」
 めくらむような襟元。ふきの葉っぱに、水を汲んでわたす。
「六郎はなんで飲まぬ。」
「飲むほどに疲れます。」
 その夜を、六郎は眠れなかった。あっさり死んだ両親、使い走りから、なんでもして生きて来た、すやすやと、寝息を立てるかえでさまの、それは、咲きこぼれる花のような、とつぜん、鬼のようなものが、手をのばし、六郎ははっと目覚める。
 ぬうとまっ白い腕が。
 次の日、村人に尋ねた。
「三つ柳という里とな、はあて。」
 だれかれ、首をかしげる。
「せせらぎの右はもやい、左は山二つと伝わっております。」
 死人が甦る里じゃという、年よりがいた。
「柳の葉をとって吹けば、迎えに来る。」
 たしかにそう聞いたという。
 二人は歩みたどった。
 山二つを見る谷あいに、右は夕もやい。
「きっとここよ、六郎。」
 柳の葉をとって吹いた。返しはなく、そこへ油紙をしいて、二人は宿る。
「里は失せたんです、えにしあればきっと。」
 といって、かえでさまはじきに、寝息をたてる。
 星が出た。
 くらめくような星、六郎はいつか、若者になって、美しい人をたくましい腕にする、永遠の春を、でもやっぱり、水呑みの子、まどろんで目が覚めた。
 柳の葉をとって吹いた。
 応えがある。
 六郎は歩んで行った。おそい月がさし上る。
 古い塚があった。十二十、刀が抜きたつ。
 刀をかざす兵になった。
「こう、こう、死人の里へなんの用だ。」
 空ろな声がいった。
「三途の川を、わたろうというのか。」
「ゆかりのお墓に、花を供えに。」
「そいつはきとくなことだ。」
 ほっほと笑う。
 おっほっほと明るい笑いになった。
「まやかしよ、六郎。」
 かえでだった。
「こんな子ども相手に、いったいなんのまね。」
 一瞬闇がざわめく。
 鬼のような、みにくい男が、そこへ転がった。
「おまえたちが、つれて来た男よ。」
 声がいった。
「どうして。」
「かえでといったな、はねっかえりのお姫さんよ、よくわしらの術を、見破った。」
「この子の話を聞いて、伝えのとおりではないかと思ったのです。」
「伝えとは。」
「お刀はなほも生きて、雲龍の柳をえにしにすると。」
「柳は切った。」
「なぜです。」
「その男だ、二の兄をそそのかして、ご拝領のお刀を、柳の下に埋めて、わしらの出方を待った。」
 半月がぶら下がる。
「それに乗ったというの。」
 かえでは云った。
「そうだ。」
「こんな子どもを使って。」
「わしらは自由人の集団だ、だれの支配も受けぬ、支配もせぬ、今の世は、それを許さぬようじゃ、わっはっは、あの手この手で、さぐりを入れてくる。」
 屈強の男たちが現れた。
「知ったからには、生きて帰れぬが。」
「ごたいそうなこと。」
「わたしはかまいません。」
 六郎がいった。
「わたしも、おまえさま方のような、自由人になりたい、でも、かえでさまは、まったく別です、お城にお返し下され。」
「都合のいいことをいうではないか。」
 六郎は、倒れた男の刀を、もぎとって首に当てる。
「このとおりです。」
「なんのとおりだと。」
「わたしの命と引き換えです。」
「命は二つ取ろうというんだ。」
 刃は、はね飛ばされ。
「こやつ、見込み通りだ。」
 男たちはいった。
「わっはっは、わしらも外からの人間が、欲しかったんだ、それでちょっと、仕組んだのよ。」
「死んだつもりになって、ついて来い。」
「かえでさまは。」
 ふむという。
「年上だがどうじゃ、こやつの嫁にでもなるか。」
 六郎は仰天した。 
「いいわ。」
 かえでさまはいった。

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とんとむかし

   河童大明神

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、松之山村に、三太郎という、おじごんぼうがいた。
 いつだって、仕事はんぱの、今日も川っぱたへ来て、雑魚釣り、
「むこどんのあてもねえようだし。」
 と、真っ赤なかおの、げたのような娘に、田んぼ六枚ついたとか。
 兄にゃの畑から、かっぱらって来た、きゅうりに手のばすと、それがない、
「またやられた。」
 ぽかっとへたが浮かぶ。
 そこは、にょっきり大岩のつきでた、青っぷちといって、青っぷちのかっぱが、悪さする。
 人まえには、めったに出ぬくせに、かかったと思った魚が、ぼうっきれに変わったり、まっ平らな面が見えたり、
「おじごんぼうだと思って、この。」
 どうしてくれようと三太郎、あくる日、きゅうりに、とんがらしつめて、持って行った。
 つめぬのを食って、かすまいて、知らんぷりして、釣っていると、
「ぴえ−。」
 といって、目の前に、かっぱが浮かぶ。
 灰色だんだらになって、泡吹いて、岸によった。
「もとはといや、そっちが悪りいんだぞ。」
 三太郎はいって、くちばし開いて、水ふくませた。目を開けるなり、かっぱはがばと、川へはまる。
 それから三日たった。
 夕方、兄にゃに云いつけられて、くわの刃つけに、鍛冶どんへ行った帰り、だれかいる。
 鍛冶どんの、色っぽいかかだか、かがみ込む。
「へ! 」
 よって行ったら、ふわ−っと、五メ−トルも飛んで、しょんべんが、ひっかかる。
「ぎゃっ。」
 と、三太郎は、目押さえた。
「どすけべえの、おじごんぼうが。」
 と聞こえ、ぺったら足音が、遠ざかる。
 焼けつくように痛んで、三日も、目は見えなかった。
「なんしただ。」
 と、兄にゃのかか、聞いた。
「蛙のしょんべん、目に入れた。」
「なまけてばっか、いるからだ。」
 といって、ろくすっぽ、まんまもくれぬ。
 やっと治って、三太郎はまた、きゅうりかっぱらって、青っぷちへ行った。
 はややふな釣ったら、どんと大物がかかる。
「おう、こいつ。」
 やっといなして、大鯉を釣り上げたら、
「釣れたな。」
 といって、かっぱが出る。
「そうか、おまえがくれたんか。」
「うん、そいつで栄養つけろ。」
 灰色だんだらでなくって、緑色。
 三太郎は、青っぷちのかっぱと、仲良うなった。
「おじごんぼうじゃねえ、三太郎というんだ。」
「おれは、きょんすっていう。」
 二人は名告った。
「きょんすは、青っぷちの主か。」
「ちがう、かっぱは、一滴の水ありゃ、どこへでも行く。」
「ふ−ん、かってのいいもんだな。」
「三太郎はどうだ。」
「どこへも行けん、兄にゃの嫁に、頭上がらねえしな。」
 と、おじごんぼう。
「そったら人間止めっか。」
「止めてるようなもんだ。」
 きゅうりと、大好物のこんにゃく、都合したり、魚の居場所、おそわったり、泳ぐのは、不得手なもんで、いっしょに甲羅干したり。
 夏になった。
 盆踊りに出たいと、きょんすがいった。
「ふんづかまったら、えれえめみるし、なんとかならねえか、三太郎。」
「なんとかしよう。」
 三太郎は、兄にゃの浴衣、かっぱらって来て、手拭いといっしょに、きょんすにあずけた。 
「帯はこう締めて、手拭いはこうな、おそうなって行きゃ、だれもわからん。」
「蓮っぱに、露ためて、持って行ってくれ。」
 きょんすはいった。
 露ためて、蓮のくき、持って行くと、そこからにゅっと、きょんすが現れて、
「えっへ。」
 と笑って、踊りの仲間に入る。
 浴衣ちょっとなんだが、よう踊る、
「なかなか。」
 といっていると、頃合いになって、男と女と、つれだって行く。
 きょんすは、赤いげたの、娘の手とる。
 うまくいきゃいいがと、三太郎も、頃合いやっていると、とんでもしない、声が聞こえる。
「達者なやつがいる。」
「いいから、ねえ。」
 そんで、あしたになった。
「美人に当たって、えっへ。」
 と、青っぷちへ行くと、きょんす。
「そりゃよかった、そんじゃ、手拭いと浴衣、返してくれ。」
「あんれ、手拭い、置き忘れた。」
 浴衣は返す。
「そいつは大ごとだ。」
 と、三太郎、もし、夫婦になろうと思ったら、手拭いを置く、
「そうなったら、おれまかるから。」
「まかるたって、おまえ。」
 どうしようと思っていたら、赤いげたの娘、与作んとこの、おじごんぼうを、追っかける。
「そうか、あの手拭い。」
 与作んとこが、忘れて行ったのを、兄にゃのかかが、洗っておいた。なんせめでたいって、田んぼ六枚に、山一つくっつけて、秋には、祝言の運び、
「与作んごんぼうも、がんばったんだ。」
「あんな美人をな。」
 と、きょんす。
「三太郎は、くやしくねえか。」
「おれ、あんまり美人は、だめなんだ。」
「そうかいのう、だったら、どこへ行きてえ。」
「そうさな、西の大家さまんとこにすっか。」
 七里八町、人の地は踏まずと、名に聞こえた、西の大家さまには、美しい一人娘、
「だったら行きゃいい。」
「ばかいうな。」
 きょんすは、知恵さずけようといった。
 美しい一人娘は、とつぜん、口を聞かのうなる、どこの医者頼んでもだめだ。
「河童大明神が、夢枕に立っていう、松之山村に、三太郎たら、いい男いる、そやつの手取りゃ、ぴったら治る、口聞いたら、むこどんにしろってな。」
「そりゃあんがとよ。」
 すっかり忘れていたら、西の大家さまの、美しい一人娘が、お池のはたに立って、
「は−あ。」
 と、欠伸したとたん、口になんか入る。それっきり、なんにもいえなくなった。
 医者という医者、ご祈祷だの、頼んでみたが、どうもならん、そうしたら一夜、河童大明神が、まっ白いひげ生やして、夢枕に立った。
「夢にもすがるとは、このこっちゃ。」
 西の大家さまは、松之山村に、使いを立てた。
「うちの、なまけものの、おじごんぼうが。」
 兄にゃの嫁は、仰天した。三太郎は、とっとき着て、あとついて行った。
 お寺のような、大門をくぐって、どこをどう通って行ったか、美しい一人娘は、手にぎられて、真っ赤になって、
「はんずかしいことで、ございます。」
 といった。
「娘が口を聞いた。」
 西の大家さまは、よろこんで、
「礼じゃ。」
 といって、小判三枚出した。
 はあて、でもってそれっきり。
「なかなか。」
 三太郎は、きょんすにいった。
「ではまた、手立てしようかいの。」
 と、きょんす。
「もういい。」
 と、三太郎。
「美人であったか。」
「美人だった。」
 そうしてまた、今度は秋茄子、かっぱらったり、雑魚釣りしていたら、とつぜん、西の大家さまの、使いがあった。
 一人娘が、まんまも食わず、寝たっきりの、よく聞いたら、
「おまえさま、恋しいそうじゃ。」
 といった。
 おらだって、三枚の小判はそっくり、
「そんなことがあっていいものか。」
「あったんだなあ。」
 と、きょんす。
 そんでもって、なまけもんの、おじごんぼうが、三代語り草の、西の大家さまの、美しい一人娘と、祝言。
 なんせめでたやの、三月たった。
 むこどんは、やっとのことで、青っぷちのきょんすに、会いに行った。
 きょんすが待っていた。
「むこどんてえのは、てえへんだ、足はしびれる、うっかり屁もこけねえ。」
「いや、てえへんなのは、おれのほうだ。」
 と、きょんす。
「河童大明神かたったの、ばれた、盆踊りんことも知れて、もうここへは来れね。」
「どういうこった。」
「百年お仕置じゃ。」
 きょんすは、灰色だんだらになる。
「そりゃてえへんだ、おれにできるこたねえか。」
「河童大明神の社でも、建ててくれ、西の大家さまん屋敷うち、建てれば、功一級だ。」
「きっとそうする。」
 きょんすは姿消した。
 むこどんの三太郎は、とっときの小判、三枚出して、西の大家さまの、しゅうとどのに、掛け合った。
「そんなもの、屋敷うちには、建てられん。」
 しゅうとどのはいった。
「むこどんが、何をいいやる。」
 しゅうとめどのがいった。
 そうしたら、美しい嫁さまの、一人娘、
「わたしっきり、知らない、屋敷うちの、原っぱあるで、そこへ建てなされ。」
 といった。
 三太郎は、こっそり宮大工頼んで、河童大明神の、ほこら建てた。
 きれいな花が咲く。
「子どものころ、ここで遊んだの。」
 と、美しい嫁さまいった。きゅうりを供え、酒をそなえして、お参りした。
 夫婦二人っきりに、なりたい時は行く。
 むこどんは、書き付け見るたって、あっちやこっち、しきたりあって、その他あって、どもならん。
 必死だった。
 三年たって、なんとかおさまる。 
 歌の会というものがあって、むりやりさせされて、存外にうまく行く。  
「歌のうまい、あのむこどんか。」
 といって、人にも知られる。
 ある日、河童大明神に、水を供えたら、そこからにゅっと、きょんすが現れた。
「おかげさんで、助かった。」
 ときょんす。人と河童は、手を取り合った。
「役に立ったか。」
「おおさ、おまけに、河童文庫の一等書記って、役までついた。」
という。
 きゅうりのつるのような文字で、かっぱだいみょうじんと、お札書いて、納めて行った。
 それからは、にゅっと出ては、飲んだり食ったりして行った。
 美しい嫁さまの前にも、姿現わした。
「きょんすさまでありますか、夫が世話になりもうして。」
 と挨拶に、
「いえその、おらあまあ。」
 といって、黄色だんだらになる。
「赤くなったってこった。」
 あとで夫婦は、大笑い。
 十年たった。子どもが二人できた。男の子と女の子で、かっぱのきょんすと、よく遊んだ。
「なんとな、かっぱだと。」
 しゅうとどのは、孫のお相手。
「尻こ玉抜かれりゃおしまい、しりこだまっていうのはなあ。」
「こわい。」
「そりゃこわい。」
「でもこわくない。」
 その十年めに、きょんすが来て、
「大水がでて、あたりいったい水びたし。」
 といった。
「河童大明神のある、ここはよける。」
 きょんすのいうとおり、十日も大雨が降って、あたりいったい、水びたし。
 西の大家さまの、田んぼは残る。
「高台でもねえのに。」
「河童大明神のおかげ。」
 と、人は云った。
 そのあとを、三年にいっぺん、水が出るようになって、人々は難儀する。
 水の引いたあとをもめる。
「人ってのはまあ、面倒くさいったら、おら、かっぱの国へ行きてえ。」
 中に入って、むこどんはこぼす。
「水出ぬようにするには、どうしたらいい。」
 きょんすに聞くと、
「水は流れたいように、流れる、田んぼ止めりゃいいさ。」
 と、きょんす。
「そうはいかねえってわけよ。」
 図面を見る。
「向こう山けずって、川まっすぐつけりゃ。」
「かっぱにとっても、都合いいか。」
 きょんすが、きゅうりのつる文字で書いた、河童文書持って来た。
「向こう山には、銀が出るって、書いてある。」
「そうか。」
 と三太郎、三日三晩、寝ずに考えた。まとまったところを、必死の思いで、西の大家さまの、しゅうとどのに、ぶっつけた。
「三年に一度の洪水で、水のついた田んぼは、よく見りゃ、いっぺんに二年分の米がとれる。向こう山、調べさせたら、どうやらいい銀が出ます。思い切って、お屋敷の田んぼ、水のつく田んぼと交換します、面倒ことはのうなるし、みな二つ返事です。水つく年には、銀を掘ります。」
 しゅうとどの、怒鳴るかと思ったら、
「むこどん、おまえの好きなように、すりゃいい、わしは代譲りしようと、思っとる。」
 といった。
「じゃが、向こう山掘るには、お殿さまの、許しえにゃならん。」
「さようでありますか。」
「わしが掛け合うてやろう。」
 そういって、でかけて行ったが、しゅうとどの、
「なかなか。」
 といって、帰って来た。
「なにかいいものはないかとおっしゃる。」
 お殿さまは、聞こえた好事家で、珍品をといっては、召し上げなさる。
 しゅうとどのは、一品を取り出した。
「これはむこどん、おまえに伝えようと思ったが、せんない。」
 松を金蒔絵に描いて、りっぱな文箱であった。
 大江山生野の道の遠ければまだ文も見ず天の橋立
 と、歌が一首。
 たとえようもない品に、むこどんはため息。
 きょんすにいうと、
「見せてくれ。」
 といった。そうして、あくる日、まったく同じものを、持って来る。
「どういうこった。」
「かっぱの物化けという。」
 物化けの品を、お殿さまは、いたくお気に召して、
「おっほっほ、上代の作よのう、苦しゆうない、向こう山でもなんでも掘れ。」
 といった。
 三太郎の計画通り、事は運び、
「ばかむこが、あほうなまねしおって。」
 と、物笑いの種であったのが、五年十年過ぎるうち、西の大家さまの、財産は、三倍にもなる。
 向こう山には、良質の銀が出た。
 西の大家さまの、しゅうとどのは、
「わっはっは、そうさお財増やすなら、むこどん貰えってことよ。」
 鼻高々に云って、あの世へ旅立った。
 向こう山に、水路のついたのは、三代のちのことであった。
 かっぱのきょんすは、三太郎が死んだあとも、とつぜんにゅっと、現れたりしていたが、河童大明神が、りっぱなお宮に、建てかえられたあと、出なくなった。
 きゅうりのつる文字の、お札が残る。
 三太郎夫婦も、二人の子どもも、河童の国へ行って来たという。
 夢のような世界であったと。
 物化けの文箱は、ある日とつぜん、歌の文字が、空中に浮かんだ。
 美しい乙女の姿になって舞う。
「おう、おう。」
 お殿さまは、見取れほうけて、ぼけてしまった。
 あとに石ころ一つ。

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とんとむかし

   げたとはしとこんにゃく

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、ちびたげたと、一本きりのはしと、くさったこんにゃくが、いっしょくたに、ごみために、捨てられた。
 いい人生だったと、三人はいった。
「きれいな足に、はかれたかったが。」
「白魚のような指になあ。」
「うんまいおでんになりたかった。」
 そうさなあといって、三人はつれだって、冥土の土産に、お伊勢参りに、でかけて行った。
 ちびたげたは、はすっかいに歩く、一本きりのはしは、ぴょうんと跳んで、はあと叫ぶ。くさったこんにゃくは、なんまんだぶつと、よだれをたらす。
 宿をとったら、くさったこんにゃくは、まんま食うはしから、おならする、一本きりのはしは、茶碗をたたく、
「ちんとんしゃん、
 おでんが煮える、
 ぷっかぷうと、すかしっぺ、
 お伊勢参りは、上天気。」
 ちびたげたは、一晩中、ごうごういびきをかいた。
 でもって、仲良う旅して、峠の茶屋は、大流行り、だんごを食ったら、
「わしも、いっぱしのもんになって、帰ってまいりやす。」
 といって、やくざもんが、挨拶する。そうか、わしはいっぱしのもんだと、一本きりのはし。
 商人が、
「百両だと、そいつはたまげた、こまげた、さつまげた。」
 といって、立派なはげ頭に、手をやった。
 そうかわしは、大もんだと、ちびたげた。
 ひげのお侍が、
「かんらかんら。」
 と笑って、焼きはまぐりは、今夜食うといった。
 そうか、わしは大もんだと、くさったこんにゃく。
 そろって大もんになって、肩肘張って、歩いて行くと、み−んと鳴いて、蝉がしょんべんをひっかけた。
「せみのしょんべん、木にかかる。」
「かえるのしょんべん、田へしたもんだ。」
「うーんやっぱり大もんだ。」
 と云って行くと、泥棒が出たという、千両箱とって、あっちへ逃げたと、おおさわぎ。
「ではつかまえよう、わしらは大もんだ。」
 三人は追いかけた。
 日は暮れて、森っかげ。
 泥棒が、一本きりのはしを、踏んづけた。
「いてえ、やぶっぱらめ。」
 そこにあった、ちびたげたをはく。
 抜き足さし足、忍び足、くさったこんにゃくを、ふんずけた。
「ぎゃあ、がらごろ。」
 といって、泥棒はつかまった。
 お手柄でもって、代官さまに、召し出されたのは、押さえ込んだ、力自慢。
「大もんは、縁の下の力持ち。」
 仕方ないといって、三人は旅をつづけた。
 河があった。
 水が出て、わたれない。
 お伊勢参りも、みんな立ち往生。
「ようし、大もんぶりを、見せよう。」
 三人はいって、くさったこんにゃくを、一本きりのはしが、つっさして、ちびたげたに、帆を上げた。
「お伊勢参りに、
 帆を上げて、
 大もん三っつ、
 どんぶらこ。
 犬が西向きゃ、尾は東。」
 水の出た、河へ押し出すと、流れにはまってつっ走る。
「向こう岸へ。」
「なんまんだぶつ。」
「わしは、足の向くまんま。」
 といって、三人は流された。
 おし流されて、海へはまって、しまいのはて、竜宮城へとっついた。
「こんなごみっさら、よこしおって。」
 と、竜宮城の番人がいった。
「世の中、まちがっとる。」
「わしら三人、お伊勢まいりじゃ。」
 ごみっさらがいった。
 乙姫さまが、
「お伊勢さまに、失礼があってはならん。」
 ともうして、ちびたげたはかれいに、一本きりのはしは、へらやがらに、くさったこんにゃくは、くらげになったとさ。めでたし。

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とんとむかし

   お月さんのくし

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、雪がしんしん降って、お天道さまが、
「あ−あ、ねむい。」
 といって、大欠伸したら、長い髪をすいていた、お月さまが、たまげて、くしを落とした。
「拾っておくれ、わたしの銀のくし。」
 と云ったら、木のうろで、くまはまんまるう、
「めんどうくさ、さむくってもういやだ。」
 といった。
 りすは、どんぐりをもぐもぐ、
「聞こえない。」
 といったし、へびはとぐろをまいて、こそともせず、さるは、おしりを向けて、あかんべえした。
 うさぎだけが、耳をたてて、
「は−い。」
 といって、跳ねまわった。
 お月さまの、長い髪は金色だったし、くしは雪にうもれて、見つからなかった。
 うさぎは、目をまっ赤にしてさがした。
 雪がふっても、うさぎは元気に、跳ねまわって、十五夜の晩に、三つの子を生んだ。
 銀のくしは、どこにあるかって、きっと、うらの竹やぶにあるよ。

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へきがんろく

第十一則 黄檗口童酒糟の漢

挙す。黄檗、衆に示して云く、(水を打して盆に礙へらる。一口に呑尽す。天下の衲僧跳不出。)汝等諸人、尽く是れ口童酒糟の漢。恁麼に行脚せば、(道著す。草鞋を踏破す。天を掀し地を揺がす。)何れの処にか今日あらん。(今日を用ひて什麼か作ん。妨げず群を驚かし衆を動ずることを。)還って大唐国裏に禅師無きことを知る麼。(老僧不会。一口に呑尽す。也是雲居の羅漢。)時に僧あり出でて云く、只諸方の徒を匡し衆を領するが如きんば、又作麼生。(也好し一拶を与ふるに。機に臨んで恁麼ならざるを得ず。)檗云く、禅無しとは道はず、只是れ師無し。(直に得たり分疎不下なることを。瓦解氷消。竜頭蛇尾の漢。)

黄檗希運は百丈の嗣、身の丈七尺、額に円珠有り、天性禅を会すとあります、かつて路に一僧に会う、眼光人を射る、すこぶる異相あり、親しくともに行くに、増水して河が渡れない、とどまる黄檗を後目に、この僧平地を歩むが如くに踏み渡る、振り返ってさし招く。黄檗咄して云く、這の自了の漢、われ早く捏怪なることを知らば、汝が脛を切るべしと。てめえこっきりのやつですか、うっふっふ、脛ぶった切ってやったものをという、その僧嘆じて云く、真の大乗の器なりと、云いおわって見えず。百丈に至る、丈問ふて日く、巍巍堂々として什麼の処よりか来る。檗云く、巍巍堂々として嶺中より来る。丈云く、来ること何の事の為ぞ、檗云く、別事の為ならずと。丈深く之を器となす。どうですか、巍巍堂々の人間一個また別事の為ならずと、まさにこのとおりの人間一個皆無ですか、人間一個を復活するための何十年という、まさにこれ、天性禅生まれ立て赤ん坊のまんま、身の丈七尺額に円珠です。わしら末世の有耶無耶もたしか赤ん坊のおぎゃあとこの世に生まれたんです、生まれた喜びをもういっぺん味わってみてください。無自覚の覚、まさに別事の為にあらず。次の日百丈を辞す。どこへ行くんだ、馬祖大師を礼拝し去らん。馬大師すでに遷化す。われ福縁薄くして、ついに見えじ、平日何の言句かあらん。百丈馬祖に参ずる因縁を挙す。祖我が来るを見て、払子を竪起す。我れ問ふて云く、此の用に即するか、此の用を離するかと。祖遂に払子を禅床角に掛けて良久す。用いるのか離れるのか。払子をかけて黙す。祖かえって問う、汝以後両片皮を挙して、てめえのしゃっつらもってですか、あればそりゃ皮っつら、如何が人の為にせんと、我れ払子をとって竪起す。祖云く、此の用に即するか、此の用を離するかと。我れ払子をもって禅床角に掛く。祖威をふるって喝す。我れ三日耳を聾す。聞いて黄檗悚然として舌を巻く。若し馬大師に承嗣せば、他日以後我が児孫を喪せん。丈云く、如是如是、見師と等しき時は、師の半徳を減ず。智師に過ぎてまさに伝授するに堪えたり。なんじが今の見処、あだかも超師の作有りと。

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2007年4月20日 (金)

へきがんろく

頌・両喝と三喝と。(雷声浩大にして雨点全く無し。古より今に至るまで人の恁麼なる有ること罕なり。)作者機変を知る。(若し是れ作家にあらずんば争か験し得ん。只恐らくは不恁麼ならんことを。)若し虎頭に騎ると謂はば、囮。瞎漢、虎頭如何が騎らん。多少の人恁麼に会す。也人有り這の見解を作す。)二り倶に瞎漢と成らん。(親言は親口より出ず。何ぞ止だ両箇のみならん。自領出去。)誰か瞎漢。(誰をして弁ぜしめん。頼ひに末後の句有り。ほとんど人を廉殺す。)拈じ来って天下人に与へて看せしむ。(看ることは即ち無きにあらず、慮著せば即ち喝す。闍黎若し眼を著けて看ば、則ち両手に空を培らん。恁麼に挙す、且く道へ是れ第幾機ぞ。)

両喝と三喝と、何度喝しても同じなんですか、機械すなわちマシーンです、だったら是といって無意味、なんの役にも立たない死人です、死人の喝と死んで死んで死にきっての喝と、あっはっはどうですか。三喝四喝まったく違うんですか、臨済云く、有る時の一喝は、一喝の有をなさず、有る時の一喝は、卻って一喝の用をなす、有る時の一喝は、踞地獅子の如く、有る時の一喝は、金剛王宝剣の如しと。これなんにも云わんのと同じですか、臨済の喝するそのもの、なんにもなしと見つめている自分を去る、喝自ずからに現成。老師他が晋山式に一喝して、満場のごろつき坊主どもしゅんとした。文句ばっかり空威張り、どうしようもない自閉症ども、まさに一喝に納まる。(雷声浩大にして雨点まったくなし、うふうわしは未だしって思う、もうはやあかん、人の恁麼なることまれなり。)作者機変を知る。知って下さい、思いの他の事実。(不恁麼じゃあどうしたって真似ごと、意味を追うしめりっけ。自分に返っちまう。ないはずの自分に。)若し虎の頭に騎ると云はば、さあ騎ってみろ、虎ここにあり、食われているぜえすでに、(囮はかこいにカ、くわと口をわずかに開いて全世界宇宙中にあり、瞎はめくら、虎の頭に騎るだと、そんなものどこにある、どめくらめ、かれ虎これ猫多少の見解、百害あって一利なし。)二人ともにどめくら、うっふっふ七通発達、かーつと一切呑却、(見えないものこれ真、自分という他に向かって参ぜよ、親言親口の外、自領出去は手前味噌、賦活の力なし。)誰か瞎漢。ふりかえって一挙に持って行く。(だれがどめくらだって、わずかに残ったやつをふんだくる、末後の一句あり、いやさどめくら一般じゃないって、そりゃ当然。)拈じ来たってあえて見せしむ、ことの語り事をこおば、云わずはわからんのです、切々。(あっはっはこれ第いくつめの機ぞ、両手に空をつちかうこと無ければよし。)

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2007年4月19日 (木)

とんとむかし

   笹酒

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、松代村に、ひょうろくという、男があった。
 両親なくなって、かしがった家に住んで、なあんもせん、となりの姉、食うもの持って来て、
「ちったあ稼げ。」
 といったが、
「はあ。」
 といって寝ていた。
 それがある日、旅支度して、
「長者屋敷の夢見たから。」
 といって、出て行く。
「まあ、ちった歩いたほうがいい。」
 となりの姉は、見送った。
 ひょうろくは、歩いて行った。
 西へ行くと川があって、川をわたると、笹が茂って、その向こうに、立派なお屋敷があった。
 黒い御門を入って行くと、美しい女が、
「お帰りなされませ。」
 といって、手をついた。
「うむ。」
 ひょうろくは上がって行った。
 なんにも描いていない、白い屏風があった。
 大広間へ入った。
 お屋敷中の人が集まっていた。
 雪のようにまっ白い、年寄りが出て、云った。
「なげしの槍をお取りなされ。」
 ひょうろくは、赤い長柄の槍をとった。
「おさやを。」
 さやを払うと、まっ白い年寄りが、
「お突きなされ。」
 といって、胸を広げる。
「いや、おまえは止めた。」
 ひょうろくがいうと、
「ありがたいことじゃ。」
 と云って、引き下がる。
 次ぎに、どえらく太った男が、
「突け。」
 といって出た。
 突くと、どんと音がして、樽になって転がった。
 あやしい目をした女が、
「あたしは。」
 といって出た。突くと、
「こうっ。」
 と鳴いて、鶏になって飛んで行った。
 ぶおとこが三人、
「わしらは突かんでくれ。」
 という。
「ならん、ならん。」
 突くと、ひょっとこのお面が、三つになった。
 ひょうろくは、突いたり、突かなかったりした。
 あと、そこに転がったのは、座蒲団十枚に、たくあん石が一つ。
「では、お使えもうしてくれ。」
 雪のような年寄りがいった。
 ひょうろくは高膳に食べ、夜は美しい女たちが酒を注ぎ、舞い踊る。
 絹の蒲団に、くるまって寝た。
 朝、お仕えの者が来て、
「東を、見回って下さるように。」
 といった。
 ひょうろくは、東の田を見回った。
 燕が飛んで、風になびく早苗の、さわさわとはてもなく。
「どうであったか。」
 雪のような年寄りが、聞いた。
「見事であった。」
 ひょうろくは答えた。
 その夜は、高膳に食べ、美しい女が酒をつぐ、とりわけ美しい子の、ひょうろくは、手をとった。
 朝、お仕えが来て、
「西を、見回って下され。」
 といった。ひょうろくは見回った。
 とんぼが群れて、稲穂のよせあう、こがねの波は、はてもなく。
「どうであったか。」
 年寄りが聞く。
「立派であった。」
 ひょうろくは答えた。
 高膳に食べ、美しい子は、清うげに歌い、他の子は、にぎやかにはやす。
 朝、お仕えが来て、
「松山杉山ひのき山を、見回り下され。」
 といった。
 松には雲がなびき、杉にはさんさん雨が降り、檜には時鳥が鳴く。
「どうであったか。」
 雪のような年寄りが聞いた。
「美しゅう。」
 ひょうろくは答えた。
 美しい子と二人、高膳に食べ、そうしてほんのり酔うた。
 朝、お仕えの者が来て、
「川を見回って下され。」
 といった。ひょうろくは、川を見回った。
 鱒が跳ねとんで、ゆたかに奥深く。
「どうであったか。」
 年寄りが聞く。
「清やけく。」
 とひょうろく。
 美しい子と、ひょうろくは、夫婦になった。
 朝、
「七つのお倉を、案内しましょう。」
 美しい妻がいった。
 米倉金倉宝倉、七つの倉が、松とぼたんのお庭に建っていた。
「どうでした。」 
「たいしたものだ。」
 ひょうろくはそういって、長者屋敷に、二人仲良うに暮らした。
 十年めに、雪のような年寄りが、死んだ。
 なんにも描いてなかった屏風に、龍が浮かび上がった。
 目が、らんらんと光る。
「お逃げなされ。」
 美しい妻がいった。
「いっしょに逃げよう。」
「だめです、なげしの槍に、どうしてわたしを突かなかった。わたしはお倉のかぎです。」
「夢では突いた。」
 ひょうろくは、妻を抱えて逃げた。
 どんがらぴっしゃ、雷。
 長者屋敷が沈む。
 ひょうろくの手には、笹の葉が一枝。
 となりの姉、かしいだ家のぞくと、ひょうろくが寝ていた。
「あや−、いつ帰った。」
 たくあん石が転がって、座蒲団十枚。
 ひょっとこのお面が三つ。でっかい樽に、雨漏りがして、水がたまっていた。
 笹の葉がつかる。
「酒だや、これ。」
 姉がとんきょうな声を上げた。
 いい酒であった。
 姉は夫に死なれて、やもめになっていた。ひょうろくは、姉といっしょになって、酒屋を開いた。
「ひょうろくのささ酒。」
 といって名を売った。
 十枚の座蒲団には、いつも客があって、ひょっとこ三つで、三代火事を出さぬ。
 たくあん石には、いい漬物。

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とんとむかし

草笛

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、柿川の村に、三郎という、草笛を吹く子どもがあった。
ほうほけきょと鶯に吹いたり、ころころ虫の音に鳴いたり、だれ聞かずとも、そこらに寝そべって一人吹いた。
 雲が浮かんで行く、
「雲はどこへ行くんか。」
 三郎は、ぴ−と吹いた。
 京の都へ行くのか、それとも坊さまのいわっしゃる、天竺の国へ、
「そうさ、行ったら帰って来んな。」
 とつぜん明るい声がして、ひげも髪も、雪のように白い、じいさまが立った。
「おまえはだれじゃ。」
 たまげて聞くと、
「草笛をよくするな、子ども。」
 じいさまはふうと笑って、手にもった杖にさす。
「どうじゃ、あれを吹いてみろ。」
 大空の雲を、
「あんなものが吹けるか。」
「そうかな。」
 じいさまは杖を振った。
 雲は、哀しい笛の音になって鳴る、山も川も舞い、草木も歌う。
 めくるめくような。
 いったいどうしたのだ。
 我に返った時には、だれもいなかった。
「なさんらい。」
 と、聞こえたような。
 よそものは来なかった。
 戦の世であった。
 三日後兵が襲い、村を焼き、人を殺し放題に掠め去った。
 兄は殺され。
 父母は行方知れず。
 三郎は歩いて行った。
 真っ暗闇に灯が見える。
 よって行って、倒れ込んだ。
「どうした。」
 ぎらり槍に刀。
「面倒だ、殺せ。」
 が−んと何か。
「ほおっ、こいつかわしおった。」
 虎のようなひげ面が覗く。
「わっぱ、ついてこれたら飼ってやろう。」
「よせ、伊太夫。」
 若い声がいった。
「一思いにやれ、その方が、そやつにとっても幸せだ。」
「二の槍は使わん。」
「では、勝手にせえ。」
 一行は馬にまたがった。
 あとを追う三郎を、ひげの伊太夫のが、わしづかみにして、鞍へ押し押しつけた。
 雨が降って来た。
 夜通し走って、山の砦についた。
 霧もやい旗が浮かぶ。
「山磊清花。」
 これは、さんらいきよはなと読む。
 一団を清花党といった。
 党首は若かった。
「ええい、あやつも死んだか、戦はこれからぞ、寝たいやつは寝ろ、飲みたいやつは飲め。」
 といって去る。
 三郎は追い使われた。
 水を汲め、酒だ、
「こっちだわっぱ。」
「まぬけ。」
 こづかれ、なぐられ、あまりものを食らい、まどろみついでに寝る。
 十日もすれば、馴れつく。
 戦があった。
 勝ったか、夜は酒を飲んで、女の声も聞こえる。
 ぬうっと腕が伸びる。
「わっぱ、おどれ。」
 という。
「踊れません。」
「では歌え。」
「歌は歌えぬが。」
 三郎は草をむしって、口に当てた。
「てえ、つまらねえ、あっちへ行け。」
 追っ払われ。
 負け戦があった。
 どまんじゅうが並び、刀をつっさして、酒をあおり、なにやらわめく。
「くさぶえ。」
 だれかいった。
「吹け。」
 三郎は草をとった。
 雲の浮かんで行った、故郷の山川が、いつか草笛の一曲になっていた。
 いかついのが、号泣する。
 山磊清花の旗がなびく。
「あの旗を建てて。」
「うぬらが手向けにしようぞ。」
「明日はな。」
 おうと槍をつっさし上げる。
 月が上る。
「笛は好かん。」
 若い党首がぼそりと云った。
 また戦があった。
 戦利品のなにほどか。
「これはおまえにやろう、わっぱ。」
 と、ひげの伊太夫が、一管の笛を、三郎の手に置く。
 見事なこしらえであった。
 三郎は、吹き鳴らし、吹き鳴らし、どうやら鳴るようになって、ほうほけきょと吹き、ころころと吹く。
 雲の浮かぶ曲、
「笛というのはあのー、どうしたら。」
 伊太夫に聞いた。
「そんなものを、わしが知るか。」
 とひげつら。
 砦の奥へ、三郎をつれて行った。
 おんなと呼ぶ。
「楓の衣。」
 美しい女が立った。
「おい、このわっぱに、手ほどきしてやれ。」
「笛か。」
「あなたさまのものであれば、お返しいたします。」
「吹いてごらん。」
 女はいった。
 三郎はたった一つ、覚えのものを吹いた。
「よく吹けた。」
 女は笛をとって、朱い唇にあてた。
 三郎の、生まれて初めて聞く、おかしくも悲しい、なんという、浮きぬ沈みぬ、流れにもてあそばれる、楓の葉。
 一つが二つになり、三つになりして、またさま変わる。
「はらとうの曲。」
 女は笑い、こうと涙にむせぶ。
 笛は三郎の手にあった。
 三郎は、笛をとって吹き鳴らし、二へん三べんすると、砦をわたる雲も、群れ行く烏も、はらとうになった。
 戦の浮き世も、はらとうの。 
 楓という女が、身を投げて死んだ。
「西明寺の女よ。」
 いかついやつらがいった。
「西明寺は我らがかたき。」
「西明寺の大叔父が加担するぞ。」
 若い党首が云った。
「しなの原の合戦を、支え切れば、おぎの城に、清花の旗が立つ。」
「そいつはあやかしだ。」
 と、ひげの伊太夫、
「やつも、高取を抜く。」
「高取を抜くのはわかる、肥沃の三州への足がかり、しなの原に、わしらを見殺しにしてな、ていのいいお供え餅だ。」
「一か八かだ。」
「感心せんな。」
「他にわしらの浮かぶ瀬があるか。」
 いつかは死ぬる身の、清花党は撃って出た。
「くさぶえ、おまえも行け、戦はおしまいよ。」
 ひげの伊太夫がいった。
「わっはっは、どっちにしてもな。」
 三郎は笛を背負い、半分に切った槍を手に、伊太夫のわきを走った。
 敵はいったん引いて、三方に囲まれ。
「清花とな、そんなものは知らん。」
 西明寺はいった。
「夜盗を始末する。」
 あっというまのこと。
 草笛失せろ、伊太夫がいった。
 半槍を捨てて、三郎は抜け出た。あとはわからぬ。どこをどう歩いたか、膝をついたら、動けなかった。
 往来であった、
 背中の笛をとった。
 一曲吹き終わったら、銭があった。
 そのようにして、村から村へ、町から町へ、三郎は、笛をたよりに、渡り歩いた。
 三日も食わずに、橋の下に寝ていたり、祭りのお囃しを吹いたり、酔客にからまれたり、貴人の軒に呼ばれたりした。
 夏は過ぎ、秋が来た。
 冬になって、また春が来た。
 花が吹き散って、きぎしが鳴く。
 一人三郎は、笛を吹いた。
 はらとうの一曲を、四つに吹き分ける、おもしろおかしい笛と、悲しい愁いの笛、おどろに激しい笛と、平らに静かな笛と。
 文字も見えぬ三郎の、唯一の言葉。
 急に別の音が加わった。
 拍子を合わせるようでいて、月と雲のように、流れと淵のように、それはまったく相容れぬ。
 三郎は必死に吹いた。
 終わった。
 においたつような、春の装いに着飾った人が立つ。
「そのはらとう、どこで覚えた。」
 手には、白がねの笛を持つ。
 三郎は、身を投げて死んだ、楓という、女の人のことを話した。
「そうか、死んだか。」
 その人はいった。
「よく伝わった。」
 三郎を見据える。
「戦の世であっては、先の知れぬのは、乞食のおまえもわしも同じ、よし、わしのを伝授しよう。」
 一曲を吹き終わって、
「かんだは。」
 といった。吹き散らふ花の、永しなえの春を、対になって舞う鳥の、あるいは剣の、めくるめくようなかんだは。
 短冊を引き抜いて、なにやら書いてわたす。
「京へ行ったら、西九条の、あやなまろの屋敷へ行け、少しはましなめも見るであろう。」
 といって、立ち去った。
 さすらい歩いて、三郎が、京に入ったのは、すでに秋も末であった。
 地獄図絵の行き倒れや、盗人や、いっそ生きていたのが、不思議だった。
 西九条のそれは、冠木門をくぐって、草は伸び放題、紅葉の美しい、あやなまろの屋敷だった。
 二度追い返されて、三郎は、漆黒の髪の、大きな目が張り裂けそうな、あやなまろという人に会った。
「ほっほっほ、やすひでは、歌がうまいな。」
 持参の短冊を見て、あやなまろはいった。
「はらとうにかんだはとな。」
 ふうむといって、あごをしゃくる。
 三郎は笛を吹いた。
「字が見えぬな。」
 ふをっと笑って、先をうながす、吹きおわると、人を呼んで、
「典楽寮へつれて行け。」
 といった。 
 隣り合わせの、広大な林の中に、お寺のような建物があった。
 三郎は、鼠色のお仕着せを着て、北のはしの、わらわべの寮へ入った。
「よくな、空んずることじゃ。」
 目の大きな、あやなまろはいった。
 年下のわらわべまでが、三郎を追い使った。
 いっそ席にもつけず、わっぱという他に、名まえもなく。
 三郎はよく覚えた。
 十三ある典楽の七部に別れ、三つになるそれを、あるいは盗み聞き、かつがつ習い覚えて、ついには空んじた。
 三年たっても、三郎はわらわべだった。
 あとつぎたちは、一曲二曲して典楽へ上った。
 三郎は代役として、幕の影にあって笛を吹いた。
 人は影と呼び、草笛と呼んだ。
 広大な林苑に別け入って、一人三郎は笛を吹いた。
 心行く、また即興に我を忘れ。
 吹き終わると、咲き乱れる花の中に、美しい女人が立っていた。
「なんという名手じゃ、あやなまろのわっぱじゃな、典楽四家の阿呆どもとは、比べものにならぬわ。」
 その人はいった。
「清花の三郎も、そのように吹けばよいものを。」
「なんと申されました。」
 だが、女の人は立ち去る。
 典楽寮の絵に見る、天華乱墜して、天人の舞い行くありさまを、三郎は一曲に工夫した。
 西九条の、あやなまろの屋敷へ、呼ばれた。
 行ってみると、天人のようなその人がいた。
 山磊清花の党首と。
(伊太夫さまはどうなされたか。)
「塔家の姫君じゃ。」
 しっこくの髪の、あやなまろがいった。
「これは清花の三郎、天楽の総家じゃ。」
 党首は、なんにも云わぬ。
「わっぱの草笛じゃ、人は影と呼ぶ。清花の三郎はな、塔家にあずけられて、姫といっしょに育った。それがどうじゃ、まだほんのこんなころに、後見の西明寺に切りつけおった、笛をとる手に、刃を持ってな。」
 あやなまろはいった。
「戦はさんざんだった。」
 男ははうそぶく。
「伊太夫さまは、どうなされました。」
「ふむそうか草笛とな、死んだわ。」
 清花の三郎はいった。
「そうであろ、ぶかっこうな戦など、大夫のするものでない。」
「うるさい、笛なんぞ吹いて、戦乱の世がわたれるものか、じじいの株が奪われたんなら、弓矢に取り戻すまでよ。」
「命一つに逃げ帰ったのはたれじゃ。」
 塔家の姫君、
「あたしはもう二十を過ぎる。」
「まあまあ。」
 と、あやなまろ、
「こたびは、願いがかなって、天楽の棟梁清花の、失ったものは、取り戻せることになった。塔家には、たいへんな苦労があったがの。

「秘曲さんらいじょうをおまえが吹く。」
 塔家の姫がいった。
「笛なんぞ忘れた。」
「笛は草笛が吹く。」
 あやなまろがいった。
「名手じゃ。ぬしは吹く真似さえすりゃいい。一曲を奏し、さらに一曲のお召しがあって、秘曲さんらいじょうを吹く。」
「そういうことじゃ。」
 あやなまろは、手に黒うるしの笛をとって、一曲を吹いた。
 奇妙な笛であった。
「わしはこの程度じゃが。」
 といって、影の三郎を見る。
「影は命を吹き込むであろう。りょううんというこれは、なさんらいのへんげに次ぐ名笛じゃ、おまえに授けよう。」
 黒うるしの笛は、影の手にあった。
 萩の池にもよほす、月の宴であった。
 召し人の歌をえらぶあいだ、一曲を奏する。
 月明かりに、白がねの笛をとって、清花の三郎が立つ。
 影は、黒うるしのりょううんをとる。
 笛の一音とも思えぬりょうらん、天花乱墜して、飛天の羽衣の舞いを舞い行く、美しいとも切々たる。
 水をうったように、静まり返った。
「更に一曲をとのおおせじゃ。」
 と聞こえ。
 とつぜん二つの月に鳴りとよむ、秘曲さんらいじょうであった。人はまた、手を取り合うて無上楽、三千世界夢幻の。
 ことはなった。
「あまりにも首尾よう。」
 張り裂けるような目の、あやなまろ。
「心配じゃ。」
「そんなことはない、おそうはあったが、めでたく、清花の棟梁。」
塔家の姫君。
「まったく阿呆な話よ、だがな、あいつおれの手の中で、鳴っておったが。」
 と、清花の棟梁。
 さても、再度のお召し出しがあった。
「伝説のなさんらいをという仰せじゃ。」
 と、あやなまろ、
「ううむ、あれは吹いてはならぬ。」
 影の三郎の存在は、知らぬはずだが、西明寺めと、あやなまろ、典楽三家とつるんで、画策しおった。
「なんで吹いてはならぬ。」
 清花の三郎がいった。
「あれを吹いたものを、なさんらいという、おまえの大爺は、あれを三度び吹いた、主上のご病気平癒のため、またひでりに雨乞いのため、そうして道ならぬ恋のためじゃ。」
「とつぜん竜巻が起こって、吹っ飛んだというんだろう、じじいとへんげは、行方知れず。」
 あやなまろは押し黙る。
「この人を塔家に預けたのは、おまえか。」
 と、姫君、
「他にすべはなかった。」
「三郎はいったいだれの子じゃ。」
 答えはなく。
「そのなさんらいってのを、草笛に示せ。」
「わしごときの、知るものではない。」
「なんとな。」
 一同押し黙る。
「譜面がないとな。」
「山磊清花の旗印です、あれがもしや、楽譜ではないかと。」
 影の三郎がいった。
 くしゃくしゃになった、山磊清花の旗を、清花の棟梁は、そこへ取り出してひろげ、
「まさに、なんと、字も見えぬおまえがな。」
 あやなまろが云った。
 かれあしの池に、雪の宴であった。
 召し人には、西明寺あり塔家あり、かかわりのあるものは、みな集まった。
 一曲は、
「なさんらい。」
 と聞こえた、ぽっかり浮かぶ雲の笛。
 清花の三郎は、白がねの笛をとり、影は黒うるしのりょううん。
 なさんらいであった。
 なんのへんてつもない笛の音に、わしづかみにされて、三郎は、宙に舞い上がる。
 心身失せて、笛だけが鳴る。
「塔家の姫がほしいか。」
 声がいった。
「字が見えぬと、だったら歌詠みの三人も雇え、おまえが清花の三郎だ、刀を振り回す、でくのぼうではない、主上のお声を聞く、さよう、おまえこそが典楽総家の棟梁。」
 押さえ込もうとして、りょううんは張り裂けた。
 だが笛は鳴っている。
 でくのぼうの棟梁の手に、刃が握られ、血まみれの生首が、ぶら下がる。
 けったり笑う、塔家の姫。
 影は枯れ葦をひっつかんだ。
 草笛の一声。
 ものみなとつぜん止んで、からりされこうべが一つと、へんげの名笛が転がった。
 事件は噂にも上らなかった。
 闇から闇へ。
 あやなまろの髪はまっしろになった。その目はめしい。
「へんげは草笛、いやなさんらいの手に。」
 といって、息を引き取った。
 典楽寮は閉ざし、戦の世は百年に及ぶ。
 なさんらいとその名笛は、そう、今も柿川の辺りに聞こえるという。

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とんとむかし

   ひとりぼっこ

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、ひとりぼっこという、これもこわ−いお化けがあった。
ひとりぼっこが、おっかさんに化けて、みよという子を、さらって行った。
 みよは、歌が上手だった。
 みよが歌えば、人も草木もみーんな、ほろりとした。
 ひとりぼっこは、白いどんぐりを食わせた。
 どんぐりを食べて、それっきりものを忘れて、みよは山深く、まんま炊いたり、洗濯したりして、働いた。
 歌うのだけは覚えて、みよが歌えば、峰や、木々の梢に、響きわたる。
 竹の太郎という者があった。
 深い山中を行くと、ほろと歌う声。
 さがすと、昆布のような着物来て、はだしの女の子が行く。
 もういなかった。村に出て聞いた。
 みよという女の子だそうの。
 ひとりぼっこの姿は見えない、刀で切っても、槍で突いてもだめだ、なんにでも化ける、
「一本きりある、頭の毛を抜けばいい。」
 といった。
 竹の太郎は、犬をつれ。
 焼き灰を撒いた。かすかににおい、あとをつける。
 泡を吹いて、犬は死んだ。
 なを行くと、石の上に、はだしの女の子が立つ。
「これをお食べ。」
 白いどんぐりを、差し出した。
「なんで、ひとりぼっこという。」
 竹の太郎は、聞いた。
「ひとりぼっこだからさ。」
「なんで人をさらう。」   
「槍で突いたり、刀で切ったりするからさ。」
「そうかな。」
 女の子は笑う。
 白いどんぐりをとって、竹の太郎は食べた。
 それっきりものを忘れて、みよと同じ、水を汲み、たきぎを取って働いた。
 竹の太郎も、達者な字を、忘れなかった。
 天に月、地に風、人に竹の太郎。
 土の上に書いて、自分を思い出した。
 みよが歌う。
「おうほろ。」
 と、ひとりぼっこが、姿を現わす。
 平らったい頭に生えた、一本の毛を、竹の太郎は、引き抜いた。
「きえおう。」
 ひとりぼっこは、こだまになって消え。
 正気にもどった、みよを村へつれて帰る。竹の太郎の話は、他にもあった。

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とんとむかし

   うらめしや

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、六兵衛という、何やらしてもさっぱりな役者があった。馬の足やらせりゃ半歩多い、たった一つのせりふ、先にいっちまって、主役が台なし。
「しょうがねえなあ、おめえは面だきゃ一丁前なんだが。」
 といわれて、のっぺり面なでこくって、
「そんでもおらあ、芝居が好きなんだ。」
 といって、松の木なんかかかえていた。
 ところがあるとき、首くくってぶら下がる役があって、みな縁起でもねえっていうのを、六兵衛が引き受けた。
 それが、とてつもなくうまく行った。
 三尺高い木の上から、ぶら−りぶら下がって、目ん玉むく。
「ひええあいつ、ほんものじゃねえか。」
 といって客がざわめく。
 のっぺり面が、妙に生々しくって、ぬうっと突き出た足の、ばかでっかいのがいい。
 芝居より、その首つりを見ようとて、人が押しかけた。
 六兵衛は得意満面。
 縞の袖をなのめにして、きせるはこうと、草履の揃え方は、まっすぐの方がいいか、
「おれも役者のはしっくれ。」
 というにはみんな、たかがちょんの間とはいわぬようにした。
 飯どきに、飲めない酒をちびいと飲んで、
「こういったぐあいに。」
 目をむいて、べろうり舌を出す。そいつは、やり過ぎだとも、いわぬようにした。
 そのうち、
「首くくって死ぬるのが、人間本望ともうすもの。」
 といいだして、はあてみんなそっぽ向く。
 それがあるとき、どういうわけか、とつぜん仕掛けのかぎが外れて、縄がしまる。
 満座の客が息を飲んで見つめる間、六兵衛はほんとうに行ってしまった。
 幕になって、
「どうした、もういいから下りてこい。」
 といったが、ぶら下がったまんま。
 役人がやって来て、大騒ぎになった。
「首吊り六兵衛、本望を遂げ申し候。」
 と、小屋の前に札を立てて、出しものはそれっきりになった。
 そうしたら、その六兵衛の幽霊が出た。
 そんなはずはないがといって、座長が待ちもうけたら、ほんとうに出る。
「どうした、本望ではなかったか。」
と聞くと、
「おら一度でいいから、大見得切ってみたかった。」
 と、幽霊がいった。
「ようしやってみろ、みんなで見ていようから。」
 といってみんなして待つと、両手をだらんとぶら下げて、
「うらめしや、本望でござる。」
 といった。
「やっぱり一句多いか。」
 とは、云わぬようにした。  

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とんとむかし

  お地蔵さまのかさ

 とんとむかしがあったとさ。
 とうよの村に、みよという女の子がいた。父も母もなくなって、そうしたら家もなくなって、一人歩いて行った。
「浮き世のことは、なんにもしてやれぬ。」
 お地蔵さまがいった。
「団子を食べて、わしのかさを持って行け。」
「はい。」
 みよはおそなえの団子を食べ、かさをかむって歩いて行った。
 とつぜん男が、そのかさをとってかぶり、みよの手を引いて行く。
 人が走って来た。
「男をみなかったか、どろぼうだ。」
 みよを引いて男は、お宮の森へ入った。
「みなし子か。」
「ちがう、お地蔵さまのかさといっしょ。」
 男はかさを返した。
「今日のねぐらだ。」
 といってこもを出す。男は別のこもをしいて寝た。
 みよは男と二人、物貰いした。
「二人の方が入る、おれは六つのとき、そうさおまえの年ごろさ、ぜにを盗ったといって村を追われ、それからこうしている。」
 男はいった。すきを見て盗人になる。
「人さまのものをとったらだめ。」
 みよがいうと、
「がきが。」 
 といってなぐり、その頭をなでて、
「この世には、おまえとおれの二人っきりだ。」
 といって、腹いっぱい食わせ、おんぼろを着せたりした。
「ふとんがあって、おいしいものがあって、いいにおいがして極楽さ、そういうところへ行こうな。」
 男は云って盗んだ。そうしてつかまった。
 死ぬほどうたれ、
「止めて、あたしをぶって。」
 とりすがるみよは、ほうり出され。
「水をくれ。」
 男はいった。
 ふきのはっぱの水を飲んで、
「きれいな花が咲く、もう盗まなくっていい。」
 といって死んだ。
 一日かけて男をほうむった。
 疲れて寝入ったら、水はしぶきして、夏のまっさかりを、八つの子になって男は笑う。みよはそんな夢を見た。
 おじそうさまのかさを置いて、物貰いした。
 男がひとっところにいるなと云った。みよは旅して行った。
 破れ寺があった。
 そこらへ寝ていたら、夜中明かりがともって、人がよったくって、ばくちを打つ。
 見てみたら、
「ほう、女の子のおこもさんか、こっちへ来い。」
 といった。
「縁起がいい。」
 男は大勝ちして、みよをつれて行く。
「よしよし食わせてやろう、風呂にも入れてやろう。」
 風呂に入り、おいしい食べものにあったかいふとん、極楽のような暮らしを、
「なによこのおんぼろがさ。」
 汚い子をと、女の声がして、三日たったらほうり出された。
 みじめだった。
 みよはまた物貰いして歩いて行った。
 雨が降る。寒さにふるえて、橋の下に寝たり、空家があったり、草むらに宿った。
 お地蔵さまのかさが飛んで、追いかけて行くと、大きな木のうろがあった。一冬をそこで過ごした。
 物貰いが何人かふれて来た。
 こわくってなるたけさけた。
 お葬式があった。
 りっぱなお屋敷だった。せがきのお棚があって、食べものを山盛りにする。貧しい子や、目の見えないのや、物貰いがよったくる。
 みよも手を出した。
 その手を引く、
「いなくなったあたしの、おとよがいた。」
「とよでない、みよです。」
「さあこっちおいで。」
 力のつよい女だった。でっぷり太って、れっきとした物貰いで、仲間のもとへ行く。
 大人も子供もいたし、年寄りもいたし、病気や、手足のないのや、ぴんぴんしてるのやいた。
 年寄りの前へ、みよをすえる。
「あたしのおとよがいた、また親子連れします。」
 女はいった。
「売ったんではなかったか。」
「こうしてここに。」
 手押し車があって、女がそこへ乗り、みよが押して歩く、女はたいそう重かった。
「哀れな足なえに、おっちの子。」
 声を張り上げた。
「ああああなんの因果か、おっちに生まれ、いざりいざっておろかな母の、これは重たい、手押し車のお貰い歩き、廻る因果のはてもなく、風はぴゅうっと、雨はざんざあ針の山、破れほうけの、苦しや悲しや云う甲斐もなや、地獄の沙汰はこの世でござい。」
 実入りはずいぶんあった。女が食べてしまう、食べて食べていよいよ重く、
「きれいな赤いべべ着て、ちやほやされて贅沢して、今にそういう極楽稼業させてやるから。」
 女はいった。
「でもあとつらいから。」
 みよがいうとへんな目で見る。
 女は病気になった。あっちこっち痛くって、太った体をえびのように折り曲げて、一晩中ほえ狂う。
 だれもよっつかぬ。
「車ごとつき落としておくれ、死にたい。」
 といった。
 みよは手押し車に押して、貰い歩く。痛い死ぬといって女は転げ落ち、車だけこわれた。
「駄目だ、目も見えぬ、あたしは三人のおとよを食いつぶした、ばちがあたった、たたらないでおくれ、助けておくれ。」
 泣きわめいて貰い歩いた。
 そうして、崖から落ちて死んだ。
 助けられなかった。手をとると、
「痛くなくなった、ありがと。」
 といって涙を流す。
 その夜、おひなさまのように、赤いべべ着て、にっこり笑う、それは五つの、女の夢を見た。
 仲間を抜けて、みよはまた歩いて行った。
 おじぞうさまのかさは破れて、半年が過ぎ、でもやっぱりおじぞうさまのかさといって、歩いて行った。
 日が暮れた。
 向こうに明かりが見える。雨が降っていた。
「あたらせて。」
 みよが火明かりに立つと、
「うわあ出た。」
 といった。
「なんだおこもさんか、こんな夜中にどうした、うれし野の亡霊かと思った。」
 鬼のような男どもだった。
 おいはぎであった。
 みよは見張り役にされた。
「あっちの角へつったって、だれか来たら知らせろ、一人なら一つ二人なら二つ、ぽっぽうと鳴け。」
 うれし野っぱらの土鳩。
「平等に分け合うから、うれし野ってんだ。」
 みよは角に立った。
 商人が来た。
「ぽぽう、あたしはぼうれい。」
 みよはいった、
「向こうへ行くとよくないことがあります。」
「わたしは急いでるんだ、のけ。」
 ぜにを投げて商人は行く。そうして身ぐるみ剥がれた
 何度かしては、ところを替える。
 みよが云って、引き返す人もいた。
 刀をさしたおさむらいが来た。
「ででっぽう、あたしはぼうれい。」
「行くとよくないことがあるか。」
「そうです。」
 おさむらいは先へ行く。
 ピーと呼子が鳴った。
 捕り方が湧いて出た。
 鬼どもは斬られたり、つかまったりした。
 こわくって隠れていると、手を引く。
 鬼の一人だった。
「いつかこうなるさ。」
 こわい顔が云った。
「別のを考えよう。」
 鬼は町へ行って、下駄と着物を買って、みよに着せて、その手を引いて歩いて行く。
 塀をめぐらせたお屋敷があった。
「ここがよかろう。」
 鬼はいった。
「いいか思いっきり、泣きわめけ。」
 みよを塀の中へほうりこんだ。
 松の木やぼたんの花のある、広いお庭だった。
 犬がいた。
 おそろしい大きな犬だった。
 よって来て着物を咬みっさく。なんにもできずいると、とつぜんおーんと、悲しげに泣き出した。
「どうした。」
 といって、わしのような目をした、大年寄りが立った。
 犬をひきはがして、けがはなかったかと聞く。
「塀が破れていたか、おいで。」
 といって、その手に大きな柿をのせた。
「お食べ。」
「わるいことがおこります。」
 みよがいうと、騒ぎが起こった。
「おれの子をどうしたんだ、ええ、おーいおみよ、父ちゃんが来たぞ、もうだいじょぶださあ出せ。」
 わめき声、
「鬼の兵六という、ちっとは知られたお兄いさんよ、挨拶してもらおうか。」
 わしのような大年寄りが行く。
「おまえさん、場所を間違えたな。」
 兵六はあたりを見回した。 
「なごの山の大家と知ってか。」
 みよは道を歩いていた。
 あたしがいなければといって逃げ出した。
 大きな柿はおいしかった、かじっていると、「おーい。」
 と呼んで、さっきのおそろしい犬と若者が来る。
「じいが待っている、来い。」
 犬がすりよる。
「人を寄せつけぬこやつがな。」
 若者がいった。
 なごの山の大家は、松杉ひのき八里八方人の地は踏まずといった、殿さま御用の大旦那であった。
 みよはそこの子どもになった。
「物貰いしても心を失わぬ、見習え。」
 と、家の子どもに、じいがいった。
 おじぞうさまのかさのおかげだった。
 みよは、美しい花嫁衣装を着て笑まう夢をみた。
 そうしてそのとおりになった。

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とんとむかし

  三姫将軍

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、どっこ村に、力自慢のからろくべえ、韋駄天いっとうだと、刀使いのしんげんさいが住んでいた。
「三人よればこわいものはない、では武者修行の旅に出よう。」
 といって、三人は旅に出た。
 たんだ村に、まっくらがりのお化けが出た。
 人をうらっかえしにする。強いものは弱くなり、男は女に、女は男に、年寄りは若く、死にそうなのは赤ん坊になった。
「からろくべえはからっきし力なしに。」
「いっとうだは足なえ。」
「しんげんさいははしも持てぬ、どうしたらいいだろう。」
 たんだ村神社にお祈りすると、井戸の水を汲めという。汲んで飲むと、からっきしからろくべえ、足なえいっとうだ、しんげんさいは、刀もとれなくなった。
 そうして夜を待った。
「まっくらがりは最強。」
「そんなことはない、どっこ村の三人。」
 まっくらがりがふれる。力自慢のからろくべえがほうり投げ、韋駄天いっとうだがひっつかまえ、抜く手も見せず、しんげんさいが切りつけた。
 夜が明けるとなんにもない。
「どうしたこった。」
 という三人は、女だった。
「恥ずかしい。」
「オホ。」
「もう村へは帰れない。」
 どうしよう。
 白い犬が先へ行く。
 りっぱな門がまえの家があった。
「しろが帰った。」
「一月もどこへ行っていた。」
 といって、人が出る。
 犬がとびつく。
「はあておまえさんたち。」
 三人を見て云った。
「ひげが生えたり、いかつい手して、えらい足してまあ、うちの弁天さまにお参りしな、きっと美人になれる。」
 どっこ村の急に三人女は、でもってお参りした。
 ぴっかり、清うげな弁天さま。
「はあや、お美しい。」
 ため息したら、三人とも男に戻った。
 力自慢のからろくべえに、韋駄天いっとうだ、刀使いのしんげんさい。
 弁天さまが口を聞く、
「わが生国エチオピーアに使いに出した犬が、帰りを迷って、まっくらがりのお化けになった、もとへもどしてくれて礼を云う。」
 といった。
「助かった。」
 三人は天にも上る心地。有頂天で歩いて行くと、高札が立つ。
「いや城の姫さまが、おおかみどもにさらわれた、つれ戻したら褒美をやる。」
 とあった。
「姫さまとな。」
「きっと大枚のごほうび。」
「いやさ人助け。」
 三人はおおかみどもの、とりでへ向かった。
 つうるりなめとこ川の崖の上に、おおかみのとりでがあった。
 韋駄天のいっとうだもどうかと、お礼じゃと、白い犬が、わらじを担って来た。
 わらじをはいて、なめとこ川を踏む。
「力自慢のからろくべえ。」
「韋駄天いっとうだ。」
「刀使いのしんげんさい、姫を返せ。」
 といったら、弓矢の嵐。
 こりゃだめだ。
「引き返そう。」
 引き返して、出るに出られぬ、やわたの森。
 霧の湧く池に、小屋があった。
 戸をたたくと、
「食われたいか、おおかみならば、今日の薬はないが。」
 という。
「食われたくないし、おおかみでもない。」
「なんでもするで、泊めてくれ。」
「道に迷った。」
 というと、
「どんがめに水汲んだら、泊めてやろう。」
 と、丈の白髪さらして、山姥が出た。
 三人はどんがめに水を汲んだ。
 半日汲んで、いっぱいにならぬ。ようやくみたして、
「腹がへった。」
 というと、山姥は大笑い。
 やまいもとどんぐりと食わせて、
「しておまえらはどこへ行く。」
 と聞いた。
「いやの姫さまを助けに、おおかみのとりでへ行く。」
「ではこれを呑め。」
 といって、まんまるになったひーる出す。呑んだら三人げんごろうになった。
「どんがめを行け、とりでの井戸へ抜ける。」
 山姥がいった。
「水を出りゃもとへもどる。」
「そいつはありがたい。」
 三疋げんごろうは、どんがめへ跳び込んだ。おおかみの井戸へ抜けて、
「力自慢のからろくべえ。」
「韋駄天いっとうだ。」
「刀使いのしんげんさい。」
 飛び出して、取っては投げ、足蹴にし、切り伏せて、おおかみどもをやっつけた。
「どこから来た。」
 おおかみの頭がいった。
「姫さまを出せ。」
 といったら、世にも美しい姫さまが出た。
「たわいないおおかみどもじゃ、面白うなると思ったのに。」
 という。
「そこな三人なにものじゃ。」
「はっ、力自慢のからろくべえ。」
「韋駄天いっとうだ。」
「刀使いのしんげんさい、どっこ村の三人、姫さまを助けに来ました。」
「ふうん。」
 と姫さま、
「三人なにをする。」
「武者修行の旅です。」
「武者修行とな、ではわたしも連れて行け。」
「めっそうもない。」
 おおかみを縛りあげ、姫さまをいや城へともなった。
 おおかみどもを差し渡し、
「三人で一両とはな。」
「人助けだ。」
「いっぱい飲めりゃいい。」
 でもって、酒屋で飲んでいると、おおかみの頭が、姫さまを引いて来た。
「斬らんでくれ、わたしを盗み出して、おまえさま方へ行けと、姫さまが云った。」
「盗みは得意であろうが。」
 と姫さま。
「あのそのう、わしらは。」
 と、三人、
「武者修行の旅へ行く。」
 姫さまは云った。
「このものはかわいいやつだ、いっしょにつれて行け。」
 頭をさして云う。
「そんなあの。」
「誘拐犯は打ち首じゃ。」
 仕方なし、力自慢のからろくべえと、韋駄天いっとうだと、刀使いのしんげんさい、どっこ村の三人は、姫さまと、おおかみの頭と五人になって、旅を続けた。
 どんげん峠に、おそろしい蛇が出て、人を食うという。
 大蛇は、ふたら山の七つ池に、七つの首を突っ込んで、満月の夜には、水を飲むという。
「ねらいめじゃ。」
「頭は姫さまを守れ。」
「大蛇など、どっこ村の三人で十分。」
 満月であった。
 とつぜん雷鳴って、ふたら山が二つになって、おそろしい大蛇が、七つのかま首を、七つ池に突っ込んだ。
 どうごげえご水を飲む。
「力自慢のからろくべえ。」
「韋駄天いっとうだ。」
「刀使いのしんげんさい。」
 うってかかったのを、大蛇はしっぽの一振りで、三人とも大空へ跳ね上げた。
 切りつけても、うってかかっても、
「だめだ、てんで歯が立たん。」
「ううむなんとしよう。」
 ほうほう逃げて、
「やわたの山姥の薬だ、いっとうだ使いに行ってくれ。」
 といって、韋駄天いっとうだが走った。
 はあて、引き返して云うには、
「姫さまをくれるなら、薬をこさえようといった。」
「なんとな。」
「ばあさまも年だし、あとつぎ。」
「そりゃおまえ。」
「ふむ、ではわたしをおぶって、山姥のもとへ行っておくれ。」
 姫さまがいった。
 韋駄天いっとうだにおぶさって、野山を風のよう、
「ほっほ、山姥の跡つぎより、おまえの嫁になろうか。」
「それは。」
 といって、池の小屋へ来た。
「人々が難渋しています、薬を作っておくれ。」
 姫さまがいうと、さしも山姥が、
「かしこまった。」
 といって、強い眠り薬を作った。
 満月の夜、ふたら山の七つ池に、眠り薬を入れて待った。どんがらぴっしゃ、やって来た大蛇は、首突っ込んでたらふく飲むと、どーんと眠り込んだ。
「力自慢のからろくべえ。」
「韋駄天いっとうだ。」
「刀使いのしんげんさい。」
「おおかみの頭。」
 うってかかったが、大蛇は強い、のたうちまわって、おおかみの頭を飲み込んだ。
 月光に姫さまが立った。
「さあわたしをお食べ、そうして二度と里へは出るな。」
 大蛇は姫さまをおし包む、そうして行ってしまった。
 頭は吐き出され、三人があとを追うと、立派な若者が立った。
 姫さまをともなう。
「わしは源氏の大将であった、ふたら山権現に弓引いて大蛇になった。何百年ついに人を食らうまでにいたる。姫のいさおし、おまえらが志によって、今は人心を取り戻し、かつてに返ることができた。」
 という。
「この上は姫と祝言をかわし、いや城のあとを継ごうと思う、つわもの三人と、おおかみの頭、来てわしを助けてくれ。」
「さよう。」
 と姫さま。
「ありがたいが。」
「わしらは。」
「武者修行の旅をおえましたら。」
 三人はいった。
「わしもそうしよう。」
 おおかみの頭が云ったら、山姥が来て、
「姫さまはめでたいこっちゃ、おまえは跡継ぎだ。」
 と、頭に云った。
「そいつはこらえてくれえ。」
「たんとしごいてやる。」
 姫さまと源氏の大将はいや城へ、山姥はおおかみの頭を引っ立てる、どっこ村の三人は旅を続けた。
 行人塚という所に、焚火をして眠ったら、夢を見た。
 力自慢のからろくべえは、赤ん坊が泣いていた、おぶって行くと、
「どんどんじげむ、どんどんじげむ。」
 といって、急に重くなる。
 山のように重い、
「あっはっは降参だ、はなれてくれ。」
 といったら、ふうっと消えた。
「力自慢が降参か。」
 と聞こえ、
「うん、まいった。」
「まあさ、たいしたもんだ、では倍の力をやろう。」
 と云った。
 韋駄天いっとうだは、日が暮れて、燃し火が見えた。
 行ってみると商人がいた。
「塩をお持ちか。」
 と聞く、
「残念ながら。」
 そうかといってよもやまの話をする、変に眠くなる。
 ちょっと用足しだといって外す。
 とうろり眠くなった。
 商人は大なめくじになって食らいつく。
 いっとうだは塩を撒いた。
「どうしてだ、嘘をついたか。」
「いや用足しのふりして、買うて来た。」
「くう、なんてえ足だ。」
 大なめくじはとけて死んだ。
 刀使いのしんげんさいは、薪割り百兵衛という人に会った。
「かんの虫やしゃくのたね、増長満をひしぐ。」
 といって、人を立たせて、大まさかりをうち下ろす、間一髪に止めた。
「たいていの病が治る。」
 薪割り百兵衛はいった。
「病はないがやってくれ。」
 しんげんさいが立った。
 ぴたりと止めるのを一寸深く、しんげんさいは一寸かがむ。
「わざとやってみたが。」
 百兵衛はいった、
「わしのかなう相手ではない、弟子にしてくれ。」
「いやたいしたものじゃ。」
 二人は手をとりあって別れた。
 目が覚めた。
「ひょっとして。」
「うん、どうもな。」
「夢の方が武者修行じゃ。あっはっは。」
 三人は云って、旅は続いた。
 のっぺり田んぼに、へのへのもへじのかかし立って、それが軍隊をこさえて、攻め寄せるという。
 こっち村も、あっち村もおそわれ、
「おそろしいこっちゃ。」
 生き残った村人が、ふるえていう、
「切っても死なん、うっても死なん。」
「ひやーはあ。」
 狂った女が笑う。
 力自慢のからろくべえ、韋駄天いっとうだ、刀使いのしんげんさい、どっこ村の三人は、のっぺり田んぼへ向かった。
 へのへのもへじのかかしが立つ。
「ただのかかし。」
「どこが軍隊だ。」
「口をきいてみろ。」
 しんげんさいがつっついたら、ふうっと風が吹いた。
 まわりは何百という軍隊だった、弓矢に、刀や槍をとって、いっせいに襲いかかる。
 三人は死に物狂いに戦った。
 韋駄天いっとうだが、どうにか血路を開いて、三人は逃げ出した。
「こりゃかなわん。」
「切っても死なん、うっても死なん。」
「源氏の大将に加勢を頼もう。」
 源氏の大将は姫さまと、新婚旅行中。
「しかたがない。」
 三人は思案投げ首。
 火をつけたって、その前に軍勢だ、嵐を待とうたって、どうなるか、
「かかしではない、かかし使いだ。」
 三人はいって、かかし使いを捜した。
 井戸の底に、げーろびという、蛙そっくりの男が住んでいた。
「わしがかかし使いだって。」
 げーろびはいった。
「だったらどうする。」
「どうもせん、無益な殺生は止めてくれ。」
「きれいな嫁さま来たら、考えよう。」
 といった。
 三人は、げーろびの相手を捜した。
 だれもうんと云わなかった。
 とうや村一番の、美しい娘が、
「人々が苦しまずにすむなら、あたしが行きましょう。」
 といった。
 三人は、ため息をついた。
 美しい娘は、井戸の底へ声をかけた。
「お嫁に行きます、でもそんなところに住むのはいやです、井戸から出て下さい。」
「おうほきれいな。」
 かかし使いのげーろびは、井戸の底をはい出した。
 でも三日たったら、祝言という日に、ひっからびて死んだ。
 美しい娘は、村へ帰って行く。
「嫁にほしかったなあ。」
「わしは、姫さまがその。」
「なにをとぼけておる、武者修行の旅じゃ。」
 といって、三人は歩いて行った。
 のへじっぱらの浜に大波がたって、しいらん魚が口をあけた。
「力自慢のしんげんさい。」
「韋駄天いっとうだ。」
「刀使いのしんげんさい。」
 名乗る先から、ふういと飲み込まれ。
 三日して吐き出され、
「なんでも食うしいらん魚じゃ、失礼の段は許せ、龍王の館へようこそ。」
 と聞こえ、虹の七色の冠に、青鱗の衣をつけた、龍王が立った。
 大空の高さの天井に、金銀珊瑚おうむ貝の宮殿、いかめしいよろいかぶとの家来と、美しい女官と。
「力自慢のからろくべえ、韋駄天いっとうだ、刀使いのしんげんさい、その名は早に聞いておる、余の三人の娘をめとって、三将軍になってくれ。」
 龍王はいった。
 一の姫をめとって、からろくべえは稲妻将軍に、二の姫をめとって、いっとうだは疾風将軍に、三の姫をめとって、しんげんさいは怒濤将軍になった。
 南海大王が一千の船に大軍を率いて、攻め寄せた。
 稲妻将軍は黄旗、疾風将軍は紅旗、怒濤将軍は青旗をおしたてて、黄紅青に三つ巴になって迎え撃った。
 南海大王のまっ黒い津波を、黄紅青の渦潮がとらえ込む。
 百万の軍勢が十万になって、丘へ逃げ上がった。
 十万を追いつめる。
 戦はおしまいかと思ったら、盛り返す。
 一進一退を繰り返していると、使者が来た。
「龍王がなんで国を攻める、早々に引き揚げよ、いやの源氏。」
 とあった。
 姫さまの婿どの。
「われらは南海大王の軍を追って来た、戦を止めたいのはこっちだ。三将軍こと、からろくべい、いっとうだ、しんげんさい。」
 と返事して、戦は終わった。
 のへじ野っぱらに会談。
「なつかしい話はあとだ、始末をつけにゃならん。」
 源氏の大将がいった。
「南海大王の生き残りだ。」
「のへじっぱらには人住まぬ、ここを与えたらどうか。」
 そうしようといった。
 のへじ野っぱらに村ができた。
「一人だけ山姥の弟子にしてくれ。」
「おおかみの頭が音を上げている。」
「あっはっは。」
 千人の賄い頭、ぴいとろという女が申し出た。
「だんなも死んだしさ、山姥っていうのも面白そう。」
 という、ぴいとろは後をついで、八00年生きた。
「たすかった。」
 おおかみの頭は、いやの源氏の家来になった。
 龍王の軍は引き上げた。どっこ村の三将軍が続こうとすると、波が閉ざす。
 三人は、力自慢のからろくべえ、韋駄天いっとうだ、刀使いのしんげんさいになって、旅を続けた。
「一の姫が美しかった。」
「いいや二の姫じゃ。」
「そりゃ三の姫。」
 といって行くと、のへじ野っらに、ふうっと風が吹いて、思い出の三つの花が咲いた。

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とんとむかし

 あかえい

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、にいはま村に、よっこという漁師があった。
 あるとき、嵐に舟はくつがえって、よっこは、見知らぬ島にただよいついた。
 島には美しい娘がいた。
 娘は泳ぎが達者で、おいしい魚や貝をとって来て、よっこに食べさせ、
「日にくうらり、
 ねりや衣、
 どんざん波の、
 潮鳴りわたる。」
 と、清うげに歌った。
 同じように美しい妹と、けわしい目をした兄が来て、
「月にくうらり、
 ねりや衣、
 どんざん波の、
 潮満ちわたる。」
 と歌って、くじらのまっ白い骨と、こんぶと赤いさんごとで、家を建てた。
 二人はそこへ住んだ。
 楽しい日であった。
 よっこが思い出して、
「村へ帰りたい。」
 というと、
「赤いさんごが、白くなったら。」
 と、美しい妻は云った。
 赤いさんごは白くならず、妻はみごもった。 産み月が来ても、泳いでいる。
「どうして止めぬ。」
 と聞けば、
「だって泳ぎたい。」
 と云って、子供は流れてしまった。
 よっこは村へ帰ろうと思った。
 浜のものを拾って、火を燃す。
 煙が立つと、妻が消やす、
「あかえいが来る。」
 と云った。
「あかえいってなんだ。」 
「恐ろしいもの。」
 妻はみぶるいした。
 次の子も流れた。
 よっこは火を燃やした。
 煙が行くと、赤いさんごが白くかわる。
 よっこは妻を呼んだ。
 妻もけわしい目をした兄も、美しい妹もいなかった。
 沖へ舟が来た。
 ふかひれを取る舟だった。
 赤い布を巻いた男たちが、おたけび上げてもりを打つ。 
 海はふかの血に、まっ赤に染まる。
 よっこは舟に拾われた。
 その夜、妻の声を聞いた。
「兄も妹も死んだ、あたしもー。」
 二人の子は逃がしたという。
 どんざん波に、月はくうらり。

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とんとむかし

  ぴったらとだったひら

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、ひいらの山に、牛飼いのぴったらと、鷹匠のだったひらの、二人が住んだ。
 世の中では云った。
「こわいものはなーんだ、
 目のないトンボと、
 食うばっかりの大女と、
 かんかんひでり。」
 ぴったらが笛を吹くと、目のないトンボも水を知る。食うばっかりの女は夢を見た。
 またこうも云った。
「困ったものはなーんだ、
 しっぽが二つの犬と、
 うしろ向きに歩く男と、
 つむじ風。」
 だったひらがナイフを投げると、しっぽは一つに、男は前を向いて歩く。
 二人は旅に出た。
 牛飼いのぴったらは、海が見たいといって南へ、鷹匠のだったひらは、雪が見たいといって北へ。
 牛が草を食ったら昼寝して、くたびれたらその背に乗って、風が止んだら、笛を吹いて、ぴったらは旅して行った。
 わらを山のように積んだ車引きが、牛をかしてくれといった。
「家へついたら、かあちゃんのとっときのシチューを、ご馳走しよう。」
 いいよといって、ぴったらは牛をかした。
 山のようなわらを牛に引かせて、車引きと行くと、赤いシャッポの子どもが三人、乗せてくれといった。
 いいよといったら、赤いシャッポの三人は、大はしゃぎでわらの山にとっついて、歌って行った。
「てっぺん山を雨ざんざ、
 川のむこうは大風、
 川のこっちはどろんこで、
 橋はぽっかり虹が立つ。」
 あっちを回りこっちを回り、河があった。
「あと一人だよう。」
 渡し守りがいった。
「おれんとこは河向こうだ、そうさ橋があったんだがな、牛飼いには、かあちゃんのとっておきのシチューさ、子供は三人赤いシャッポだし。」
 車引きがいうと、
「まいいか、わら束なら沈まんだろ。」 
 といって、大人二人子供三人、牛と山のようなわらの車を、いっぺんに乗せた。
 渡し守りは棹さす。
 舟には大商人と、中くらい商人と、そうでないのと、腹のへったさむらいと、ひげのさむらいと、赤ん坊をおぶった母親と、たいそうきれいな女と、すきやかまを持った二、三人といた。
 川は水かさを増す。
「云うことを聞かん、乗せすぎた。」
 渡し守りがいった。
 舟は流される。
「金は出す、積みすぎの牛とわらの車と、そいつに乗ったのを下ろせ。」
 大商人がいった。
「あんたのお腹を下ろしたらどう。」
 たいそうきれいな女がいった。
「いっとき百両の損。」
「わしは借金を返さずにすむ。」
 中くらいの商人が云った。
 わーっと赤ん坊が泣いた。
「どっちみち動けん。」
 腹のへった侍がいった。
「河童に身ぐるみはがれる。」
 すきやかまをの三人がいった。
「河童ってなんだ。」
「河の海賊だ、身の代金払えないのは頭の皮はぐ。」
「たいへんだ逃げられん。」
「うむ。」
「どうってことはない、皮ぺら一枚。」
 ひげのさむらい。
「そんなこと云わないで、おさむらいさん。」
 きれいな女がいった。
「武器になりそうなものを集めて下さい。」
「おおそうだ。」
 すきやかまや槍や、用なしになった舟の棹から何から、そこへ集めた、
「おさむらいさんの刀二本。」
 刀を抜き取って、女がいった。
「大商人はたんまり身の代金、中くらいのもそれなり。身ぐるみはいで舟のこぎ手が、えーとひげとやせ、頭の皮三枚に女と、牛はステーキにしよう、三人の子供はトランプの相手、もう一人いたっけか、あたしは河童の頭領の、美しいひいえるさ。」
 河童の舟が十三そう、どっと弓をつがえて舟を取り囲む。
「今日は牛の丸焼きさ。」
 おうといって、縄付きとんびをかけて、河童のとりでへ曳いて行く。
 どさくさあって降参、わらの山に寝ていたぴったらを、三人の子供がゆり起こす。
「身の代金に
 頭の皮だ、
 トランプの相手に、
 牛のステーキ。」
 ぴったらは起き上がった。
 河童のとりでだった。
 美しいひいえるさと河童どもは、戦利品と酒盛り。
 わらの山に火をつけて、さあ牛の丸焼き。
 ぴったらが笛を吹いた。
 牛はもうっと向きをかえ。
 火がついて、わらの山ごと走り出す。
「河童舟のせんを抜け。」
 ぴったらは、渡し守りに云った。
「ようし任せとけ。」
 渡し守りはすっ飛ぶ。
 車引きがいた。
「かあちゃんのうんまいシチューを食いたかったら、物見へ上って、鐘をがんがん叩け。」
「ようし。」
 車引きは、登ってひっぱたく。
「おう。」
 と、河童ども、
「そうれ獲物だ、でっかいぞ。」
 弓矢をとって、舟に乗り込む。
 そいつが沈没。
 引っ返したら、とりでは大火事。
 朝になった。
 おしまいだ、客も渡し守りも車引きも、みんな帰って、美しいひいえるさと、河童の一00人が残った。
「舟もとりでもなくなった、ぴったら大将について行く。」
「美しいあたしはお嫁さん。」
 河童の一00人と、美しいひいえるさは、牛とぴったらのあとについて、歩き出す。
「牛を食われんように、こいつら略奪せんように。」
 といって行くと、森におおわれた、かんのーきの町があった。
 三人の子どもが歌った。
「美しいかんのーき、
 泉にあふれ、花に咲き、
 女ばっかり多くって、
 それになんだか、いやーなにおい。」
 町長が、白い旗をかかげて出た。
「云うことは聞こう、どうか攻めんでくれ。」
「河童の一00人とわしらに、飯を食わせてくれ。」
 ぴったらがいうと、うどのスープとにらのカレー百四人分、たいへんにうまかったけれどにおう。
「十日は食わせてやれるが、そのあとはどうも。」
 と、町長がいった。
「十日でかんのーきに下水を作ろう。」
 ぴったらはいって、一00人の河童と、縦に横にみぞを掘って、石を荷なった。
「えんさあ。」
「ほー。」
 女ばっかり出て、手伝った。
 十日たったら、立派な下水ができた。
 いやなにおいは消えて、河童の一00人は、一00人の女と結婚。
「美しいかんのーき、
 泉にあふれ花が咲き、
 一00の新婚。
 子供は何百。」
 三人の子供と、美しいひいえるさと、牛とぴったらと旅を続けた。
 淋しいふーたら山に、古いあーたらのお城が建っていた。
 霧にすっぽり。
 三人の子供が歌った。
「あーたら城の、
 立派な王様は、
 ふーたらのお化けに食われて、
 三人博士も赤とんぼ。」
 まっ白い翁が現れて、謎をかけた。
「二本足、双子はあべこべ、追っても追いつかぬものはなーんだ。」
「それは虹だ。」
 ぴったらがいうと、ふーたらの霧が伸びて、翁をぺろーり食って、云った。
「朝は長く、昼は短く、夕は長いもの。」
「ないものにおびえる、それは影だ。」
 答えて、牛飼いは云う、
「ではこっちからだ、知りえないのに、知ろうとするものはなんだ。」
「それは心だ。」
 と、聞こえた。
 ふーたらの霧は晴れ、あーたらのお城が、黄金の門を開く。
「ばんざい。」
 人々が叫んだ。
「ふーたらの千年の謎を解いた、牛飼いのぴったらは王様。」
「われらの王。」
 ぴったらと牛は、あーたらのお城に入り、美しいひいえるさはお后になった。
 赤いシャッポの子供は、三博士になった。
 めでたし。
 鷹を腕にして、だったひらは歩いて行った。
 行く手に巨人が立った
「ここを通るなら、おれを倒してからにしろ。」
 という。
 だったひらの鷹が、巨人の耳をつん裂いた。
「次は目だ、そこをのけ。」
「いやのおーろだ。」
 巨人は云った。
「そうさ、おれを倒す勇者を待っていた。」
 といって、あとに従う。
 山のやしんのに、六人のつわものどもが待ちかまえ、
「山のやしんの槍のいっこう。」
「刀のにこう。」
「弓のさんこう。」
「旗のしこう。」
「太鼓のごこう。」
「縄のろっこうだ、ここを通るならわしらを倒して行け。」
 任せてくれといって、巨人のおーろが戦った。
 六人は巧みに動いて、けりがつかぬ。
 だったひらの鷹が、采配をとる、しこうの旗をつんざいた。
 六人は乱れて降参。
「山のやしんの六人、国は荒れている、わしらを倒す者を待っていた。」
 といった。六人はあとに従った。
 一行はのべんこーやの王さま、ぴらとーの客になった。
「ぴらとーだ、みなで力を合わせて、立派に国を治めよう。」
 といった。
 美しい奥方とーらぴが出て、たっぷりもてなすご馳走の酒に、しびれ薬が入っていた。
 酒を飲まぬだったひらは、先に寝た。
 巨人おーろも山のやしんの六人も、気がついたら牢屋にいた。
「ひーらきんきろの羽根を拾って来い、でないとみんな死刑だ。」
 ぴらとーが、だったひらにいった。
「すまん、なんせ奥がそういうもんでな。」
 ひーらきんきろの黄金の羽根にふれると、ぴっかり若返る。
 ひーらきんきろの鳥が睨むと、石になる。
 うーたらの百年めしいのばあさんに、水を汲んでやると、こう教えた。
「あしたは満月、うーたらの湖が凍る、ひーらきんきろの鳥はやって来て、舞いを舞う、虹の七色の影をうつす、そこ狙え。」
 かげに隠れて満月の夜、だったひらは鷹を飛ばせた。
 鷹がつんざいた、ひーらり尾羽根。
 ひーらきんきろの羽根。
 あしたの日に拾って、持ち帰ると、
「わたしは永遠の若さ。」
 美しい奥方のとーらぴはいった、
 ひーひらきんきろの羽根に扇ぐ。
「用なしはいっしょに死刑にしておしまい。」
 巨人と山のやしんの六人は死刑台、そうして夫のぴらとーも、だったひらも。
 だったひらのナイフが飛んで、巨人おーろの縄を切った。
 巨人は山のやしんの六人を助け、して兵隊をかたっぱしから、投げ飛ばして、いっときのまに、お城を占領した。
 美しい奥方は、ひーひらきんきろの羽根に、あおり過ぎて、赤ん坊になって、
「あーん。」
 と泣いていた。
「ばんざい。」
 人々は叫んだ。
「よこしま王の世は終わった。」
「ひーひらきんきろの羽根は、大将軍のしるし。」
 だったひらは、巨人おーろと山のやしんの六人を側近の家来にして、大将軍になった。
 めでたし。
「次は南を平定。」
 歓呼の声。
 大将軍は大軍を率いた。
 攻め寄せた。
 七色の光にゆらめいて、一睨みで石になるひーらきんきろの、旗印。
 心配のあまり、美しいひいえるさは、食べに食べた。
 三博士は赤とんぼになる。 
 太ってばっかりの女と、めくらのとんぼ。
 ぴったらは、牛をひいて笛を吹く。
 ひーらきんきろの羽根が、ただの尾羽根になった。
「なんだ、ここはひーらの山ではないか。」
 だったひらが云った。
「王様と大将軍だってさ。」
「ふーん。」
 では旅のやりなおし。
 ぴったらと牛は、海を見に南へ、だったひらと鷹は、雪を見に北へ。
 王冠と、ひーらきんきろの羽根が残って、虹がさすとゆらめく。

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とんとむかし


いそめ

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、日野村に、太郎という子があって、父母流行り病に死んで、遠縁に引き取られて行った。
 食ったり食わずの、そんなもんかと思っていたが、ある日、火箸でひっぱたくのを、よけた拍子につっころばした。
 どんと大人がふんのびる、困って逃げ出した。
 神社があった。
 そこへ寝泊まりした。
 村の子がよったくって、
「かさっかきのかったいもん。」
 といって石を投げる。
 太郎は、木っかぶにこもかぶせて寝たふりして、
「ねこばっち。」
 といってつっつくのを、二人いっぺんにとっつかまえた。
「かったいもんじゃねえ、人食いだ。」
 二人木の又にしばりつけて、
「じゅんぐりに食ってやる。」
 といって、でかけた。
 帰ったら二人いない。
 犬をつれて、村人がやって来た。
 太郎はやり過ごし、あとつけて行って、石で犬の頭をかちわった。
 そいつを食って、皮を鳥居につるして、
「ふん。」
 といって、出て行った。
 山まわりの道に、追剥が出るという。
「待ちな。」
 と聞こえて振り向くと、縄の帯しめて、ぼうぼう頭の怪童が立つ。
「ぜにをよこせ。」
 出せばよし、でないとまきだっぽうでなぐ。腕へしょるか、ふんのびた。
 しくじったことはなかった。
 太郎は、そうやって飯を食った。
 若ざむらいだった。
「待ちな。」
「なんとな。」
 生っちろい面が云う。
「ぜにを出せ。」
「へえ、山犬ってのはおまえか。」
 まきだっぽうがぶんとうなった、手応えがない、ぶんばすっぶんまわす。
 さむらいは目の前につっ立つ。
 太郎は太息ついた。
「来い。」
 生っ白いのが背を向けた、逃げられず、太郎はついて行った。
 どんざん波の洗う磯っぱたに、洞穴があった。
 むしろ一枚しいて、なべや茶碗がある。
「わしはいそめという海の化物だ。」
 若ざむらいは云った。
「人の道を踏み外して、おまえも化物になるよりせんなかろうが。」
 来いといって、ぼうきれを取る。
 太郎はうってかかった。
 ぶちのめされてはうってかかる。情け容赦もなかった。
 食い物はあった。磯のものを取って食えともいった。何日めかに、いそめはやって来て、ぼうきれを取る。
 逃げ出した。
 たんびに連れ戻された。
 三年たった。
 ぼうきれでは負けなくなった。
「たいてい立派な化物になった、次には人に化ける術だ。」
 いそめはいった。
 波の洗う大岩の上に、太郎を立たせ、
「波を刃と思え。」
 と云った。
 なぎの日はうねりよせ、荒れには引き裂かれ、来る日も来る日も岩の上。
 しまい太郎は消えて、波だけになった。
「アッハアお化けが、人ってえのはつまらんことを知るほれ。」
 といって、いそめは文字を書いた紙片をつきだす。
 波のまに、太郎はいっぺんに覚えた。
 人のしきたりさへ空んじ、半年ほっておかれて、どこへ行く気もなく。
 いそめが現れて、ついて来いと云った。
 さむらいの着物を着る。するりと付けて大小を差し、連れだって行くには、立派な門構えの、さむらい屋敷であった。
「せがれが行方知れずになった、たった今帰るところだ、行け。」
 と云った。
 入って行った。
「お帰りなさりませ。」
 郎党が出迎える。
「どこで何をしておったかは問わぬ。帰って来たがなによりじゃ。」
 父なる人はいった。
「たくましゅうおなりになって。」
 母なる人は涙を流す。
 新之助という名前であった。洗水と松のお庭があり、うまやがあり、たれや彼住んで、弟が一人。
 兄弟は抱き合って泣き、新之助は勝手知って、生まれついてのように行く。
 寄せては返す波のように、思いの他の。
 一年が過ぎた。
 見破ったのは、さよという許嫁であった。
 お目見えの年であった。
 二人庭を歩く。
「どんぐりのにおいがしたのに、なぜ。」
 さよは云った。
 太郎は化物であったのを、思い出した。
「さわやかな潮のかおりが。」
 美しい人はいった。
 いそめが来た。
 叔父のの十左衛門であるという、
「新之助はすでに死んでおる、骨を拾って弔うか。」
「新之助さまに生き写し、いえもっとずっとすばらしいお方です。でもそうするのがわたしどもの務めです。」
 許嫁は、涙を流す。
「ありがとう存じました。」
 太郎はさむらい屋敷を出た。
 いそめがいった。
「うむ、化物には化物じゃ、人食い女がいる、行って退治して来い。」
 さがしあてると、犬の皮を鳥居につるした、神社であった。
 妖気はない。天井うらに女がひそむ。
 気配を消すと出て来た。
「食うか。」
 太郎は腕をつきだした。
「食わん。」
 女は泣く。
「なんにものうなって、赤ん坊を食った、三つ食った、気がふれてどこをどう歩いたか、神社に宿ったら、こわがって人がよっつかん。脅しあげて物を取った。」
 女は正気にもどって、首をくくった。
 磯っぱたの洞穴に帰ると、一振りの太刀があった。
 手紙がついた。
「無明丸というこの太刀を継ぐ者を、竹の太郎ともうす、天に月、地には風、人に竹の太郎。」
 いそめが海の化物であったか、十左衛門であったか、竹の太郎は、二度と会うことはなかった。

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とんとむかし

   じょうごん池

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、三郷村に、じょうごん池という、またの名を蛙合戦という、池があった。
 龍が棲んだという、葦原に月影を宿す。
 田辺貞元という、儒学者があった。
 新婚早々の美しい妻がいて、刀は差しているというだけであったが、ある日殿様に、
「名人達人如何。」
 と問われて、
「名人は惑わず達人は忘ず、その道に迷わぬを名人、意を用いぬを、達人ともうすかと存じます。」
 と答えて評判になった。剣術指南役の伊東又兵衛という者が、教えを乞うといってやって来た。
「わたしの知っておりますのは、言葉の上だけのこと。」
 貞元はいった。
「名人達人どちらが上か。」
 と剣術指南、
「名人は名を尊び、達人は足るを知るともうします。」
「名によって名に倒れ、足るを知ってついに終わる。」
「覚えぬを真名となし、知らぬを自足というとあります。」
 ではといって、伊東又兵衛は飯粒をもってこさせて、貞元の頭髪に置き、一刀を抜きうちざまに、真っ二つにした。
 髪の毛が一本だけ切れた。
「わしは名人にはほど遠い。」
 又兵衛がいった。
「いえ、髪の毛の切れるほうが、達人です。」
 貞元がいった。
「そういうお前さんは、眉毛一つ動かさなかった、うむ、若いに似合わずたいしたもの。」
 二人は親友になった。
 又兵衛は四十近いみにくい男だった。
 修行時代に過って人を殺めた、そのためというではないが、頭を剃ったも同然といった。
「男児が二人生まれたら、一人くれ。」
 といった。
「わしの剣を授けたい。」
 美しい妻は、みにくい四十男を敬愛した。
 発明であった殿様が、急に身を退いて、元服前の次代さまが、あとを継いだ。
 幕閣の差し金だという。
 若い連中に、不穏の動きがあった。
「さぞやご無念のこと。」
「ご城代平沼左門と、その取り巻きだ。」
 坂下の三玄寺にこもって、ことを起こそうという、指南役の又兵衛が、家老なにがしと、駆けつけた。
「なによりもお主らに科なきようと、お殿さまは申された。事を起こすなら、わしのかばねを踏んで行け。」
 といって、脱ぐと下は白装束であった。
 説得ははか行かず、貞元が来た。
「人一人殺して、よきことのあろうはずもない。」
 貞元は事と次第を説いた。
 若い連中は、目から鱗の落ちる思いであった。事は納まった。
「しかし、あのように明かしてしまって、大丈夫なものか。」
 若い者がかえって心配したが、案の定又兵衛はお役を果たし、貞元は、
「呼ばれもせぬ出張。」
 とて、閉門になった。
 一派にとって、貞元は危険であった。
 閉門は五年続いた。
「この上は、お主のためにも理非をただして。」
 と、又兵衛がいった。
「いや。」
 貞元は首を振った。
「せんもなかろうて。」
 暗殺の恐れもあり、又兵衛は夜毎に辺りを見回った。
 妻がこっそり忍び出る。
 あとつけるとじょうごん池に行く。
 月の光に水を汲む。
 美しい。
 閉門を解かれて、二人の男児が生まれていた。
「ほかにすることもなかったでな。」
 貞元は笑った。
 お殿さまがみまかる。
 貞元は又兵衛に、
「殉死するなら、子供のどっちかに、剣を伝えてからにしなされ。」
 といった。
 じょうごん池の水を、月光に飲むと、みごもるという伝えがあった。
 又兵衛は、下の子にその剣を授けた。
 じょうごんとは、貞元のなまった語ともいうし、ひきがえるがよったくって、蛙合戦をする、ひきがえるを又兵衛といった。

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とんとむかし

   とっけ 

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、飯石村に、とっけという、悪たれ坊主がいた。
 吉兵衛さまのたる柿盗って、売っぱらおうとて見つかった。
 手下逃がして、とっけがつかまる、
「なんたっておまえだ。」
 作男の石蔵が、とっけをふんじばって、こらしめだとて、大門の上からつるくした。
「からすに目ん玉つっつかれろ。」
 とて、恐怖の半日、
「もうしねえか。」
 というと、
「もうしねえ。」
 といって涙流す。引き下ろすと、
「屋根へぐれて、蛇がいっぺえいる。」
 といった。
 石蔵の上って行く、はしご押さえて、
「そうでねえ、そっち。」
 という、のりつくところで、
「あったあ蜂だあ。」
 といってはしご倒す。
 蛇はほんとうにいた。
「うわ。」
 作男はつり下がる。
 とっけはいなかった。
 田んぼに鯉を飼って、秋になったら揚げて、池すに入れたり、売ったりする。
 大水が出て、流れることがあった。
 その年も流れた。
 とっけが買えといって来た。
 手下どもと、川ですくったという、数百はいる。
「おまえら、盗ったんでねえのけ。」
「いらんならおっぱなす。」
 仕方なし、買い取った。
 することにかわいげがない。
 こんなのもあった。
 でめきんというきれい好きの、目のでっぱった女がいた。
 余市というのがいいよって、はねつけられたのを、
「でめきん余市がのーえ。」
 といって、はやす。
「田んぼのたにしも、ぷったかふた開く、
 余市烏も、あほうと鳴いて。」
 切ねえこった、無理もねえ。
 仕種大うけで、にっくきとっけを、余市はとっつかまえた。
 三つなぐったら、
「板谷の後家さま、夜這いさせる。」
 といった。
「うそこけ。」
「ひも下がる、それ引っ張ったら、戸開く。」
 旦那のうなって、触れなば落ちん、
「ひもねえときは、その気にならねえってこった。」
 もう一つぶんなぐって、おっぱなした。
 日は暮れて、たしかにひもがぶらさがる。 ためしに引いてみた。
「どんがらぴっしゃ。」
 とんでもない音がして、お宮さまの鈴が、転がり落ちた。
 なんたってまあ。
 お宮の世話人伝三郎が、とっけの家にやって来た。
「おまえだということは、わかっておる。」
 とっけと親とかしこまって、
「へい。」
 というのへ、説教する。
「そもそも神と仏は人心のいしずえ、天道のもとい、打てば響くは、梵鐘は虚空へ、鈴は森閑。」
 もとより長いのが、とっけが神妙に聞くもんで、切りがない。
「お祈りをする大切な命を、もてあそぶなともっての他じゃ。」
「もってのほか。」
「人さまの幸せを願うはずが。」
「ねがうはずが。」
 うらみつらみ伝三郎も、へんになる。
 その帰り、狐に化かされて、こえためにはまり込んだ。
 化かされるようじゃおしめえといって、お宮の世話人やめた。
 飯石村は、河をはさんで横橋村と、毎年節句には凧合戦があった。
 その大凧と道具一式しまっておく、小屋があった。
 とっけは忍び込んで、凧の綱の麻なわむしった。手下に配るわらじこさえる。
 年の相談が三日早く、とっけはつかまった。
「またとっけか。」
「どうしようもねえ。」
 男たちは、頭に来た。
「ためし凧に、くくりつけて飛ばしてやれ。」
 ちったこりらあといって、とっけを大凧にくくりつけて、河原風に頃合はかって、飛ばした。
 二十人して引く、ふうわり上がる。
「へーえ景色いいで、ご苦労。」
「なにをこの。」
 突風が吹いた。
 大凧は、おそろしげに舞い上がる。二十人必死に押さえ込もうと、そいつがぷっつり切れた。
 とっけのむしったあとだ。
 山向こうへ飛んで、見えなくなった。
「とっけなら生きているだろ。」
 といったが、そいつが三日さがして、行方知れず。
 くーるりとっけはまっさかさま。大凧ごと、河へざんぶとはまった。
 ばあさまにつれられて行った、瑞巌寺の仁王さまが、恐い目してにらむ。
「このわるをどうしたものじゃ。」
 あの仁王さま。
「西方浄土の船へ乗せよう。」
 うんの仁王さま。
「ふだらくや世の荒波をこぎわけて彼岸にわたるのりの櫂。」
 えんさあこげやといって、とっけは重たいかいを漕ぐ。日も夜もなしの、波は荒れ狂って舟はゆれ。
 海を鎮めに、坊さまが身を投げるという、
「お待ちなされ、この子じゃ。」
 だれかいった。
「なまけてばっかりの、こやつを投げ入れもうす。」
 ざんぶと投げこまれた。その苦しいことは、「あわ。」
 ふりもがくと、
「さわぐな、今助けてやる。」
 声がして、とっけは助け出され。大凧は柳にひっかっかって、風ゆれるたんびに、さかさのとっけが、河へつっこむ仕掛け。
「凧んのって河流れたあ、河童の神さまも気がつくめえ。」
「ちがう、天からふった。」
 とっけは、村とははんたいっこ指して、
「海まで行こうと思って、しくじった。」
 といった。
 そうして、村とは反対っこへ歩いて行った。
 瑞巌寺のある、門前町へついた。
 畑のものかっぱらったり、荷車押して駄賃もらったり、三日かかって、大にぎわいの、門前町。
「そうさ、こういうとこで稼いで。」
 いろんな店が並ぶ、商人が行ったり、傘さした坊さまや、きれいな女の人やお大尽や乞食や、団子を売っていたり、赤鬼の看板がぶら下がったり、銀のきせるがあった。
 手振られるだけで、どこも雇ってはくれぬ。
 川原に石を洗う男がいた。
 ざるいっぱいの小石をになえという。
「ほう、めし食いたいか。」
「食わにゃ死ぬ。」
 ざるは、死ぬほど重かった。
 でっかいお地蔵さまがあった。赤い頭巾と赤いべべ着て、子供を三人抱える。
 人々は線香立てて、小石を一つ、また一つ置く。
 子がまかるよう、病気がなおるよう。
 洗った小石は、いくつとっても一文。
 めしだけ食って一月。
「いろはだって、なんまんだぶもいい、石に文字かいて一文。」
 とっけはいった。
「赤いべべ着せて、三文。」
 男は坊主くずれで、かたことぐらい書けた。
 それが流行った。
 もうけ半分寺にとられ、男は女こさえたり、たわけ歩く。めし食うだけのとっけが、寺へ上げる半分、おれの分といってかっぱらった。
 でもって商売はじめて、どうやって稼いだか、立派な身なりして、とつぜん村へ帰って来た。
 親に大枚置いて、あっちこっちわるさのしっぱなしを、それぞれにして、お寺にも置いて、ぶっ魂消てよったくる連中にいった。
「大凧に乗って、舞い飛んでさ、ふうらりついたところが、丸に一の字のよ。」
 という、名の売れた酒屋。
「そうさ井戸の上にな、酒屋は水だ、わしゃ天の申し子だってんで。」
 とやこう、はやらかせて、
「どうじゃ、わしに出資しろ、三年で三倍てわけにゃ行かぬが、二倍くらいには。」
 といった。
 みんなこぞって持って来た。田んぼや畑売っぱらってのもいた。
 とっけはそれ懐にして、行ったっきり。
 瑞巌寺の仁王門に、夫婦ものの乞食がいた。
 とんがらしとみかんの皮なと、竹筒につめて売っていた。
 いっぱし溜め込んで、
「とっけのとんがらし。」
 と、真っ赤な看板下がったころ、もうとっけの名知る者はなかった。

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へきがんろく

おおよそ宗教を扶竪せんには、すべからく是れ本分宗師の眼目有り、本分宗師の作用あるべしと。睦州またわずかに僧の来るを見て、便ち道ふ、見成公案、汝に三十棒をゆるす。また僧を見て云く、上座。僧頭をめぐらす。州云く、担板漢。また衆に示して云く、未だ箇の入頭の処有らずんば、すべからく箇の入頭の処を得るべし。すでに箇の入頭の処を得ば、老僧に辜負することを得ざれと。どうですかこれ。なにがなし禅有り公案ありするんじゃないんです、奥深い道程じゃない、もとまっぱじめです。まったくほかなし、見るとおり聞くとおりですか。箇の入頭とは、頭失せちゃって下さい、身心という、もとなんにもない処へ、よこしまにする我がものを返上する、たったこれだけ。睦州もお釈迦さまもないんです。即今見成です、三十棒です。担板漢の、つっぱらかり重石取って下さい。どうやればよう坐れるの、動中の禅はだの、ノウハウやっているそのもの。人がせっかく無心を説けば、決まって有心のとやこう、ぶんなぐったろうが、旧態依然は、そりゃ一昨日おいで。取り付く島もないという、はい取り付く島もないとは、あなたそのものです、自分が自分に取り付く物笑い。睦州が見えるか、見えるもの自分ですか、ないものは見えない、ようやくお釈迦さんがほうふつしますか、はい落葉あり新緑あり。

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2007年4月18日 (水)

へきがんろく

第十則 睦州掠虚頭の漢

本則・挙す、睦州、僧に問ふ、近離甚れの処ぞ。(深竿影草。)僧便ち喝す。(作家の禅客。且く詐明頭なること莫れ。也恁麼にし去ることを解す。)州云く、老僧汝に一喝せらる。(陥虎の機。人を狃かして作麼せん。)僧又喝す。(頭角を看取せよ。似たることは則ち似たり。是なることは則ち未だ是ならず。只恐らくは龍頭蛇尾ならんことを。)州云く、三喝四喝の後作麼生。(逆水の波、未だ曾て一人の出得頭する有らず。那裏にか入り去る。)僧無語。(果然として模索不著。)州便ち打って云く、若し睦州をして令を尽くして行ぜしめば、尽大地の草木悉く斬って三段と為さん。)這の掠虚頭の漢。(一著を放過すれば第二に落在す。)

睦州道明は百丈下三世、黄檗の嗣、近離いずれの処ぞ、どこから来たか。(深竿影草、さぐりを入れる、心というものあればひっかかる、あるいは草の影ですか、ゆらめくんです、心なければ同事、間髪を入れず、しもに来たると道うんですか、喝するんですか、はーい答え百万通り。)僧すなわち喝す、かーつとやる。(作家の禅客、新定という全世界をまったく新しく定める、これ作家、独創という狭い了見じゃないんです。たとい物まねだろうが陳腐だろうが、作家は作家。詐明頭分かったような、にせものじゃない、たとい渇すべきと知って、渇するが是か喝せざるが是か、では何をもって是と云う。)州云く、老僧汝に一喝せらる、一喝されちゃったというんです。(陥虎の機、たとい穴に落ちたって虎、けものへんに柔で、人を猿のようにするんだってさ、坊主の法要これ、いやさどうにもこうにもです、たぶらかすほどの力あれば却って可。)僧また渇す。(頭角を看取せよ、虎に食われそうになって慌てて喝しても、てめえだからどうだの理由付け。似ていたって本来ならず、おもしろくもなんともないんです、うっふっふ竜頭蛇尾。)州云く、三喝四喝ののちそもさん、どうするんだいってわけです。(逆水の波、うわっと押し寄せて、ノウハウも知らずってより、命失せ、だったらいいんですが、那裏にか入り去るとて、しがみつく。)僧無語。なんにも云えなくなった。(はたして、あっはっは。)州便ち打って云く、(よかったねえっていうんです、若し睦州をして令を行ぜしむれば、一木一草も残らんぜえ、おい。)這の掠虚頭の漢。かたり者め。(人をかたっているんですか、自分をかたっているんですか、はいしばらく省みて下さい、蛇足です。)

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2007年4月17日 (火)

へきがんろく

頌・句裏に機を呈して劈面に来る。(響。魚行けば水濁る。趙州を謗ずる莫くんば好し。)爍迦羅眼繊埃を絶す。(沙を撒し土を撒す。趙州を帯累すること莫れ。天を撈し地を模して什麼かせん。)東西南北門相対す。(開也。那裏にか許多の門有らん。趙州城を背卻して什麼の処に向かってか去る。)限り無き輪鎚撃てども開けず。(自ら是れ汝が輪鎚到らず。開也。)

句裏に機を呈してひつ面に来たる、機とは何か、打てば響くんです。のびたうどんのような人間、無意味な現代人ですか、たとい人生如何に生きたらよいかという、しばらく機ありです。てめえの得失是非のみのああだこうだ、機というよりも、なめくじの頭もたげ行く意志久しですか、それでも救い無きにしもあらず。救いようのないあっちやこっち、認知症予備軍。一つに成り切って下さい、機とは正にこれ。どうだというんです、繊埃あっちゃぶった切るんです、因果必然だけです、虚空をわがものにしない、よこしまにしないんです、もしやお釣りありゃ木端微塵。はいひつめんに来る、これを趙州、響です、間髪を入れず。魚行けば水濁る、この僧水を濁したんですか、趙州濁さず、はいこうなくっちゃ仏とは云われぬ、みなさん、どうか成し遂げて下さい、趙州を謗ずる莫んばよしを、よくよく知って下さい。禅門だの悟りだのがあるんじゃないんです、本来本法性ただ。爍迦羅眼とはサンスクリットで金剛、堅固不壊だそうです、ないものは壊れない、傷つかない、滞らない、ずばりこのもの=仏です、すなわち救いです。わかりますか、間髪を入れずとは同事なんです、機という別誂えないんです。無心返り点を打つと、心が無いんです、はいこれを求めて下さい、求めている間は無心にならんです。天を撈し地を模して何かせん、参じ尽くして初心ですよ、自分というものの用なし、決別これ自然、わかりますか。東西南北門相対す、虚空という飢えた虎に食らい尽くされて下さい、まるっきりはじめから虚空なんです、苦労もなんもないんです、捨てておしまい。趙州という無門関、背卻しようたってもとないんですよ、限り無き輪鎚撃てども響かず、ついに落着するんです。限り無き輪鎚もって敬礼す、自らこれ汝が輪鎚いたらずと知る、時節因縁。

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2007年4月16日 (月)

へきがんろく

第九則 趙州四門

本則・挙す、僧、趙州に問ふ、如何なるか是れ趙州。(河北河南。総に説不著。爛泥裏に棘有り。河南に在らずんば正に河北に在らん。)州云く、東門西門南門北門。(開也。相罵ることは汝に饒す觜を接げ。相唾することは汝に饒す水を溌げ。見成公案、還って見る麼。便ち打たん。)

趙州和尚は趙州城に住んでいた、よって僧問う、人と地名とをひっかけるには、迷故三界城、悟故十方空、人というんでしょう、自分で自分城をこさえて、でもって四苦八苦して、孤独だ淋しいだの、自閉症やっている、極め付きへんてこりん自業自得です。元の木阿弥に戻す、自縄自縛を開放する、これを仏教、身心脱落の方法です。如何なるかこれ趙州(河北河南、人でなけりゃお城っていうんですか、だからひっかかっちまう、爛泥裏に棘です、どうだと云うからには、云うやつに突き刺さってっている、そりゃ云わんけりゃ、ただの一般。仏というなにかしら、即ち有る無しを卒業してもって、はじめて初心まったいらです。趙州和尚さすがにそんなもんにはひっかからぬたって、棘には棘もって応ずるわけです。)東門西門南門北門、こっちから向こうってだけですか、お城があるんですかないんですか、そりゃだれのことです、僧ですか趙州ですか。(開也、わかったかってなもんです、わかったという跡形失せて開くんです。あいののしる=仏教ですかあっはっは、まあいいわさ觜をつなげ、悟故十方空とつないで行けっていうんです、でなきゃそりゃ問題外。東門西門相対す、唾つけたわけです、東西南北門不用たって唾つけてます、汝に許す、仕方ないもんは仕方ない、道わんけりゃわからん、云ったら水をそそげ、でなきゃ趙州はわからんです、いくら仏教百般も、わずかに坐ってごらんなさい。自足するおのれも消え失せて、清々なーんてもんじゃないんです、龍の水を得る虎の山によると、わずかに外っからに云う、でも本来人安住する、洞然明白、余は明白裏にあらずと、汝ら護惜すや否や。見成公案かえって見るや、すなわち打たん。さあこれ。)

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2007年4月13日 (金)

とんとむかし

   猫又

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、欲たかりの、りえもんというのが、爪に火ともして貯めた小判、盗人に取られて、狂い死にした。
 りえもんは、かかもなければ子もなく、ねこを一匹飼っていた。
 そいつが出た。
 夜中ぼおっと明るくなって、ねこが小判をくわえてちりーんと落とす。
「そうか、まだ隠し金あったんだ。」
 といって、十人二十人よったくって、そこら中ほっくりかえす。なんにもなかった。
「ねこに聞け。」
 というのがいて、待ちもうけた。
 真夜中、ぼおっと明るくなって、小判をくわえたねこが出た、
「欲しいか。」
 と聞く、
「欲しい。」
 といったら、ちりーんと落とす。
 たしかに小判だ。
 拾ったらまたくわえる、
「欲しい。」
 ちりーんと落とす。
 一晩中やって、明け方には、千両にもなると思ったら、
「ねこに小判というではないか。」
 ねこが云った。
 なんにもなかった。
 男は気がふれた。

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とんとむかし

   川の水

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、とやの村の破れ寺に、ゆうれいが出た。たたみ一枚分のでっかいつらして、けったり笑う。
 なりがでかすぎて、墓へ入りそくねたとかいって、別になんにもしなかったのを、
「ゆうれいなんかに、でっかいつらされて、たまるか。」
 といって、のっこんだ男が帰って来ない。行ってみるとふんのびていた。
「いやあ、えれえ力で。」
 あっというまにのされたという。
 こわいもの見たさに、行ってみたり、若いのがよったくって、肝だめしに、一夜泊まったりした。
 すると、ゆうれいが村へ出て、わるさして歩く。
 子供を、木のてっぺんへつるしてみたり、ふんどしにぎって、若いのをいだてん走りさせたり。
 かかや姉にとっついたそうで、半日へんになっていた。
 なんせ困る。
「まかせておけ。」
 といって、なんとかいう、やっとうの先生が、でかけて行った。
 とっくり抱えて先生は、まっこうに切られて死んでいた。
 おもだちが寄って、相談した。
「死人が出た。」
「寺ごと燃しちまおう。」
「ゆうれいが、火になっておそうぞ。」
「搭でもおったてるか。」
「いや墓ごとひっくりかえせ。」  
「ありゃゆうれいじゃねえ、なんかが化けたんだ。」
「虫のたたりだ。」
「するってえと。」
 やっていたら、そこへゆうれいが出る、
「今度はなんの注文だ。」
 と聞いた。
「なんでもしよう、うっふう退屈。」
 中に、すっとんきょうがいて、
「大川の水飲み干せ。」
 といった。
 それっきりゆうれいは、出なくなった。
 大川に、うすよごれたでっかいぼろっきれがかかる。
「お寺のまん幕じゃねえか。」
「たしかに水飲んでらあ。」
 なんであんなもんが化けたんだって、とにかく幕んなったんで、おしまい。

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とんとむかし

   おとよさ

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、しんのき村に、おとよさという人がいた。
 おとよさは美しい人で、行かず後家で、お針して、若い子にお針教えて、暮らしていた。
 年過ぎても美しかったから、いいよる男や、よからぬ男どもやいたが、おとよさが、にっこり笑うと、それっきりになった。
 なぜかわらない。かなしいせつない気がしてと、男たちはいった。
 月にいっぺん、よそゆききて町方へでかけて行く。
 そうかわけありのなという、手だすとこわいぜといった。
 しげという女が、夫のなぐるけるにたえかねて逃げてきた。飲んだくれて夫が追う。
 行きどもなくって、たすけてといって、おとよさにすがった。
 おとよさは追い返した。
 飲んだくれがしゅんとなって、もう一度来たが、あとはもう来なかった。
 おとよさは、しげと二人でお針をし、お針を教えて暮らした。
 月にいっぺん、今度は二人ででかけて行く。
 だれかあとをつけた。
 にぎやかな町を抜けて、お寺にお墓参りをする。
「そうか、隠し子がいたか。」
 行って見ると、俗名とよというお墓であった、しげという新しいのもあった。
 美しいおとよさに何があったか、知っている人もいた。

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とんとむかし

   河原乞食

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、しのぶ村の河っぱたに、こうやの仙三という、顔に向こう傷のある男が、住み着いた。
 流れ者が住むには、村は狭すぎた。こうやの仙三は、村のたれそれが三男で、紺屋に奉公に行ったから、こうやの仙三と呼ぶ、つまり出戻りってわけだ、村人も見て見ぬふりをした。
 何人かよったくってばくちをうつ、畑のものをかっぱらうなと、噂が立った。
 流れ木にむしろかぶせて、仙三は住んでいた。
 だれかやって来た。
 やせて物干し竿に、浴衣かけたような男だった。
「玉砂利御殿に、黄金のむしろかけて、豪勢な青天井のさ、水は天下の河っぱたってやつか、どうれ厄介になるぜ。」
「人生しんばり棒んなっちまった男か、そいつは頼もしいぜ。」
 二人は変わった挨拶をして、いっしょに住んだ。
 流れた野菜を拾ったり、魚とって食ったり、物貰いして歩いたり、かと思えば、すっぱだかになって、河へ入って水かけして、子供のようにはしゃいでいる。
 仙三は、
「ためさ。」
 と相手を呼んだ、為右衛門というらしく、燃し火なんかすると、
「どうじゃ、芸者衆もいならぶこっちゃ、ちったあ橋げたに似たが、どんざん三味線河申し分ねえや、歌え。」
 という、
「ようし、今日の雲行きでもきゅうっとひっかけて。」
 ためさは柄に似合わず、いい声で歌う、
「行きはさのさで、
 帰りはごろた、
 三五十五夜の、
 月が出た。」
 はーやよいよいおらさのさ。 
「月は出ねえで、
 お山はしっぽり、
 狐の嫁入り、
 さんさ雨。」
 仙三はそこら叩いてはやして、二人で踊る。
「首くくる縄もなし、年の暮れ。」
 といって、豪勢な青天井も、ひいらり雪が降る。
「どうだあためさ、正月興業ってのやろう、本物きゅうっとやってさあ、餅の一つも食いてえじゃねえか。」
「あっはあ、ようしまかせとけ。」
 二人はいって、赤いふんどし一丁に、むしろかぶって、そこへ松の枝つっさして、村中、門付けして歩いた。
 そんなのに、居座られちゃ困るから、なにがなしくれておっぱらう。
 仙三が拍子とって、ためさが歌うと、
「ほっほうこれは。」
 といって、けっこう流行りもした。
「はーあ三界松の為右衛門、
 めでたや道行き、
 ホレホレ、
 おいらんは、
 金比羅権現仙蔵太夫。」
 めでたい、おらうちも頼むと云う。
「はーあ三界松の一里塚、
 めでたや道行き、
 ホレホレ、
 おいらんは、
 さいの河原のそうずか菩薩。」
 そりゃもうめでたい。
 河原に燃し火して、ほんものをきゅうっといっぱい飲んで、餅を焼いて食って、
「ためさ節も年とったか。」
「せんさの出任せもな。」
 あっはっはと笑って、正月は過ぎ、おぼろ月がぽっかり浮かんで、寒い河原も春が来た。
「魚はどんぶら河っぱた、
 鳶ぴーたら天上天下。」
 二人は月に踊って、陽気に浮かれて旅に出た。
 またふうらり舞い戻って、二三年はいた。
 伝え聞いて、遠方からであった、なにがしという先生がやって来た。
「留守であったか、それは残念だ。」
 先生は云った。
「むかし中国に、寒山拾得という偉い坊さまがあって、浮き世をはなれて、清貧に暮らしておった。」
 きっとその生まれ変わりかも知らん、いなくてよかった、わしは恥をかくところだったかも知れんと云って、帰って行った。
 大先生の云うことなど、あてにはならんとさ。
 でもだれか、観音さまの生まれ変わりと云って、紺屋の若旦那という人が来て、二人のことは知れた。
「一足違いであったか。」
 といって話す。
 仙三は紺屋の仕事はへまばっかり、それを旦那がかわいがって、どこへでもつれて行く。馬鹿正直で、いっちゃならんと云えば、口が裂けても云わん。
「ちかごろ得難い人物よ。」
 と旦那はいった。
 押し込みが流行った。頭をまむしの仙三、その手下を雲の為右衛門といった。荒っぽい手口で、既に十何人も殺していた。
 それを旦那は、同じ名まえの仙三を引き合いにして、
「じつはな。」
 といった、
「大きな声じゃいえぬが、まむしの仙三のこれに手出してな、それっからというもの。」
 といって流行らかした。
 そうしたら張りあうのが出て、これは物干しみたいに、やせた男を引きつれて、
「雲の為右衛門だ。」
 といった。こっちはいい声で歌った。
 余興の間はよかったが、なんと紺屋のお店に押し込みが入った。
 木戸が開いていたという。
 人が殺され、百両がほど取られた。
 向こう傷だ、仙三に続いて、為右衛門もつかまった。申し開きのつけようもなく、獄門さらし首。
 すんでのところに、放免された。
 旦那が夜遊びに、木戸を開けとくようにいった、それを云わぬ仙三であった。
 すべてを申し述べた。
 仙三も為右衛門も去った。
 傷は、幼いわたしを抱えてついたと、若旦那が云った。
 こんな歌が聞こえた。
「花は散る散る、
 はあどっこい、
 人は切なや、
 散られもせぬは、
 それや、
 浮き世のおぼろ月。」

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とんとむかし

   笹蔵銀山

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、日吉村に、与野源左衛門ともうす旧家があった。
 みずうみと呼べるほどの池があって、与野の大池といった。
 先祖にたいしたお方がいて、田んぼを植えるのに、日が暮れかかる、ひおうぎをふるって、お日さまを呼び戻した。
 田植えはおわったが、一夜明けると、みわたすかぎりの、みずうみになっていた。
 平の清盛は熱病で死んだそうなが、これは河童のほこらがあった。
 西方から、河童がうつり住んだという。
 与野の末娘おみよさまは、たいそう美しかった。
 お殿さまがお召しじゃという。浮気もののお殿さまが、今度は若い子に目をつけなさった。
「与野の末はあとを取るか、独り者ということになっております。河童のたたりがありもうす。」
 十も年上の、これはみにくいなりは大きい兄が、そういって断った。
「河童のたたりだと、ふん笑わせるな。」
 お殿さまはいったが、それっきりになった。みにくい大きな兄は人望もあつく、末のおみよさまをかわいがった。
「なに、いざとなりゃわしだってな。」
 兄はいった。
「与野には日の神の子と、わしのような河童の別されが出る。アッハッハ日の神は大切にせにゃな。」
 と云った。
 おみよさまは、三郎という大きな犬をつれ歩く。
 日吉の村から、与野の大池のほとりから、河童神社にお参りをし、一本杉の下に寝っころがったり、むかしは銀を掘ったという、洞穴をのぞいたり、あしの生えたみぎわや、
「おみよさま、あんまりきれなお顔うつすと、河童に取られるで。」
 人がいうと、
「河童神社にお参りするから、取らない。」
 おみよさまは、必ず返した。
 めったに吠えない三郎が吠えて、行きだおれを助けたり、子供の喧嘩を仲裁したり、荷車のあと押しする。
「はーいとな、
 日吉の村は、
 お日さま育ち、
 なあんで河童の、
 ほこらがたった。」
 いい声で歌う。
「はーいとな、
 かんと日が照りゃ、
 お皿が干上がる、
 さんさ雨降って、
 お嫁入り。」
 笹蔵という漁師の子があった。一メートルにもなる魚を、担って行く。
「すごい見せて。」
 おみよさまがいうと、
「さわるな、河童神社のお供えだ。」
 という、
「どうして。」
「女は穢れじゃ。」
「おっほっほ。」
 おみよさまは、いたずらっ気を起こして、りっぱなその尾ひれにふれた。
「ぎゃあ。」
 漁師の子はわめく。
「こんな魚はそうは取れんで。」
 へたり込む。
「だいじょうぶ、あたしがお供えして上げる、きっと大漁。」
 おみよさまがお供えしたら、その年は大漁であった。
 笹蔵は十五になると、もうたくましい漁師だった。
 おみよさまの云わっしゃることは、なんでも聞く。
 蓮の花をかざし持ち、河童のお面をつけた笹蔵と、お盆にはいっしょに踊ったり、
「こんなにきれいな花だのに、どうして一夜で散ってしまう。」
 おみよさまはいった。
「笹蔵、おまえわたしのお婿さんになる。」
「婿さんになんてなれん。」
 笹蔵はいった。
「一生お仕えもうす、もしものことがあったら、わしの命に代えても。」
 お殿さまの若君、龍之介というお世継ぎどのを、お忍びに案内したのは、漁師のせがれ笹蔵だった。
 笹蔵のこぐ舟に乗って、お世継ぎどのは、魚を釣った、釣り上げては放す。
「わたしらで、こさえてさし上げますが。」
「いらん、なまものはきらいだ。」
 若君は云った。
「与野の先祖は、河童だというではないか、たたりでもってみにくいのばっかり、生まれるそうだが。」
 と聞く。
「いえ、末のおみよさまは、それはたいそうにお美しく。」
 笹蔵はいった。
「河童を見た者はいるか。」
「へい、大勢見ております。」
 笹蔵もあし草の中にそれらしい姿や、夜中にとつぜん水の盛り上がるなと、話した。
「その末娘に会おう。」
 龍之介は云った。
「あのそれは、わしのようなもののその。」
「そうではない、そこらへんで待ち伏せじゃ。」
 龍之介は聞かぬ。
 二人して、おみよさまの通うあたりへ、身を伏せた。
 そのときはもう三郎はいなくって、おみよさま一人来た。
 龍之介は雷にうたれたように、つったつ。
「だあれあなたは、おまえは笹蔵。」
「あ、あのこのお方は。」
「わたしはお城のさむらいで、りゅ龍之介ともうす。」
 そういってあと、言葉が続かなかった。
「そう。」
 さっさと行ってしまう。
 笹蔵は、二人の会う瀬を工夫した。
 いつもだが笹蔵がいっしょだった、そうせいと云われ、
「おっほっほおさむらいさま、わたしのお婿さんに来たいっていうの。」
 からかい気味に、おみよさまが聞いた。
「いやそのあの、そうしておまえさまは、縁談なとあったか。」
 若君が云った。
「あった、女狂いのお殿さまから。」
「そうではない。」
 龍之介はあわてていった。
「父上ではない、わたしの、は花嫁にってことだ。」
「なんですって。」
 聞き返して、おみよさまは怒った。
「お世継ぎさまなら、そうと初めから云えばいい。」
 笹蔵を呼んだ。
「舟を出して。」
 笹蔵のこぐ舟に二人は乗り込んだ。
 大池のまんなかあたり、
「笹蔵、おまえわたしのためなら、命も捨てるっていった、あたしの身代わりになって、河童神社まで泳いでおくれ。」
 おみよさまはいった、
「お世継ぎさまと二人泳いでおくれ。お世継ぎさまが勝ったらお嫁に行く、笹蔵が勝ったら、もう二度と来ないで。」
「ようし。」
 二人はふんどし一つになって、飛び込んだ。
 龍之介も達者だったが、漁師の笹蔵にかなうはずもなく、途中で姿が見えなくなった。
 おみよさまがこいで、二人であわてて引き上げた。
「なんで助けた。」
 水を吐いて、龍の介はいった。
「もういっぺんやりなおしだ。」
 二度めは半分死んで、
「もういっぺん。」
 とうとう根負けした、
「仕方がないお嫁に行く、でも身代わりになった笹蔵を、そう銀山奉行にしておくれ。」
 おみよさまがいった。
「銀山奉行だと。」
 銀山はおおむかしに閉じたが、奉行職だけは残っていた。
「わかったわしの負けじゃ、借りは返す。」
 捨てぶちぐらい、どうってことはないとて、おみよさまは、年のうちにお城にお輿入れした。
 漁師の笹蔵は、銀山奉行のお墨付きを頂いた。
「なんだ、せっかくあとの工夫もつけてやったというに、女のことはわからん。」
 みにくい兄は笑って、せいぜい支度を調えてやった。
 おみよさまはその兄が、河童神社に伝わる、河童文字を解いたのを、知っていた。
「みにくきやかはのかみなるしろがねのいくよをへにていぬひめのてに。」
 という紙片を、
「みやなか」
 の文字に折って行くと、銀の在処をしるす、図面になった。
 たとい与野の地も、銀山は銀山奉行の差配。
 兄と笹蔵は、研究の末についに掘り当てた。
 旧にもます銀山であった。
 今はお殿さまである、龍之介どのが血相変えて乗り込んで来た、家来もつれずの、
「奥を出せ、どこへ隠した。」
「お殿さま浮気しなすったな。」
「いやそのあやまる。」
 お殿さまはあっさり云った。
「奥がおらなんだら、どうもならぬ。」
 おみよさまは、兄がこさえてくれた隠れ屋敷に、お奉行の笹蔵と、銀山の指図をしていた。
「銀に頭を下げますのか、あたしにあやまりますのか。」
「あっはっは、まあさ。」
 みにくい兄がいった、
「しおどきってものがある。」
 おみよさまのお子は二人、男子はみにくく大きく、女子は龍之介とあわせもって、くらめくように美しかった。
 みにくい子をおみよさまは、たいそう可愛がった。
 ふうつきにも似ず おおらかで賢かった。
 五代ののち、与野の大池の底をぶちぬいて、銀山は終わった。
 河童とは中国渡来の、金山掘りの仇名だという。

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とんとむかし

   さんご太郎

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、かんぞう村に、さんご太郎というまたぎがあった。
 犬をつれ、鉄砲と山刀を持って、熊うちに入る。
 あるとき、熊はいず、ひきあげようとしたら、美しい女が雪の上に立つ。
「あやしのもの。」
 鉄砲をかまえると、
「なにをしなさる。」
 と女、
「いやすまなかった、ここは、人住まぬ山奥だが。」
 鉄砲を下ろすと、
「わたしはたんなの里の者、どうか頼まれてくれ。」
 という。
 たんなの隠れ里は、知らぬでもなかった、またぎでも近寄らぬ、どのようないわれか、山また山に隠れ住む。
「鬼が出た。」
 女は云った。
「男は殺し、女子供はさらって行く、どうかその鉄砲で、鬼を退治してくれ。」
「鬼とな。」
 さんご太郎はいった。
「退治したら、わしのものになるか。」
「よろしいように。」
 女は目をふせた。
 犬をつれ、さんご太郎は、女のあとへついて行った。
 雪深い、たどったことのない谷あいだった、急に開けて村があった。
 槍を手に、村長が出迎えた。
「里のことをよそ人に頼むは、ふがいないことである。」
 村長はいった。
「男はもはやおらん、このわしのかばねをまたいで、加勢してくれ。」
 先にたって行く。
 雪の降る巨木の林であった。
 とつぜんおたけびが聞こえ きっかいな声が、こずえを走る。さんご太郎は鉄砲をうった。一発二発。てごたえはなく。
 胸をかっさかれて、村長がたおれていた。
 さんご太郎は犬を放った。
 その犬が、あわを吹いて死んでいた。
 気配を感じてうち、たしかに手応えがあって、林をさまよった。
 二発うった。
 まっさおなものの走るのへうちこんで、さんご太郎は、命弾を使ってしまった。
 またぎが、一発だけはとっておく弾。
 鬼は、三発の弾を受けて、死んでいた。
 ふたかかえもある首を、山刀にかっ切って、さんご太郎は、美しい女のもとへかついで行った。
「このとおりだ、二匹いるというのなら知らん。」
「そうか。」
 女はいった。
「わたしが欲しいか。」
 とっさに、さんご太郎は、鉄砲をかまえた。その先に、両腕をかかげた大熊がいた。
 弾はなかった。山刀ははじきとばされ、またぎは、熊の一撃にふっとぶ。
 もうだめかというときに、犬が吠えついた。
 犬は死んではいなかった。
 熊は去った。
 さんご太郎は助かった。
 傷は、春までいえなかった。
「山では、いろんなことがある。」
 またぎはいった。
 そのときのものという、それは一尺もある、ひからびた鬼の指か、木のきれっぱしか知れなかった。

 さんご太郎は、一生を独り者で過ごした。
 みにくい険しい目つきの、子供もよっつかぬ口べただった。
 そこへ美しい嫁が来た。
 親の決めた縁組みだった。
「殺生のもとへさ、これはなんという。」
 菩薩さまじゃと、人はいった。蓮の花のように笑むほどに、美しい嫁はみごもった。
「生まれ月は、猟に行くな。」
 というのへ、
「殺生のこれがおれの、なりわいだ。」
 さんご太郎は云って、出かけて行った。
 死産であった。
 じきに母親も死んだ。
 鉄砲をうったときであった。赤ん坊は三つ口だった。ばちがあたったと人はいった。
「おれのようなもののところへ。」
 今はの際の妻に、さんご太郎は云った。
 他も云いえず。
「いいえ、わたしは、おまえさま好きだで来た。」
 美しい嫁は笑んだ。
 さんご太郎は、のちを貰わなかった。

 くまのいは、黄金と同じあたいという。
 いいものとそうでないものがあった。
 さんご太郎に頼めば、最上の品が手に入った。
 まっくろい熊のいに、さんごのようなつやが出る、それはさんご太郎の異名を取る、逸品だった。
 ふたまわりもみまわりも大きい熊がいた。目が青く光るという、そいつを狙うよりなく。
 さんご太郎は、はくびしんという、珍獣を追っていた。
 むじなに似て気性が荒く、鼻に白いすじがつく、たった一度見たことがあった。
 さがしまわってさんご太郎は、国ざかいを越え、しなのの重蔵という、これも知られた、熊うちに会った。
「えちご者がなぜわたる。」
 重蔵が聞いた。
「熊はうたぬ、はくびしんという、めずらしいけものを追っている。」
 さんご太郎はいった。
「はくびしんとな、なんに使う。」
「ようも知らぬ。」
 たんがの殿さまが、奥方さまのろうがいという病気に、ぜひにと云われたそうの。はくびしんと茄子を漬け込んだものを、煮て食すという。
「さんご太郎の名は聞いておる、その異名のくまのいのありかを教えてくれ、すればおれが、はくびしんは取って来てやろう。」
しなのの重蔵はいった。
「よかろう、えものを受け取ったら教えよう。」
 さんご太郎は云った。
 重蔵ははくびしんを取って、さんご太郎に手わたし、そのすみかを知って、異名のくまのいを取りに行った。
 そうして、それっきり帰らずなった。
「相手は知恵者だ、一頭だけと思うな。」
 たしかおれはそう忠告したと、さんご太郎は云った。

 うち損じたことがあった。手負いにてこずってけがをして、さやばの湯という、山中の温泉にひたった。
 うちみ、切り傷、まむしに噛まれなどに効く。
 日も暮れてひたっていると、大きなけものが来る、まさかと思ったが、うち損じた熊であった。
 背中合わせに、一晩を過ごす。
 食ったり食われたりのけものどうしでも、同じこったと、さんご太郎は云った。

 山中に宿ると、いろんな音がするという。
「かんかんかーん。」
 と、あれはたぬきがたたくのだ。聞いているうちに、自分を忘れてしまう、するとどこへ泳ぎ出すのか、ほんの近くの谷へはまって死んだ者もいる。
「これはその時の。」
 といって、さんご太郎は、ふとももを見せた。
 ほうけぬようにと、山刀を押しつけた傷のあと。
「それからな、声だ、若い女が近づいて来る。」
 何人でもやって来る、見てはだめだ。腹の上跨いで行ってはまた来る。おそろしさに屈強の男も、わなわなふるえ。
「あしたの朝—、いやなんでもない。」
 またぎは首をふった。

 たんなの隠れ里へも行ったという。
「いやあれは夢であったか。」
 さんご太郎はいった。
 三日もさまよってえものがなく、いわなをとり、沢がにを食って、飢えをしのいでいると、
「ほう。」
 と叫ぶ。
 ほうほうと聞こえ、異様であった。
 追われて走った。
 赤い帯に、泣くような山吹の衣をつけた男どもに、取り囲まれた。
「川のものをとったな、わしらがものを。」
 という。
 鉄砲を取りあげて引っ立てる。
 村があった。
 ひばの青葉の、すっぽり屋根だけの家。
 穴ぐらへ放り込まれた。
 がっしりと格子がはまる。
「春になったら、牛の代わりに使ってやろう。」
 と云った。
 その晩、松明を持って女が来た。
「わたしがおまえをとった。」
 女は三晩通ってきて、そこへ鉄砲と笹の包みを置いた。
「逃がす。」
 かぎを開けて行く。
 鉄砲をとって、さんご太郎は抜けた。
 逃げのびて明け方、笹の包みを開いた。とちの餅だった。
 食いおわるとみな忘れ。
 十何年して、椿と山吹の咲くのを見て、ふっと思い出した。
 本当にあったか、ようもわからぬという。
  
 熊は泳げるし木にも登る、あきらめずに三日も追うてくる。えらい力じゃ、こんな太い枝をねじってしるべにする。
 よく人の心を読む。
 熊の道すじを読み、どこで鉄砲をうつか、名人なれば、間違いはなかろうと、そんなことはない、さんご太郎は云った。
「知恵比べじゃ。」
 道すじへ追い込んだ。
 やって来た、鉄砲をかまえると別の熊だった。ふりかえると、そこに狙いのえものがいた。
 両腕をかかげて立つ。
 あやうく鉄砲を向けると、なんとひばの株つであった。
 別の熊もいなかった。
「命を取られずにすんだ。」
 またぎは苦笑した。

 おかしな熊もいた。半蔵というまたぎがうち損じて、その半蔵を食ったので、はんぞうという仇名がついた。
 右目がつぶれ、足をひきずって歩く。
 はんぞうは人を食い、牛や馬を襲った。
 大熊であった。かけつけたときはもぬけのからで、犬もその跡を見失う。
 川をわたって、においを消す。
 わたっておいてまた引き返すのを、さんご太郎はあとで知った。
 ある夜、牛を食われて大騒ぎになった。
 犬を先頭に、またぎとさんご太郎は、あとを追った。
 ばあさだけが残った。
 納屋に巨大なものが、うずくまる。
 ばあさは、錆びついた槍をとった。はんぞうはつったち上がる。
「なんまんだぶ。」
 かがまりつく。
 ばあさの槍に、はんぞうは貫かれ、折り重なって死んでいた。
 ばあさには息があった。

やっこという熊は、鉄砲を向けると、犬のようにちんちんをした。   
 あとへついて来たりする。
 出食わしては見逃したが、別格中の別格、さんご太郎の名うての鉄砲を外す、大熊といっしょにいた。
 首尾ようねらうと、やっこがよっつく。
 あきらめるよりなかった。
 二年めの冬を、やっこは越せずに死んだ。
 飼われていた熊であった。
「半ぱものをこさえるのは、人間だ。」
 さんご太郎は云った。

 山奥深く、ささらの丘と、さんご太郎の呼ぶところがあった。なぜか海のような、潮騒の響きが聞こえる。
 そこへ立ったのは、さんご太郎の他に二人いた。
 一人は弟だった。
 弟は十も年上の兄について、またぎの修行をした。
 兄弟とは思えぬ涼しい目鼻立ち、鉄砲の腕は兄をしのいで、百発百中であった。
 風に舞いとぶ木の葉さへ、うち抜く。
 それが肝心のえものをし損じる。
「よすか。」
 さんご太郎はいった。
「いや止めぬ、なんとしてもまたぎ名人。」
 さんご太郎は弟に、手負いにした熊をさし向けた。
 すんでに射貫いて、血まみれになって笑う。
 達者なまたぎになった。
 兄は弟を、ささらの丘に立たせて云った。
「わかるか海の音だ、いいか、飢えぬかぎりは、うさぎ一匹うってはいかん。」
 弟はうなずくようであったが、それからまもなく、し損じて死んだ。
 伊能又右衛門家は、ぞくにまたぎ屋敷と呼ばれ、さんご太郎も、彼岸と正月には挨拶にうかがう。
 弟はまたぎ屋敷に、三年奉公した。
 ある日、さんご太郎の軒に、美しい娘が立って、
「伊能の末娘りん、弟どのをとむらいたい、お墓はどこじゃ。」
 といった。
「ちっと遠いが。」
 さんご太郎がいうと、
「かまわぬ案内せ。」
 という。
 山支度をさせ、二人奥山へ別け入った。達者なまたぎの足でもどうかという、おりんどのは音を上げなかった。
 ささらの丘へつれ立って、
「ここじゃ、海の音がする。」
 といった。
 おりんどのは、声を上げて泣いた。
 さしも気丈の娘が、帰りはさんご太郎の背に、すやすやと寝息を立てていた。

 さんご太郎は、鉄砲名代の格をさずかって、引退した。おそれおおくて もはや鉄砲は持てぬと云った。自慢話なぞなかった。
 一生に何頭の熊をしとめたと聞くと、たった一頭だと云った。生まれ替わったら、おれがうたれてやろう、たった一回きりだと云った。
 日差しのまぶしい昼下がりだった。ぶつぶつという、
「なんならおまえをうってもいいが。」
 と聞こえ。
 
 引退してから、一度だけ引っ張り出された。
 人がつかみ殺され、赤ん坊が失せた。
 なにものかのしわざであった。
 またぎ仲間とさんご太郎は、犬を放ってあとを追った。
 深い森であった、空鉄砲をうつと、すざって行く気配がある。
 岩場に追いつめた。
 破れ衣をつけたばけものが、食い残しの、赤ん坊を抱える。
 ばけものではない、老婆であった。
 なんという、水のようなその目を、さんご太郎は一生忘れなかった。
 鉄砲がうち抜いた。
 破れ衣が、風になびいたのだった。

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とんとむかし

  宝船

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、さんざし村に、六兵衛という、ぐうたら者があった。
 しんしん雪が降る。
 雪ばっかし降っている。
「あーあ雪降らんとこ行きてえ、常夏の島ってあるがさ、いい女いて。」
 と云ったら、かあちゃんが、
「今日は竜神さまの日じゃで、お参り行け。」
 と云った。
 するこたねえし、六兵衛は出かけて行った。
 竜神さまは、お寺の境内にあって、大寒になっても、いい水がわいて、ひでりんならんように、まあさ田んぼのおまいりだ、
「めんどくせ、いやそうじゃねえ。」
 六兵衛お参りしたら、宝舟がある。
 七福神が乗っている。
 どうせのこんだ、お寺へよって、坊さまに聞いた。
 七福神てなんだ。
「七人なんていうだかな。」
「えびす、大黒弁財天、寿老人布袋和尚に、ふくろくじゅ毘沙門天。」
 さすが和尚、いっぺんに答えた。
「大黒天と申すは、仏法守護の神さまであったのが、大黒さま大国主の命になった。えびすというは海人の神さまで、釣竿と大鯛を抱える、豊漁祈願じゃな。弁財天は弁天さまじゃ、女のいろっけに銭金が儲かる。寿老人は長寿、ふくろくじゅと同じだってことで、片方吉祥天にする、これはもう天女さまだな。布袋和尚はほてい腹して笑っとる、むかし中国の高僧であるな、えーと、毘沙門さまは四天王の一、やっぱり仏法守護の神さまだ。」
「へえ。」
 右の耳から入って左へ抜ける、なにしろ感心して帰って来た。
 もとは弁天さまであったのが、竜神さまになった。
 いろっけ抜きだって、和尚は云った。
「弁天さまのほうがいいで。」
 田んぼの神さまってわけだ、仕方ねえと云ったら、その夜の夢に、竜神さまが現れて、
「舟をやろうか。」
 と云う、
「ぐうたらんとこが気に入った、常夏の島へ行って来い。弁財天の代りというはしゃくだ、舟がなけりゃいい、もとの龍神だ、宝舟を持ってけ、うっふ、七人乗せりゃ海をわたる。」
 はあて、あした朝、雪の上にどっかと、空ろ舟が横たわる。
 石の舟が、手をふれると、ふわっと宙に浮く。
「こりゃおおごとだ。」
 お寺へすっ飛んで行った。
「かくかくしかじか。」
 というと、
「そりゃあわしに、天竺へ行けということだ、永年信心のわしに代わって、六兵衛の夢枕にたった。」
 と、和尚は云った。
「大黒さま毘沙門天をのせ、布袋大和尚の先達で、寿老人にかわって本寺の和尚がいいか、ご本尊の観音さまがいいか、わしはええ弁財天、ちがう羅漢さまじゃ、むろん吉祥天も連れて。」
 目が裏返っちまって、ただごとじゃねえ。
「よいか、だれにも云わずと、宝舟の番をしとれ。」
「へいへい。」
 六兵衛帰って来た。
 舟はちゃーんとある、
「坊主来るまえに、七人。」
 かあちゃんは行かんという、おまえさまとじゃ、どこへも行かねって、へえそういうもんかね。太吉のせがれ、
「あいつ魚取りうまいで、えびすさまな。」
 飲み屋の美代ちゃん、ありゃもう弁天さま、たくあん作りのおっかさいた、長生きしそうだで、ふくろくじゅ。
 男でも女でもいいや。
 娘が連れてけといった。
「しゃあない、おおまけにまけて吉祥天。」
 おれがほていっぱらで、布袋和尚。
 酒止めた五郎がいた、毘沙門天だ。
 あとはわかんねえ。
「六人でいいか。」
 舟に聞いたら、
「おっつけどっかで拾え、六兵衛だでまあまけてやる。」
 空ろ舟が云った。
 六人乗り込んで、どかんと浮いた。
 雪のさんざし村をあとに、大海へ出る。
 舟は順風満帆。
「さすが宝舟だあ。」
 六兵衛うつらと眠った。
 いっぺえひっかけたのが効いた。
 おんや七人めが乗ってる、どじょうひげを生やした、太鼓腹、
「おまえさまはだれじゃ。」
「布袋和尚よ。」
 そやつは云った。
「じゃおれはなんにすりゃいい。」
「ふんなこた知るか。」
「なんだと。」
 どやすとそやつ、狸になった。
「うへえ狸が化かした、じゃこの舟はなんだ。」
「たぬきのきんたま百畳敷き。」
 とたんにぶっくら沈む。
「うわあ。」
 おぼれかけて、目が覚めた。
「なに。」
 順風満帆で舟は行く。
 どういうこった。
「七人めがもうじき来る。」
 舟が云った。
 アッハッハだれかこの先を、くっつけておくれ。
(タイに行ったんだよ、娘に怒られ、おねえちゃんに怒られ、さんざんなめにあって、そんでもって、無事に帰っては来た、はーい。)

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とんとむかし

  出世名代  

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし三川村に、さいのうという子があった。十の時戦があって、村中燃えて、父も母も殺された。さいのうはそこらほっつき歩いていたが、腹へる。
 兵のうぶら下げた侍が来た。
 そいつへぼうきれ持って、向かい立つ。
「のけ、こわっぱ。」
「きえおうりゃ。」
 あっさりのした。
 強そうなのが、ふん伸びる。
「あほうみてえだ、父も母もなんで死んだ。」
 くそうめ、さいのうは、でもってそうやって暮らしていた。
 侍だろうが商人だろうが、十の子がうちのめす。十何人、殺したかかたわにした。
 立派な侍が来た、
「野良犬というはおまえか。」
 という、
「おっほう、こやつはたんまり。」
 やったつもりが、さいのうは襟首つかまれ、
「えい殺せ。」
「そうさ、おまえは死んだ。」
 侍は云った。
「ではわしのものだ、云うことを聞け、寸分違わずな。」
 さいのうは引っ立てられた。
 お屋敷であった、山あり谷ありする。弟子が何人もいた。月光殿と呼ばれ、逃げ出そうが連れ戻される。
 こき使われて、刀術を仕込まれた。
「月光だと、なんてえつまらねえ。」
 へらず口を叩くだけましの、死んだものに容赦はなく。
 若かった。
 生き伸びて三年、その名も知らぬ、主が来た。
「さいのうか、しんさどのに預けよう。」
 と云った。
「わしは月の宮兵道という、知られた兵法者だ。」
 ふっと笑う、
「戦人を育てて、売り込む商売だな。おまえは一つ上だ、師のしんさ弘道どのに預ける。」
 さいのうは刀を一振り貰って、月光殿を去った。
 しんさどのは、一つ家に住む、ふっさりと白髪の、それが手も足も出なかった。兵道どのにはついに一本取った。
 違う。
 さいのうは初めて人を見た。
「さらっと風みてえな。」
 風というより水か、極意を得ようと、
「水は切れんわい。」
 身の回りから、走り使いから、
「見切りだ。」
 すきだらけが鉄壁。
 しんさどのは、太刀はめったに取らず、
「さいの来い。」
 と云って連れて行く。賑やかに花やいだり、茶の湯であったりした。
 詩や歌を。  
「ほっほ才があるな、文字も書けなかったやつが。」
 と云って、笛を吹かせ、能を舞うたり。
 ただの棒切れが、貴公子になった。
 また、忍びの術を知った。
 だれが来て教え込む、いっぺんでこなした。
「売れたな。」
 ある日、しんさどのが云った。
「いい価が付いた、おまえは田無のお城へ行け、巴摂津守が主だ、ようも仕えな。」
「はい。」
 一つ返事で行く他はなく、さいのうは巴せっつの、お小姓になった。
 どじょうひげを生やした、大兵肥満摂津守の、所用もあるにはあったが、夜伽の相手をさらって来いという、
「いい女をな、でないとおまえを。」
 ぐえ、死んだがましだ。仕方がないさらって来た、それらしいのへ云い含める。
 金も使った、嫌な仕事だった。
「おまえにというなら。」
 恨み目をして見やる女。
 巴せっつをぶった切って、逃げようかと思ったら、戦になる。
 山木丹後のいわきのお城を攻める。
 ようやく戦働きかと、
「うってつけの仕事だ、山木のおてんば娘、名に聞こえた、豊姫をかどわかせ。」
 巴せっつが云った。
「さらって来るんですか。」
「逐電したいそうじゃないか、どこへなと連れて行け。」
 名うての娘をかっさらわれたとあっては、山木の面目丸潰れ。
「わしがってのは困る。」 
 巴せっつめ、なんてえ阿呆な。
 いわき城に、さいのうは忍び込んだ。
 戦を苦もなく抜けて、寝処に入る。
 夜目にも美しい姫であった。
「申し訳ないが、おまえさまをかどわかす。」
「なんとな。」
 たまげる様子もなく、
「ほう、貴公子じゃな、面白そうだの。」
 当て身をくれた。敵陣も味方も抜け、はてどうしようかと、結城の、みずきのお城へ運んだ、たしかお似合いの若殿がいた。
 結城ともやすという、その寝処へほうり込んだ。
「いま少し大切に扱え。」
 とっくに覚めていたらしい、おてんば娘の豊姫が云った。
「おだやかならぬ訪問じゃな。」
 結城ともやす、若とのが云った。さいのうはいなおって、成り行きを語った。
「わたしを切っても、たいてい手間がかかるだけですが。」
 と云うと、
「では、飯を食わせてやろう。」
 ともやすはあっさり云った。
「それでお姫さまはどうなさる、山木へ帰らっやるか。」
 豊姫に聞く、
「そうなあ、せっかくのえにしじゃ、わたしに兵を預けて下され、すけべえのひひおやじ巴に、不意討ちを掛ける、お礼の事は勝った暁にな。」 
「わっはっはそいつは豪気だ。」
 結城ともやすは豊姫に兵をつけ、さいのうにもついて行けと云った。
「一人千人分の働きをするという、しんさ名代、聞いておるぞ。」
 と云った。
 さいのうは、草でも刈るように敵を倒した。おのれのほどを初めて知った。
「呼吸をするよう、飯でも食うようと、師はいわれたが、なまなか兵法とは。」
 と感じ入る。
 巴は破れ、山木と水城が縁を結んだ。
 名うての豊姫さまの、天下に聞こえたお輿入れ。
 さいのうは、水城の忍びになった。
 また戦であった。
 下に十人の男女がいた、男女まったく変わらず働く。
 うちとけて、さいのうに云った、
「わしらは山の者よ、敵味方もないさ、金で雇われて働く、わっはっは。」
 変わっている。
 のびのびと屈託がない。
 風雲急を告げた。手を組んだいがしが寝返って、水城は危うい。
 山木は破れ、
「知れなかったは、われらが責め。」
 さいのうは配下たったの十人と、不意討をかけた。土砂ぶり降る雨に、囲みを破って、いがしの首級を上げた。
 十人のうち、生き残ったのは二人。
「骨を拾って山へ帰る。」
 生き残りは云った。
 にっと笑って、
「おまえさま御用とあれば、十人二十人は、すぐ馳せ参ずるが。」
 と云った。
 しんさどのからさいのうに、伊能へうつれと云って来た。
「侍大将から一国一城の主だ、よう狙え。」
 とある。
 野放図の勢いといい、地の利からも、こうずの伊能は天下取り。
 立派な紹介状に、さいのうは表門から入った。
「そんなものは、くそ役にも立たん。」
 いくらも年の違わぬ、伊能は云った。
「そのようで。」
 つっかえされた紙片を破ると、彼はわっはあと笑って、
「では一兵卒からだ、そちの名を再度わしの耳に入れろ。」
 という。
 目覚ましい働きを、手や足ごとではなかった、油断もすきもない知恵比べ、一発外れたら終わりだった。
 百人頭になって、さいのうは山の民を呼んだ。
 どこに住んだか知れぬ。
 つなぎがあった。
 来た。
 川向うの光山の二十万、どっちつかずで剣呑だ、あれをなんとかしろという、伊能の難題であった。
 さいのうは引き受けた。
「見たことがあるな。」
「紹介状を破ったさいのうです。」
「そうか、しくじったら打ち首ぐらいにはしてやる。」
「ありがたき幸せ。」
 山の民を使って調べた。
 聞こえた将もいた、光山が愚かであった、急場に起とうとはしない。
 二三引き抜いた。
 山の民に細工して、ぼんくらの光山をそそのかす。
「敵は伊能じゃ、ひねりつぶして、斎藤に手土産にする。」
 ぼんくら殿が云った。
「斎藤の娘おりんがほしい。」
 見える連中は逃げ出した。
 大大名の斎藤は、もう落ち目であった。
 光山太夫は攻めて来た。
「まずは手薄の、成り上がりものを。」
 という、とやこうはあったが、さいのうは派手に討ち勝った。
 手柄をもって侍大将になった。
 一方の旗頭である、北門の大将。
「城が欲しいか、だったら一つやろう。女房も貰え。」
 伊能がくれたのは、きわという小城で、合戦には、敵を食い止めて破れる、
「生き残るほうがたいへんだ。」
 女房どころか住まぬほうがいい。伊能の兵は城に入れ、さいのうは精鋭を引き連れ、山の民と野に伏った。
 掘や、仕掛けも作った。
「猿渡り忍法という、ちいとえげつないが。」
 といって、三回の戦を守り抜いた。
 奇跡のようであった。
 何年をいったい合戦に明け暮れて、ついには西の侍大将に、さいのうは大抜擢された。筆頭である、りっぱなお城も手に入った。
 一国一城の主。
 しんさどのから何か云って来るはずが、戦は止んだり、とつぜん起こったりした。
 茶の湯があった。
 歌を読んだりする。
 能舞台に立つ。
 さいのうがこれも面目を、とつぜんいやになった。  
「さむらいなんぞ、殺し合いだけやってりゃいいんだ。」
 伊能か、
(ふーん大根役者め。)
 しんさ流、そのみやび刀法がなつかしかった。
 殺戮と阿鼻叫喚。
 いっそつまらぬ。
 一敗地にまみれた。
 人を信じてみせる、伊能のくせ、そいつがあだになった。
 面目だけの大将が抜かった。
 伊能を逃がした、さいのうはしんがり。
 大切な山の民を失った。
 たといだれ死んだがなんとも思わずが、悲しくなった。
 すんでに盛り返し、戦は大勝する。
 なぜか一人歩いていた、手勢もつれず林中の、ここはいったいどこだ。
 人影が立つ。しんさどのの使いだった。
「伊能を殺して、おまえが取って代われ。」
 とある。
(そうかなるほど。)
 さいのうは知った。
「とんだ見込み違いってな、そうは思わなんだか。」 
 と。
 伊能を殺すは簡単だ。
 暗殺ではせんない。
 今井を遠方にやり、片棒を担ぐは誰か、しばらく思案する。
 とやこうお膳立てよりも、機を待つが肝要。
 まあそういうこったと、さいのうに女が訪ねて来た。
 それはうまく変装した、水城へ嫁いで行った豊姫だった。
 さらでも美しく。
「わたしはやっぱり、おまえが恋しかった。」
 豊姫は云った。
「わたしをうばって逃げておくれ。」
「いったいどこへ逃げる。」
 居直りでは納まらぬ。
 戦で分取りゃ別だが。
 ばからしいか。
 どっちがばからしい。
「山の民のところへ行こう、戦国往来の、そうさなあれは自由人。」
 わたしらも自由の民、
「ほっほ、殺しあいは飽いたな。」
 豊姫が云った。
 連絡を取ると、受入れようぞという返事。
 忍び出た。
 二人道行きの、十のころからに、こんなに楽しいことはなかった。
 せせらぎの水を飲み、ほしいを食らい、抱きあい、大声で笑い、迎えが来るというときに、うっそりと人影が立つ。
 しんさ弘道であった。
「なんで来たか、わかっているであろうな。」
 立ち会いは一瞬に決まった。
 ひざをえぐられ、谷を流れて行く。
「命だけはくれてやろう、好きであった。」
 と、声が聞こえた。

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とんとむかし

  花の子守歌    

 銀のお椀に雪を盛り、
 金のお椀に月を盛り、
 一つぴっかりねんころろ、
 二つ風呂がわいたとさ。

 人の舟には吹き流し、
 天の舟には酒をのせ、
 三つ三日月ねんこころ、
 四つよそゆきおべべ着て。

 浅い井戸には花の影、
 深い井戸には星の影、
 五つごーんとお寺の鐘が、
 六つ向こうの鎮守さま。

 遠い橋には笛の音、
 近い橋には木やり歌、
 七つ泣かんでねんこころ、
 八つ谷内田のひきがえる。
  
 金のかんざし春の雨、
 銀のかんざし秋の雨、
 九つ今生水ん呑み、
 十は冬夜の米ん団子。

 米の倉には影法師、
 繭の倉には棉帽子、
 十一じゅんのび正月だ、
 十二みよしの二本松。

 はやい流れに袖を投げ、
 おそい流れに帯を投げ、
 十三七つの子守歌、
 十四あしたは十五夜の。

 高い塀には龍の角、
 低い塀には獅子頭、
 十五でかあさんねえなった、
 十六いざよい雲の中。

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とんとむかし

  五木の雪女

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、五木村あたり、山また山に、雪女が住むといった。
 晴れわたった空に、どっかり雪女の姿が浮かぶ。泣くような笑うような、雲になって消える。
 いい男に惚れるといった。
 それは美しい女で、吐く息一つで、人を殺したり、活かしたりもした。
 腹ちがいの子や、母親のない子を、
「雪女が産んだ。」
 といった。
 それは、たいていいいかげんだった。
 ゆきは雪女が産んだから、ゆきと名付けたと父が云った。
 だったらきれいなはずが、二人の姉は、人みなに振り返るほどだったが、ゆきは霜焼けのはれぼったい目して、ぼてぼての手足に、あばた面だった。
 腹ちがいのゆきは、引っ込み思案で、なにか云えば俯く、いじめられてばっかりいた。
 二人の姉が、ふりそで着たり、美しい浴衣着て、お盆に踊ったりするのに、ゆきはいつもそこら掃除して、すすだらけでもって、かまどにいた。
 殿の若子が、よそうべえさまのお屋敷に泊まった。
 われと思う娘や、ゆきの二人の姉も、いい着物着て、どっとめかしこんで、お手伝いに行った。
 若子やお付きに、お膳を出したり、歌ったり。
 ゆきは、よそうべえさまに行くなぞ、思いもよらず、使いから帰って来たら、道ばたに見も知らぬ女がいた。
 被りものをして、面は見えぬ。
「おいで。」
 という、寄って行くと、
「いくつになる。」
 と聞いた、
「十四です。」
「そうなるか。」
 女は云って笑うと、ほっと息吹きかけた。
 ゆきは帰って来て、仕事をすると、手がすべすべする、まっしろうなって、あばたも消えている、汲んだ水に面が映る、
「これはだれ。」
 そんなに美しいものを、かつて見たことがなかった。
 引っ込み思案のゆきは、きっといじめられると思い、よそうべえさまにも行かず、どうしようかって、その顔にすすを塗った。
「五木村にとりわけ美しい子がいると、夢に見えたが。」
 殿の若子は、夢は夢であったかと云って、帰って行った。
 でもって、二人の姉は、じきに、似合いのところへ嫁いで行った。
 ゆきは一人畑仕事へ出されて、山の井戸にすすを落として映す。
「なんていう美しい、もうどこへでも嫁いで行ける。」
 そう思うたって、ままならず。
 炭焼きがゆきを見染めた。
 どうでもという。
 ゆきは炭焼きと過ごす。
 いい男ではあったそうの、でも暑いのはいやで、
「さむいのもいや。」
 と云って、家へ帰って来た。 
 とつぜん花が咲いたよう。
 あでやかな大輪の。
 知れわたって、あたり一帯の、男という男がよったくる。
 好きな男に、ゆきはついて行った。
 いい着物を着て、流行りの舞いを舞ったり、おいしいものを食べて、芝居を見て、そうして、十日もすると飽きる。
 どこにいたかわからない。
「むかし、ゆきのような女がいたな。」
 物知りが云った。
 ゆきと、殿の若子と浮気をしり。
「そうさ、そんなこともあったぜ。」
 という。
 しまい刃傷沙汰があって、行方知れずになったという、それが、やっぱりそうなった。
「あっちへひいらい、
 こっちへふうらり、
 雪女、
 溶けて流れて、
 五木村。」
 というのが、村の縁起だって、そんなのないったらってさ。
 ゆきを争って、二人の男が、刃物を振り回す。
 すんでに逃れて、ゆきは山へ走った。
 息を吐きかけた女が立つ。
「あとつぎが来た、死なねばならん。」
 女は云った。
「そうならぬよう、殿の若子にもさ、嫁がせてと思ったのに。」
「あとつぎって。」
「雪女になって暮らすのさ。」
 と云った。
 冬であった。
 またぎが鉄砲をうった。
 手応えがあった。倒れ伏すのは、美しい女であった。
 それが消える。
「雪女だ。」
 死んだんだ、またぎは云った。
 どっかり晴れた空に、雪女は現れなくなった。
 ゆきは、引っ込み思案だったとさ。

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とんとむかし

  月見うどん

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、鳥越村の三太郎のところへ、借金取りが来た。
「大年だで、払ってくれねえと、なべもふとんも、おたからみんな、持ってっちまうが。」
 と云うと、三太郎が、
「腹へったで、うどんを買ってな、そいつ、雪の上へ落っことした。」
 という。
「さがしても見当たらねえ。」
「だからなんだ。」
「狸が拾ってな、卵うどんにして食ってた。」
「なぬ。」
「月夜の晩でさ、卵と思ったら、お椀に映ったお月さん。」
 月見うどんだ、あっはっはと笑う。
「狸でからっぽ、おたからなんにもねえよ。」
「なんでからっぽだ。」
「たからからた抜き。」
 借金取りが、
「くそてんぼうこき。」
 と云って、三太郎をぶんなぐったら、かすってよけた。たぬきうどんは、てんかすだってさ。
 どうれ一丁さけた。
 なんだって、きつねうどんだって。
 ええ、とんびに油揚げさらわれた。
 鉄砲うちがどうんとうった。
 とんびは逃げた。
 お稲荷さんの油揚、きつねどうん。
 はいきつねうどん。
 そんなのねえやって、いいからもう寝な。

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とんとむかし

  犬神のほこら

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、三瀬の村に、にれの大木と、塚があった。
 犬をほうむった犬塚という。
 そこへみなしごの女の子が宿った。雨つゆをしのいで、寝ていると、夢にお侍が立つ。
「姫さま、お待ちもうしておりましたぞ。」 という、
「殿さまも奥方さまも、討ち死になされた、だが我らがありもうす、戦はこれからじゃ。」
 お乗りなされといって、お侍は大きな犬になった。
 女の子はその背に乗った。
 おたけび、弓矢の雨。
 戦場をかけ抜ける。
 おーんと鳴いて、犬は倒れ、
 女の子も射貫かれ。
 そうして、人と犬は天を行く。
 示すところに、犬と美しい姫の星があった。
「かくしておいた宝がある、それにてお家をおこしー 」
 と聞こえ、目が覚めた。
 みなしごは、草むらに小判を拾った。
 それで、幸せに嫁いで行ったという。
 いえ、みなしごは夜露に死んで、てんとう虫になったと。
 てんとうむしは、宝のありかを知らせるという。

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とんとむかし

   衣

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、ゆうげん村に、いいらこという乙女があった。
 いいらこの恋人を、ああらいがうばった。
 月の汀を歩き、子安の貝に末を誓った、あたしのたいへいを。
 ああらいをなじると、
「蛙足のおまえより、長い髪のうねるようなあたしを欲しいって。」
 と云った。
 流れ寄せるびんろうだって、浜をえらぶ。
 たいへいは、ああらいの手をとって歩く。
 蛙足の、でも、風に燃え立つような髪を、しんさあは美しいといった。耳がかわいいと云った。
 年下であった。
 二人腕を組んで歩く。
 大波のように来て、ああらいがその腕を取る。
 たいへいははつまらない、返してあげようと云った。
 いいらこは口惜しかった。
 かきをむくナイフを取って、刺そうとした。
 憎いああらいを、待ち受けた。
「生きていたってせんもない。」
 波がうちよせる。
 みにくいあたし。 
 ナイフを、いいらこはその胸に、ー
 すると声がした。
「美しくなりたいか。」
 と云う、 
「なりたい。」
 いいらこは云った。
「では、二年の間は何をしようが、思い通りにさせよう。」
 そう聞こえ、
「舟を漕いで西へ行け、衣がある。」
「はい。」
 どうせなかった命、いいらこは、舟を漕いで西へ。
 どんざん波の洗う、島であった。
 衣があった。
 白い顔を見たような気がした。行くと、虹のように美しい衣であった。
 軽やかに袖を通す。
 それは、消えては現われ、日輪のようないいらこ。
 男という男が、恋いこがれ、いいらこがなければ、日も夜も明けぬ。
 浮き世の二年は、彼女のもの。
 ああらいは狂って死んだ。
 物憂げに、浜を歩く。
 とつぜん波にさらわれて、いいらこは漂いついた。
 衣をつけて横たわる。
 潮のものが、体を食い荒らし。
 死なずにいて、
「次のいけにえが来るまではな。」
 と聞こえ。

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2007年4月12日 (木)

へきがんろく

頌・翠巌徒に示す。(這の老賊。人家の男女を教壊す。)千古対無し。(千箇万箇。也一箇半箇有り。分一節。)関字相酬ゆ。(道ふことを信ぜずや。妨げず奇特なることを。若し是れ恁麼の人ならば方に恁麼に道ふことを解せん。)失銭遭罪。(気を飲み声を呑む。雪竇も也少なからず。声に和して便ち打たん。)潦倒たる保福。(同行道伴。猶ほ這の去就を作す。両箇三箇。)抑揚得難し。(放行把住。誰か是れ同生同死。他を謗ずること莫んば好し。且喜すらくは没交渉。)労労たる翠巌。(這の野狐精。口を合取せば好し。)分明に是れ賊。(道著するも也妨げず。捉敗了也。)白圭瑕無し。(還って弁得するや。天下の人価を知らず。)誰か真仮を弁ぜん。(多くは只是れ仮。山僧従来眼無し。碧眼の胡僧。)長慶相諳んず。(是れ精製を識る。須らく是れ他にして始めて得べし。未だ一半も得ざること在り。)眉毛生也。(什麼の処にか在る。頂門上より脚跟下に至るまで一茎草も也無し。)

翠巌徒に示す、(この老賊です、手練手管ですか、百戦錬磨という瑕がついたら、そりゃ過ぎたるは及ばざるが如く、人家の男女を教壊するには、ただぶっこわしてもかえって爪弾き、あっはっはわしのよくやるやつ、もうちょっと手練ですか、うふ。)千古対無し、そりゃもうまったくそういうこったです、眉毛ありや、言語を絶することをかえって知らないんです。お釈迦さんも知らないんですか、観音さまはご存知ですか、はて達磨さんは。(ものみなかくの如し、知ってるやつの一人半分、いえさただこれ。)関字あいむくゆ、かんとこれ。そうだよっていうには、まったく不足を見てください、あいむくいなけりゃ、そりゃしょうがない。(どうだいっていうんです、さまたげず奇特なることを、たしかだろうがさ、能書きしたってわからん、知るやつのみ知る。)失銭遭罪は、むかし銭なくした者は罰せられた、泣き面に蜂です。関だって、もう一度ぶん殴られる、いえさあなたが、殴られるほどだったら大喜びですか、まあまあ。(気を飲み声を呑む、翠巌もです、雪竇もまた、だれかさんもさ。えーい三十棒あっはっは。)潦倒たる保福、潦は大雨のさま溜まり水だってさ、ちいっとはか行かぬさまですか。賊となる人心虚なり。(同行道伴。そりゃまあいいんだけれども、だからどうだってんだ、二人三人ていうんです、役に立ちますか。)抑揚得難し、(尻馬に乗る、同生同死底、まあさ他なし、とやこうのこっちゃないよ。)労は口へんです、労労たるでも通じますか、がやがややかましいっていうんですが、賊心大いにご苦労さんってふうに、一昨日おいで。(やこぜい、野狐禅ですか、じきに得たり口へんたんの如くなるを、むうと黙っちゃんですか、二通りありますか、是と不是と、いいえ翠巌でなくあなたです。)分明に是れ賊って蛇足みたいの。白圭きずなし、まっしろい玉です、賊とは何かよくよく参じて下さい。(世間一般の賊じゃないんですよ、手を触れりゃ大火傷、いえどっかへ吹っ飛んじまう。)誰れか真仮を弁ぜん。真仮を弁ずるまったくなし、これを知る、でなきゃ届かんですよ。(多くはきず、なにどうしたって瑕、おらあ知らんよ、碧い眼の達磨さんにでも聞いておくれ。)長慶あい諳らんず。生ぜりと道う、どうですか、なにほどか得たですか、馬走れの鞭影。(未だ一半をえざることあり。)いずれのところにかある、頭のてっぺんから足の下までっていうからに、一茎草。どあほ。

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2007年4月11日 (水)

とんとむかし

   松のかぎ

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、みほという、女の子があった。
 母が星を呑んだ夢を見て、生まれたという。
「きっと幸せになる。」
 といって、みほしでは呼びにくい、みほになった。
 みほじゃ美穂になっちまう、でもいいかと父が云った。
 母は美しく、はきだめに鶴だと人は云った。
「もとはなあ。」
 と父は云った。
 笹の御殿というお屋敷があって、わしらはそこから来た。妻もまあさ、ご先祖さまがつかわした。
 今にみほがわしらを救ってくれる、
 男の子ならこの世を救うといって、酒を飲んだ。
 みほは、しろという大きな犬と、村外れのお宮まで行き、その向こうのお化け杉や、宝が埋まっているというつつじ山や、走り回って遊んでいた。
 母が呼ぶ。笹むらが鳴って、天から降り立つような、光さして。
 そうして咲まう。
 ある日、お宮に泥棒がいた。
 坊主頭で、ばかのような目をする。
「売れそうな子だな、おいで。」
 といった。
 みほは飛んで逃げた。
 村人が総出で行って、つかまえた。
 大きなしろは吠えもしない。
「きざはしに寝ていただけだ。」
 泥棒は、すきをみて逃げ出した。
「あいつは、ばんたかという、人殺しはするし、えらい悪たれよ。」
 人が云った。
 美しい母がいなくなった。
 なぜかわからない。
 父は飲んだくれて、
「そうさ、もうおしまいだ。」
 首くくって死ぬといって、かけた縄が何本になったか。
 戦争になった。
 兵が村に火を放つ。
「この子は星の、ー 」
 といって、酔っ払いの父は殺され、みほは逃げた。
 草につっぷすのを、引っ立てられた。
 柵があった。
 子供も大人もいた。
 兵をつれて大将が来た。
「使えそうなのを五十人。」
 という
「しろ。」
 呼ぼうとして、すんでにこらえた。
 犬にそっくりの大将。しろはどこへ行ったか。
「がきは捨てろ。」
「役に立ちそうな子もいますが。」
 と云う。
 ばんたかという、お宮にいた泥棒だった。
 みほはふるえ上がった。
 どうしよう。
 すきに、柵を抜けようとして、
「はあ。」
 その手をつかむ。
 にっと笑って、大きな男の子が、
「おともするぜ。」
 と云った。
 抜け出して、二人は走った。
「おまえ、星の子だろう。」
 男の子が云った。
「みほ。」
「きれいなおっかさんがいたな、由紀の大殿に見染められてさ、行ってしまった。」
「どういうこと。」
 男の子はかぶりを振る。
 いゆといった。
 食い物を盗み、兵からもかっぱらい、魚を取ったり、栗を拾ったり。
 焚火をして、二人は宿った。
 何日かした。
「冬になる。」
 といって、いゆは牛を盗んで来た。
「京へ行って、牛方になろう。」
 険しい道を行く。
 みほを牛に乗せたり、二人牛と温まって伏す。
 追手が来た。
 兵と牛の飼い主と。
 いゆはみほを逃がす。
「さあこっちへ来い。」
 そう呼ぶいゆの声。
 みほは歩いていた。
 雪の中を、そうしてわからず。
 目を開けると、どうと風が吹いて、笹が鳴る。
 お屋敷があった。
 朱塗りの大門に、白虎が見下ろす。
 廻って行くと、とつぜん犬にそっくりの大将と、泥棒がいた。
 叫び上げると、さらし首であった。
「まさにもってかくのごとし。」
 と、金文字に浮かんで、札が立つ。
 くぐり戸が開いた、
「おいで。」
 みほは入って行った。
 めくらむような、黄金のきざはし。
「おまえは何が出来る。」
 草の衣の人が立った。
「なんにも。」
「ほっほっほそうかな、じゃが扉が開いた。」
 その人は、みほをさくらの衣に引き合わせた。
 恐そうな女、
「よう云うことを聞け。」
「返事は。」
「はい。」
 うっふうと笑う。
 大空の衣に、みほは働いた。
 なんでもした。
 とちったり、しかられたり。
 ようも稼いで、かわいがられた。
「にしきさまのお越しじゃ。」
 さくらの衣が云った。
「ついておいで、そそうのなきよう。」
 控えの間に、招ばれて行く。
 鳳凰のかんざしに、すきとおるうちかけ、紅葉の衣、いえあれは十二単と。
 美しい、
(お母さん。)
 みほは、声を飲む。
 母は月、このお方は日輪。
「ようもお務めかいな、おいくつになられた。」
 と聞かれ、
「十二になりまする。」
 答えた。
(お声をかけられた。)
 それはもうたいへんなことだと。
 一年たった。
 みほは部屋を貰い。
 七つあるお倉のかぎの、一つを預かった。
「それは松のお倉です、たいそうなご出世です。」
 さくらの衣が云った。
「わたしどもには到底。」
 ため息をつく。
 きっといいお婿さんが来ますと云った。
 松のお倉には、蒔絵のお膳やお椀があって、さかずきや水差しや、そうして、数ある掛けものの中に、なんにも描いてない、まっしろい屏風があった。
 接待には、お倉のかぎを開けて、みほは貴品に応じて、数ある品を出し入れした。数十人の空やさくらの衣がついた。
 まっしろい屏風。
 息を吐きかけると、どっと応ずるような、みほは慌てて飛びのいた。
 十五になった。美しく生いなる。
 呼ばれて行くと、若い公達。
 きらを尽くした、るりやはりの器のような、
「いいお方を択びなさい。」
 聞こえて振り向くと、鳳凰が今日は、しゃんときりんのかんざしをさして、にしきさま。
「いずれおまえを望んで、こうして押しかけた。」
 ほおと笑まう。長い袖に面を押さえる、泣くように美しく。
 押しかけの若者よりも、みほは見とれ。
(お母さん。)
「いいのですよ、今は決めずとも。」
 さんざめいてのち、みほは引き下がる。
 いゆはどうしたか。死んだであろう、手傷を負うて。
 公達のいおりがやって来た、
「これはきゃらという。」
 良き香りのものを手土産に、
「女というものは、おっほっほ、宵待ち草より立ち待ちの月。」
 おもしろおかしく、
「むらくもよりは出ぬほうが。」
 みほも負けてはいず。
 続いてみさといくおがやって来た、松のお倉の御用も、そっちのけ。
 お倉のかぎは、使をうとすると手にある。
 双六をし、碁を囲み、山吹が咲いたといっては、野辺に行き、みほの歌に、いっそ口をへの字。
 笹のお屋敷というこれは、
「そうじゃのう。」
 と、公達の客、歌に詠むには、
「だれも主を見たものはない。」
「接待するは、人にはあらずその宿世。」
 という。みほをわがものにと、勢い込む。
 一年が過ぎた。
 事件が起こった。
「触れずの屏風におもかげが。」
 さくらの衣が云う。
 まっしろい表に、龍の姿が浮かぶ。
 日増しに写し出す。
 目が開いてらんらんと輝く。
 草の衣の人が立った。
「あれに息を吹きかけたとな。」
 という、
「ではおまえのここでの暮らしは終わった。行かねばならぬ、龍の抜ける前にな。」
 だれかれ騒然。
 急かれて、みほは走った。
 大門を走り出ると、雷鳴りとよみ雲を呼んで、おどろに渦巻く。
 天駆ける龍。
 みほは突っ伏した。
 笹むらがさやぐ。
 雪がふって来た。
 すべては夢であったか。
 奥深い山中であった。
 歩いて行くと、
「おーい。」
 と呼ぶ、
「わしだ、かつてはいゆと云いし者。」
 狩り衣に弓を持つ。
 立派な若者であった。
「星がここへ導く夢を見た、やって来た甲斐があったぞ。」
 という、
「わしは石見の中将ともうす、けはやという犬と、盗人のばんたかを退治してな。出世したわ。大殿さまの、覚えもめでたく。」
 わっはっはと笑った。
「ずっと捜しておったぞ。」
 二人の道行き。り衣に弓を持つ。
 立派な若者であった。
「星がここへ導く夢を見た、やって来た甲斐があったぞ。」
 という、
「わしは石見の中将ともうす、けはやという犬と、盗人のばんたかを退治してな。出世したわ。大殿さまの、覚えもめでたく。」
 わっはっはと笑った。
「ずっと捜しておったぞ。」
 二人の道行き。

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とんとむかし

   日のさす  

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、椎谷村にあよという、女の子があった。
 あよが六つの年、大飢饉があって、だれかれ食べて行けなくなった。
 貧しいあよの父母は、
「娘を、あよさへ生きていれば。」
 といって、ふだらくとかいの舟に乗った。
 夕日に舟をこいで、お浄土へ行く。きっと観音さまが聞き届けて、人の難儀を救ってくれるという。
 父母は行ってしまった。
 あよは食べさせて貰っていた。
 大飢饉は去る。 
 実った柿に雪が降った。
 鳥が群れて、ふうらん揺れてついばむ。
「ふだらくとかいってなあに。」
 あよは聞いた。
「ひーよぴよ西へ行け。」
 ひよ鳥が鳴いた。
 あよは西へ行った。
 どうと風が吹いて、日差しがぽっかり。
 くるくる巻いて、雪が落ちる、
「父も母もどこへ行った。」
 あよは聞いた。
「風は南から。」
 雪の壁が云った。
 あよは南へ行った。
 傘さして、杉の林が、
「おいさ、おうさ。」
 と、大声に叫ぶ、
「東だ、日が上る。」
 と云った。
 あよは東へ行った。
 雲がよぎる。
 あよは走った。
 ぞうりが脱げ、はだしで走った。
「北へ。」
 まっしろい息が云う。
 雪がふる。
 荒海であった。
 かもめが狂ったように舞い飛ぶ。
 向こうに光射す。
 あよは忘れなかった。
 波に光射す。
 云い表わせば、それは、
「自分の苦しみはいい、人がもし困っていたら、手をさし出せ。」
 ということだった。
 七十まで生きた。死ぬるとき、光の雲に乗って、父母が迎えに来た。

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とんとむかし

  ひょうたんの中

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、いんの村に、じょうえんげという仙人が住んでいた。
 じょうえんげは、ひょうたんを持っていた。
 杖を引いて、そのあたり幽玄の松や、糸を引く滝や、霧を吹く岩や、紅葉や、気に入った風景があると、
「ぽん。」
 と栓を抜いて、ひょうたんに取り込んだ。
 持ち帰って、一人取り出して、心ゆく楽しんだ。
 飽いたら返しておく。
 仙人は雲に乗って、唐や天竺までも行く。まっしろいひげは三尺、ひょうたんはこの世のお宝、
「じょうえんげのひょうたん。」
 といって、これは稼げそうだ。盗人が伝え聞いて、昼寝のひげをひっとらえて殺し、お宝を奪い取った。
「なんだこやつは。」
 なんのへんてつもない、栓を抜いたら、
「ふーい。」
 盗人が吸い込まれた。
 風景が吸い込まれ、町村山川すっぽり入る。
 とどまるところを知らず。
 今も吸い込んでいる。
 宇宙のはてもじき。
 人はじょうえんげのひょうたんの中に住んでいる。
 どっかの猿が来て、ぽんとおしりを叩くまで。
 ひょうたんの口が見えると、幸せになるとさ。

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とんとむかし

   かごのような
 
 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、千田村に、たがだしという乱暴者がいた。
 身のたけ丈をこえという、十尺だから三メートル余り、そんなわけはないが、丈六の金身とも伝わる。
 金色の汗を流したという。
 大石を持ち上げて、どーんと落とした。屋鳴振動して、村長の家が傾いだ。村長が怒った、とやこういうのを、かっぱじいたら死んでしまった。
 村を追われ、たがだしは曽根の村へ来た。
 娘が追って来た。村長の横恋慕した娘で、見兼ねて、軒ごとゆすり上げたという、たがだしびいきの話だ。
 ともあれあちよという女がいた。
 惚れて通うのを、
「あんなもん、婿になられたら困る。」
 といって、曽根の村中よって、たがだしの通って来るところへ、火をかけた。火は八方から押し寄せた。火達磨になってあちよを奪い、たがだしは、せいどの池に飛び込んだ。
 池には、笹島という島があって、そこで二人暮らした。
 あちよは死んだ。
 たがだしは悲しんだ。
 せいどの水が青く変わる。 
 怒り狂って、曽根の村を襲い、たいてい男は皆殺しにしたという。
「嫁がねえんなら曽根へ行け。」
 というほどに、今も女ばっかりの村という。
 たがだしが大きく、たくましく育ったのは、赤ん坊のとき、母親が松の平らへ行って、乳を含ませた。
 松の平らに松はなしといって、山おくの塩のきつい水に、鳥やけものが寄り、弱い人や、産後の肥立ちの悪い女が汲む。それがとつぜん黄金の水を吹く。
 玉清水という。
 浴びたら龍になるという。
「おれは龍のなりそこない。」
 たがだしは云った、
「人の世には住めぬ。」
 たがだしはまた、日並の村長になって、三年を過ごす。
 公平でもめ事はなく、よく稔り、山川また豊かであったという。
 ひよという美しい娘がいた。
 美しいが強欲で、ただがしをとりこにし、村をわがものにする。
 沈む夕日を押し止めてくれといった。
「もうすこしで衣が縫い上がる。」
 たがだしは、沈む夕日を押し止めた。
 すると日の光が衣をのっとり、衣は村を覆い尽す。
 だから日並、ひなめし村という。
 ひよは息絶えて、百年の間、村の稔りはなかった。
 たがだしはしいでの川を越えた。
 しいでの川を越えると、わけのわからぬ、迷い道が続く。
 たがだしは鹿と暮らした。
 山神のお使いになって、群れを率いた。
 こだまを聞いては、あっちへ行き、こっちへ行き、たんびに行き止まり。
 今も行くと、
「こうや、たがだし。」
 と聞こえ。
 向こうへ行くと、
「こうや、たがだし。」
 と聞こえ。
 鬼の首を取ったという伝え。
 ごうやの原をさがすと、にょっきり岩が生えて、塚がある。
 塚はいくつもあって、どれかわからない。
 打ち出の小槌があるという。
 たがだしは、松之山へ行った。
 玉清水を浴びて、龍になろうと思う。
 裸になって、泉の吹き出るのを待った、だから松之山という。
 待っても黄金の水は、吹かず。
 たがだしは雪の尾根へ行く。
 向こうに、清いの里があるという。
 年も取らぬ、夢のように楽しい暮らしが待つ。
 たがだしは雪をよじ、滑り落ち、百回もそうしたので、百谷内ができた。
 清いの里へ行ったという説もある。
 くたびれて寝ていると、
「吹くぞ。」
 と聞こえて、たがだしは走った。
 行きつく所へごうっと吹いて、たがだしは黄金の水を浴びた。
 龍になって、天駆ける。
 松の平らと笹ケ峰の間には、七つ沼があって、龍の水飼い場であったという。
 七首の龍か。
 雨降らせ雷を落とす。
 人身御供に里の娘を取るという、それは別の話だ。
 松の平らのみやず姫が、おとだま神にお輿入れの時、龍はその背に姫を乗せて、お送りしたという。
 松の木が従いついて、松の平らから松が失せた。
 盆の窪池に松林がある。
 その時頂いた品というのが、松の平ら神社にあった。
 藤で編んだ、できそこないの籠のようでもあり、
「この中に宝物が入っていた。」
 という人と、
「このものが心を清める。」
 いう人とあった。
 藤ではなく、鉱物であることが、最近わかった。

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とんとむかし

   首切っても

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、河野又十という、侍があった。
 やっとうの腕も立ったが、それより飲ん兵衛で、飲んだら口を聞かぬ、
「むっつり助平というは、おまえだ。」
 飲んではしゃべりまくる、印南東悟が云った。
 馬が合うというわけではないが、二人はいつもいっしょだった。
「石見の末娘な、あんないい子、向こうも気があったのに、むっつりそっぽ向いているから、とうとう。」
 又十は盃をかんと置く、その話は止めろというのだ。
「なんとかしてやろうと、聞くには聞いてみた、けんもほろろだ。」
 かんかんと置く。又十なんたって痛い、たった一度の、そやつが振られ、
「飽きれた、むっつりのおまえが口説いたって、あっはっは、ものは、好きだやろうってわけには行かん、何云ったんだおまえ、ひや、わかった抜くな、もう云わん。」
 心情をえぐるのが好きな東悟が、すんでにかわすのは、また面白かった。
「だがな、そういうときこそおれを使え、娘っこなんてものは。」
 でもって二人、てんでに飲んでというわけだ。
 また飲んで、
「うひゃおまえ、椿の花より山茶花が。」
 かん、
「あるまじき大演説をしたもんだぜ、ぽっつり落ちる花よりも、つらつら長い冬を耐え、ちんとんしゃんとくら、ほんにおまえのせりふかこれ。」
 か、かんかん。
「なんで振られた、とちって、ぽっくり落ちる首よりも、つうらり垂れる鼻水ほどにって、こうんな目した、うわっと、もう云わん。」
 でもって、てんでに飲み。
「ぽっとり落ちる雪よりも、恨み氷柱の主さんが、はーあ溶けて流れりゃ、谷川の水。」
 ばたっと音がして、首が吹っ飛んで、その口から、ちんとんしゃん。
「し、しまった斬っちまった。」
 又十呆然。なんとしよう、ほったらかして逃げ出した。
 帰ろうたって、もはや帰れぬ、浪人してもって、うそぶき歩く。
 飲むきりの、たいてい仕事もなし。
 やくざの用心棒が、相場ってとこか。
 ならず者相手に、刀を抜いた、
「親の恩を仇で返すは、いすかのはしの食い違い。」
 声がする。
「たたっ斬られて、ぐうというなあひきがえる、かかと鳴くのは田んぼの烏、ここにいなさるお兄いさんは、一刀流免許皆伝、元はと云えば、ー 」
 生っ首が空中に浮かぶ。
「ひええ。」
 そりゃたいてい逃げる。
 かんと又十、刀をおっ立て、商売にならんといって、そばを食っていると、
「これ親父、まちっとしゃきっと入れろ、なんだあ、昨日むいたような葱。」
「へい。」
 と、見上げりゃ東悟の、ー 
 じっさ、ふん伸びる。
 箸をかんと、
「なことしたって、もう斬れめえ。」
「そりゃそうだが、死んだはずがなんでとっつく。」
「えっへえ、ならわしになっちまった。」
 ひょんな場所へ上がったって、ふとんの向こうに、
「こっちゃへそから下はねえんだ、遠慮するな。」
 たってさ、どうもならん。
 何年かつれ歩いた。
 仕事も切れた。江戸を出る。
 渡しに乗っていると、
「おい船頭ちゃんと漕げ、自慢じゃねえが、おれは泳げねえんだ。」
 生っ首が云う、
「けえ。」
 ぶったまげた拍子に、舟が揺れて、川へざんぶり。
 こっちは達者だから、泳いでいると、
「助けてくれえ。」
 と、首が流れて行く。
「つれそった首だ。」
 といって、又十は拾いに行った。
 手に取ると、
「そうか助けてくれたか、幸せ。」
 といって、そいつがふっ消えた。
 さすらい歩いて又十は、首がなつかしくなったか、江戸へ舞い戻って、とくり担いで、東悟の墓を訪れた。
 墓に一献ささげて、飲んでいると、
「おい又十。」
 といって、体ばっかり出た。
「なんてえこった、今度は首なしか。」
「首だけ成仏しちまって、置いてけぼりだ。」
 首なしがなぜか、口を聞いた。
 又十、
「置いてけ掘の土左衛門か、飲もうたってくちなしだあな、くちなしに酒ってのはアッハアこっちのこったか。」
 云ってからに、
(これは東悟のせりふだ。)
 と思った。
 なりかわって口を聞いている。
 やつの真似して口説いたから、振られたんだ。
「今更しょうもねえ。」
 と云ったら、体も消えた。

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とんとむかし

   二人妻

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、上尾の村に、茂吉という若者があった。
 嫁取りの日に、花嫁さまいのうなる、神隠しだという、どうしようもねえといって、泣き寝入り。
 親決めたっきり、見たこともねえ、だれかといっよに、駆落ちしたって、神隠し云うかも知れん、
「そんなこたねえ。」
 と、嫁の兄にゃ云った。
「おまえのことは、祭りの日に見たそうじゃ嫁入り前ほど、幸せなことはねえって云ってた。」
「鬼にさらわれたんでも、捜し行く。」
 茂吉は云った。
 お宮に大きなかんばの木あって、しらびそさまといった、願い事聞く。
 おらの嫁はと聞いたら、云わっしゃる、
「知らねえしらびそ、なむ。」
 なんとな、
「達者でいる、東へ行け。」
 しらびそのばあさ云った。
 茂吉は東へ向かった。山井村時村過ぎて、日い出の村があった。
 またぎの里だ。よそ者は入れぬ。
 茂吉はつかまった。
「嫁神隠しにあったで、捜し来た。」
 と云ったら、
「とちを一俵拾え、教えよう。」
 という。
 茂吉は山へ入って、とちの実を一俵拾った。
「では、たにしを一俵取れ。」
 という。茂吉は谷内へはまって、たにしを一俵取った。
 すると、
「だいろの娘が空いている、行って婿になれ。」
 という。
 なんのいったっても、連れて行かれ。
 美しい娘がいた。
 茂吉は一日いて、
「きっと、おまえより美しいとはいえぬが、わしは捜すと決めたんだ。」
 と云った。
 またぎの娘は、
「もし捜せなかったら、帰ってきておくれ。」
 といって案内する。
 滝があった。
 滝に洞穴が開く。
 娘は茂吉の手をとった。
 あたたかかった。
「またぎの血じゃ。」
 娘は云った。
「おまえが帰って来るなら、いつまでも待つ。」
 引き返そうと思ったが、茂吉は、
「わかった。」
 と云って、滝をくぐった。
 洞穴はまっくらだった。この世の終わりかと思ったら、ひーるがいっぱい取っ付いた。めったらそいつをひっぺがして、
「そうか、わしももうこの世では、用なしに。」
 とつぜんそう思い、
「とりにくる! 」
 と叫んで、わからのうなった。
 向こうに明かりが見えた。
 美しい里であった。
 夢見るような、
「清いの里。」
 と聞こえ、ー
 七年が過ぎた。
 茂吉の家では葬式があった。
「神隠しにあった嫁さま、捜しに行って神隠し。」
 という。では死んだも同じ。
 村を乞食が歩く。
 口もきけぬふうで、おんぼろまとって、ぬっと手差し出す。茂吉に似ていると、だれか云った。
 そうして姿を消した。
 茂吉は目覚めた。
 美しいまたぎの娘が見つめる。
 娘の親かも知れなかった。
「嫁さま捜し行かねば。」
 と云ったら、
「七年たって、ひどい身なりしてここへ来た。」
 娘が云った。
「またぎには薬があって、もとへ戻る。」
 滝から出て来たものは、たいていおっちでつんぼで、何一つ覚えぬといった。
 薬は効いた。
 七年の間待った娘と、茂吉は夫婦になった。
 滝の向こうのことは、何一つ覚えず。
 見様見真似で、またぎの術も覚え。
 そうしてある日、山の尾根を越えた。どうにか伝い下りた。けわしい崖であった。
 道伝ひ行くと、お屋敷があった。門をくぐると、松のお庭があり、清うげな花が咲いて、鳥が鳴き、
「お帰りなさりませ。」
 と、美しい人が迎えた。
 とつぜん茂吉は思い出した。
 お葬式はどうでしたと聞かれて、それは覚えず、
「いえ、よろしいのです。」
 と云って、にっこり。
「向こうのことは、わたしも覚えていますのは、幸せに夢見るような、このまんまでいたいと思ったという、それだけです。」
 何十年が過ぎた。
 またぎの妻がまっしろうなって、茂吉のせがれが来た。茂吉であったかも知れぬ。
 何か置いて去った。
 銀の箸であったという。
 それで食べると病気が治った。
 清いの里の伝えは、他にもあった。年取らぬ郷という。

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とんとむかし

   松のかぎ

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、みほという、女の子があった。
 母が星を呑んだ夢を見て、生まれたという。
「きっと幸せになる。」
 といって、みほしでは呼びにくい、みほになった。
 みほじゃ美穂になっちまう、でもいいかと父が云った。
 母は美しく、はきだめに鶴だと人は云った。
「もとはなあ。」
 と父は云った。
 笹の御殿というお屋敷があって、わしらはそこから来た。妻もまあさ、ご先祖さまがつかわした。
 今にみほがわしらを救ってくれる、
 男の子ならこの世を救うといって、酒を飲んだ。
 みほは、しろという大きな犬と、村外れのお宮まで行き、その向こうのお化け杉や、宝が埋まっているというつつじ山や、走り回って遊んでいた。
 母が呼ぶ。笹むらが鳴って、天から降り立つような、光さして。
 そうして咲まう。
 ある日、お宮に泥棒がいた。
 坊主頭で、ばかのような目をする。
「売れそうな子だな、おいで。」
 といった。
 みほは飛んで逃げた。
 村人が総出で行って、つかまえた。
 大きなしろは吠えもしない。
「きざはしに寝ていただけだ。」
 泥棒は、すきをみて逃げ出した。
「あいつは、ばんたかという、人殺しはするし、えらい悪たれよ。」
 人が云った。
 美しい母がいなくなった。
 なぜかわからない。
 父は飲んだくれて、
「そうさ、もうおしまいだ。」
 首くくって死ぬといって、かけた縄が何本になったか。
 戦争になった。
 兵が村に火を放つ。
「この子は星の、ー 」
 といって、酔っ払いの父は殺され、みほは逃げた。
 草につっぷすのを、引っ立てられた。
 柵があった。
 子供も大人もいた。
 兵をつれて大将が来た。
「使えそうなのを五十人。」
 という
「しろ。」
 呼ぼうとして、すんでにこらえた。
 犬にそっくりの大将。しろはどこへ行ったか。
「がきは捨てろ。」
「役に立ちそうな子もいますが。」
 と云う。
 ばんたかという、お宮にいた泥棒だった。
 みほはふるえ上がった。
 どうしよう。
 すきに、柵を抜けようとして、
「はあ。」
 その手をつかむ。
 にっと笑って、大きな男の子が、
「おともするぜ。」
 と云った。
 抜け出して、二人は走った。
「おまえ、星の子だろう。」
 男の子が云った。
「みほ。」
「きれいなおっかさんがいたな、由紀の大殿に見染められてさ、行ってしまった。」
「どういうこと。」
 男の子はかぶりを振る。
 いゆといった。
 食い物を盗み、兵からもかっぱらい、魚を取ったり、栗を拾ったり。
 焚火をして、二人は宿った。
 何日かした。
「冬になる。」
 といって、いゆは牛を盗んで来た。
「京へ行って、牛方になろう。」
 険しい道を行く。
 みほを牛に乗せたり、二人牛と温まって伏す。
 追手が来た。
 兵と牛の飼い主と。
 いゆはみほを逃がす。
「さあこっちへ来い。」
 そう呼ぶいゆの声。
 みほは歩いていた。
 雪の中を、そうしてわからず。
 目を開けると、どうと風が吹いて、笹が鳴る。
 お屋敷があった。
 朱塗りの大門に、白虎が見下ろす。
 廻って行くと、とつぜん犬にそっくりの大将と、泥棒がいた。
 叫び上げると、さらし首であった。
「まさにもってかくのごとし。」
 と、金文字に浮かんで、札が立つ。
 くぐり戸が開いた、
「おいで。」
 みほは入って行った。
 めくらむような、黄金のきざはし。
「おまえは何が出来る。」
 草の衣の人が立った。
「なんにも。」
「ほっほっほそうかな、じゃが扉が開いた。」
 その人は、みほをさくらの衣に引き合わせた。
 恐そうな女、
「よう云うことを聞け。」
「返事は。」
「はい。」
 うっふうと笑う。
 大空の衣に、みほは働いた。
 なんでもした。
 とちったり、しかられたり。
 ようも稼いで、かわいがられた。
「にしきさまのお越しじゃ。」
 さくらの衣が云った。
「ついておいで、そそうのなきよう。」
 控えの間に、招ばれて行く。
 鳳凰のかんざしに、すきとおるうちかけ、紅葉の衣、いえあれは十二単と。
 美しい、
(お母さん。)
 みほは、声を飲む。
 母は月、このお方は日輪。
「ようもお務めかいな、おいくつになられた。」
 と聞かれ、
「十二になりまする。」
 答えた。
(お声をかけられた。)
 それはもうたいへんなことだと。
 一年たった。
 みほは部屋を貰い。
 七つあるお倉のかぎの、一つを預かった。
「それは松のお倉です、たいそうなご出世です。」
 さくらの衣が云った。
「わたしどもには到底。」
 ため息をつく。
 きっといいお婿さんが来ますと云った。
 松のお倉には、蒔絵のお膳やお椀があって、さかずきや水差しや、そうして、数ある掛けものの中に、なんにも描いてない、まっしろい屏風があった。
 接待には、お倉のかぎを開けて、みほは貴品に応じて、数ある品を出し入れした。数十人の空やさくらの衣がついた。
 まっしろい屏風。
 息を吐きかけると、どっと応ずるような、みほは慌てて飛びのいた。
 十五になった。美しく生いなる。
 呼ばれて行くと、若い公達。
 きらを尽くした、るりやはりの器のような、
「いいお方を択びなさい。」
 聞こえて振り向くと、鳳凰が今日は、しゃんときりんのかんざしをさして、にしきさま。
「いずれおまえを望んで、こうして押しかけた。」
 ほおと笑まう。長い袖に面を押さえる、泣くように美しく。
 押しかけの若者よりも、みほは見とれ。
(お母さん。)
「いいのですよ、今は決めずとも。」
 さんざめいてのち、みほは引き下がる。
 いゆはどうしたか。死んだであろう、手傷を負うて。
 公達のいおりがやって来た、
「これはきゃらという。」
 良き香りのものを手土産に、
「女というものは、おっほっほ、宵待ち草より立ち待ちの月。」
 おもしろおかしく、
「むらくもよりは出ぬほうが。」
 みほも負けてはいず。
 続いてみさといくおがやって来た、松のお倉の御用も、そっちのけ。
 お倉のかぎは、使をうとすると手にある。
 双六をし、碁を囲み、山吹が咲いたといっては、野辺に行き、みほの歌に、いっそ口をへの字。
 笹のお屋敷というこれは、
「そうじゃのう。」
 と、公達の客、歌に詠むには、
「だれも主を見たものはない。」
「接待するは、人にはあらずその宿世。」
 という。みほをわがものにと、勢い込む。
 一年が過ぎた。
 事件が起こった。
「触れずの屏風におもかげが。」
 さくらの衣が云う。
 まっしろい表に、龍の姿が浮かぶ。
 日増しに写し出す。
 目が開いてらんらんと輝く。
 草の衣の人が立った。
「あれに息を吹きかけたとな。」
 という、
「ではおまえのここでの暮らしは終わった。行かねばならぬ、龍の抜ける前にな。」
 だれかれ騒然。
 急かれて、みほは走った。
 大門を走り出ると、雷鳴りとよみ雲を呼んで、おどろに渦巻く。
 天駆ける龍。
 みほは突っ伏した。
 笹むらがさやぐ。
 雪がふって来た。
 すべては夢であったか。
 奥深い山中であった。
 歩いて行くと、
「おーい。」
 と呼ぶ、
「わしだ、かつてはいゆと云いし者。」

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とんとむかし

   日のさす  

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、椎谷村にあよという、女の子があった。
 あよが六つの年、大飢饉があって、だれかれ食べて行けなくなった。
 貧しいあよの父母は、
「娘を、あよさへ生きていれば。」
 といって、ふだらくとかいの舟に乗った。
 夕日に舟をこいで、お浄土へ行く。きっと観音さまが聞き届けて、人の難儀を救ってくれるという。
 父母は行ってしまった。
 あよは食べさせて貰っていた。
 大飢饉は去る。 
 実った柿に雪が降った。
 鳥が群れて、ふうらん揺れてついばむ。
「ふだらくとかいってなあに。」
 あよは聞いた。
「ひーよぴよ西へ行け。」
 ひよ鳥が鳴いた。
 あよは西へ行った。
 どうと風が吹いて、日差しがぽっかり。
 くるくる巻いて、雪が落ちる、
「父も母もどこへ行った。」
 あよは聞いた。
「風は南から。」
 雪の壁が云った。
 あよは南へ行った。
 傘さして、杉の林が、
「おいさ、おうさ。」
 と、大声に叫ぶ、
「東だ、日が上る。」
 と云った。
 あよは東へ行った。
 雲がよぎる。
 あよは走った。
 ぞうりが脱げ、はだしで走った。
「北へ。」
 まっしろい息が云う。
 雪がふる。
 荒海であった。
 かもめが狂ったように舞い飛ぶ。
 向こうに光射す。
 あよは忘れなかった。
 波に光射す。
 云い表わせば、それは、
「自分の苦しみはいい、人がもし困っていたら、手をさし出せ。」
 ということだった。
 七十まで生きた。死ぬるとき、光の雲に乗って、父母が迎えに来た。

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とんとむかし

  ひょうたんの中

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、いんの村に、じょうえんげという仙人が住んでいた。
 じょうえんげは、ひょうたんを持っていた。
 杖を引いて、そのあたり幽玄の松や、糸を引く滝や、霧を吹く岩や、紅葉や、気に入った風景があると、
「ぽん。」
 と栓を抜いて、ひょうたんに取り込んだ。
 持ち帰って、一人取り出して、心ゆく楽しんだ。
 飽いたら返しておく。
 仙人は雲に乗って、唐や天竺までも行く。まっしろいひげは三尺、ひょうたんはこの世のお宝、
「じょうえんげのひょうたん。」
 といって、これは稼げそうだ。盗人が伝え聞いて、昼寝のひげをひっとらえて殺し、お宝を奪い取った。
「なんだこやつは。」
 なんのへんてつもない、栓を抜いたら、
「ふーい。」
 盗人が吸い込まれた。
 風景が吸い込まれ、町村山川すっぽり入る。
 とどまるところを知らず。
 今も吸い込んでいる。
 宇宙のはてもじき。
 人はじょうえんげのひょうたんの中に住んでいる。
 どっかの猿が来て、ぽんとおしりを叩くまで。
 ひょうたんの口が見えると、幸せになるとさ。

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とんとむかし

   かごのような
 
 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、千田村に、たがだしという乱暴者がいた。
 身のたけ丈をこえという、十尺だから三メートル余り、そんなわけはないが、丈六の金身とも伝わる。
 金色の汗を流したという。
 大石を持ち上げて、どーんと落とした。屋鳴振動して、村長の家が傾いだ。村長が怒った、とやこういうのを、かっぱじいたら死んでしまった。
 村を追われ、たがだしは曽根の村へ来た。
 娘が追って来た。村長の横恋慕した娘で、見兼ねて、軒ごとゆすり上げたという、たがだしびいきの話だ。
 ともあれあちよという女がいた。
 惚れて通うのを、
「あんなもん、婿になられたら困る。」
 といって、曽根の村中よって、たがだしの通って来るところへ、火をかけた。火は八方から押し寄せた。火達磨になってあちよを奪い、たがだしは、せいどの池に飛び込んだ。
 池には、笹島という島があって、そこで二人暮らした。
 あちよは死んだ。
 たがだしは悲しんだ。
 せいどの水が青く変わる。 
 怒り狂って、曽根の村を襲い、たいてい男は皆殺しにしたという。
「嫁がねえんなら曽根へ行け。」
 というほどに、今も女ばっかりの村という。
 たがだしが大きく、たくましく育ったのは、赤ん坊のとき、母親が松の平らへ行って、乳を含ませた。
 松の平らに松はなしといって、山おくの塩のきつい水に、鳥やけものが寄り、弱い人や、産後の肥立ちの悪い女が汲む。それがとつぜん黄金の水を吹く。
 玉清水という。
 浴びたら龍になるという。
「おれは龍のなりそこない。」
 たがだしは云った、
「人の世には住めぬ。」
 たがだしはまた、日並の村長になって、三年を過ごす。
 公平でもめ事はなく、よく稔り、山川また豊かであったという。
 ひよという美しい娘がいた。
 美しいが強欲で、ただがしをとりこにし、村をわがものにする。
 沈む夕日を押し止めてくれといった。
「もうすこしで衣が縫い上がる。」
 たがだしは、沈む夕日を押し止めた。
 すると日の光が衣をのっとり、衣は村を覆い尽す。
 だから日並、ひなめし村という。
 ひよは息絶えて、百年の間、村の稔りはなかった。
 たがだしはしいでの川を越えた。
 しいでの川を越えると、わけのわからぬ、迷い道が続く。
 たがだしは鹿と暮らした。
 山神のお使いになって、群れを率いた。
 こだまを聞いては、あっちへ行き、こっちへ行き、たんびに行き止まり。
 今も行くと、
「こうや、たがだし。」
 と聞こえ。
 向こうへ行くと、
「こうや、たがだし。」
 と聞こえ。
 鬼の首を取ったという伝え。
 ごうやの原をさがすと、にょっきり岩が生えて、塚がある。
 塚はいくつもあって、どれかわからない。
 打ち出の小槌があるという。
 たがだしは、松之山へ行った。
 玉清水を浴びて、龍になろうと思う。
 裸になって、泉の吹き出るのを待った、だから松之山という。
 待っても黄金の水は、吹かず。
 たがだしは雪の尾根へ行く。
 向こうに、清いの里があるという。
 年も取らぬ、夢のように楽しい暮らしが待つ。
 たがだしは雪をよじ、滑り落ち、百回もそうしたので、百谷内ができた。
 清いの里へ行ったという説もある。
 くたびれて寝ていると、
「吹くぞ。」
 と聞こえて、たがだしは走った。
 行きつく所へごうっと吹いて、たがだしは黄金の水を浴びた。
 龍になって、天駆ける。
 松の平らと笹ケ峰の間には、七つ沼があって、龍の水飼い場であったという。
 七首の龍か。
 雨降らせ雷を落とす。
 人身御供に里の娘を取るという、それは別の話だ。
 松の平らのみやず姫が、おとだま神にお輿入れの時、龍はその背に姫を乗せて、お送りしたという。
 松の木が従いついて、松の平らから松が失せた。
 盆の窪池に松林がある。
 その時頂いた品というのが、松の平ら神社にあった。
 藤で編んだ、できそこないの籠のようでもあり、
「この中に宝物が入っていた。」
 という人と、
「このものが心を清める。」
 いう人とあった。
 藤ではなく、鉱物であることが、最近わかった。

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とんとむかし

   首切っても

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、河野又十という、侍があった。
 やっとうの腕も立ったが、それより飲ん兵衛で、飲んだら口を聞かぬ、
「むっつり助平というは、おまえだ。」
 飲んではしゃべりまくる、印南東悟が云った。
 馬が合うというわけではないが、二人はいつもいっしょだった。
「石見の末娘な、あんないい子、向こうも気があったのに、むっつりそっぽ向いているから、とうとう。」
 又十は盃をかんと置く、その話は止めろというのだ。
「なんとかしてやろうと、聞くには聞いてみた、けんもほろろだ。」
 かんかんと置く。又十なんたって痛い、たった一度の、そやつが振られ、
「飽きれた、むっつりのおまえが口説いたって、あっはっは、ものは、好きだやろうってわけには行かん、何云ったんだおまえ、ひや、わかった抜くな、もう云わん。」
 心情をえぐるのが好きな東悟が、すんでにかわすのは、また面白かった。
「だがな、そういうときこそおれを使え、娘っこなんてものは。」
 でもって二人、てんでに飲んでというわけだ。
 また飲んで、
「うひゃおまえ、椿の花より山茶花が。」
 かん、
「あるまじき大演説をしたもんだぜ、ぽっつり落ちる花よりも、つらつら長い冬を耐え、ちんとんしゃんとくら、ほんにおまえのせりふかこれ。」
 か、かんかん。
「なんで振られた、とちって、ぽっくり落ちる首よりも、つうらり垂れる鼻水ほどにって、こうんな目した、うわっと、もう云わん。」
 でもって、てんでに飲み。
「ぽっとり落ちる雪よりも、恨み氷柱の主さんが、はーあ溶けて流れりゃ、谷川の水。」
 ばたっと音がして、首が吹っ飛んで、その口から、ちんとんしゃん。
「し、しまった斬っちまった。」
 又十呆然。なんとしよう、ほったらかして逃げ出した。
 帰ろうたって、もはや帰れぬ、浪人してもって、うそぶき歩く。
 飲むきりの、たいてい仕事もなし。
 やくざの用心棒が、相場ってとこか。
 ならず者相手に、刀を抜いた、
「親の恩を仇で返すは、いすかのはしの食い違い。」
 声がする。
「たたっ斬られて、ぐうというなあひきがえる、かかと鳴くのは田んぼの烏、ここにいなさるお兄いさんは、一刀流免許皆伝、元はと云えば、ー 」
 生っ首が空中に浮かぶ。
「ひええ。」
 そりゃたいてい逃げる。
 かんと又十、刀をおっ立て、商売にならんといって、そばを食っていると、
「これ親父、まちっとしゃきっと入れろ、なんだあ、昨日むいたような葱。」
「へい。」
 と、見上げりゃ東悟の、ー 
 じっさ、ふん伸びる。
 箸をかんと、
「なことしたって、もう斬れめえ。」
「そりゃそうだが、死んだはずがなんでとっつく。」
「えっへえ、ならわしになっちまった。」
 ひょんな場所へ上がったって、ふとんの向こうに、
「こっちゃへそから下はねえんだ、遠慮するな。」
 たってさ、どうもならん。
 何年かつれ歩いた。
 仕事も切れた。江戸を出る。
 渡しに乗っていると、
「おい船頭ちゃんと漕げ、自慢じゃねえが、おれは泳げねえんだ。」
 生っ首が云う、
「けえ。」
 ぶったまげた拍子に、舟が揺れて、川へざんぶり。
 こっちは達者だから、泳いでいると、
「助けてくれえ。」
 と、首が流れて行く。
「つれそった首だ。」
 といって、又十は拾いに行った。
 手に取ると、
「そうか助けてくれたか、幸せ。」
 といって、そいつがふっ消えた。
 さすらい歩いて又十は、首がなつかしくなったか、江戸へ舞い戻って、とくり担いで、東悟の墓を訪れた。
 墓に一献ささげて、飲んでいると、
「おい又十。」
 といって、体ばっかり出た。
「なんてえこった、今度は首なしか。」
「首だけ成仏しちまって、置いてけぼりだ。」
 首なしがなぜか、口を聞いた。
 又十、
「置いてけ掘の土左衛門か、飲もうたってくちなしだあな、くちなしに酒ってのはアッハアこっちのこったか。」
 云ってからに、
(これは東悟のせりふだ。)
 と思った。
 なりかわって口を聞いている。
 やつの真似して口説いたから、振られたんだ。
「今更しょうもねえ。」
 と云ったら、体も消えた。

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とんとむかし

   二人妻

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、上尾の村に、茂吉という若者があった。
 嫁取りの日に、花嫁さまいのうなる、神隠しだという、どうしようもねえといって、泣き寝入り。
 親決めたっきり、見たこともねえ、だれかといっよに、駆落ちしたって、神隠し云うかも知れん、
「そんなこたねえ。」
 と、嫁の兄にゃ云った。
「おまえのことは、祭りの日に見たそうじゃ嫁入り前ほど、幸せなことはねえって云ってた。」
「鬼にさらわれたんでも、捜し行く。」
 茂吉は云った。
 お宮に大きなかんばの木あって、しらびそさまといった、願い事聞く。
 おらの嫁はと聞いたら、云わっしゃる、
「知らねえしらびそ、なむ。」
 なんとな、
「達者でいる、東へ行け。」
 しらびそのばあさ云った。
 茂吉は東へ向かった。山井村時村過ぎて、日い出の村があった。
 またぎの里だ。よそ者は入れぬ。
 茂吉はつかまった。
「嫁神隠しにあったで、捜し来た。」
 と云ったら、
「とちを一俵拾え、教えよう。」
 という。
 茂吉は山へ入って、とちの実を一俵拾った。
「では、たにしを一俵取れ。」
 という。茂吉は谷内へはまって、たにしを一俵取った。
 すると、
「だいろの娘が空いている、行って婿になれ。」
 という。
 なんのいったっても、連れて行かれ。
 美しい娘がいた。
 茂吉は一日いて、
「きっと、おまえより美しいとはいえぬが、わしは捜すと決めたんだ。」
 と云った。
 またぎの娘は、
「もし捜せなかったら、帰ってきておくれ。」
 といって案内する。
 滝があった。
 滝に洞穴が開く。
 娘は茂吉の手をとった。
 あたたかかった。
「またぎの血じゃ。」
 娘は云った。
「おまえが帰って来るなら、いつまでも待つ。」
 引き返そうと思ったが、茂吉は、
「わかった。」
 と云って、滝をくぐった。
 洞穴はまっくらだった。この世の終わりかと思ったら、ひーるがいっぱい取っ付いた。めったらそいつをひっぺがして、
「そうか、わしももうこの世では、用なしに。」
 とつぜんそう思い、
「とりにくる! 」
 と叫んで、わからのうなった。
 向こうに明かりが見えた。
 美しい里であった。
 夢見るような、
「清いの里。」
 と聞こえ、ー
 七年が過ぎた。
 茂吉の家では葬式があった。
「神隠しにあった嫁さま、捜しに行って神隠し。」
 という。では死んだも同じ。
 村を乞食が歩く。
 口もきけぬふうで、おんぼろまとって、ぬっと手差し出す。茂吉に似ていると、だれか云った。
 そうして姿を消した。
 茂吉は目覚めた。
 美しいまたぎの娘が見つめる。
 娘の親かも知れなかった。
「嫁さま捜し行かねば。」
 と云ったら、
「七年たって、ひどい身なりしてここへ来た。」
 娘が云った。
「またぎには薬があって、もとへ戻る。」
 滝から出て来たものは、たいていおっちでつんぼで、何一つ覚えぬといった。
 薬は効いた。
 七年の間待った娘と、茂吉は夫婦になった。
 滝の向こうのことは、何一つ覚えず。
 見様見真似で、またぎの術も覚え。
 そうしてある日、山の尾根を越えた。どうにか伝い下りた。けわしい崖であった。
 道伝ひ行くと、お屋敷があった。門をくぐると、松のお庭があり、清うげな花が咲いて、鳥が鳴き、
「お帰りなさりませ。」
 と、美しい人が迎えた。
 とつぜん茂吉は思い出した。
 お葬式はどうでしたと聞かれて、それは覚えず、
「いえ、よろしいのです。」
 と云って、にっこり。
「向こうのことは、わたしも覚えていますのは、幸せに夢見るような、このまんまでいたいと思ったという、それだけです。」
 何十年が過ぎた。
 またぎの妻がまっしろうなって、茂吉のせがれが来た。茂吉であったかも知れぬ。
 何か置いて去った。
 銀の箸であったという。
 それで食べると病気が治った。
 清いの里の伝えは、他にもあった。年取らぬ郷という。

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とんとむかし

 きよらんばいのかぼちゃのスープ

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、しんくーい村にきよらんばいという、かぼちゃ作りの名人がいた。
 かまどのようにでっかいかぼちゃや、数珠つなぎになったのや、だれかの顔だったり、牛の角だったり、うさぎのように、ぴょーんと跳んだり、いっぱいこさえて、なんにもならん。
「あたしそっくりが、一番かぼちゃ。」
 と、かぼちゃそっくりの、かあちゃんが云った。
 とのさまは、げてもの食いで、きれいな女の人が好きで、かぼちゃなんか、見向きもしなかったが、浜に釣りに来て、
「なにかうんまいものはないか。」
 と云った。
 家来が、あっちこっちかけずり回って、天下一品、かぼちゃのスープというのがあった。
 いっぱい飲んで、
「うーんすっきり。」
 とのさまは、ささげもった、かぼちゃそっくりのかあちゃんに、
「これはなんだ。」
 と聞いた。
「きよらんばいのかぼちゃのスープです。」
 苦しゆうない、下がっておれと、とのさまは云った。
 秋になった。
 きよらんばいのいっぱいかぼちゃを、子供らが担いで、海へ押し出す。
 かぼちゃ流しは、先祖の祭り。
 みんな浮かべて、
「どんぶらかぼちゃの、ぼっちゃぼちゃ、
 花が咲いたら、実がなった、
 でんぐりかえって、ねーこの目、
 世界一周、鼻提灯、
 くじらがどーんと、潮を吹き、
 どんぶらかぼちゃの、ぼっちゃぼちゃ。」
 きよらんばいのかぼちゃは、流れて行った。
 スープはだめだで、スープのレシピ。
「どんぶらかぼちゃの、ぼっちゃぼちゃ、
 種を蒔いたら、芽が吹いて、
 くーるりまわって、とんびぴーとろ、
 竜宮城のお使いは、
 百疋いるかの、行列だ、
 どんぶらかぼちゃの、ぼっちゃぼちゃ。」
 かぼちゃと、スープのレシピは、流れて行って竜宮へ。
 天下一品、きよらんばいの、かぼちゃのスープ。
「ほうびに何が欲しい。」
 乙姫さまが云った。
「かぼちゃそっくりのかあちゃんを、美人に。」
 たいやひらめが云った。
「そうかな。」
 乙姫さまは、きよらんばいのかあちゃんを、乙姫さまそっくりにした。
 かあちゃんが咲まうと、雲は歌い、草木もなびき、
「乙姫さまそっくりの。」
 といって、国中に知れわたった。
 げてもの食いで、きれいな女の人の好きな、とのさまが、召し出す。
「すっきりかぼちゃのスープを、もってまいれ。」
 きよらんばいは困った。
「行ったら帰ってこれん。」
 美人のかあちゃんに、かぼちゃをかぶせ、きおーかのしびれ薬を、スープに入れた。
「ひいひいういやつ。」
 とのさまは、スープを飲んだ。
 冷めたらきおーかの、苦い味。
 かぼちゃのかあちゃん。
「苦しゆうある、下がっておれ。」
 と云った。
 きよらんばいが、かぼちゃを作っていると、軍隊が来た。
「しびれ薬を飲ませ、かぼちゃをかぶったり、とったりしたな、国家争乱罪だ。」
 乙姫さまのかあちゃんを、引っ立てた。
「もうだめだ死のう。」
 きよらんばいが云ったら、子供らが、
「ばくだんかぼちゃに、たいほうかぼちゃ、数珠つなぎのマシンガンに、げんばくかぼちゃ。」
 といって、かぼちゃ軍団を編成。
 美人のかあちゃんは、搭に押し込め。
「わあ。」
 といって、攻め寄せた。
 どかんぼっかん、
「子供は、うちへ帰って勉強だ。」
 ひげの大将ににらまれて、退散。
「ありがとう、死なんで生きるから。」
 と、きよらんばい。かぼちゃばくだん、じゅずやら、げんばくかぼちゃの種が生え、見るまに伸びて、搭のてっぺん。
 美人のかあちゃんは、伝いおりて逃げた。
 乙姫さまに頼んで、かあちゃんをもとに戻したってさ。
「でも。」
 かあちゃんが云う。
 水に映すと、乙姫さまにそっくり。

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とんとむかし

  太った姉さま

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、よののさんべえ村に、いっかくという男があった。
 いっかくは、烏天狗の仲間で、夜な夜なこうもりになって飛んで行くと、人の噂であった。
 よいちの子が神かくしにあった時、いっかくのこうもりがさがし出したし、山ノ内の嫁をひっさらった男を、ふん捕まえたのは烏天狗、いやさらったのは烏天狗だ、という人もいる。
 人はよっつかなかった。
 田部の十郎兵衛さまに、安の守からお輿入れという、やんごとなき安の守から、そりゃ美しく清うげな、
「あんまりもったいなやの。」
 といって、姫さまご馳走が大好き、食っては食って、婿どんのもう三倍はあるという、
「うちは倹約の家柄だ。」
 人のものはおれのもの、爪に火点して、成り上がった十郎兵衛さま、押しつけの嫁さま、
「断わったら、立ち行かなくなる。」
 なんとかならんかといって、烏天狗のいっかくを呼んだ。
「どうなさろうというんで、その女殺しますか。」
 いっかくはあっさりいった。
「穏やかに行くてだてはないか。」
「穏やかにというんなら、祝言上げりゃいい。」
「ほかに良縁を。」
 ていのいい、
「十両で引き受けんか。」
 引き受けないと、いっかくが立ち行かぬ。仲間に女たらしがいた、そっちの方は不得手だった。
 やんごとなきお方に、烏天狗一党こそお仕えもうしたのに、今はなんせ汚い仕事をする。
 因みにいっかくは歌を詠む。
 そりゃもうその、
「じつはさるお方さまの。」
 といって、やすだという女たらしを呼んだ。
 十両やるから駆け落ちしろ、
「なにいっときでいい。」
 さけたと思ったら、やすだが来た。
「あの女にはおれの手管が利かぬ、音を上げた、もう食っては寝たっきり。」
 と云う。
「名うてのおまえをもってしてもか。」
 そりゃ恐ろしい、
「けっこう美しいのだ、こっちがしまいにゃ惚れた。」
 口惜しそうに、十両返す。
 では襲うしかない、かっさらって、木の上にでも置いとけ、食っちゃ寝の太ってりゃ、十日たっても死にゃせん、ほとぼりの覚めるまで、
「高貴のお方お一人分で、われら何十人食えるか。」
 いっかくは憎々しげに云う。だが殺しは嫌いだ。
 しずしずと、お付きのもの二十人も従えて、花嫁行列はやって来た、
「うーむあれか。」
 辺りを払う。
 向こうの山影だ、仕掛けは用意万端、
「白露に風の吹きしく秋の野はつらぬきとめぬ玉ぞ散りける。」
 場違いをいうのが、いっかくで。
 ふわっとさらい上げるつもりが、
「う、ううむ。」
 骨が折れる。
 ぎりっといって、すんでに墜落。 
 花嫁御料が姿を消す。いや大騒ぎ。
 どさっと茂みへ。
 声が近づいた。花嫁の口をふさいでいっかく、
「世の中は常にもがもな渚漕ぐ海士の小舟の綱でかなしも。」
 場違いを。
 急に大人しくなった。
 いっかくの一人住まいへ、連れ込んだ。
 逃げたらそれもよし、十郎兵衛さまへ行って、
「なんとかなりそうですか。」
 そらっとぼけた。
「神隠しにあった花嫁というわけか、そういうこともままあった、たいていは泣き寝入りする、沙汰止みってことでな。」
 自ら能書きして、
「こうもりがさらったと、云っていたぞ。」
「見られたか、なんせ重たいもので。」
「ふむ。」
 婿どのは捜した。
 なんにもせぬってわけには。
 いっかくの住まいだ。
 太ってはいるが美しい、哀しいような魅力があって。
 これはと思う。
 云いよったらけんもほろろ、
「決まった殿ごがおります。」
 と云った。
「いやそれはわたしだが。」
「ちがいます、この家の主です、しばらく辛抱しておれと申され、こうしてお待ちしております。」
「夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを雲のいずこに月やどるらむ。」
 なんのこった。
 せがれは親を問いつめた。
 困ったのはいっかくだ。
 とんだ醜態が。
 きっとこれは仕返しだ。
 姫さまはほどよく痩せて、
「お待ち申しておりました。」
 といった。
 恥じらい艶然。
「父から、わたしをさらって下さった、頼もしいとのご。」
 という、
「どんな仕返しを。」
「いえ仕返しなんかもういいんです。わたしは幸せです。父からたんまり持参金を、うっふ、あらはしたない。食べてばっかりの、もう女ではない、この世を辛く、やるせないものと思っておりました、でもそうではなかった。」
「あひみての後の心にくらぶれば。」
「むかしは物を思はざりけり。」
 二人場違いが。
 しがない天狗稼業をさ、
「商売替えだ、おたがいに。」
 女たらしのやすだが大笑いした、
 それが、持参金の上に土地までついた。
 田部の十郎兵衛さまは没落し、烏天狗が取って代わった。
 場違いの姉さま、にっこり笑まうと、万人を魅了する。いっかく千金とは、これを云うんであったとさ。

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とんとむかし

  いかだの海

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、あいおい村に、じーたらというわるがきと、さんにという女の子がいた。
 さんにはままっこで、おんぼろ着て、あかぎれこさえて泣く。
 じーたらは、手下つれてのし歩き、かっぱらったり、召し上げたり、しようもないことして、なりはもう大人並だった。
「泣き虫たにし。」
 まっくろけの、なんか云うと、だまっちまうきりの、さんにに、じーたらは云った。
「食え。」
 盗んだ柿や、手下のもの取って、食わせたり、がきかっぱじいて、女の子をかばった。
 あるとき手下どもが、もちなと焼いて食って、明神さまのお社、燃してしまった、
「おらがやった。」
 じーたらは云って、
「村に顔向けならねえ、勘当だ。」
 親は云った。
「あとはおじに取らせる。」
「そうかい。」
 といって、じーたらはおん出て来た。
 持ち物といったら、おっかさんが持たせた、ふろしき一つ、泣き虫たにしの、さんにが見上げる。
「ばか、おらは追ん出されたんだ。」
 といっても、あとついて来る。
 昼になった、ふろしきには、でっかいむすびが四つ入っていた。
 二人分けて食った、
「塩むすびはうんめえなあ。」
 というと、さんにはじーたらに三つ、一つでいいからって、腹へって水飲んで、夕方になった。
「宿るとこねえか、まんま食わせてくれてさ。」
 と、行くと、舟つき場があった。
 明かりがついて、のっこり入って行くと、
「いかだ師が風邪引いて、寝込んだ、だれかにいどまで行ける者ねえか。」
 と云う。
「いかだなら任せてくれ。」
 じーたらは云った、
「じいさまいかだ師であって、赤ん坊のころから乗ってらあ。」
「じいさまってだれだ。」
 あてずっぽう云うと、
「そうかたけしの孫か、頼りがいがあるってもんだ、あした早くに出て、向こうへついたらだちんもらえ、おめえのもんだ。」
 と云った。
 あした、じーたらはさんにと二人、いかだに乗り込んだ。
 棹をついて押し出すと 流れに乗る。
 筏は七つ、どうやら川を下って行った。
「どこ棹使えばいいか、ほうら。」
 あぶなっかしく。
 泣き虫さんにがはしゃいで歌う、たにしのくせに、
「日は照っても、
 雨さんさ、
 狐の嫁入り、
 けーんと鳴いたら、
 虹かかる。」
 でもって、じーたらのいかだ師も歌った。
「いかだどんざん、
 七つつないで、
 大蛇になった、
 かしらもたげりゃ、
 おっぽはふるえ。」
 早瀬は大苦労して、とろにはまた、大苦労して、
「狐のおしろい、
 まっしろけ、   
 涙流して、
 あばた面。」
 日は照って、川風吹いて、
「おっかさんの、
 塩むすび、
 いかだぎいっこ、
 海のはて。」
 一日は過ぎ、岸辺に寄せて、しっかりつないだ。
 鍋やかまもあった。
 三日分の食い代。
「いかだ師は食いっぱぐれん。」
 二人はまんま炊いて食って、ぐっすり眠った。
 二日目は、急流があった。
 危険なふちがあった。
 河童がいて、しりこだま抜こうと、待ちかまえる、
「見た、かっぱのお皿。」
「うん見えた、あれはしっぽだ。」
「こわくない。」
「さーてな。」
 流れに、いかだが重なって、
「ぶーいどんどん、
 しりこだま、
 かっぱのあたまも、
 毛が生えた。」
 と聞こえ、
「りんき起こすな、
 よーいどっこい。
 和尚に化けた、
 たぬきぶんぶく。」
 じーたらのいかだ師は、七つのいかだの、一つをほどいた、
 そうしたら、
「ちちんぴよぴよ、
 ごよのおんたから、
 ごーんどん、
 春は花。」
 と云って動いた。
 とろへ来て、よどっぱたに、かき集めたら、半日かかった。
 まんま食って、くたびれて眠った。
 その夜ひょうのせが出た。
 ひょーのせは、まっくらがりと同じで、青い目ん玉が二つ、
「でっかいのとちっさいのと、なんでまたいかだをわたす。」
 ひょうのせが聞いた。
「まんま食うんだ。」
 じーたらがいった、
「うち追ん出されたか。」
「うん。」
「とって食おうか。」 
「食うな。」
「あたしは泣き虫たにし、あたしをとって食っべて。」
 さんにがいった。
「食われたいか。」
「食われたくないけど。」
 ひょうのせは、灰色のながーい舌で、二人の背を、べろうり舐めて、行ってしまった。
「こわかった。」
 さんにはふるえ、
「あいつは、影法師を食うんだってさ。」
 じーたらが云った。
「影なけりゃ、いじめられる。」
「舐められたで、もういじめられん。」
 二人ぐっすり寝た。
 川はゆるやかになって、にいどの町はもう三日。
 急に水が増した。
「どっかで雨が降ったんだ。」
「ずんずん行く。」
 じーたらのいかだ師が、棹をさすと、七つのいかだが、拍子をとって歌う。
「どんがらぎいっこ、
 早い流れに、
 百合の花、
 ごうろごっとん、
 おそい流れに、
 まくわうり。」
 しぶきが云った。
「泣き虫たにしは、
 ふたをきっしり、
 あっちのはしに、
 とっついた。」
 さんには耳をふさぐ、
「どんがらぎいっこ、
 深い淀には、
 春の雨、
 ごうろごっとん、
 浅い淀には、
 しぐれ雨。」
 流れが云った。
「わるがきべろうり、
 あまずっぱ、
 追ん出されたら、
 影ばっか。」
 虹がたって、そのむこうにでっかい影法師。
 そいつはかわうそだった。
「化かすっていうぞ。」
「いいもん、泣き虫たにしが、とっついてやる。」
 かわうそがのっぺり。
 まま母の顔。
 さんには、じーたらにしがみついた。
 虹が消えて、雲が浮かぶ。
 塩にぎり四つ。
 流されて宿れず。
 まっくらがりを行くと思ったら、ぽっかり月が出た。
「ようし、いかだ師は眠らず食わずだ。」
「うん、眠くない。」
 とき色の月、
 水色の月。
「お月さんてっかり、
 星はぴっかり、
 じーたらいかだ師、
 泣き虫たにし。」
 さんにが歌う。
「どんぶらぎっこ、
 月に棹さし、
 おいらのいかだ、
 てっぺんかけたか、
 ほととぎす。」
 じーたらは棹をさし、
「おっかさん、
 お月さん、
 あたしを待ってる、
 山に雲。」
「塩にぎり食って、
 雲のうえ、
 大人のいない、
 お月さん。」
 いかだは流れて、にいどの町を過ぎた。
 どうしようもならん、押し出されて、海の上。
 棹はとどかん。
 いかだは、七つつながって、もう水も食べものもなし。
 舟が通る。
 おーいと呼んでも、聞こえん。
 くじらが浮かんで、潮を吹いた。気がついて、舟がよって来た。
「子どもではないか、いかだに乗ってどこへ行く。」
「にいどの町へ届けに行ったら、大水に押し出された。」
「そいつはたいへんだった。」
 いかだを引くわけにはいかん、二人舟へ乗れといった。
「いかだ届けんけりゃ。」
 じーたらが云った。
「では町へ知らせよう。」
 舟は、水と食べものおいて行った。
 夜になった。
「波はくうらり、
 十五になっても、
 ままっこで、
 赤かいべべは、
 お地蔵さん。」
 さんにが歌った。
「飛び魚ぴっかり、
 あっちへ飛んだ、
 しいらの口に、
 とびこんだ。」
 じーたらが歌った。
「わるがきどんざん、
 泣き虫たにし、
 波はくーらり、
 どこへ行く。」
「ぎっちらゆーらり、
 七つのいかだ、
 竜宮城へ、
 とどかった。」
 夢のような一夜が明けて、島影がない。
「どうしたんだろ。」
「いかだが流される。」
 西も東も、世界のはて、
「おしまいだ、さんに。」
「うん楽しかった。」
 こんぶが漂いついた。
 七つのいかだより、長いこんぶ。
 くらげや魚がとっついた。
 虹のような、竜宮の使いが来た。
 竜宮城へ行く。
 泣き虫さんにが乙姫さま、
「どうしてあたしが乙姫さま。」
 かがみだいに映したら、なんという美しさ、
「ではおれは浦島太郎。」
 じーたらのいかだ師は、たくましい若者になって、
「玉手箱さえ、あけなけりゃいいんだ。」
 と云っていたら目が覚めた。
 二人こんぶをなめていた。
「おーい。」
 と呼ぶ、
「にいどから、迎えにきたぞ。」
 といって、舟が来た。
「よくまあそこまで、守ってくれた。」
「たけしの孫ではないようだが、立派ないかだ師だ。」
 と、そう聞こえ。

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とんとむかし

  鬼の面

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、かみのの大家さまは、
「おおやさまにはおよびもないが、せめてなりたやとのさまに。」
 と歌われたほどの。
 ずっと離れたところに、西のかみのという、分家さまがあった。
 これはその縁起である。
 よのの村に、かんぞうという男があって、いよという娘と、手に手を取って駆け落ちした。
 ひようとりしたり、危ういめして、あちこち渡り歩いたが、雪のちらつく日、磐井神さまの前に、二人してこごえていた。
 いわい神のほこら、用もなし開けると、鬼がとっつくという、鬼に食われたっていい、もう行きどもねえといって、開けて中へ入って寝た。
 朝になって、変わったこともなかった。
 ではまたかせごうといって、村へ下りて行った。
 大きなお屋敷があった。
 かんぞうが行き、だめじゃったといって出て来た。
 手に三両の金を持つ。
 いよがどうしたのと聞くと、
「はてさ、くれたんだ。」
 と云った。
 どうしてとも聞かず、港へ行ったら舟が出る。 
「あれに乗ろう。」
「そうしますか。」
 と云って乗り込んだ。
 そこへお役人が来た。
「かみのの大家さまに、押し込みが入った、舟を調べる。」
 という。引き出され、駆け落ちが知れたら困ると思い、またきついせんぎもあったが、まぬがれた。
 舟は出て行った。
 急に荒れ模様、戻したほうがいいと船頭が云った、
「このまま行け。」
 だれか云った。
 目つきの悪いのが脅しあげる。
 時化になった。
 舟は、木の葉のようもてあそばれて、かんぞうといよは抱き合った。
「そうか、おまえらが押し込みだな。」
「なにをいう。」   
「ばちあたりめが。」
「だったらどうした。」
「うばった金を返せ。」
 争いが起こる。
 海は荒れ狂い、気がつくと、いよとかんぞうの二人だけだった。
 舟は流されて、浜に押し上げた。
 村人に救われた。
 破船に小屋を立てて、二人はあこ住んだ。
 そうして、子どもが生まれた。
 五つには、もう大人なみの、大きな子だった。
 よしぞうといった。
 大きいくせに、流れもん、お拾いさんの子と云われて、泣きべそかいた。流れ木を引かせると、牛のような力があった。
「なんで泣かされる。」
 と聞けば、ふうと笑う。
 みんな、よしぞうの大力を、いいように使う。
「だって、こわれそうだで。」
 と、よしぞうが云った。
 母はにっこり笑った。
 流れ物を拾って、たきぎをこさえ、売れるのは、売ったり、日ようとりして、かつがつ暮らした。
 ある年、行き倒れがあった。
 女の子をつれていた。
 夫婦に助けられて、
「流れつかなかったか舟が、十年まえ。」
 と聞いた。息を引き取る。
 鬼が出たんだといった。
 ぶんなぐり、腕へし折って、だれかれ海へ投げ込んだ。てめえ飛び込んだのもいる。
 船頭のわしだけ助かった。
 見たんだ。
 押し込みが大金を舟へ隠した。
「どうか娘を頼む。」
 と云った。
 かんぞうはその子を育てた。
 行き倒れん子というのを、よしぞうはかばった。
 手をなぐだけが、何人吹っ飛んだ。
 流行り病で、夫婦は死んだ。
 いまわのきわに、
「かくかくしかじか。」
 と云った。
「若しや、わしには鬼がとっついている、三両の金は使ってしまった、屋を捜してみてくれ、大金があったら、かみのの大家さまのものだ、お返し申し上げて、わしの証を立ててくれ。」
 鬼であっても、おまえにはかかわりはないと云った。
 よしぞうは舟を捜した。
 帆柱であった底に、大金があった。
「かみのの大家さまに。」
「きっとあたしも返しに行く。」
 みよというその子が云って、二人は旅立った。
 辛い旅だった。何十日もかかった。
 楽しかったと、みよは云った。
 かみのの大家さまの門前であった。
 あっちへ行けというのを、
「長い道を来た、会ってくれねば押し倒す。」
 よしぞうが手を掛けると、大門がゆらぐ。門番は肝をつぶした。
 まっしろい髪の主が出た。
 わけを云って大金を出すと、涙を流す。
「押し込みが入って、一人二人殺され、悪党どもは、お倉を破って担ぎ出す。そこへ鬼の面をかぶった人があらわれた。」
 という。
 叩き伏せて、押し込みは命からがら逃げた。
 面を脱いだその人に、盗人の落とした三両を押しつけた。
 はてと思ったらもういなかった。
 おまえさんがお子か。
 大恩人だという、
「金はおまえのものじゃ。」
 と云い、
「わしらの分家を名告れ。」
 と云った。
 かみのの名とともに、いわい神も分家した。
 よしぞうはみよと夫婦になって、西のかみのは十何代も続く。
 力の強い、賢い子が生まれたという。
 いわい神の記述は、他にはない。

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とんとむかし

   ねこの奥方

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、どーよ村に、かべの金時という、おさむらいがいた。
 にゃーおというねこを、飼っていた。
 どうよ館の、ものすごーわる・もすによーるを、かべの金時は、正義の一刀、
「きえーおうりゃ。」
 と、ぶった切って、
「ばんざい、世の中は平和になる。」
 と、みんな云ったが、どうよ館の、美しい奥方、とんでもねーわ・よーろぴが、
「犯人をひっとらえておいで、火責め水責め、ぎろちんの刑だ。賞金一万両。」
 と云って、かべの金時は、指名手配。
 美しいよーろぴが、こわくって、だれもかくまおうとは、しなかった。
「仕方がない、旅に出よう。」
 かべの金時は、ねこのにゃーおと、旅に出た。
 ねこのにゃーおが、先に行く。
 のっそり真夜中、
「おいどこへ行く。」
 どうよ館の塀の上。
「さようか、灯台もと暗し。」
 毒を食らえば、皿までだっけか、にゃーおのねこはすっとんで、ここは、美しい奥方の、寝室、
 かべの金時は、刀を抜いた、
「にゃーおのねことわしを、おかまいなしにするか、それとも一つきりの命を。」
「さすがなもんじゃ、かべの金時。」
 美しい奥方は、ぱっちり目を開けて、
「では、おかまいなしにしよう。」
 と云った。
 にゃーおのねこが、喉を鳴らして、寄りっつく。
 なれつかぬねこが、どうした、
「ねこと女は、あてにならないって、おっほっほ。」
 美しい奥方は消えて、にゃーおのねこ。
「くせものだ、出会え。」
 声がした。
 槍にさすまた、大だんびら、小だんびら、
「なにはなんたら、おうりゃ。」
 死に物狂いの、かべの金時は、抜け出した。
 にゃーおのねこと、歩いて行った。
 野越え山越え、三日二晩、
「たいてい旅もやんなった。」
 と云ったら、美しい花嫁さまが、こしに乗って行く。
 はあて、泣きの涙の、花嫁御料、
「めでたいなあ。」
 と、かべの金時、
「めでたくない。」
 と村人。
 おおえ山には、鬼が住む。
 美しい娘を、差し出さないと、暴れ回って、人を食う。
「人の肉はうんまいそうだ。」
 ぶるうふるえ、
「ではわしがとって代わろう。」
 かべの金時が云った。
 花嫁衣装をひっかぶって、にゃーおのねこと、こしに乗る。
「あれはなんだ。」
「鬼の好物。」
 にゃーおのねこと、かべの金時のこしは、山のほこらに、置き去り。
 ふわあと鬼火が見えて、七つになって、そやつが一つになって、
「おっほう花嫁。」
 鬼が云った。
「二人いる、あっちの方がいい。」
 にゃーおの猫を、ひっさらう。
 花嫁衣装をひっぱいで、かべの金時は追いかけた。
 鬼の岩屋に、美しいよーろぴがいる。
 どういうこった。
「きええおうりゃ。」
 かべの金時は、切りつけた、鬼の耳がぶっ裂け、
「こおりゃ。」
 ぶんまわす腕に、刀は真っ二つ。
 あわやよーろぴ。
 はてな、にゃーおのねこが、鬼の目ん玉を、ひっかいた。
「ぐわあかん。」
 目ん玉押さえる。
 ここぞと責めりゃ、鬼はたまらず、ふっ消えた。
 にゃーおのねこと、かべの金時は、凱旋。
「ばんざい。」
 村中、飲めや歌えの、お祝い。
 その夜、美しい花嫁が、忍んで来た。
「わたしの命は、あなたさまのもの。」
「おっほううん。」
「無礼もの、下がりおろう。」
 にゃーおのねこが、口を聞く。
「美しい奥方さまが、おられますとは。」
 娘は引き下がる。
「ねこっきりいない。」
 そう云ったら、にゃーおのねこしか、いなかった。
 旅して行った。
「なんだか変だぞ。」
 うさんくさいったら、
「にゃーお。」
 にゃーおのねこが鳴いた。
 のったりたいら河があった。
 舟に乗ったら、渡し守りが、
「お客さん、この河には、うわばみが住む。」
 と云う。
「悪さするのか。」
 かべの金時が聞いた。
「牛や馬を、べろうり食ったり、人を呑んだり。」
「見たやつはいるのか。」
「見たらおしまいで。」
 渡し守りが、うわばみの頭になった。
「ねこなんてえのも、好きだあな。」
 にゃーおのねこを、ぺろう呑み込んだ。
 襲いかかる。
 胴を切りゃ、かまっ首もたげ、頭突っつきゃ、しっぽが襲う。
 とぐろを巻いて、なにはなんたって水ん中。
 ぴえーといって、血いだら真っ赤。
 うわばみの腹かっ裂いて、美しいよーろぴが立つ。
 ひとふりの太刀を。
 と思ったら、ねこのにゃーおが、太刀をくわえる。
「いするぎ神社の太刀。」
 それを見て、村人が云った。
「きおいのよろずという、大泥棒がいて、百三十年前に、太刀を盗んだ。」
 太刀は、永遠の命を、よこしま者が持つと、
「そうじゃ、うわばみになる。」
 といって、うわばみの皮、かき寄せたら、きおいのよろずになった。
 ひでえ臭いの、そやつは燃やし、永久の太刀は、いするぎ神社に納めた。
 めでたし。
 旅を続けた。
 次は、どぶくろ峠に、盗賊の砦があった。
 東西南北掠め取って、人は殺す、火はおっぱなす。女はうばう、たいへんだ、
「なんとかしてくれ。」
 西の村も、東の村も願った。
「よかろう。」
 と、かべの金時、
「じゃが一人ではな、加勢する者はないか。」
 だれもいない。
 じゃ止めたと云ったら、
「わたしは天童丸、加勢しましょう。」
 といって、大人よりたくましい、子供が出た。
「子供じゃしょうがない。」
「見ておれ。」
 天童丸は、刀をとって、柳を切って、水につくまでに、十三にした。
 たいしたもんだ。
 にゃーおのねこと、かべの金時と、天童丸は、砦へ向かった。
 砦山には、息抜きの穴があく。
 にゃーおのねこが、偵察。
「ねこでいいんだろうか。」
 と、天童丸、
「七三でまあな。」
 引き返し、ねこが云った。
「強そうなの三人、中くらいの十二人、どうでもいいの三十人。」
「強いのを、退治しよう。」
 と、天童丸、
「火矢を射込めばいいのよ。追い出すの。」
 美しいよーろぴが云った。
「はい、奥方さま。」
「そうではない、お化けだ。」
「いい子ねえ、気に入ったわ。」
 夜を待って、火矢を射込んだ。
 つなを張って、待ちもうけ、
「うわあ煙ったい。」
 どうでもいい三十人、
「火事だ、ねこのお化けだ、恐ろしい。美しい女だった。」
 わめいては、ばったと倒れ、かべの金時が、いっぺんにのした。
「もうおしまいだ、逃げろ。」
 大声上げると、中くらいの十三人が出た。
 そやつらをなぎ倒し、かべの金時と、天童丸は、強い三人と戦った。
 明け方までには、ふん縛って、村へ凱旋。
 盗賊のお財と、女たちの行列。
 さて、
「あーあ。」
 かべの金時が云った。
「もう止めた、どうよ村へ帰ろう。」
「強きをくじき、弱きを助け、正義の旅、おともします。」
 天童丸が云った。
「そうよ。」
 美しい奥方さま。
「どうよ館には、拷問が待ってます。」
 にゃーおのねこが云った。
 旅を続けた。
 さまざまあって、てやんでのご城下に入った。
 高札が立つ。
「姫さまに、化物がとっついた、退治した者を、花婿に迎える。」
 てやんで城、とあった。
 にゃーおのねこと、かべの金時と、天童丸は、名告りを上げた。
 姫さまの寝所の、となりへ宿る。
「それはもう、お美しい。」
 忍び込んで、にゃーおのねこが云った。
「奥方さまより、美しいお方はありません。」
 天童丸。
「そうかよ。」
 と、かべの金時。
 真夜中、恐ろしい叫びに、お城中わななく。
 姫さまの衣を着た、九尾の狐が歩く。
「えやー。」
 かべの金時は、刀を抜いたまんま、よだれを垂らす。
 にゃーおのねこは、総毛立つ。
 かろうじて、天童丸が、一太刀。
 化物はのし歩く。
 さむらいどもは狂い、お女中は阿呆になる。 かすかに、血のあとがついて、明け方、にゃーおのねこと、かべの金時と、天童丸と、辿って行った。
 深い山中のやぶに、穴があった。
「たしかにここだ。」
「飛び出す所を、弓矢に射よう。」
 二人は待った。
 夜中に真っ青なものが、炎を吐いて、飛び出す。
 かべの金時が射たが、弓矢はそける。
 物知りのじっさまが来た。
「五百年の狐は、尻尾が二つ、九尾の狐は、四千五百歳、それ以上たった、弓矢でないと射貫けぬ。」
 という。
「そんなものがあろうとは。」
 かべの金時。
 思案投げ首を、天童丸が、
「もしや。」
 といって、石を三つ拾って来た。
「おおむかし使った、矢尻だそうです。」
 くっつけて、弓矢を三本。
 九尾の狐が、飛び立つ。
 一の矢、二の矢も外けた。
「追い矢ではいかん。」
 夜明けを待った。
 しまいの一本を、振り絞る。
 まっしろい眉間へ、吸い込まれ、
「おひょーかんかん。」
 狐は墜落。
 九尾の谷ができた。
 お城へ引き揚げた。
 美しい姫さまが、目覚める。
 天童丸を見て、ぽおっと赤くなった。
「花婿は決まった。」
「てやんで城の主。」
 ばんざい。
「どうせそういうこったろうと思った。」
 かべの金時。
「にゃーんとお似合いの二人。」
 ねこがいった。
 にゃーおのねこと、たっぷりご馳走になって、
「兵隊をかしてくれ。」
 かべの金時は、新城主、天童丸に云った。
「どうよ館へ押し入る。」
 にゃーおのねこは、天童丸の肩へ。
 かべの金時は、どーよ村に押し渡り、どーよ館を占領した。
 美しい奥方が出た。
「ここに手紙があります。命令、兵隊はどーよ館に入ったら、かべの金時をひっ捕らえろ、新城主。」
 多勢に無勢、かべの金時は、とらえられて、拷問台。
「ものすごーわる・もすによーる、私の夫を殺した者、死刑じゃ。」
 美しいよーろぴが云った。
「でもあたしと結婚したら、許す。」
「いやだ。」
 そいつはとんでもない拷問で、
「まいった。」
「うっふん愛してる。」
 どーよ館は、盛大な結婚式。
「ねこを飼ったは、一生の不覚。」
「なにかいった。」
 にゃーおと聞こえて、めでたし。

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とんとむかし

  牛をべろうり   

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、たのすけ村のじんべさ、牛追って田んぼすきおこしてたら、ふんどし一つの天狗が出て、よこせという、
「うんまそうな牛、べろうり平らげて、皮で衣こさえてな、ありがたく思え。」
「ありがたく思えって、牛はかわいそうだし、どうやって田んぼおこす。」
 じんべさ云ったら、ではこれをやろうといって、天狗うちわくれた。
「空飛べるしな、使いようによってはいかようにも。」
「なこといったって。」
 それふるって、追っ払おうとしたら、牛も天狗さまも消えて、
「その手は食わん。」
 と、声だけ聞こえた。
「ちえどうやって。」
 天狗うちわふったら、田んぼはどうもならん、じんべさふわっと宙に浮く。
「へえこりゃ面白えや。」
 天狗うちわに、空飛んで行った。
 川をわたる。
 大きな鯉が行く、うわあいつと思ったらまっさかさ、ざんぶと川へはまって、じんべさ岸へ上がった。
 がんたとこの嫁いて、
「どうしたや。」
 と聞く、
「天狗さまに牛取られて、うちわ貰った。」
「またそったらてんぼこく。」
「うそじゃねえって。」
 天狗うちわあおいだら、
「きゃっ。」
 嫁の着物はがれて、すっぱだか。
「うわえれえこった。」
 見るもな見てすっとんだ。
「なるほど、使いようによっては。」
 うちに帰って、かかにみっからぬよう、味噌蔵へ隠した。
 しょうむねえ、人力ですきおこして、ようやっと田植えして、今日はお祭りだ。
 どんがらぴー、赤いけだしに舞い踊るって、朝っぱらから、よったくって飲んだ。
「おめえ、女っこの尻まくる術、知ってるってじゃねえか。」
 だれか云った。
「なんのこった。」
「がんたとこ嫁、どうとかって。」
「そりゃ違う。」
「めっこがんたうるせえぜ。」
 天狗うちわだって、そいつがそのー
「今年のお水取りだ、おめえ、がんたの代りに行ってこう。」
 名主さま云った。
「村一のすけべ、お水取り行かせりゃ、豊作間違いなしよ。」
「あっはっは。」
 みんな云う。
「いえそんなあの、牛はいねえしおらとこ。」
「行くんだ。」
 文句帳消しだって、そりゃしたが戸隠さままで、海ぱたずうっと行って、けわしい山路行って。
 じんべさ、まいない受けて、家帰ったらかか、天狗うちわで、かまどあおぐ。
「味噌つけて、こんげのあった。」
 うわあったら、危うく大火事になる。
 じんべさ、天狗うちわもぎとって、
「せっかく留守番してろ。」
 と、でかけて行った。
 道中どっかの娘のおしりとか、そうは問屋が下ろさず、じんべさ、さっとあおいで、海っぱた行き、山三つ越えて、もう少しで戸隠神社というとこで、とんびと烏と来た、
「うんめえにおいがする、わしが、いやさとんびがめっけた。」
「味噌くさいは上味噌にあらず、かーお。」
 二羽でつっつく。
「や、やめとけ。」
 天狗うちわ破けて、じんべさまっさかさま。
 善光寺さまの、大屋根だった。
 まいないと、お水取りの器と、じんべえさ、てっぺんにひっかかる、
「なんだあいつ、夕立さまか。」
「どんがらぴっしゃって、いや人だ。」
「へそ取られてほうり出されたか、わっはっは。」
 お参りの人が、よったくって見上げる。
「笑ってねえで下ろしてくれえ。」
 と、じんべさ、
「ちっとむりかいな。」
「そこまで届く梯子がねえ。」
 という。
「善光寺さまの、屋根上がるなと、なんてえばちあたり。」
「そうではねえ、かくかくしかじか。」
 じんべえさ語った。
「なんだとお。」
「拍子とってやらあ、歌ってみろ。」
「そうしたら、蒲団敷いて、飛び降りられるようしてやる。」
 じんべさ、屋根のてっぺんに歌った。
「ふんどしべろうり牛を食べ、
 じんべがもらった天狗うちわ、
 さっとあおいで空飛び、
 んだ大鯉川へざんぶり、
 がんたの嫁はすっぽろりん、
 水を取りに戸隠神社、
 えれえこったやすんでに大火事、
 たにしじゃねえて味噌蔵うちわ、
 からすかーおととんびつっつく。」
「わっはっはあいつしゃれてるぞ。」
「なんでさ。」
「頭つづってみろ。」
「富士山が見えたかだってさ。」
 富士山見えねえけんど、下ろしてやろうてんで、千人分の蒲団ひっぱりだして敷いた。その上に、じんべさ飛び降りた。
 宿坊には、千人泊まれるっていう、善光寺さま。
 だれかじんべさに牛さずけた。
 牛に引かれて善光寺参りの因縁。
 めでたしって、また天狗が出たとさ、帰り道。
 うちわの代りに、ふんどしやるって。

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とんとむかし

  美人幽霊

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、いつ勘十郎というおさむらいがあった。
 やっとうの腕はたしかであったが、部屋住みで、たいして飲めぬ酒飲んだり、店冷やかしに覗いたり、魚を釣ったりしていた。
 三十過ぎの山のような娘が、十石取りの加藤左衛門の、うん婿入りという、ちっとそいつは、
(おれだってこう見えて。)
 勘十郎は、ふところ手して歩いて行った。思い出した、部屋住み仲間の、せんの由造が行方知れず、
「たいていおまえが連れて行って、ゼニもないのにいつづけて。」
 なと云うのは、口八丁で婿に行けた、いとう藤中だ。惚れられたんで仕方ねえとさ。
(ふんつまらん。)
 由造はどうしたんだ、魚釣りはせんし、飲み一丁の、ー
 辻っぱたに手招きする。
 古物屋の六兵衛んとこの、
「なんだあ娘。」
「お父さんがいいもの手にはいたって。」
「ふん。」
 ろくでもない品を。
 勘十郎の文無しは知っている、だが親父の見せたのは、印伝の煙草入れ、
「知ってるぞこやつ。」
「そうでしょ、由造さんの兄貴の持ち物で。」
 ぎょろり見上げる。
 人のいい親父で、
「使いごろの。」
「ねえのはわかってるだろうがさ。」
「でも欲しいんでしょ。」
 くそたたっきってやろうか。
「どうして店へ出た。」
「由造さんがもって来たです、三日めに引き取りに来なきゃ、兄貴に売れってんです、いやね、そのお兄さんが、こんなものは知らんていう。」
「ふーん。」
 でなんでおれに、 
「器量よしの娘、もらってくれりゃその。」
 世の中物騒だ。
 用心棒のむこどんて、
「娘だけなら。」
「食わせて行けねえでしょ。」
 店を出た。
 由造を探そう、三本に一本は負けてやった、そいつを真に受けて、いっぱしそのって、今ごろはおだぶつ、ー
「いくまつ。」
 に寄ってみた。縄のれんだけど別こともする。
「いないわよ。」
 生っ首が云った。
「同じふうねえ、でもつけはだめよ。」
「どこへ行ったか知らんか。」
「知るわけないじゃん。」
 由造が顔を出した。
「まっさきここへ来ると思ってな。」
 探したくれたか。
 勘十郎は引っ張り上げられた。
「聞いてくれ。」
 女を退けて云うには、どうも人一人殺しちまったらしいという、
「椿屋敷を知ってるだろう、あそこへ雇われたんだ。」
 やっぱり用心棒か、
「ありゃ空家になってるはずが、よったくって博打でもやるのか。」
「違うんだ、幽霊が出る、女のそれもどえれえべっぴんさまだ、うそかほんとうか、噂ってもなおそろしい、一目この目で見ようってのが、四人五人と来る、でもって、そこらひっぺがして一晩中焚火したり、お祭り騒ぎだ。」
「へえ。」
「それ追っ払う役よ。」
「幽霊は出たんか。」
「見たぜ、ありゃあたしかに、ー 」
 ぞっと由造は云った。
「でもそりゃそれだ、何人か忍び込んで来てな、とやこう云う、いやわしにさ、野暮な幽霊だ、そんなへっぴり腰で、生きてるのが切れるかって、おうさって叩っ切った。」
 倒れたやつ、仲間がひきずって行った。
「ふうん。」
 そいつが兄貴に呼ばれた。
 石津で騒ぎがもたがった。
 若とのがどうかしたっていう、
「なに石津の若を。」
「死んだわけじゃねえって。」
 そりゃおおごとだ、
「そそのかしたのは部屋住みだって、腰巾着が藤中だ、おまえは何をしとったと、兄貴がさ。」
 その足で逃げて来た。
「様子をさぐってもらおうと思ってな、垂涎の煙草入れをさ、婿どんになる古物屋に。」
「ならねえったら。」
 勘十郎は石津屋敷をさぐった。
 のぞき込んだら、いきなり、襟首とって引っ張り込まれ。
 どういうこった、いえ怪しい者では、
「おや、こいつ勘十郎といって、部屋住み仲間だぜ、由造はどこにいる。」
「由造がなにをしたって。」
「殺されたのは藤中ってのだ、死ぬまぎは云ったぜ、由造みてえなまくらにやられるとはなって。」
 腕はたしかっていう勘十郎の手を、赤子のようにひねる。うへえこやつこそ用心棒だ、もう、ありていに白状した。
「それじゃ、由造と藤中の私闘ってことにしよう。」
 用心棒は云った。
「若にも困ったものだ、いいかげんにせんと。」
 椿屋敷へ行け。
 友達甲斐だ、見届けてこいという。
 幽霊を見届けようっていう、銭金でもからんでいるのか。
 石津の若の、身持ちの悪いのは、女に振られてっからというが。
 幽霊なんか出ない。
 由造は見たといったがどうした、一人三人、忍び込んだやつを追っ払って、そこは由造とは違う、勘十郎は七日いて引き上げた。
 かってに果たし合いをしたというので、由造は切腹。
 それが、死ぬ前に幽霊に会いたいと云った。
 美しいといって、あんなに美しいものはない、
「死んだら会える。」
 介添えが云うと、
「生きているうちにだ。」
 と云った。
 どういうこった。
 殿様のお耳に入って、椿屋敷の幽霊とはなんだ、人騒がせな話だといって、探索が入った。
 途中沙汰止みになった。
 美しいお姫さまが色狂いして、困り果てて空家の椿屋敷に押し込めになった、でもってな、という話がささやかれた。
 それはもうお美しい方で、男とみれば、
「にっと笑って、かんざしでこう。」
 勘十郎の入った時には、もう他所へ移されていた。
 仲間二人失ってぼんやりしていたら、由造がふわーっとそこへ立つ。
「その体をかしてくれ、のり移って椿屋敷の幽霊に。」
 といった。
 成仏できねえって、
「あれは幽霊ではないっていうぞ、それにもう椿屋敷にはいない。」
「どっちだっていい、また帰っている。」
 仕方がない、椿屋敷に忍び込んだ。妙なもんだ。
 由造に軒貸して、ー
 そいつが出た。
 美しいといったら、月明かりにうわあーと浮かんでにっと笑う、身も心もって勘十郎、いえさ、由造の霊はほうりだす。
 うっとりわがものったら、かんざしがこう、
「オホホ、幽霊にした男は、おまえで十一人か。」
 と云った。
「うらめしや、みんな若のせいじゃ。」 
「若をどうした。」
「幽霊一号よ、おっほっほっほ。」
「生きているって。」
「死んだかもよ、むちゅっ愛してる。」
 うわ、世間噂と違うぞといって、ー 空気が抜ける。

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とんとむかし

  さんち

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、ゆきえの村に、むしろ小屋掛けて、だれか住んだ。
 乞食かというと、何かして稼いでみたり、そうかというと、なんにもしなかった。
「さんち。」
 という、三兵衛か、さんちは歩いて行く。
 山向こうのお寺に、池があった。蓮を渡って、弁天さまがある、お堂を開けて入ったっきり、出て来ない。
 はあて、茶屋で団子なと食っていた。
 弁天さまでもあるまいしと、川っぱたに釣りをする、
「釣れたかいの。」
 と、寄って行くと、
「ふう。」
 と笑う、魚篭は空っぽだった。
 おさむらいでもあったか、年寄ったか若いか、ようも知れなかった。
 むしろ小屋に、男の子が来た。手におえぬがきんちょで、盗みやかっぱらい、女の子にわるさする、一人二人かたわにしたとか、
「追ん出されたで、おいてくれ。」
 と云った。
「おいてやってもいいが、てめえんことはしろ。」
 と、さんちは云った。
「そうする。」
 子供は、ふとんをかっぱらって来て、なべかま茶碗なとして、余れば分けて食い、なきゃ食わぬで暮らした。
 稼いできて、飯まこさえたりした。
 さんちの面倒を見る。
 すっきりして楽しそうな。
 親が、
「もういい、帰っておいで。」
 というと、
「帰る。」
 と云い、
「うん。」
 というんで、帰って来た。
 それあってか、人は何かあると、むしろ小屋へ行く。
 かかに逃げられた、じいさ口聞かね、ゼニに困った、子は云うこと聞かねえ、
「そうかい。」
 一こと二こと、人はなっとくして帰って行く。
 仲間はなかった。
 野菜や米上げて、人が、
「おまえさまは、なんで。」
 なと聞くと、
「みんな、独り合点するきりさ。」
 といって、ふうと笑った。
 評判がたって、なにがしというさむらいが来て、
「だれあって、かってに暮らすわけにゃいかん、目障りだ。」
 といって、刀をひっこ抜いた。
 切ったと思ったら、
「おさむらいがまあ、蓮の葉っぱ相手に。」
 といって笑い物。
 蓮のくきが切れていた。
 上尾のおくみは、美しい人で、浮き名を流しても、
「上尾のおくみがさ。」
 といって、人は悪いことは云わぬ。
 それが、さんちに惚れて、通いつめる。
 むしろ小屋に、大輪の花。
 言い寄ったって、気の利いたせりふの一つもと、さんちが貴人になった。
 おさむらいではなく、烏帽子すいかん、大空のようなあやもの着て、おくみの手を取って行く。
 蓮の花がぽっかり、水の辺を渡って、弁天堂に入る。
 二人消えた。
 何日かして、おくみは帰って来た。
 どういう道行きであったかと、人が聞くと、喜悦満面、
「一生の思い出を、なんで人になんか云うものか。」
 といった。
 この世の無上楽だってさ。
 さんちは、いつかいなくなった。
 十二神将に、さんちらという、巳の神さまがあったのを、きっとその化身だと、人のいう、

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とんとむかし

  梅の宿

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、いかずち村の温泉宿に、こんな縁起があった。
 梅の老木にまつわる話である。
 三郎兵衛という嫁なしがあった、年もいいかげんになった。母親の面倒をみて暮らそうかという。
 機神さまのお祭りに、のぼり担いでねり歩いていたら、おしろい塗って真っ白けの女がにっと笑って、
「嫁っこ欲しいけ。」
 と、聞いた。
「うっさい、いい女ならもらってやってもいいけんどな。」
 と、三郎兵衛、
「強がりいうな、ねえくせに。」
「ふん。」
「西のほう十里行って山入ると、女ばっかりの村ある、うっふう、そりゃもうみんなあたしみたいに別品さまじゃ、惚れっぽいしすぐ嫁に来るで。」
 と云った。
 そういえばおしろいぬったくっても、こりゃ満更でねえが、
「手っ取り早くおめえでも。」
 といったら、もういなかった。
 お祭り終わって、なんやかやして十日もたって思い出した。
 三郎兵衛は尋ねて行った。
 十里行って山の入り口に、十軒部落があった。そば食いに来たことがある、女ばっかりの村のこと聞いたら、
「そんなもんあったらわしが行く。」
 と云った。
「道はある、抜け人の通り道だちゅうで、山賊も出たが、今はだれも行かん。」
 険しいといった。
 女ばっかりの村、あるはずもねえしなといって、引き揚げたら、ばあさいて、
「いわな取るか。」
 といった、
「一干し三文。」
 川干しあげて、さかな取る、
「ええ子生まれるぜ。」
「たっても嫁ねえが。」
「えへへ。」
 とばあさ。三郎兵衛は、三文払った。
「女もあんなばあさになっちまうんだ、ひい。」
 と云って、こまいのが三つ、もう一つ欲張って、ものにならず、三つめに、ぼうくいみたいでかいのいた。
 押さえ込んで出ると、ばあさ来て、
「三場所な、五文に負けてやる。」
 と云った。せっかく取ったって五文、
「そうかよ。」
 といって投げた、ぽかっと浮いて、死んだかと、
「四文。」
 ばあさ云ったら、ふっと消えた。
「嫁なしは魚も取れねえ。」
「うっさあ。」
 と、帰って来た。
 あくる年、雪消えに夢を見た。
 谷を行くと、ずんと開けて美しい川があった、えらくなつかしい川の、
 三郎兵衛は行ってみた。
 さんさん芽吹き山抜けると、夢にみた、夢よりもなつかしい川があった。
「浦島太郎はこういう川辿って。」
 と、思ったら、梅が咲いていた。巨木を満開に咲く
 見呆けて、帰って来た。
「梅はお里に咲くもんさ。」
 母親云った。
 夏が過ぎた。
 野分けのあした、行き倒れがあった。
 若い女だった。
 かゆを食わせて、十日めには起き上がった。
 山向こうの、ひえ村の娘で、両親ともなくなって、身寄り頼って行くという。
「だったらうちの嫁になれ。」
 母親いった。
「だどもあの。」
「だどもなんだな。」
「わたしのようなもんでよければ。」
 そりゃもういいともさといって、形ばかりの祝言上げて、三郎兵衛と行き倒れの娘といっしょになった。
 気立てのいい子で、しゅうとどのによう使え、親子三人仲良う暮らしたが、どういうものか子がまからぬ。
 いわな取れなかったからだと、縁起にはある。
 祭りに嫁さま、おしろい塗ったくって踊ったら、はてどっかで見た、そうであった、
「女ばっかりの村あるで。」
 といったあの女。
 そう云ったって笑うきりだし、三郎兵衛もべつこと思わず。
 嫁が来た年、梅を植えた。
 その梅が咲いたら、男の子がもらい子になって来た。
 梅屋敷という、温泉宿である。
 梅屋敷という村もあって、しまい女だけになって絶えたそうの。

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へきがんろく

第八則 翠巌夏末衆に示す

本則・挙す、翠巌夏末衆に示して云く、一夏以来、兄弟の為に説話す。(口を開かば焉んぞ恁麼なることを知らん。)看よ翠巌が眉毛在りや。(只眼晴も也地に落つることをかち得たり。鼻孔に和して也失し了れり。地獄に入ること箭の射るが如し。)保副云く、賊と作る人心虚なり。(灼然、是れ賊賊を知る。)長慶云く、生也。(舌頭地に落つ。錯を将て錯に著つ。果然。)雲門云く、関。(什麼の処にか走在し去る。天下の衲僧跳不出。敗也。)

翠巌令参、保福従展、長慶慧稜、雲門文偃ともに雪峰に継ぐ。一夏というのは三旬安居の一期今は冬もありますが、四月から七月十五日までですか。一夏の間兄弟(ひんでい)の為に説話す、どうだおれの眉毛あるか。嘘をつくと眉毛が落ちるという、あるいは達磨にひげありやという公案。(口を開けばどうやって本当本来を知るか。)且らく云えとあります、一大蔵経、五千四十八巻、免れず心と説き性と説き、頓と説き漸と説くことを、かえって這箇の消息ありやと。どうですかあっはっは多少は思い当たって下さい。でなきゃ翠巌眉毛ありやが、まったくの無駄こと。しゃばの人の反省会は、てめえの言質に科ありやなしやと、つぶさに見る、なんという醜悪、はいそんな問題じゃまったくないんです。(眼晴なあ、出来したりといって三文やす、眉毛ありやって、わっはっはそうだそうだって、人の云う尻馬に乗ろうってんだろ、けったくそわりい、堕地獄。)保福云く、賊となる人心虚なり、賊とは人の家に入ってその財産を掠めとるんです、わかりますか、眉毛ありやを根っこぎ奪いとろうという、てめえなにほどかあったら不可能、わかりますかこれ、賊心。(おっほう賊賊を知る。)長慶云く、生ぜり。生えてるよってさ、わっはっは。(語るに落ちたってやつ、過ちをもって過ちにつく、賊心。)雲門云く、関。関は無門関、眉毛ありやとなるほど、いやあなるほどなど云ってたら、そりゃあそれまでの人。急転直下して下さい、拈華微笑が欲しいですか、三十棒が欲しいんですか、それとも。(まるっきり取りつく島もない、これじゃ天下の坊主どもくされきんたま、どうもこうもならんぜ、敗也ってさ、取り付く島もないもの=あなた自身。)

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2007年4月10日 (火)

へきがんろく

頌・江国の春風吹き起たず。(尽大地那裏よりか這の消息を得たる。文彩已に彰る。)鷓鴣啼いて深花裏に在り。(喃喃何ぞ用ひん。又風に別調のうちに吹かる。豈に恁麼の事有らんや。)三級波高うして魚龍と化す。(這の一路を通ず。大衆を謾ずること莫んば好し。龍頭に踏著す。)癡人猶ほ汲む夜塘の水。(扶籬模壁。門を捺し戸に傍ふ。衲僧什麼の用処か有らん。株を守りて兎を待つ。)

江国の春風吹き起こり、鷓鴣啼く処百花開くというんでしょう、江南の春です、これを得て恁麼にし去る、まさに百花開く、わっはっは派手派手ですか、(尽大地那裏よりか這の消息を得たる、自然というこれを得る、今の人もっとも遠いものです。自然という仮りに自分という環境ですか、別に見ている物が本来に帰る、月は月花はむかしの花ながら見るもののものになりにけるかな。たとい別ものにしたって夢にだも見ず、歌にも俳句にもならん、ただのでたらめ。そうねえまずもってこれなんとかせにゃあと思うです。悟りも糞もないよ、淫靡なる一個、いいやそんなもんにもならぬか。坐る以外に手段なく、まずもって捨てるべき自分を見いだして下さい。そうしてっからに、已にして文彩に堕すと、もって云い出でて下さい。)江国の春風吹き起たたず、鷓鴣啼いて深花裏に在り、如何なるか是れ仏、法眼云く、汝は是れ慧超。まさに言下に於て大悟すこれ、大死一番大活現成、無一物中無尽蔵、花あり月あり楼台ありという大騒ぎ不要ですか、いいえあっさり通り越したんですか、はい初心これ。(喃喃何ぞ用いん、別段の手段を仮らず、いえまた風に別調のうちに吹かれとは、夜静弦声響碧空、宮商信任往来風、依稀似曲才堪聴、又被風吹別調中っよりとる、汝は是れ慧超と吹くんですか、なにさ今に始まったこっちゃないんです。)三級波高うして魚龍に化す、登竜門です、いつまで魚やってないんですよ、仏教という我という、だからどうだ物まねやってないんです。(這の一路を通ず、たった一つしかないんです、いっぺんに躍り上がって、天空に駆けて下さい。悟ったらどうの悟らんきゃだめの、迷悟中を去る。大衆をだまして龍の頭踏んずけてるんじゃないんです、あれじゃなくこれ、悟り終わればただの人。)癡人なほ汲む夜塘の水、ただの人が若しやただの人に云う、取りつく島もなし。たいてい怒り出す、うっふ癡人に夢を説くなかれ、希望が欲しいという、三つのがきとわしには夢も希望もないよと云ったら、そっぽ向く。天使がどうのと、けったくそわりいこと云うなったら、見えてない人だってさ、さよう見えている分みな嘘。法王さまだってよ、くされきんたま握ってるなきなねえったら、うっふぶん殴られ。(ない壁と仮物の籬に寄っかかり、門戸を構え立てて、なんだかんだ云々、坊主には関係ないよそんなん、株にひっかかる兎を待ち惚けの連中、あっはっは世間とは何。)

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2007年4月 9日 (月)

へきがんろく

これは弁道話にあります、則監院法眼の会中にあって、かつて参請入室せず。一日法眼問ふて云く、何で来たり入室せず。則云く、それがし青林(師虔、洞山良价の嗣)の処に於て、箇の入頭有り。法眼云く、汝試みに我が為に挙せよ看ん。則云く、それがし問ふ、如何なるか是れ仏。林云く、丙丁童子来求火。法眼云く、好語、恐らくは汝錯って会せんことを。則云く、丙丁は火に属す。火を以て火を求む。それがしの如きは是れ仏、更に去って仏を求む。法眼云く、果然、錯って会し了れりと。則不憤して、便ち単を起って江を渡り去る。法眼云く、此の人若し囘らば救うべし、囘らずんば救うことを得じと。則中路に至って、自ら忖って云く、他は是れ五百人の善知識、豈に我れを賺すべけんやと。遂に囘って再び参ず。法眼云く、汝ただ我れに問へ、我れ汝が為に答へん。則便ち問ふ、如何なるか是れ仏。法眼云く、丙丁童子来求火。則言下に於て大悟す。はいみなさんどうか大悟して下さい、らしいこと仏はかくあるべしだからやってないんです、何がどうくわしかろうが、実になんにもならんです、まねごとと本来事と、ぶち抜く以外にないです、いまだかつておのれの言なし、自在なしを省みて下さい。更にこれ五位君臣、四料簡を用いず、箭鋒相柱うという法眼下、思量せんと擬すればいずれの劫にか悟らんと。汝は是れ慧超。

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2007年4月 8日 (日)

へきがんろく

第七則 法眼慧超仏を問ふ

本則・挙す、僧、法眼に問ふ、(什麼と道ふぞ。担枷過状。)慧超、和尚に咨す、如何なるか是れ仏。(什麼と道ふぞ。眼晴突出す。)法眼云く、汝は是れ慧超。(模に依って脱出す。鉄餐飴。就身打刧。)

法眼文益は羅漢桂斑の嗣、大法眼、法眼宗の祖。そったく同時底の機ありという、口に卒はひよこが殻を破る、啄はおやどりがつっつく、まさに能くこの答話ありと、僧法眼に問う、(なんと云うぞ、首枷をてめえではめて白状書を持って来た。どうですか、問うというとたいていそんなふうでしょう、思い当たって下さい、じきに承当。自分という首枷を自分で設けて、さあどうしたらいいと問う、いえさ、こんなぐあいだからって曝け出す、あっはっは、はいお止めなさいって云う他なく。)慧超、和尚にまおす、いかなるかこれ仏。(なんというぞ、眼晴突出、わっはっは本体はどうなっているんだ。そっくりおまえさんだろうがさ。)法眼云く、汝はこれ慧超。慧超は法眼の嗣、帰宗策真の名、汝は是れ帰宗策真。(模によって脱出す、如何なるか是れ仏という、たがを脱出です、法眼と慧超と同じか別か、法眼も慧超もなく、如何なるか是れ仏だけがあるんです、すると慧超ですか、いえ法眼ですか、さあ道へ、三十棒じゃ不足、どかんおしまい、鉄餐飴。鉄のあめ嘗めるんですか、没慈味、味もそっけもないんです、はいこれわが宗旨なり。就身打刧、みぐるみはがれたって、まあさそりゃあそういうこってす。)

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2007年4月 7日 (土)

へきがんろく

頌・一を去却し、(七穿八穴、什麼の処に向かってか去る。一著を放過す。)七を拈得す。(拈不出。卻って放過せず。)上下四維等匹無し。(可似生。上は是れ天、下は是れ地、東西南北と四維と、什麼の等匹か有らん。争奈せん柱杖我が手裏に在ることを。)徐ろに行いて踏断す流水の声。(脚跟下を問ふこと莫れ。体究を為し難し。葛藤窟裏に打入し去り了れり。)縦に観て写し出す飛禽の跡。(眼裏亦此の消息無し。野狐精の見解。依前として只旧窩窟裏に在り。)草茸茸。(脳後に箭を抜く。是れ何の消息ぞ。平実の処に堕在す。)煙羃羃。(未だ這の窩窟を出でず、足下雲生ず。)空生巌畔花狼籍。(什麼の処にか在る。不喞溜の漢。勘破了也。)弾指して悲しむに堪えたり舜若多。(四方八面尽法界。舜若多の鼻孔裏に向かって一句を道ひ将ち来れ。什麼の処にか在る。)動著すること莫れ。前言何れにか在る。動著する時如何。)動著すれば三十棒。(自領出去、便ち打たん。)

我れは愛す韶陽(雲門は韶山に住す。)新定の機、雲門の機峰を憶う雪竇の頌、まさにもってかくの如しですか。一を去却し、仏とは何かというんでしょう、どう答えますか、たとい大手を広げてこの通りと云ったとて、一を去却しない、じゃ云わぬがよいかって同じこと、七穿八穴してどうにもこうにもならんです。良寛さんが仏を問われて泣いたという、自明まさにかくの如くあるのに、一言半句云い出でない、なぜですか。七を拈得すと、花を拈ずるに及んで迦葉破顔微笑、我れに正法眼蔵ねはん妙心の術あり、あげて迦葉に付嘱すと。韶陽新定の機、なにをどう道をうがまさに三種あり。ものみな三種あり。須菩提尊者巌中に宴座す、諸天花を雨ふらして賛嘆す、空中に花を雨ふらして賛嘆するはまた是れ何人ぞ。天日く、我れは是れ天帝釈。尊者日く、汝何をか賛嘆す。天日く、我れ尊者の善く般若波羅蜜多を説きたまふを重んず。尊者日く、我れ般若に於て未だ嘗て一字をも説かず。汝如何が賛嘆せん。天日く、尊者無説、我れ即ち無聞。無説無聞是れ真の般若なりと云って、また花の雨ふらすと。上下四維天上天下東西南北、等匹同じたぐいなし、廓然無聖個々別々ですか、(あほうめが、上は天下は土東西南北と、なんの等匹かあらん、あったりめえじゃねえかってさ、だが柱杖わが手に在り、はいどうかこの一句を手に入れて下さい、てんでんばらばらとりとめなしじゃ、終わらないんですよ。)おもむろに行いて踏断す流水の声、日々是れ好日ですか、わっはっは原爆投下、(日々是好日はたしててめえはどうかと問う、ではだめなんですよ、体究し難し、まったくの無反省かろうじて可、葛藤くつりに打入する=つまらんこったです。)ほしいままに観て写し出す飛禽の跡、みずとりの行くも帰るも跡絶えてされども法は忘れざりけれ、見えないものが見えるんですか、ないものはないんですか。(依然として旧かくつ裏に在り、不可ですかたいへんけっこうなこってすか、あっはっは。)草茸茸煙羃羃。(脳味噌にぶっ刺さった箭を抜いて下さい、なんという自由、なんだあ、だれ同じ平日。足下雲生ず、雲助けめえなんにもならんわ。)空生巌畔花狼籍、かっこういいなあって感じ入っちまうからわしはあかん。夜明簾外風月如昼、枯木巌前花卉常春、(だからなんだっていうんだ、どあほうが、見たか。)弾指して悲しむに耐えたりしゅんにゃた、虚空神です、はいあなたのことです、悲しむことできますか、でなかったら草も煙も杓子定規。動著することなかれ、標準あれば動くか、著するか、はいすべては自分がやっているんです、蛇足。動著するなかれというも早く三十棒。

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2007年4月 6日 (金)

へきがんろく

第六則 雲門日々好日

挙す、雲門垂語して云く、十五日已前は汝に問はず、(半ばは河南半ばは河北。這裏旧暦日を収めず。)十五日已後、一句を道ひ将ち来れ。(免れず朝より暮れに至ることを。切に忌む道著することを。来日是れ十六。月日流るるが如し。)自ら代って云く、日々是れ好日。(収。鰕跳れども斗を出でず。誰家にか明月清風無からん。還って知る麼、海神貴っときことを知りて価を知らず。)

雲門文偃は雪峰の嗣、はじめ睦州に参ず、わずかに門にまたがれば、よって行って、道え道えという、答え得ないと押し出して、秦時のたくらく鑽と云った。秦の阿房宮を造ったときのろくろぎり、使いすぎてすりへって役に立たない。はいあなたのこってすよ、観念思想もの云いにすりへって、真実が見えないんですか、如何なるか是れ仏と聞いて、仏という別ものです、仏道修行という、てめえの屁の匂いを嗅いでるんですか。雲門三たび問うて、道え道えと云われ、押し出されて、足が残った、門扉に挟まれて、足を折る、忍痛して声を発して、忽禅として大悟すとあります。痛いことは痛い、くわーっと叫んで、どこが痛いんかわからない。身心失せて玉露宙に浮かぶ。まるっきりうわっとこうなっちゃうんです、生まれたまんま、父母未生前という、元の木阿弥です。十五日以前は汝に問はず、(半ばは河南、半ばは河北と、まあさ同じ続きを半分にぶった切ったですか、これ旧暦っていうんじゃない、人の観念思い込みのこよみを収めず、十五日と云えばどっか収まりつく、そうじゃないんだよってこと。)十五日以後一句を道いもち来れ、さああたいへんだっていうんですか、十五日間を必死で修行して一句、そりゃ門扉に足を折られるです、ではなんとすりゃいい、なんもせんでいいって、はーい、わっはっはどうですか、日々好日とは程遠いですか。公案たってとんでもない部類、これ透過するの、なまなかじゃないです。世にいう日々是好日のしゃっぽを、いえさぬるま湯をまず抛つ、ことはそれからです。でもって禅坊主だの、機峰だの大修行だのを卒業し切って下さい、あっはっは大それたっていうより初心これ、(切に忌む道著することを、明日十六日だよ、はいもうひっかっかっている、だめ。月日流れるが如し、はいこの公案透過すれ、もしやちったあまし。)自ら代って云く、日々是好日。(収、おさまったんですとさ、嘘付け。鰕まあでっかい海老ですか、斗は北斗七星、そりゃ納まるって何が。たが家にか明月清風なからん、仏になった、わしだけ清々辺りを払うってこと、そんなことありえないんですよ、これが仏教というものなんです、悟りとは何か、還って知るや、海神貴きを知りて価を知らず、うまいこと云うってよりへたくそめが、うっふ。わし碧巌提唱して、どうしようかって思う、自信ゼロの上に、なにやってんだかさっぱり、なぜか終わるんかな。)

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2007年4月 4日 (水)

とんとむかし

  犬神の子

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、ひえたろ村に三郎という子があった。がみんこといっていじめられた。
 がみんこ、犬神の子という、犬神さまのほこらに泣いていたのを、じんべえさまが拾って育てた。
 じんべえさまの孫は二人いて、たいてい同じ年ごろの女の子で、とんでもなく意地悪で、つねったり耳をひっぱったり、うそついたり飯に砂入れたりしたいほうだいが、犬ん子といって扱き使った。
 奥さまがいくら子供だって、男女は近づけんでくれといって遠ざけたが、二人のいじわるはとどまらず。
 かっぱぶちに水の引いたとき、女の子たちは棒を投げて、
「犬ん子とっといで。」
 といった。
「でないと、手提げよごしたって云いつける。」
 二人は、手習いの道具を犬ん子に持たせた。棒を取って来るとまた投げる、もう一度さあもう一度といって、犬ん子は深みにはまって見えなくなった。
 それっきり出て来ない。二人はこわくなって、家へ帰って来て口を閉ざしていた。
「三郎はどうした。」
 と聞かれて首をふる、とっぷり暮れて二人かわやへ行くと、犬ん子がそこにゆうれいのようにつったつ。
 きゃあといって目を回した。
「そうさ、犬神さまが助けてくれた。」
 三郎は云ったが、ふちを泳いで茂みにひそんでいた、とって行けばまた投げる。ころあいに帰って来た。
 七つになった。
 がみんこも、清介というけんか仲間ができた。
 清介は遊んでいたが、三郎はじんべえさまのお使いや、風呂の水組み、女の子たちの送り迎えして、それから遊ぶ。
 清介の本家は、松のお庭に牡丹が咲いて、そこにまんねんたけというきのこが生えた。たいそう高価な薬という、二人はひっこぬいて、
「じんべえさまも欲しがっていた、売れる。」 といったが、そうもいかずそれっきり忘れていた。
 二人は柿や瓜を盗み、怒ると息のつまる多助のじいさまをからかったり、いったい悪さはなんでもした。
 けんかもしたが、清介は男気があって、がみんこを逃がして、自分がとっつかまったりした。
 二人だけの穴ぐらがあって、むしろしいて盗んだものなど貯め込んだ。
 あるとき女の行き倒れがあった。街道筋で行き倒れはときどきあった。
「助けてやろう。」
 清介がいった。
「うん助けてやろう。」
 どうにか助けおこして、穴ぐらに担ぎ込んだ。汚い年寄りかと思ったら、まだ若いようであった。
 二人は米をかっぱらって、かゆを炊いて食わせ、それからまんねんたけを思い出した。
「すごい薬だっていうぞ。」
 かびの生えたのを探し出して、煎じて飲ませた。
 女は半日いびきかいて寝ていたが、起き上がるとすっかり元気になって、帰って行った。
 それがなにかわけありの、大店の娘であったそうで、村人には目を回すようなお礼が来た。
「こういう子どもの。」
 と、使いがいった。
 三郎は、清介が本家のまんねんたけをとって、塀の外に生えたもので、かゆも食べさせてと、じんべえさまに申し上げた。
 それが通った。
 清介はいい着物買ってもらって、歩いていた。
 ふんとそっぽを向く。
「もう嫌いだ。」
 犬神ん子が神通力でもって、行き倒れを治したんだといったが、親も本家も取り上げなかった。
「絶交だ。」
 といった。
「うん絶交だ。」
 絶交して三日めにばったり出会った。三郎は二人の女の子の、お花と手習いの道具を持って、あとついて歩いていた。
「こらおまえら、帰りにしのっぱらへ来い、がみんことな。」
 女の子たちに清介は云った。
「はい。」
「あの。」
 村の有名人の云うことだ、二人はその帰り犬ん子つれてしのっぱらへ行った、村外れの草っぱら。清介がいた。
「向こうをむいて、こうやってな。」
 おしりをまくれと清介はいった。
 二人は否応もなく。
「犬神ん子になでてもらうと後生安楽。」
 それと云われて、三郎は二人のまだ幼いお尻にふれる。 
「わっはっは。」
 清介は笑って行ってしまった。
 それあってから、女の子たちの見る目が変わって、同じ荷物持ちにしたって、つれだって歩いたり、おいしいものをとっておいてくれたりした。
 姉が来いというと、妹がおいでという。
「ごしょうあんらく。」
 とおしりすりつけて来る、別段のことがあったわけでなく。
 清介はその年のうちに、見込まれて大店の養子になって行った。
 がみんこの三郎は、とつぜん遠くの村に追いやられた。
 漁師の村であった。
 漁師の仕事のきついことは、ひえたろ村の比ではなかった。
 ぶんなぐられ追ったくられて、食うものだけはあった、がつがつ食らい眠りほうけ、海へ落ちて死にかけたことも、一度や二度ではなかった。
 三郎はくじけなかった、くじけるひまもなかった、もとから父母を思わず、みるみるたくましくなって、思いの他に手足が動く。
 十七になった。
 いわしを取り過ぎた舟が、突風にあおられてあっけなく沈んだ。乗っていた十二、三人一人も助からなかった。
 三郎は清介の声を聞いた、清介ではなく犬神だといった。
「おまえには余命がある、ここでは死なぬ。」
 するとよみがえって、波間を漂った。
 一昼夜して、見上げると山のような千石舟があった。
「人だ。」
「まだ生きているぞ。」
 声が上がって、三郎は助け上げられた。
 手も足もふやけて引き上げられて、気がついたら絹の蒲団の上に寝かされていた。
「おまえは三つのとき行方知れずになった七之介、夢にお告げがあって、舟の行く手にさまよっておると。」
 涙のしずく、それは江戸の大店の主という、江戸へ舟は二日でついて、住まいはお庭があって立派なお屋敷の、
「七之介にまちがいはない、ようも帰っておいでた。」
 母なる人も涙を流す。人さらいにつれて行かれて、大声で泣いてきっともてあまして、犬神さまのお社へという、それ以外はわからなかった。
 生き馬の目を抜くという花のお江戸であった、繁盛を目の当たりして、だが三郎は驚かなかった、あるがまんまに受け入れる、そうとしかない暮らしであった。
 七之介とてぞろっぺいの着物着て、だが生まれてはじめて筆をとる、よみかきそろばんと云われて弱った。たいてい苦労のしがいもなかった。
 なんにも覚えぬといっていい。
「わしはひひのしけさまてはなひようてす。」 やっと書けた字で記して、三郎はお店を抜け出した。
 置かれた所を抜け出すのははじめてだった。
 あてもなく歩いて行く。
 荷を山のように積んだ車がみぞへはまる。四苦八苦するのを三郎は、苦もなく引き上げた。
「これはどこその旦那で。」
 着ているものを見て車夫が云った。
「送ってやろう。」
 またぬかるみへはまったらとて、押して行く。荷を運ぶ車屋だった。
 三郎はそのまんま居座った。
「ありゃきっとどこそのこれで。」
 手をこうやって、今に大金が入るとて飯を食わせていたが、そのこれが人の十倍もかせぐ。
 だれか云ったり思ったりのまに、三人前は終わっている。
「ゼニいらねえってとこみると、やっぱりこれか。」
 荒っぽいところでよく喧嘩があった。
 さむらいくずれなどだんびら振り回すやつを、これの若旦那が出てあっさり片づけた。どう動いたか、知ろうともせぬのは海の仕事であった。
「ひえー。」
 あざやかというか、とたんに名が上がった。
「おまえさまなんて呼びゃいい。」
「犬神の三郎。」
 なんとか名告ってみたら、今度はそいつを担ぐのが現れた。
 どっかの軒を借りて赤い鳥居を建てる。
 犬神一家といって、いつのまにか十二、三人たむろする。喧嘩と喧嘩の仲裁と看板を上げるところだったが、いったい主の三郎がなんでもして働く。
「重宝屋三郎」
 の看板になった。
 これが流行った。
「人の役に立つには、よみかきそろばんなんてもないらねえんだ。」
 自ら一の子分と称するのが云った。
「思ったりしたりなんてはできねえんだ。」
 喧嘩は無敵だぜという。
「おしりにさわってもらうと後生安楽。」
 きれいなおねえさん方が云った。
「なんていうんだろ、あの人きいっと海みたい。」
 ある日柳生道場のおさむらいというのが、三郎の前に立った。
 ふっと目を細める。
「なにか御用で。」
「すきがないな。」
 おさむらいは云った。
「いえ斬りゃあっさり斬れます。」
 切りつけて寸留めする、
「おまえさんはすばらしい。」
「どうにもできなかったからで。」
 三郎は云った。
 なんて面倒なことをと云いたかった。
 それあってか大いに名を売って、総勢百人から出入りした。犬神三郎にも女房ができて、それが欲のないかみさんで、
「おまんまさへ食えてりゃいいの。」
 といって、何人たむろしようが食えていたから、不思議だった。
 犬神の赤い鳥居に捨子があった。
 捨ててから拾って育てると、きっといい子に育つというのだ。
 中に拾って行かない、ほんとうの捨子があった。
 着物やお金が入っていて、めんめんと書きつらねてある。三郎もかみさんも字が読めなかった。
 二人で育てた。
 その子が大きくなって、
「犬神ってなあに。」
 と聞いた。
「はてな。」
 三郎はかみさんに聞いた。
「いいえ。」
 かみさんは笑った。
 清介にもう一度会いたいと思うことがあった。

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とんとむかし

  しんらの芦舟

 とんとむかしがあったとさ。
 しんら国の前の王、ゆのおおとのがなくなった。
 あしの舟に柩をのせて、ゆうわの河に下ろす。
 ゆうわの河を流れ下って行って、おおとののみたまは、またこの世によみがえるという。
 ゆのおおとのは早くから、弟のしゆに国を譲って、国はよく栄えた。
 しゆのとのには、三人のひめがあった。
 末のひめミユメは狂って、花の雨を降らせ、地は黄金に変じて、実りもなく、上のひめアユメは、三人の君を取り替えてのち、神殿の大門にたてこもった。
 松明を点して、百人乙女が告げを待つ。
「滅びの雲がある、みそぎせよ。」
 乙女らはみそぎし、それを見たものは目を抉られた。
「ミウメを捕らえて岩につなげ。」
 ミウメは逃れ、身代りがセトの大岩につながれた。
 中のひめヒユメは、もっとも期待されたが、だいえのわかとのに見染められて、隣国へ行ってしまった。
 しゆのとのは、大門を開けるように云ったが、神殿の長イヤツクニヒは、折れ曲がったかぎを示し、
「かくはひめのお力によって。」
 と云って、倒れ込んだ。
 国はようやく乱れ、外にはうかがい見る動きがあった。しゆのとのはきさいヒルアーガとともに、宮のなんぐうに籠もって、表には現れなかった。
 アユメの乙女たちは、眉を青く塗って、若い信者を従え歩き、人々は戸を閉ざしておそれわなないた。
 ゆのおおとのは、時にシイヤの森に狩りをして、世にはなんの関心もないかに見える。
 十六の年にすでにしててきの大軍を破り、内外一手に掌握して、弓勢は岩をも貫くと云われ、だが従者は一人去り二人去りして、ついにはいなくなった。
 宮のなんぐうに立ち寄って、ミウメが狂って花の雨を降らせる時に当る、ゆのおおとのは剣を抜いて、
「ひめたちをこれへ。」
 と云った。中のヒウメさへ切り捨てるかも知れなかった。しゆのとのはおおとのを宥め、三人のひめはその礼をとってひざまずき、明日にはおおとのの姿はなかった。
 十数年がたった。
 ゆのおおとののみまかることは、弟子であるハルノという者が知らせて来た。
 弟子たちにみとられて、雷雲山をのぞむ洞穴にみまかるという。
 あし舟に乗せてゆうわの河に下ろす、しんらの王族の古式は絶えて久しく、六十年前に身代わりをもってこれをなすという、
「おおとのはとのの身代わりと申されました。」
 弟子が云った。
「どういうことじゃ。」
「わかりません。」
 しゆのとのは、すでに心痛の長きにわたって、ものを捉えることが難しかった。
 ゆのおおとののあし舟が浮かぶ。
 かつてもがりに従う者千人を超え、そうしてだれも帰っては来なかった。
 おおとのに従うは四人であった。
 年月身の回りの世話をしたユイという女であり、黒衣に身をおし包んで、なを美しく、ハルノという弟子の一人であり、大戦士イゴールという、国の内外に無双の豪傑として知られた男であった。
「わしがかってにこれに誓ったのだ。」
 戦士イゴールは剣を叩いて云った。
「しまいまでつき従うとな。」
 もう一人は、仮面を被った男であった。
 舟は出て行った。
 霧が晴れて真っ青な大空、河面はくらめいて島影が現れる。
「お弟子さんは幾人おられる。」
 戦士イゴールが聞いた。
「さて何人になりますか、行ったり来たりの四五十人には、ー 」
「はておまえはハルノではないが。」
「ハルノはうっかり忘れて、他所事を引き受けてしまったんです、わたしはキーオと申します。」
 弟子は云った。
「おまえらの師弟というのはさっぱりわからん、おおとのと鬼ごっこしてみたり、おかしな笛を吹いたり、ええ、生きて帰って来た者はないんだぞ。」
「大戦士、イエ・イワ・イゴールどのもそれは同じです。」
「なにわしは生きて帰って来るさ。」
 イゴールは云った。
「この世に不思議なものなどない。」
「すべてが不思議です。」
「あっはっはわしは弟子ではないが、おおとのを師と仰ぐのはやぶさかでない。」
 あし舟は流れに乗って、いくつ島影を廻って行く。
 ゆうわの河に二日が過ぎた。急流になった。断崖がせまり河は泡立つ。黒衣の女は懸命におおとのの柩を覆い、仮面はへさきに立ち、キーワとイゴールは必死にかいをあやつった。
 流れは納まった。猿の吠えわたる岸。
「しんらの国のはてじゃ。」
 戦士イゴールのひげが濃かった。また島影がせまる。
「すでに千里を来た、おおとりの島が見えるはずだ。」
 仮面の男が云った。
「ゆうわの河に三つの卵を抱くおおとりの。」
「時は空ろ木の羽根をやすらう。」
 戦士イゴールが云った。島と云えば無数の、河は流れて網の目のように。
「流れのままに行けばよい。」
「さようまた一つになる。」
 イゴールは赤い布をとりだして、手にした槍にかかげた。
「なんのしるしです。」
 キーワが聞いた。
「このあたりには、流れ者やらいろんなのが巣食っている、押し渡るのさ。」
「もがり舟のしるし。」
「そう云えばかえってよったかる、こいつはわしの挑戦状よ。」
 イゴールは云った。
「さすが大戦士。」
「このあたりへも来たことがおありか。」
 仮面の男が聞いた。
「わしはどこへでも行った、ゆのおおとのの心の辺際までは届かぬがな。」
 島影に一そうの舟が現れた。速舟であった、矢のように近づく。
 赤い布は動かず。
 美しい乙女と七人の兵であった。
「ゆのおおとののもがり舟か。」
 乙女が云った。
「礼を尽くそうぞ。」
 空手に花を注ぎ、七人の兵は槍をかかげ、楽の音が流れ。
「末のひめミウメじゃ、世のはての族を兵にする、大戦士イゴール我らにつどへ。」
「なにゆえに。」
「上のひめアユメは愚行によって国を滅ぼす、あとを狙うは隣国のミウメじゃ。」
 美しい乙女は云った。
「ゆうわの河を下って、もし生きて帰って来たら考えよう。」
 大戦士イゴールは云った。
「よろしい、安全は保障しようぞ。」
 ミウメは笑った。
 速舟はすでに十町を行く。
「あのようなお方は大好きです。」
 キーオが云った。
「ミウメの兵になるか。」
「いえ戦のようなおろかなことはしません。」
 無数の島があとすざる。網の目が閉じるところ、河は急激に流れる。
「行って帰らぬゆうわの河の。」
「この世のはてには滝があり、たましいの忘れ郷がある。」
 島があった。
 おおとりの羽根をやすらう空木の島、三つの卵を抱くように見える、卵とは激流の渦。
「あのくちばしに舟をつける。」
 仮面の男が云った。
「でなくば我らも死人の仲間。」
 あし舟は狂ったように突っ走る、戦士イゴールがかじを取った。
「なに死ぬか生きるかよ。」
 舟はなめらかに寄る。三たび死の淵にゆらいでぴったり付ける。
 四人は丘へ上がった。
 すでに夕闇がせまる、柩を下ろし、空ろになったあし舟を燃やして、最後の食事をとる。
 柩を開けると、ゆのおおとのは眠るが如くにあった。
「イツカシ、死者の魂を口うつしするもの。」
 戦士イゴールが云った。
 仮面の下には端正な顔があった。
「わしが最後のイツカシであろう、よもやこの術が役に立とうとは思わなんだ。」
 という。キーワはイツカシの手助けをし、黒衣の美しいしゆが柩によりそい、戦士イゴールは微動だもせずに見守った。
 イツカシはむくろに息を吹き込み、吸い込む。
 不思議なことが起こった。
 むくろはイツカシであり、起き上がってもの云うは、ゆのおおとのであった。
「しんらの王たる我がゆの一族は、天地を動かし星の廻りを替えたという、先人オイライの血を受け継ぐ。その力故に滅び、あるいはこの世を去った、かの恐ろしきものが末裔ぞ、母ネムイムーナはかつてその力を具現す。」
 声は空ろに闇に響く。
「雷雲山に龍を棲まわせ、王宮にはとつぜん蓮すの池と噴水を現わす、龍をともない花に遊ぶ我が幼い日ではあった。」
「母は云った、おまえにはオイライはない、王たるもの他力は不要じゃ、したが一指を授けよう、人の心を見通せる力。」
「我はわずか一千の兵を率いて、敵の三万の軍勢を破る、十六の年であった、即ちこれが一指頭のゆえに。」
 しかりおおとのはしんらの危難を救い、しゆのとのにゆずって、後もその人ありと云われて、国は安泰であった。
「我は美しいサイヤひめを愛し、ひめも応ずるを知る。」
「だが我が一指頭はさかしまに行く。」
「ひめは枯れ死ぬ。」
 とつぜん龍に変じて、雷雲を呼んで天駈ける。天宮の柱をうち、須弥山に虹をかけ、三千世界を廻り、世の輪廻をくつがえす。
 かたきというは幻であったか、皮を削ぎ骨を断つ、大地は荒れ民心はゆらぎ、青春とはもとより幻の、或いはつねにおおとのの龍が勝ち、母ねむいむーなのそれは願いであった。
「敗北は春の雨であり、凱旋は東風の。」
 おおとのの声が聞こえ、すべては失せ、
「ついに我は得た、太古心を。」
 ねむいむーなは去ると。
 河音をのみ、四人は眠った、夜の明けはなつまでを。
 おおとりの羽根は、茂み覆うサルマージュであった、サルマージュの空ろ木は巨大なさやを付けた。
 イゴールとキーワとさやを取って中身をくりぬいた。
「世のはての滝を下るにはこれしかない。」
 おおとののむくろは腐れ流され、イツカシは沈黙する。
「このお方はおおとののたましいに変化したのです、わたしにはそれがわかります。」
 美しい黒衣のしゆが云った。四人はサルマージュのさやに乗った。さやを閉ざして世のはてに滝を墜落する。
 四つのさやは漂いついた。
 それは忘却の入り江であった。
 四人は魚釣り暮らす。
 イゴールの槍が突き立たつ、小鳥がその上に止まってさえずった。キーワが二人になった、四人になり五人になり、ハルノもいれば兄弟子たちも、
「魚釣り暮らしてもいいが。」「おおとのはなにをしようとしていたんだ。」「ようもわからんが。」「遂行しよう。」「ではみなに告げよう。」「追憶を。」
 一人になってキーワは目覚め、みなをゆり覚ます。
 四つのさやをつなぎ会わせ、かいをこさえて乗り込んだ。
 三たびゆうわの河を下る。
 ゆるやかにあるいは早く、光満ちて時は停止する。
「声が聞こえる。」
 にわかに黒衣のしゆが云った。
 四人は微かに聞いた、たった一つの弦の音を。
「告げの館がある。」
 数多の声をもってキーワが云った。
 たゆたう水が盛り上がるように、巨大な塚があった。
「こやつは蟻塚ではないか。」
 大戦士イゴールがいった。
「なんで河の真ん中に。」
 急流になって、さやのいかだは吸い込まれ。
 投げ出されて四人は乾いた地を歩く。迷路であった。羽音がざわめく、何億という羽根蟻だった。
「わしらはもう何日も飯を食っておらん。」
 イゴールはそいつをつかみ取って食った。そいつはまずかった。
 食い足りて迷路を抜け出ると、大ホールであった。
 イツカシと黒衣のしゆが舞いを舞う。
 二人舞い踊って、羽化寸前の巨大なさなぎになった。
 美しい彩りが透けて見える。
「そうであったか、おまえはサイアひめ。」「はじめてお声をいただきました。」
「世の中は少しはましになったかと思ったが、相変わらずの阿呆どもだ。」
「すべては過ぎ去って、わたしのおおとの。」
 たとえようもない羽化であった。さわやかな奏楽の音に、大ホールの天井が開いて真っ青な大空が覗く。
「ねむいむーなだ。」
 大戦士イゴールは、たしかになにかを見たと思った。
 何億という羽根蟻が襲いかかる。払いなぎ倒し槍をふるう、キーオに羽根が生えている、
「そうかこやつらは死者のたましい。」
 二羽の蝶は舞い上がる。
 イゴールはさやの舟に乗って脱出した。
「わしは生まれ変わったと伝えてくれ。」
 おおとのの声が聞こえた。
「今の世には戻るつもりもないがな。」
 戦士イゴールは、十年の旅ののちに故郷へ帰る、その物語はまた別の折りに。

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とんとむかし

  ウイチーオロ

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、トミオの村に、美代という子がいた。
 美代は歌が上手だった。
 もっとうまくなって、トミオの村からハラノバル一になって、ウイチーの宮に、
「ふ−ろの旗。」
 を、かかげたかった。
 その名は知れ渡って、たのもしいとのごに見染められて、そう、北の幸恵のように、おおどの奥方にだってなれる。
 美代が歌うと男たちは、
「わしのためだけに歌ってくれ。」
 といって、サイラの花を手折り、冷たい瓜を二人で食べて、
(この種が生いついたら、)
 きっといっしょになろうと云った。
 だが美代はウイチーの神に誓った。
(わたしが一番になったら、)
 貧乏な美代にはなんにもなかった。男たちは耳がかわいいと云った。
「この耳を捧げます。」
 そうして美代は歌った。
 風になびいて、うったえあしと人のいう、オイ沼の芦辺に立って、日毎に歌った。
 すると、声が聞こえた。
「耳をくれるというはまことか。」
「一番になったら。」
 美代は云った。
「よし引き受けよう。」
 うったえあしがなびく。
 美代は歌った。
 トミオの村からハラノバルに選ばれ、勝ち抜いて、ウイチーに行けば、またイクリ村のあよがきわだっていた。
 ふ−ろの旗をかかげるのはだれ。
「哀しい美代。」
「切ないあよ。」
 人気は真っ二つ。
 そうしてウイチーの宮に、二人は歌いあった。
「おいぬまの、
 うったへあしの、
 わがなしみ、
 月の光に、
 たはむれて、」
 美代は歌った。
「人を恋ふるか、
 憂いかげ。」
「浮きね山、
 流らう雲の、
 わがなしみ、
 なほくれないに、
 あやにしき。」
 あよは歌った。
「人を恋ふるか、
 星二つ。」
「ほろと鳴くのはみやこ鳥。」
「ぴいと尻声さを鹿の。」
「秋の風さへ吹きつのり。」
「つゆの命に明け行けば。」
「なにがふるとて。」
「年はふるとて。」
「冷た雨。」
「ささら雪。」
 甲乙はつけがたかった。
「うったえあしの一夜草。」
「流らふ雲のあやにしき。」
 ウイチーの神官が、大空へ向かって弓を射る、風に乗って、右へ行けば美代、左へ行けばあよ、
「ウイチーオロの御心である。」
 白羽の矢は空中に弧を描いて、美代の耳をつん裂く。
 そうして、みどり色のおどろしいものを射貫く。
「人の耳をうばうものは神ではない。」
 そのように聞こえて、ものかげは失せ。
 美代はおばあさんのようにも、赤ん坊のようにも見え、一番になって歌い続け、一生を一人過ごす。

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へきがんろく

牛頭没し。(閃電に相似たり。蹉過了也。)馬頭囘る。(撃石火の如し。)曹溪鏡裏塵埃を絶す。(鏡を打破し来れ汝と相見せん。須らく是れ打破して始めて得べし。)鼓を打って看せしめ来れども君見ず。(汝が眼晴を刺破す。軽易すること莫んば好し。漆桶什麼の見難き処か有らん。)百花春至って誰が為にか開く。(法相饒さず。一場の狼籍。葛藤窟裏より出頭し来る。)

牛頭馬頭は地獄のお使い、獄卒です、大死ぬ一番大活現成ですか、死んだものは二度と生き返らない、しかも牛頭没し馬頭囘るんです、どうぞ味わって下さい。しかも閃電光撃石花です、ほうっと気がつく、神経シナップスの一瞬です、光速と同じに意識の速度のゼロですよ、右情識の至るにあらず。間違っちゃいかんです、仏道修行という絵に描いた餅じゃないんです。即今奪い去る、どこまで行こうが引き算です、ちらともあれば役立たぬ、これを曹溪鏡塵埃を絶すです。曹溪は六祖禅師のよる処、わがこの禅庭。妄想をどうにかしようとする、これ妄想です、鏡の底をぶち破って下さい。去来白雲を見るに見ずなんです、鳴動する大山なし、ただに打てば響く。鼓を打って看せしめ来れども君見ず、ついに終わるんです。自分という一切にかかわらない、坐禅とはただの奉仕です、奉仕する君、いいえ我れなし、わかりますかこれ、わかったら不可。そうそう簡単には行かないです、尽くしきってなをです。どうもこうものその向こう、しかもなをかつわっはっは、無始劫来貪嗔癡ですか。一生ものという、なにさ一生なんてけしつぶですよ、生生世世もたかが知れています。百花春至って誰が為にか開く。わずかに無上楽ですか、たしかに世間一般のはるかに届かぬ世界があります、生まれたまんの無上楽、はいこれ一場の狼籍、葛藤窟裏っより出頭して来る、ふーんどあほが、おっほっほ。

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2007年4月 3日 (火)

とんとむかし

   虎吉

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、花のお江戸に、とくり歌右衛門という人がいた。
 浪人さんであったか、本名はわからない、人呼んで、けんか安兵衛と、まとめ歌右衛門といった。
 こんな話があった。
 台風一過のあした、歌右衛門の、破れ屋敷の前に、赤ん坊が捨てられていた。
 小太郎の番頭は、ようやく家へ帰って行った。ちっとはそりゃ勉強もせにゃならぬ。歌右衛門はなにしろ、抱き上げて、舟宿の角屋へ持って行った。
「なにさ、ここの払い赤ん坊でするつもり。」
 おかみさんは受け取って、
「ほっほかわいい、あたしの鬼ばばつら見て笑っている。」
 女たちがよったくって、
「ほんと、とっくりの旦那にそっくり、目もとなんか。」
「へーえいつ作った、抱かせて。」
「あたしこさえてもいいてったのに、十両ってとこでさ、きゃはかーわいい。」
 たって、ちがう、今朝庭先に落っこってたんだ、
「じき腹へって泣き出す、おっぱいの出る女いないか。」
 そりゃ舟宿ではむりだった。
 とくり歌右衛門は、赤ん坊をおぶって、門付けして歩いた。
 貰い乳のできる、一軒二軒。
 四苦八苦していたら、向こうからお乳の張った女がやって来た。おっそろしい馬っつらが、あとへひっつく。
「とっくりか茶碗か知らねえが、不行跡の後始末は、ちゃんとやって貰いてえ。」
「ええなんのこった。」
「はっきりさせりゃ、考えねえでもねえ。」
 押しつけられた女は、目を伏せたっきり、乳をふくませ、たしかに赤ん坊は、この女の。
 おしめをかえ、頬すりよせて、煮炊きから、洗濯して働く。
 なんか云えば、押し黙っちまう。
 番頭がやって来た。
「だらしねえ聞いたぞ、滅法界の美人つれてくるってなわかる、町娘はらましたってな、そりゃひひおやじのするこった、君子豹変だ、えーと、危うきに近寄らずってんだっけ。」
「その、なんか事情もあってだな。」
「娘に手出す事情ってのか。」
 まくしたてておいて、一つ頼みを聞いてくれという。
「ひょんなやつと知り合いになってな、どっか大店のどら息子さ、凧作りの名人だ。でっかいのこさえて、人乗っけて飛ばしてえってさ。おれそいつに乗った、いや乗るのこれっからさ。」
「海賊は止めたんか。」
「あいつおれの手下になった、だから孫弟子。」
 すてきな親分だっていっといた、ところで人夫集めてくれという。
「風出てそいつ引くのに、二三十人はいる、酒井の殿さま、上様ご上覧の虎ってえのかな、支那から来たとかいう、あれもらい下げて飼ってるそうだ。おれ凧ん乗って、その虎見ようと思って。」
 そういえば、聞いたことがある。
「ふうむ、でもそいつは。」
 首かしげたが、
「じゃ、頼んだぜ。」
 風待ちだといって、番頭は帰る。
 人足なと一声かけりゃ何十でも集まったろうが、近頃の評判でさっぱり、でもとにかく集めて待った。
 風が吹いて、小太郎がやって来た。
 空き地に立派な凧がある、
「あっこが酒井の隠れ屋敷だ。」
 坂下の、森がうっそうと茂る、あれはお取り潰しの—
「親分、これ凧作り。」
 利口そうな若者が立った。
 そっぽ向いて挨拶する。
 はてどっかで見たか、
「大丈夫か、こいつは危険な遊びだが。」
「凧は大丈夫です。」
 小太郎は大凧に、手足十文字にからげて、風を待つ、二三十人引っ張って、物の見事に舞い上がる。
「ほう上がった。」
「云った通りだろうが。」
 得意満面凧つくり。酒井の隠れ屋敷へ行く、ふうらり傾いた、
「引け右の手だ。」
 持ちなおすかに見えて、
「引け。」
 凧作りはつっ走る。森の上に墜落。
 行ってみた。
 凧作りもいない。
 訪うたが返事がない。
 塀を乗り越えた。
 いきなり白刃が取り囲む。
「どういうこった。」
 物も云わず切りかかって来る、歌右衛門は、当て身をくれてのした。
 奇妙な男がつったっていた。
 四十格好の、ほう髪にする。
「絵描きの光興か、虎を描かせたら、天下一品というやつな。」
「そうだ。」
 光興はいった。
「人食い虎ってのを、描こうと思ってな、やくざみたいのはだめだ、何人か食わせてみたが、どうもそれが今一つ。」
「格好なのが手に入ったか。」
 ふうと絵描きは笑った。あて身をくれて、行ってみると、檻があった。
 虎というものは、ほんとうにものすごい。
 凧に乗っても、見てみたいって気持ちはわかる。
 檻は二つあって、落っこちたやつと、そいつを作ったやつが入っていた。
「早く出せ。」
「虎に食われりゃ本望ってな。」
 飛び出して、小太郎がいった。
「こいつ親分とこ赤ん坊の父親だってさ。」
「へえ。」
「もう死ぬってんで、泣きながら白状しやがった、なんせ馬面の親父がうんと云わぬ、愛しちゃってるのにさ、うんというまで、すてきな親分とこに、面倒みて貰ってって、あれおれにも責任あんのかな。」
「引き取り行きます。」
 利口そうなのが、涙と鼻水でくしゃくしゃ。
「とらきちってのどうだ、赤ん坊の名。」
 小太郎がいった。
 光興引っ張って来て、代わりに檻ん中へ入れ。
「食わしたろうか、ほんに。」
「これ酒井屋敷じゃないな、どうしたこったこの虎。」
 調べてみるか。
 絵描きを雇ったやつがいる。一枚千両という、きちがいの絵。

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とんとむかし

   お美代どの

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、花のお江戸に、とくり歌右衛門という人がいた。
 浪人さんであったか、本名はわからない、人呼んで、けんか安兵衛に、まとめ歌右衛門といった。
 こんな話があった。
 花は七分の宵っ方、いっぱいひっかけて、川堤を歩いていると、きわだって美しい女をつれて、ひょっとこ面が来た。
「これはまとめ歌右衛門の、とくりどので。」
 ひょっとこ面が、小腰をかがめる、
「おうさ。」
「では、よろしゅうに。」
 ひょっとこはふうっと消えて、美しい女の手を取って、とくり歌右衛門は、立っていた。
「はてな。」
 女は笑まいもせず、寄り添って来る、さすがの歌右衛門も、立ち往生ではなくって、なにしろ歩く。
 花の下を、女はまっすぐに見る、哀しいような、なんであろうか、
「名はなんと申す。」
「おみよと申します。」
「お武家の娘御か。」
 ふうと笑ったらそれっきり。
 破れ屋敷までやって来た。
「おーい番頭。」
 歌右衛門は声をかけた。
 小太郎がすっとんで来た。
 海賊になろうってんなら、そりゃ鍛えなくっちゃといって、手下ども十二三人と、島へつれて行った。ちったお灸をすえてと、たいてい音を上げたってのに、小太郎はけろんとしている。
 由来番頭だってんで、かってに住み着いた。
「うへえこりゃなんだ。」
 つれを見て、ぶったまげ、
「こりゃなんだじゃない、角屋のかみさん呼んで来い、ちょっとばかし、頼みたいことがあるってな。」
「へーい。」
 とんでいった。
 さむらいなんて止めだ、はいじゃなくへーいなんだってさ、手ぶらで帰って来た。
「今手が離せないってさ。」
「はて、せわしいのは夕っ方だが。」 
「なんでか知らん、一つ屋根の下に女二人はいけねえって、だれに聞いたっけかなおれ。」
 苦笑するよりなく。番頭は甲斐甲斐しく働いた。角屋からふとんを借りて来る、夫婦茶碗がそろってみたり、へんなついたてから、しぶうちわまで。
「おさよ平之介なんて、手握ったこともねえのに、さすがは海賊の頭領。」
「これ、へんな目つきするな。」
「祝言上げるばかりが夫婦じゃねえ。」
 わかったようなことをいう。
 おみよどのは、起居振舞おっとりして、番頭のさしだすお茶を飲み、座蒲団を敷き、はいといい、お早うございますといい、にっこり笑う。
 そうしてそれっきりの、歌右衛門が他出すると、ついと寄り添って従う。
 番頭は逐一気を利かす。
 三日めの、花は散りきわのあした、お美代どのと、仲睦まじそうに歩いていると、ひょっとこ面が立った。
「お世話になり申した、それでは。」
 といって、その人を連れて去る。
「おいあの。」
 声を掛ける、そのたもとがずっしり重い。歌右衛門はそのまんま帰った。
 番頭がしつこく訊く。
「なんだって、手切れ金もらって、あっさり帰って来たって。」
「違うったら。」
「ふうん、そういう汚ねえ商売か、金よこせ、つっかえして来る。」
「これ、止めとけ。」
 そこへ置いたやつを、ひったくりざますっ飛んで行った。
 行くあてもないはずがって、それが帰って来ない。
 歌右衛門は、角屋のかみさんに聞いてみた。
舟宿である。
「あらまあ文無し遊びですか。」
「うちの番頭のこったが。」
「矢場の仁吉っての知らねえかって、あんな男のこと、教えたかなかったんだけどね。何かあったの、そういや内縁のこれって、おっほっほまあどういうことさ、ふとん担いで行ったけど。」
「ふとんは返す、仁吉ってあの。」
 そういえばあいつ、ひょっとこ面を、矢場の矢拾いに、とっつけていた、そりゃ違う、歌右衛門は慌てた。
「だいぶたまってるの、知ってりゃいいわよ。」
「うん。」
 今度は歌右衛門がすっとんだ。川っぱたの三軒長屋に、何人かたむろしているのを、歌右衛門は知っていた。すんでのとこだった。大枚を持っていたのが悪かった、取り上げて小太郎は土左衛門、
「とくりの旦那じゃしょうがない。」
 仁吉がいった、しゃべると右っつらぎゅっと吊り上がる。
「でもな余計なこと知ってやがった、武家娘ってなそりゃ、それなりの、いや。」
 歌右衛門は半歩寄った、
「や、やめろ、金は返す、小僧っこもな。」
 だいぶやられた番頭を、手下がつれて来た。
「どっきたねえやつらよ。」
 ぺっと唾吐こうたって、口ひん曲がる。
 番頭の、歌右衛門を見る目がすっきりしない。
 仕方がない、つれだって行った。
 立派な門構えのお屋敷だった。そこへ待たせた。
 とくり歌右衛門といったら、じきに通された。
 一室へ入った。まっ白い上に、白装束の老人が座る。
「おまえさまとここで、碁を打ったのはいつであったかな。」
「さよう、もう十何年も前か。」
 老人はふっと和んだ。
「末娘のお美代がな、ご拝領の天目を割ってしもうてな、潔う自刃し果てた。それ故のおとがめなしであった。」
「内分のことであったと聞くが。」
 ふすまが開いた。
 一刀を抜いたこの家の主と、槍を持ち刀を抜く何人か、
「幼いころ見た、お主に会いたいといったんだ、仕方がない、お命頂戴つかまつる。」
 主である、お美代どのの兄がいった。
 歌右衛門は、刀をおしやった。
「切られてやったら足るか。」
「それは。」
 絶句した。
 ややあって、
「どうだ、二十両でまとめ屋に任せぬか。」
 歌右衛門がいった。
「死んだものはもういない、堀田がな、養女を求めている、とやこうそうさ、なんにもないのがいいってさ。」
 柄にもなく能弁に幕し立てた、まあさ、坊主のお経効果っていうやつ。
 その立派な門構えを、生きて出て来たんだから、話はまとまった。
「なんで二十両なんだ。」
 番頭が聞いた。
「在所を見つけてそれなりにする、そりゃやつが動くわけにゃ行かん。」
「ふうん。」
 納得したような。
「でもさ、手切れ金もらったじゃないか。」
「心の痛手をなあ、癒やすのさ。」
 あっはあ、惚れたってことか。
 そうじゃなくって、大分たまった角屋のつけ。
 まあさ。

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とんとむかし

   海賊ごっこ

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、花のお江戸に、とくり歌右衛門という人があった。
 浪人さんであったか、本名はわからない、人呼んで、けんか安兵衛に、まとめ歌右衛門といった。
 こんな話があった。
 ある日、とくり歌右衛門の、やぶれ屋敷に、神野曾呂兵衛という、これは立派なお侍が、尋ねて来て、
「娘をさがしてくれ。」
 といった。
「昨日の昼ごろいなくなって、こんな手紙が舞い込んだ。」
 といって、紙きれを突き出す。へたくそな字で、
「つじのろっぽんまつじゅうりょう。」
 と、書いてある。
「さっぱりわからん、十両だといって、いつ持って行ったらいいか。」
 辻の六本松は、むかしはお祭りがあって、夜店も出て、流行ったそうだが、今は破れ堂があるっきりで、ときおりよからぬ連中が、たむろする。
「で、どうなさった。」
「それが馬鹿な話で、持って行かせたんだが、金を取られて、それっきりだ。」
「ふうむ。」
「置けと聞こえたんだそうな、置いて見張っているうちに、なくなった。」
 神野曾呂兵衛は青筋を立てる、
「そういうのは十手持ちかなんかに。」
 金を取られたっていうんで、人ずてに願い出た、すると破れ堂に寝起きしていた、坊主くずれのようなのと、わけのわからんのと、二人つかまった、
「今調べておる。」
「ならもういいではないか。」
「娘の誘拐だ、せがれは十一になる、やっとうと学問と、そのうこっちの方はなんだが、娘は親に似ず、おっとりと器量よしで、いや一通りのことはしつけてある、この秋には嫁ぐことになっておる。」
 曾呂兵衛はまくしたてた、
「町方に云うわけにはいかん、なんもなけりゃいいが、二日になる。」
 引き受けることにした。
 嫁入り先は、島田平之介という、これは申し分のない相手の。
 人一人まっ昼間かっさらうって、忍者でもあるまいし、とくり歌右衛門は、辻の番屋をのぞいてみた。
 坊主くずれというのは、のっぺりした面の、玄明というのだそうだ、わけのわからんのは、すが目の甚三郎という、
「そりゃあいつらですよ、わらじが切れたたって、十両の金あんなとこへ置くのが悪い、ひょいと手伸ばしゃもう。」
 番屋がいった。
「じきに泥吐く。」
 いつだったか二人、かたなしというゆすりの手下やっていた。行ってみた、形無っていう、こいつうすっ気味悪い目つきする、
「いえね、あいつらそんな誘拐だなんて、ましなことには使えねえ。」
 かたなしは云った。
「なんか目論んでるんだろう。」
「がきが裸馬に乗ってんです、見張れっていってあった。」
 歌右衛門が隠し立ては嫌いだってことを、よく承知していた。
「まだ商いはしとらんか。」
 らしいな、辻の六本松あたりな、歌右衛門は、裸馬を待った。
「えい、すべた馬めえ、止まれ。」
 そいつがやって来た、
 歌右衛門は、放れ馬をおし止めた。びっこ引いて、がきが追っかける。
「すんません、そいつ乗ったら、仲間に入れてくれるって。」
「なんの仲間だ。」
「いえない。」
 歌右衛門は、馬の背中に子供をのっけた、
「案内しろ、ほれ落っこちるぞ。」
 子供はしがみついて、あっちと云う。
 野っぱらに子供が十二三人、
「おい、そんなぶかっこうのはだめだ。」
 年かさのがいった。
「その三ぴんはなんだ。」
「知らん、馬を止めた。」
 十二三人まわりを取り囲む。
「お姫さまさらって十両取ったんか。」
 歌右衛門が聞いた。
「やっちまえ。」
 木刀だの石つぶてや、へんな槍やくさり鎌だの、めったらに飛んで来て、歌右衛門は、ぼこぼこになった。
「まいった、かんべんしてくれ、そんでお姫さまどこにいる。」
「あれこいつ平気だぞ。」
「いいからふんじばっとけ、もう行こうぜ、かもがねぎ背負ってやってくる。」
 歌右衛門を、大木にしばりつけて、年かさがはだか馬を乗りこなす、一行は従いつく。
 歌右衛門は縄をほどいて、あとをつけた。
 雑木林だ。
 けやきの木に小屋が乗っかる。
 歌右衛門は笑った。
 がきのころだれもやる、女物のはきものがあった。
「神野さんの娘御か、親ごさんが心配しておられるが。」
 声をかけると、
「はい。」
 と返事がある、 
「すみません、今下りて行きます。」
 縛られてもいないようだ。
 歌右衛門は、がきどものあとを追った。
 雑木林に空き地があって、そこへ並ぶ。
 だれかやって来た。
 島田平之介だった。
「わたしと決闘するって、小太郎おまえか。」
「そうだ悪いか。」
 小太郎という年かさが、はだか馬を下りていった。
「なんで弟になるおまえと、決闘せにゃならん。」
「うるさい、負けを認めるってんなら、結納金百両を払え、姉の代わりに受け取ってやる。抜け作大威張り、腐った世の中、建て直そうっていう、われらが海賊巴団の旗揚げだ。姉は女首領になることをついさっき承知した、なんならおまえもさ、ふん舟夫になら雇ってやる。」
 島田平之介はぷっと吹き出した。
「姉さん、おさよどのはどこにいる。」
 一歩踏み出した。それっといったら、落とし穴がある、網のようなものがばっさり落ちる、竹槍がもたがったり、これは今の世生侍にはとうてい、ー 
 平之介は抜け出てそこへ立った、
「ちっと頭冷やすか。」
 おさよどのが来た。
 父親が自慢するだけあって、これは美しい娘ごだ。
 ほんのり頬を染める、
「すみません、弟にはほんとうに困っております。」
 二人たしかにお似合いの。
 海賊どもへ、とくり歌右衛門が云った。
「そのなあ十両ての返さにゃなあ、きれいなおさよさんとさ。」
 といった。
「あれふんじばった三ぴん。」
「申し遅れた、親父さまに頼まれて、この一件に首突っ込んだ、とくり歌右衛門と申す。」
「おうわさはかねがね。」
「手も出さねえ、平之介のために仕組んでやったんだ。」 
 小太郎がうそぶく。
「アッハッハ、それにしちゃおおぎょうだな。」
「わかった十両返す。」
「あの字おれ書いたんだ。」
 真っ黒けなちびが、自慢そうにいった。
「海賊なんてうらやましいですな、とうのむかしに忘れてしまった。」
 平之介がいった。
「おっほほ、あたしもうっかり引き受けちゃって。」
 おさよどのがいった。
 二人顔を見合わせた。

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とんとむかし

   二度死んだ男

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、そのい村に、やたろうという、ぐうたらがいた。
 どうもならんで、和尚が、
「わしがご本山へ行ってるあいだ、留守番を頼むで、ちゃんとしたら、おあしもやろう、嫁の世話もしよう。」
 といった。
 お寺なんぞ、面白くねえが、寝て食って、おあしになる、やたろうは、引き受けた。
 食っては寝していたら、賄いのかか出て、
「薪わっとくれ。」
 と、云った。
「なんでも頼めって、和尚さまいったで。」
 にかっと笑う。
 山のような薪だった。
「しょうがねえ。」
 汗水していると、こんだ水汲めっていう、
「達者なもんじゃのう、オッホ。」
 なんでかやたろう、水汲む。
 小僧さまが、
「三ノ宮でお通夜じゃ、お道具担いでくれ。」
 といった。
 重たい荷物担ぐ、
「落としたら、ばちあたるで。」
 そりゃ困ると、やたろう、お通夜なら、一杯飲めると思ったら、小僧さま、
「あしたありますので。」
 といって、引き揚げる。
 こりゃだめだ、おん出ようとしたら、
「おはようさん。」
 といって、朝、おみよという、評判の小町娘来た、
「あれおめえ、どうしておれ、ここにいるのわかった。」
「だって、— 」
 おほほと笑う、
「小僧さまいなさる。」
「今留守だ。」
「あら困ったわ、願いごとあったのに。」
「おっほ、わかってるで。」
 手出そうとしたら、にかっと笑って、賄いのかか、
「また来ます。」
 おみよはふわっと逃げる。
 おみよが来るか、だったらといって、畑の草むしった。
 おみよは来ずに、棺桶が担ぎ込まれ。
 行き倒れだそうで、小僧さまお経読んで、村役のきちぞうと、やたろうが立ち会った。
「すまねえ、もう一つ死にごとあってな。」
 きちぞうは引き揚げる、やたろう一人お通夜。
「な、なんてこった。」
 ろうそく点して、一晩中。
 うつらと眠ったら、棺桶の蓋動く、
 ええったら、ぬうっと腕が伸びた。
「げえ。」
 やたろうは、目を回した。
「こわいと思ったら、すすきも幽霊。」
 と、あした朝、小僧さま笑う。
(もういやだ、坊主と棺桶。)
 やたろう飯食ったら、逃げ出した。
 うら道行くと、ふうらり立つ。
 ひたいに三角のきれつけた、
「きゃあ。」
 やたろうは、ふん伸びた。
 気がついたらまっくらけ。
 お経が聞こえる、ばらり土、
「うわあ。」
 わめいて、飛び出した。
 埋められる寸前。
「仏さんよみがえって、おまえはいで、代わりに着せたんだな。」
「代わりにって、ー 」
 やたろうは、死にぞくない、
「あのぐうたら、死んだか。」
「そりゃ気の毒に。」
 人々。
 おみよが来た。
 とたんに帰る。
「あの子もかわいそうに。」
 賄いのかかいった、
「お小僧さまに、首ったけだあな。」
「そりゃ、かなわぬ恋だ。」
 やたろう、てやんでえと、賽銭箱に手つっこんで、飲みに行った。
 色町飲み歩いて、へんな男と、肩組んでいた。
「ひいっく、いろはにほへとってくらあ。」
 歌え、
「花の命も、
 行き倒れ、
 なんまんだぶつ、
 死なねえはずが— 」
 見りゃそやつ、三角のきれつけたあやつ、と思ったら、ぎゅっとふん伸びた。
 酔いもいっぺんに覚めた。
 同じ死人に、二度でっくわした。
 さしものやたろう、ー
「ほう、まともになったか。」
 ご本山から帰って、和尚がいった、
「どうじゃ。」
 といって、賄いのかか、子なしの後家さまであったのを、やたろうに世話した。
 ぐうたら虫出かかると、にかっと笑う。
 どうやらおさっまったと。

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とんとむかし

   四つのされこうべ

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、だいばさったの村を行く、しんの川に、銀の箸と、金のお椀が流れついた
「上の村はえるさった、その上の村は、ひーえるさった、その上はない。」
 村長はいった。
「このような品を持つ家はない、尋ねてみようと思う者はないか。」
 だがだれもいなかった。
 しんの川は、あーらわいかんのけわしい山をめぐる。
 あーらわいかんの道は、今はどうなっているかわからない。
 海から、大男とるきーおがやってきて、しんの川をさかのぼって、雪の峰に腰を下ろした。そこで、あわびを焼いて食ったという。あわびの煙から、ひーえるさった、えるさった、だいばさったの、三つの村ができた。
 百年前、雪の峰から、青いいちげの花をとってきた男がいた。
 美しい箸とお椀を見て、十六になる村長の娘、ひーろきがいった。
「銀の箸には銀のお椀、金のお椀には金の箸、だのにかたほうずつ、きっとわけがある、あたしが行ってたしかめる。」
「女の足ではむりだ。」
 村長はいった。
「きっともう一つ村がある。」
「今までなんにも流れて来なかった。」
 海のむこうには、とるきーおの一000の村がある、きっと雪の峰の向こうにも。
「だれも行ったっきり帰って来ない、龍に食われてしまった。」
「龍に食われても行ってみたい。」
 ひーろきはいった。
 だーおるとみーかくという、二人の若者が、ついて行こうといった。
「ひーろきが行こうというなら、どこへだって。」
 と、一つ上のだーおるがいった。
「そんな美しい品を、わたしも手に入れて、少しは世の中の、お役に立ちたい。」
 ずっと年上の、みーかくがいった。
 えるさったの村に、じんだのーるという勇者がいて、村長はその男に、ひーろきとその一行のことを、頼んだ。
「途中で引き返すもよし、お願いする。」
「だいばさったの村長には、恩義がある、行けといえば、行かずばなるまい、だが一つきりの命は、大事にせねばな。」
 勇者じんだのーるは笑った。
 噂では海の向こうへ行って来たという、
「もしやそうであったら、− 」
 村長は云いさして止めた。
 ひーろきは、流れついた品を持ち、だーおるとみーかくを伴い、えるさったの村に、勇者じんだのーるに迎えられた。
 一行は出発した。
 あーらわいかんのけわしい谷を行く。
「大男とるきーおの歩幅は、十メートルはあったな、帰りは舟をこさえて、一気に下ろう。」
 じんだのーるがいった。
 あわだつしんの川を見おろし、岩棚の道をたしかめて行く。通れないこともなく。水飼い場があった、
「馬なんか通ってこれないけど。」
 ひーろきがいっだ。
「名まえがついているだけだ、水を汲めるのはここだけだし、魚をとって食う者もいる。」
 じんだのーるはいって、ほんとうに川へもぐって魚をとって来た。みなして焼いて食べた。
「青いいちげってどんな花。」
「夢見る花っていう。」
 月の光に咲くという、雪の峰の辺に咲く、死者を甦らせるという、云い伝えの他には、じんだのーるも知らなかった。
 深い谷間に入る。松明を点して行く。
 平らなところと、危うい所とあった。
 じんだのーるは、なにかを見た。
 雲の切れ間に、のっぺりと黄金の仮面が笑う、赤い衣をひるがえし。
 流れは渦巻いて、洞穴に入った。
 日が暮れて、朝が来た、しばらくは眠り、また歩き、そうして、されこうべの棚があった。
 通る人数だけ、されこうべが並ぶ。
「自分のされこうべが、わかるという、とって耳にあててみろ、何かささやくはずだ。」
 じんだのーるが云った。
 四つのうちの一つをとった。
 ひーろきがとった。
 されこうべがささやく。
「世の中は変わって、でもおまえは涙のしずくのように、少女のまんま。」
 だーおるがとったされこうべが、ささやく、
「海を越えて行き、大金をつかんで帰って来よう、おまえには見えぬ故郷がまねく。」
 どうしてだ、だーおるが聞いたが、それっきり。
 みーかくがとったされこうべが、ささやく。
「まっさきに死ぬのはおまえ、幸せを知るがゆえに。」
 じんだのーるのされこうべがささやく。
「いくたび出会ったか、云い負かせ、使いを殺すことはできぬ、でないと。」
 使いとは仮面の、そう悲しみの使い、それは。
 洞穴を抜け出でて、また入る。
 いいや夕空か、黄金の仮面がへらーり笑う。
「あれはなんだ。」
 だーおるが指さした時には、消えていた。
「なあに。」
「いえ。」
 それは追って来る。
 洞穴を抜けた。
 しんの川はうねって流れ。
 だーおるは歩いて行った。
 雪の谷には、青い太陽が。
 ひーろきが倒れた。命を救うのは、青いいちげの花。
「おれが取って来る。」
 といって、だーおるは行く。
 氷の川であった。
 すももの花が咲いて、雪の壁。
 みーかくはふり仰ぐ。
 雲に渦巻いて、青龍の門があった。
 賑やかな町であった。
「一年かせげば黄金三枚になる。」
 という。
 人を求める店があった。
 みーかくはかせいだ。
 とつぜん大鷲がひっつかむ。
 じんだのーるは、大空へ舞い飛んだ。
 腰にゆいつけた、四つのされこうべが、からからと鳴った。
 赤い衣をひるがえして、仮面が襲う。
 殺されるわけには行かぬ。じんだの−るは剣を抜いた。
 一合二合。
 ひーろきは舟つき場へ。
 花に着飾った、乙女らが出迎える。
 今日は結婚式。
「いったいだれの。」
「あなたの。」
 まっ白い衣装を着て、ひーろきは座っていた。
 金蒔絵のお膳がある、金の箸に金のお椀。
 隣は銀蒔絵のお膳、銀の箸に銀のお椀。
 真っ赤な衣のはしが見えた。
 へらーり笑う仮面。
 ひーろきは悲鳴を上げた。
「そうさおまえを娶って、永遠をな。」
 空ろな声がいう。
(だれなの。)
(この世でたった一つの真実さ。)
 月の光には、白い花を摘んで、だーおるは息絶えた。
 氷に運ばれてしんの川へ。
 青いいちげを手に、むくろは流れ。
 見つけたのはみーかくだった。
 黄金三枚は、だーおるの棺に代わる。
 結婚式であった。
 なぜだ。
 青いいちげの花を抱いた、だーおるの棺は、花嫁と花婿の前にすえられ。
 されこうべをからから鳴らして、蓋を取るのはじんだのーる。
(かばねが蘇ったら、おまえの負けだ。)
 仮面がこの世の真実だという。
 名まえのない。 
 だーおるはよみがえって、青いいちげの花をさし出す。
 代ってその席には、じんだのーるが座っていた。
 鐘が鳴っている。
 すべてがふっ消えて、古いほこらがあった。
 扉を開けると、銀蒔絵の膳椀と金蒔絵の膳椀があった。銀の箸と金のお椀が一つだけ欠けていた。
「しんの川に流れたんだ。」
 一行は持って来た、その箸とお椀を供えた。
「どうしてここに。」
 ひーろきの問いに、答える者はいなかった。 
「わしが答えようか。」
 と云いかけて、じんだのーるの記憶が失せ、海を越えて渡り歩いた、大切なその記憶が。
 しんの川を流れて行くのは、四つのされこうべ。

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とんとむかし

   鬼塚

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、いそがみの、三郎右衛門は、代々続いた、旧家であった。
 それが、子がもうからなかった。
 子が欲しいと、先祖さまに、お参りすると、その夜の夢に、一匹の蛇が、お墓へ入って行く。
 あとついて行くと、真っ暗闇が、とつぜん、日の当たる南国であった。
 孔雀という、お寺さまに描く鳥がいた。
 とりどりの花に咲き乱れ、極楽鳥という鳥が飛び、金色の猿が吠え、木という木には、たわわに果物がみのる。
 金髪のうねるような青い目の、それは妻であった。
 白い象に乗って、王様が行く。
 いいや仏さまであったか。人みな親切に、楽しい暮らしを、目が覚めて、妻に話すと、
「おまえさまの目も、ふっと青く見える。」
 と云った。
 先祖さまは、もしや遠い国から。
 あくる朝、浜に舟がうち上げた。
 見たこともない、龍をかたどる舟。
 金毛に、青い目をした、夫婦が乗っていた、まだ息があったのを、
「鬼だ。」
 といって、人は見殺しにする。
 赤ん坊がいた。
 そこへ駆けつけた、三郎右衛門が、赤ん坊を抱き上げ、なきがらは、引き取って葬った。
 鬼塚と人のいう、塚であった。
 赤ん坊は、三郎右衛門夫婦の子として、生い育ち、十のときには、もう大人なみの背丈があった。
 うねるような金髪に、青い目をしていた。
「鬼ん子。」
 といって、石をぶっつけられ、いじめられたのを、一人の腕をへし折り、もう一人を半殺しにした。
 三郎右衛門がしかると、村をあとに、それっきり行方知れず。
 夫婦は、食べものや着るものを、鬼塚の前においた。
 それはなくなっていた。
 村が襲われた。
 よしぞうの娘が行方知れず。
 鬼ん子はやっぱり、鬼であった。
 鉄砲を持って、またぎが山狩りする。
 三郎右衛門は、舟をこさえて、浜辺においた。
 水や食料も積んでおくと、三日のちになくなった。
 半月して、さほど遠くない浜に、押し上げられた。
 鬼ん子と、よしぞうの娘が死んでいた。
 三郎右衛門は、二つのなきがらをほうむった。
 鬼塚のとなり、夫婦塚と云った。
 三郎右衛門家は絶え、鬼塚と夫婦塚は残る。
 お参りすると、万ずの病が治ったという。

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とんとむかし

   武者修行の旅

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、ひえのごうやのいつき村に、あたらなんとこなんという、兄弟があった。
 あたらなんは、お屋敷の、美しいあよに惚れて、けんもほろろであって、
「村を捨てて、武者修行の旅だ。」
 と云った。
 こなんは、となりのかわいいみよと、いいかわす仲だったが、
「あんな兄をほってはおけぬ。待っていてくれ、一年もすりゃ。」
 とみよに云って、
「待っている、いついつまでも。」
 とみよは云って、あとついて行った。
「兄弟修行。」
 あたらなんは云った。
「身をきたえ心をつよく。」
 とにかくそういうこって、山深いところに、蛙文太夫という、たいした豪傑がいた。
「わしを打ち込むまで、修行とな。」
 かえる文太夫は云った。
「一両出せば、打たれてやってもよいが、でないと一生かかる。」
 豪傑は強かった、あたらなんがいくら打ち込んでも、への河童、こなんと二人打ち込んだって、どこ吹く風、
「仕方がない一生だ。」
 兄が云った。
 かわいいみよが、ばあさんになる、一両工面しようか、兄はなんて云う、そうじゃ蛙には蛇。
 青大将を、竹刀代りにしたら、
「もったいないことをするな、わしの大好物。」
 文太夫は、そいつをどんぶりにして、食ってしまった。
「三すくみって、反対だっけか。」
 あたらなんの竹刀に、なめくじのっけたら、
「ぶるぶる。」
 溶けてちぢんだ。
 すかさず一本。
「わしはなめくじが大嫌いだで、いっそ蛙と名告った。」
 参ったと云った。
「どんなもんじゃ。」
 あたらなんは大得意、
「では次へ行こう。」
「行くんですか。」
 そうさ、武者修行の旅だ。
 やっかみ権の守の神主が、槍をとっては天下無双。
「一手御指南お願いもうす。」
 あたらなんが頼むと、
「弱そうなやつだ、たいてい三両でもって、負けてやるが。」
 と云った。
「かえる文太夫を打ち込んで参りました。」
「あいつは一両、いざ。」
 どうにもこうにも歯が立たん。
「一生かかっても。」
 というと、
「かかに逃げられて、わしは大いに困っておる、二人神子さまになれ。」
 と云った。二人赤い袴はいて、神子さまやって、飯もこさえて、毎日槍をみがく。
「こんなさま、恋しいみよちゃんに見せられん、なんとかしよ。」
 こなんは云って、やっかみ権の神の、逃げたかあちゃんを捜した。
「かくかくしかじか、なんとかしてくれ。」
「ひどいやっかみで、たまらずなって逃げた。そういうことなら。」
 といって、かあちゃんが来た。
 でもって、仲良さそうな、こなんとかあちゃん見て、
「きいかあおっく。」
 やっかみ権の守は、真っ赤になって、湯気立てて、突きまくる。
 危うく逃れて、あたらなんが一突き、
「ようし一本。」
 こなんが云った、
「女に目がくらむとは何事。」
「うむそういうこったな、六両がとこ損した。」
 槍の名人が云った。
「反省する。」
「では次へ参ろう。」
 と、あたらなん。
「へえ。」
 飽きるまでつきあうしかないかって、やらずのやわた原に迷い込んだ。
 どこどう歩いたか、にっちもさっちも、
「武者修行だ。」
 ふうらり行くと、お化けが出た。
 べろうり舐める大舌、手足だけのや、首ばっかりや、ぶたの八つ頭や、
「ぎひひひひ生きた人間。」
「久しぶりの御馳走。」
 ふとんに目鼻が、くるまりかかる、
「くう。」
 息ができん。
 ようやく逃れたら、二人なんたら、うんこ小便垂れ流し、
「うわどうもならん。」
「ふえーまいった。」
「手下になって一生稼げ、だら許す。」
 と聞こえた。
「忍術ねこもぐら。」
 へんてこな子どもの背丈が、目の前にいた。
「わしらはまっちょうな人間だ、お化けなと。」
 あたらなんが云った。
「そうかい。」
 と、ねこもぐら、ぐうといって、兄はそば団子になった。
「おまえはどうする。」
「云うことを聞こう。」
「そうかい。」
 あたらなんはねこに、こなんはもぐらにされた。
 ねこは、人の屋敷に忍び込んで、小判をくわえてくる。
 もぐらはトンネルを掘って、きれいな女や、宝物を取って来る。
 小判三枚さらって来てあたらなん、どっかおかめつれて来てこなん、
「いいわよあたし忍術でも。」
 と、女は云ったが、
「これは悪いこったぞ。」
 と、あたらなん。
 なんとしよう、二人は思案投げ首。
「もっと稼げ。」
 忍術ねこもぐらが云った。
「でないとみみずにしちまうぞ、土食って肥やしになれ。」
「師匠は大忍術なのに、なんで子どもの出来損ないなんですか。」
 こなんが聞いた。
「うるさい。」
「自分だけはかえられないんだ。」
「そんなことはない。」
「だったら、みみずんなってみせて下さい、わしら大反省します。」
「ふんようし。」
 忍術使いはみみずになった。
 こなんはぱくっと食べた。もぐらの大好物。
 もとのあたらなんとこなんになった。
「なんでうまかったんかな。」
 みみずがって、こなん。
 忍術ねこもぐらの財宝と、何十人とないお化けは、みんな美しい女たち、
「おかげさまをもちまして。」
 人に戻れたといって、泣いて喜ぶ。
 取りすがる女たちへ、財宝を分け与え、
「どうして半分ぐらい、いい女もさ。」
 弟が云ったって、
「えへん。」
 あたらなんは咳払いして、武者修行の旅。
 こなんがくそたれたら、忍術ねこもぐらが、起き上がって、
「うわあくさい、ふえ。」
 忍術の力失せて、逃げて行く。
「ひええたまげた。」
「今度は、もっとましな修行を。」
 と、あたらなん。
 よしやの殿様の、ご城下へ出た。久しぶりの町だ、きゅっといっぱい引っかけて、そうさ楽しい思いして、
「町道場がある。」
 あたらなんがいった、
「一手御指南。」
 やっつけられて、目が覚めりゃいいと、こなん、
「頼もう。」
「どうれ。」
 ずっかり。
 あたらなんは、どっと三人やっつけた。
 次は師範代、
「へえ、自信ちゃ恐ろしいもんだ。」
 と、こなん。
 師範代が一本取られて、
「これにてご容赦を。」
 なんか貰ってるぞ。
「つっかえして来た。」
 と、あたらなん。
「受け取ってくりゃいいのにさ、そうれ追手が来た。」
 大勢が繰り出す。
「あいや礼金などは。」
 あたらなんが云うのを、物も云わず、うってかかる。
「うわ逃げろ。」
 と云って、手足が風車のように動く、こなんもあたらなんも、当るを幸い、
「ふうむ、身についたか。」
「武者修行のかいあった。」
「ではめでたくご帰還。」
「なんのこれしき。」
「へ。」
「わしらはどっちかというと、負けてばっかりであった。」
 云われてみりゃそうだが、
「へっぽこ道場なんぞではなく、れっきとした。」
 れっきとしたってなんだ、こなんはぶつくさついて行く。
 北のいんばと、南のたんばが戦争だ。
「ようし手柄を立てて、一国一城の主。」
 といって、勢い込んで行くと、かっぱ橋という川べりに、かっぱのような男が立った。
「加勢してくれ、われと思わんものを、集めている。」
 と云った。
「どっちだ、北のいんばか、南のたんばか。」
「いんばの守の娘と、たんばの中将が、夫婦になって戦は流れた。」
 と云った。
「それじゃおまえはなんだ。」
「いんばの娘を取り返す。」
 どういうこった、
「一人五十両。」
「わしらはよこしまはせん。」
 あたらなんがうそぶいた、
「よこしまはたんばの中将だ、娘をさらい取って夫婦になる。」
「なるほど、そういうことか。」
「戦を免れようとな。」
 こなんは、兄の袖を引っ張った。
「やめとけ、夫婦喧嘩は犬も食わん。」
「ちがう誘拐犯だ。」
 ゼニなぞはいらんという。
 では二人分百両もらったと、こなん。
 いんばの守から、お輿入れが来た。
 金銀あやにしきの幟を立てて、どんがらぴー、
「それあの輿だ、奪い取れ。」
「おかしいな、誘拐犯なら、娘はたんばの中将の手元に。」
 こなんは首をかしげたが、一人五十両は、喚声を上げて突っ込む。
「お姫さまを救え。」
 切り合いの末に、しまいあたらなんとこなんだけになって、輿の人を奪い去って、
「よし成功だ。」
 と、河童男が云った。
「あわせて百両、姫といっしょに行方をくらませ。」
「なんと。」
「色気違いのお姫さまでな、そんなもんといっしょになるより、奪い取られて平和ってのがいい。」
 かっぱはざんぶと河の中。
「色気違いだと。」
「たんばの中将が計ったか。」
「この辺にいるの見つかったら、生きてはおられんぞ。」
「オホホホホ。」
 美しいお姫さまであった。
「よきにはからえ。」
「こりゃものすごい玉だ。」
 あたらなんとこなんは、とにかくひっかついで走った。
 野越え山越え、
「まずはこのへんで。」
「置いて逃げよう。」
「あれに見えるが、わらわの城じゃ。」
 お姫さまが云った。
「悪いようにはせぬ、たんばのばかせがれよりういやつ、二人いっしょに面倒を見る、さあおいで。」
 恐ろしいったら、
「ひーうわあ。」
「おたすけ。」
 逃げた。
「ものども出会え、誘拐犯じゃ。」
 と、お姫さま、お城からどっと、繰り出す、
「ひっとらえてつれておいで。」
 どうやらこうやら逃げて、あたらなんが云った。
「こんなばかなことやっとられん、村へ帰ろう。」
 そうこなくっちゃ、
「帰ってもういちど、大屋さまの美しいあよを。」
 なんかこりない男。
 かってにしろといって、村へ帰って、こなんは、待ちに待ったろう、みよのもとへ走った。
 かわいいみよは、待ちくたびれて、他の男とくっついていた。
「あんれ。」
 女なんかあてにならん、兄といっしょに武者修行じゃ。
 弱きを助け強きをくじきと云って、あたらなんのもとへ行ったら、兄は美しいあよとご満悦、
「とうとう、うんと云った。」
「ふーん。」
「五十両が効いた。」
 そんじゃこれもやるといって、五十両置いて、こなんは一人武者修行の旅へ。
 なんでこうなる。

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とんとむかし

   嫁なしひよ

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、ゆうが村に、ひよという怠け者がいた。
 なんにもせんけりゃ嫁も来ん。
 ある朝、
「ほーほけきょ、たからはさやさや笹のやぶ、ほーほれ。」
 と、うぐいすが鳴いた。
 くわを担いで行って、ひよは掘ってみた、どこほっても笹のねっこで、汗水たらして、疲れたきり。
「ばかめが、あーあつまらん。」
 といって帰って来たら、ぼろを着た、汚い女の子がいた。
「いらん出て行け。」
 と云うと、
「あたしが宝。」
 女の子が云った、
「きっとおまえは、部屋が百八つもある、豪気なお屋敷に住める。」
「ほんとうか。」
「だからまんま食わせて、赤いべべ着させておくれ。」
 と云った。
 ふーんそんならそれでいいかと、ひよは、汚い女の子を風呂に入れ、まんま食わせて、むりして、赤いべべも買うてやった。
 そうしたら、
「天にとうろり、
 火の星は、
 千に一つの、
 もんだねの、
 流転三界、
 笹小舟。」
 ぴーとろと歌って、いなくなった。
 なんのこったってそれっきり。
 いい子いたけど、ちいっと鼻が反ったと云ってるうち、他の男にさらわれた。怠けていたら、おらまかってやると、強欲余市云って、一枚二枚と、田んぼ取られたり、ひよは、
「どうせどこ行ったって、ろくなこたねえけど。」
 それでも、万に一つと云って、旅に出てた。
 そんで、ろくなこたなくって、山越えに、とっぷり日が暮れた。
 おーんと狼が吠える。
 向こうの山に、とうろり、赤い星が出た。
「あーあ村にいりゃよかった。」
 と云うたら、灯が見える。
 よって行くと、立派なお屋敷だった。
「泊めてくれそうにねえ。」
 とひよ。
 ぎいっと大門が開いて、おさむらいみたいな門番が、
「お帰りなさりませ。」
 といった。
 美しいお女中が、おそろいの笹の衣着て、出迎える。
 部屋が百八つもあるお屋敷の、なぜかひよは主であった。
 風呂へ入って、お蚕ぐるみ着て、高膳に食べ、とっくりのお酒を飲んでいると、袖にこおろぎが止まって、
「ここに住みたくば、えらべ。」
 と云う。
「一つ、気に入った子と夫婦になる。一つ、お膳を洗う。一つ、お屋敷に火をつける。」
 過ったら、わしみたいに、こおろぎになると云った。
 美しいお女中と夫婦にと、ひよは見回した、いずれあやめかかきつばた、
「えらぶなんてとっても。」
 夫婦になるっていう、お女中たちは、
「さんさしぐれか、
 黄金の笹か、
 星はくうらり、
 しろがねの。」
 みなみな手振りして歌う。
「東へ行くは、
 あけがらす、
 西へ帰るは、
 都人。」
 おしまいになった。
「お膳を洗おう。」
 といって、ひよは賄いへ行った、
 男が入ったらいけんて、そうではなかったか。
 立派なお膳は、拭っても拭っても。
 こおろぎが跳ぶ、
「怠けていたらこおろぎとなあ。」
 お蚕ぐるみのすそに、かまどの火がついた。
「うわあっち。」
 どうと燃えひろがる。
 ひよは、逃げだした。
 お屋敷は燃え落ちて、とうろり赤い星になった。
「夢か。」
 ぽったり冷たい笹のつゆに、目を覚ます。
 ものは見違えるよう、
「おれは何をくだくだ。」
 ひよは、
「なんでもして生きて行こう。」
 といって、歩いて行った。
 町へ出た。なんでも屋がある。
 仕事はないかと聞いたら、赤いのぼりと、薬の包みを出す。
「なんにでも効くし、まあたいていなんにもきかん薬だ、いい名前つけて売り歩け。」
 といった。
「おまえが四分わしが六分。」
 ひよは、笹に包んだ薬を、
「夢はさんさら笹の露、
 なんの病いも気の病。」
 といって売り歩いた。
 ほんきに効いたそうで、もうかったふうの。

「薬九層倍なんかいけん。」
 といって、人が真似するころには、別の商いをしていた。
「四分六分で取られるのもいけん。」
 七転び八起き、飽きないのが商人、必死にかせいだら、いい嫁が来て、いっしょに商いをもりたてた。
 年よってから、
「わしはむかし、しようむない男であった。」
 というと、かかしわ一つなく、汚い女の子になったかと思うと、笹の衣の美しいお女中になる、
「声もかけられなかったなあ、わしは。」
 ひよがいった。
「じゃが今は幸せじゃ。」
「わたしも幸せじゃ。」
 と、かかいう。
 二人年を取らなかった。
 ゆうが村に、笹塚という石かげがあった。
 行き倒れの、子連れの女を葬ったという。
 だからどうだったって、ようもわからん。

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とんとむかし

   たがとそね

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、日色村の重兵衛の娘に、たがとそねという姉妹があった。双子であったかも知れぬ。
 二人とも、人には見えぬものが見えた。
 人の幸せはあきらめて、田安神社の巫女さまになって暮らした。
 たがは、とつぜん男を狂わせる色っけを、そねは後光がさして清うげになる、過ぎるとただの人であった。
 二人はたった一度、村を出て旅をした。
 殿さまがはなれを新築して、神主を招んだ、位の高い神主の代りに、田安のたがとそねという、それはお名指しであった。
 三日の旅であった。
 椎谷の川をわたって、十村を過ぎ、石沢の町から、ひなし山を越えて行く。
 六の村には、田安神社の分家があって、そこに泊まる。
 しいやの渡しに乗ろうとすると、たががいやじゃといった、
「舟が流されて。」
 と云って、あとだまっている、
「流されてどうなるの。」
「自分のことはようもわからん。」
「でも渡しに乗らなくっちゃ。」
 たがを押し込むように、乗り込んだ。流木があった。よけたはずが、底に沈んでごつんとあたった。枝がはねて、たがの袖をひっかけ、
「あら。」
 といって、衣をはがされ、
「だからいやだと。」
 恥ずかしいと、とつぜん色っけ。
 岸へついたら、若い商人とおさむらいと、名告りを上げた。
 なにがしのかくかく、ぜひ嫁に来てくれという。
 免れてもって、たがは云った。
「おさむらいは、風邪を引いて死ぬ、商人は女狂いして、店をほうり出される。」
 ただのたがだった。
「そういうこと。」
 そねが云う、
「お姉ちゃんがお嫁に行かないから、行けばもしや。」
 たがはぎろりと睨んだ。
「あたしたちは影。」
 という、
「いはふねのおもきかじさをとりて行けよしやあしだにつきのひかりぞ。」
 それは田安神社の、石の舟にまつわる歌であった。
「なんで影なのよ。」
「日が当たらないから。」
「日向へ出ないから。」
 といって、旅でなければ、二人めったに喋ったりしない、だから楽しかった。
 亀がはって行く、三の村から、五の村へ行くとそねがいった。
「三の村に火事がある。」
 でもそれを知らせたって、だれも信じない、
「おじいさんがとなりの家に火をつける。」
 そう云ってたがは、
「あたし今なにか云った。」
 と聞く。
 そねはかぶりをふることにしていた。
「おじいさんがとなりの家に火をつける。」
 二人は三の村へ行った。
 じいさんが、白髪かきむしる、
「となりがおらちへ来る嫁を取った、にくい。」
 と云う。
「おらちへ来る嫁を。」
「火なんかつけたらいけん。」
 そねは、観音さまのように、後光がさす。
 じいさは手を合わせた。
「うそになった。」
「でもよかった。」
 二人はいって、その夜を、分家の田安神社に宿った。
 別の名を岩船神社といって、社には小高い山があり、石の舟が祭られていた。
 この世に現れたとき、石の舟には、二人の姫が乗っていた。
 それは伝説であった。
「たがとそねよ、二人石の舟を漕げ。」
 と聞こえる。
 二人同じ夢を見た。
 あした堂守りに云うと、
「わしは神に使える日の浅うして、ようも知らぬが。」
 といって、社の洞穴へ案内した。そこに入って二人は急に倒れ、息はしていたが心は失せた。
 堂守りは社を閉ざして、見守った。
 石の舟が飛ぶ。雲をわけて飛んで行く。戦があった、おたけび上げて、弓矢が飛び、槍がぶっちがう。
 よろいかぶとどものど真ん中に、石の舟は下りた。
「お止めなさい。」
 たがが云った。
「無用の戦じゃ。」
「さもないと、石の舟が押しつぶす。」
 そねが云った。
「ここより西をわきた。」
「東をこうだ。」
 石の舟がさんぜんと光って、虹が立つ。
 戦は終わった。
 石の舟は去って、ひなし山の頂きに舞い降りた。
 舞い上がって、日をさえぎる。ひでりの時と、洪水のときと、かぎろいを見て、人は吉凶を占う。
「なんであたしたちが。」
 叫びだけが聞こえ。
 なんであたしたちが。
 十の村はかつては六つであって、影によって、時を印したという。
 千年が過ぎた。
 石の舟は天に返った。
 たがは花になり、そねは稲穂になった。
 時へて、また舞い降りた。
 田安神社であった。
 お城に魔物が住み着いた。
 殿さまにとりついたか。
 そうではなかった、奥方にとりついた。
 孕み女をさらって来て、かっ裂いて、はらみ子を食うという。
 たがが金縛りにして、そねが口から指をつっこんだ。
 一匹のこおろぎが出た。
 いつかそれは石の舟に、巣食っていたもの。
 りーんと鳴いて、月光となる。
 田安神社の洞穴に、おさむらいが来た。
「お殿さまが招いた巫女二人、行方不明じゃ、尋ねると、どうやらここに姿を消した。」 
 という。
 堂守りは拒んだが、さむらいは刀をとって洞に入る。
 二人の体があった。
「はて面妖な。」
「石の舟に乗っていなさる。」
 石の舟の空ろの台座。
「ふうむ。」
 といってそこに、待つには待つ。
 たがとそねは、石沢の町へ来た。
 見染められてたがは、米問屋に嫁ぎ、請われてそねは、材木問屋に嫁いだ。
 さやさや鳴り笹に繁盛しと、米問屋は笹の紋。
 ホーホケキョ金のなる木といって、材木問屋は鶯の紋。
 たがは男の子を生んだ。
 そねは女の子を生んだ。
 二人の子が夫婦になって、笹に鶯の一つ家になった。
 幸せの絶頂を、とつぜん火が出た。
 たがの子もそねの子も行方知れず。二人抱き合って泣いていると、
「戻って来い、殿さまがお待ちかねじゃ。」
 おさむらいの声がした。
「二人の大切な、ー 」
 と聞くと、おさむらいは、
「これじゃ。」
 といって、旅の荷を手渡した。
「そうじゃなあ、大切なものは。」
 二人は旅立った。
 代ゆずりして、お殿さまは奥方と、はなれ屋敷に住まう。
「よしなごとが起こったり、奥にとりついたりする、田安のたがとそねを招け、ということであった。」
 お殿さまがもうされた。
 二人はぬさをとった。
 たがは東のはしに、そねは西のはしに立った。
「これは石の舟。」
「そうではない、石の舟の影。」
 たがは花になった。
 そねは稲穂になった。
「いはふねのおもきかじさをとりてゆけよしやあしさへつきのひかりぞ。」
 と聞こえた。
 お払い終わって、ここは新しい木の香りの、美しいはなれ屋敷だった。
 もてなしを受け、二人は去る。
 世の中に、わざわいの消えることはない、姉妹は思い、
「あたしたちには。」
「人の幸せはむずかしい。」
 お礼の金は、田安神社に納めるべく、帰って行った。
 殿さま小判といって、田安神社に今も残る。

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とんとむかし

  飯沼大明神

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、ほうのつに、飯沼という沼があって、ほうのつのお宮は、飯沼大明神をお祀りした。
 沼は時にふくれ上がって、七つの村を、水浸しにする。そりゃもう仕方がない、なんせ大明神さまじゃ。
 ひでりには雨乞いをする、きっと聞き届けられた。
 一天俄にかき曇って、大雨が降る。
 むかしは人身御供の乙女を、投げ入れたというが、祭壇をもうけ、お神酒に、にわとりなとお供えして、お碗と箸を投げ入れた。
 飯沼の名はそこから来る。
 あるとき、ひでりが三年も続いたそうで、さしもの大沼が干上がった。
 大明神さまがお姿を現わした。
 人々は大だらいをこさえ、そこへお入れ申して、青竹をつないで、山清水を注いだ。
 水がひたつと、たちまち、大雨が降って、沼はもとの大沼にもどったという。
 時に波がうねって行った。
 雑魚が滝のように跳ねた。流木かと思ったら、ひげであった。
 大鯰を見た、山のような口であったと云う、それもすっかり忘れられていた。
 お社に、古い木片が、束になって、十も二十も見つかった。
「このじゃまっけなもな、なんだ。」
「燃しちまうか。」
 というのへ、
「いやきっと、大明神さまに、まんま盛ったおひつじゃ。」
 という人がいて、たがをこさえて、はめこんだ。
 まんまるでない。
 幅は三間、長は十間もある。
「おひつってより、たらい舟だあな。」
 ころを噛ませて、水に浮かばた。
 十人乗って、びくともせん。
 竿で漕ぐ。
 のったり、どったり、どっちへ行くかわからない。
「こりゃ、おもしれえや。」
 支えなと入れて、しめ縄張って、花を飾って、大明神さまのお祀りに、
「豊年たらい舟。」
 と銘打って、漕ぎ出した。
 三年たったら、七つの村には、各一そうずつ仕上がって、荘厳のお飾りつけて、
「大明神さまへ奉納、福天満徳。」
 といって、漕ぎくらべた。
 どったばった、張り裂けたり、そけてでんぐりかえったり、飲めや歌えや、やんやとはやして、大騒ぎ。
 一の舟に、花嫁さんを乗せて、沼の真ん中へ出て、お神酒を注ぐ。
 そうしていたら、とつぜん、水が盛り上がって、舟ごと呑み込んで行った。
 ほんとうかどうか。

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とんとむかし

  川役人

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、清洲村の、大河っぱたには、よく土左右衛門が上がった。
 川流れや、心中者が出ると、どういうものか、この辺りに上がった。
 役人が、村当番と引き揚げて、こもをかぶせたまんま、仮供養する。
 坊さんが間に合わずとも、
「なんまんだぶつ。」
 お経を読んで、もうなれっこになった、村人もいた。
 彼岸だというのに、喧嘩出入りがあったそうで、この日は次から次へ、土左衛門が上がった。
 現場にも行かぬ、お役人が、
「どんな塩梅だ。」
 と聞いた。
「へい、向こう傷があるみてえで。」
「それは、お取調べの方だ。」
 そっぽを向く、
「あのう。」
 と、年かさが云った、
「仏さんも、おはぎが食いてえそうで。」
「そうか、彼岸であったな、供えてやれ。」
 とお役人、
「ありがてえことで。」
 といううち、また一つ上がって、
「次は、茶が飲みてえんだそうで。」
「供えてやれ。」
 また上がった、縁起でもねえ、今度はお清めの酒だという。
 いやおおごったと、お役人も、重たい腰を上げて行ってみた。
 みなして飲んだり食ったりしている。
「どういうこった。」
「へいあの。」
 年かさが云った。
「おすそわけでして。」
 だれかこもをはぐ、
「おかげさんで、腹いっぺえだと申しておりやす。」
 ぱんぱんに膨れ上った、土左衛門の腹。
「うっぷ。」
 といって、お役人は突っ走った。
 新入りの、いやな役であった。
 そのお役人に、お神酒が上がる、
「ここはわしらでもって。」
 と云う、
「十日たった、心中者だそうで。」
 といって、三人の村当番が、十人もして行く。
 そういうことかといって、飲んでいたが、いやこうしちゃおれぬと、出向いてみた。
 十人よったくって、大騒ぎして水鳥を捕まえている。
「どうした、そやつは取ってはならん鳥だが。」
 と云うと、
「へい。」
 と年かさが云った。
「こやつが出ると、仏さんが、また流れってことになって。」
「なんとな。」
「鳥はやつめをつうるり、このう。」
「え。」
「やつめはとくに心中者にたかって、傷口やら穴という穴に、何百も。」
 お役人は、まっさおになった。
「お見せしやしょうか。」
「いやそんな鳥を、人が食うわけないな、うっぷ。」
 といって、突っ走った。

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とんとむかし

  ふうらいさんご

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、こうのもりに、鳴王というお方があって、命を奉じて、海を渡るのに、竜宮の使いが現れて、
「乙姫さまが、里帰りをされる、ついては三日ばかり、これを預かって欲しい。」
 といって、玉を手渡した。
 鳴王は持ち帰った。三日たったが音沙汰なし、竜宮の一日は、この世の百年であった。
 鳴王は、こうのもりの清い清水に、玉をひたち、天寿をまっとうして、世を去った。
 木が生い茂って、美しい花を咲かせた。
「ふうらい」
 という花だそうの。清い清水は溢れ、川になって海にさし入れた。
 たいやひらめが迎えに来た。
 人々は、ふうらいの木に舟をこさえ、玉を乗せて、竜宮へ送った。
 川はふたがり、湖になった。
 山を深くに、海の幸が取れという。
 こんな伝えもあった。
 ひいだかという漁師の網に、しおみつの玉がかかった。
 夢に、乙姫さまが恋をした、月の神と逢い引きの間、玉を預かってくれと聞こえ。
 ひいだかは玉を祭り、網を入れるたんびに豊漁だった。
 玉は預かりっぱなしになり、ひいだかの死んだあとに、樹になった。
 珊瑚樹という、月の光に鳴りくらめく。
 今もこのあたり、井戸を掘ると、塩っけがあった。その水を飲んで、元気な子が育つ。
 こうのもりのお社には、奉納の女角力があって、横綱をふうらいさんごと云った。

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とんとむかし

  

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、戸口村の、七郎兵衛、春はしんどい田起こし。
 のったくさった、日んがなやっていたれば、花咲いて、ひらりほらり、花の辺りに一休み。
 かすみかかる。
 はあてや まっしろい足が、にょっきり。
「あんれや。」
 口あんぐり、
「しれものめえが、こうなどんびゃく。」
 お声はぴっしゃり、
 ふうっと晴れて、花に花。
「なんだや。」
 と、七郎兵衛、汗みずくして、のったくさった、田おこし。
 日暮れて帰って行った。
 かか見るなり、
「まんつは、今んごろから。」
 というて、そっぽ向く。
 飯まもろくに、よそっちゃくれぬ。
「りんき起こしやがって。」
 と、七郎兵衛、くたびれて寝入る。
 あしたの朝、はよから出て行くと、
「ばちあたりめが。」
 と、
「お天道さま出なさるってがに。」
 人は云う。
 犬は吠え立てる。かかや娘ら、戸をぴっしゃり。
「まんずかあ。」
 こりゃたまらん、七郎兵衛引き返す、田起こしもならぬ。
 かか町へ行って、まっしれえ役者の面、買うて来た。
「かむってけ。」
 とて、かむって出て行きゃ、
「うへえ、あの面の下。」
「気味わりい。」
 と云う。
 手引かれた子なと、わあと泣き出す。
 そんではひょっとこの面、
「なんだあいつ。」
「意趣あるってか。」
 次にはおかめの面。
「仕舞いでもしようってか。」
 と、そっぽ向く、
 板っぺらに、目ん玉だけ抜いて行く、
「いいひっひっひ。」
「うわっは、なんだあれ。」
 大笑い、
「こらえてくれえ、うわっはっは、ひいっひいてえ、ひちろべえ。」
 笑い上戸の名主さま、腰たがえる。
 くそと七郎兵衛、
「てやんでえ。」
 ぬうとまっ赤な隈取りして、出て行った、
「おっほ一丁さけた。」
 と、人々、
「いける。」
「触らせてくれや、おっほ。」
 かかや娘らよったくる。
 春の田起こし終わる。
 めでたや今日は、お田植え祭り。
 赤いけだしの、娘たちに、へんごなお面だの、まっ赤なくまどりが、舞い踊る。
「さーやさやさや花の、
 花のさくや姫さま、ほ。
 どんがらぴー。
 お好きなようじゃて、ほ。
  じゃもんで、田んぼのたにしも、
  ぷったかふた開く。」
 花のさくや姫さま、たまげた、
「あらいうがいなの、人めらが。」
 というて、もとへ戻す。
 もとへ戻したって、歌は、引きつぐ。
「さーやさやさや花の、
 花のさくや姫さま、ほ。
 どんがらぴー。
 お好きなようじゃて、ほ。
  じゃもんで、谷内のどじょうも、
  にょろり太って。」

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とんとむかし

  うばっかわ

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、下田村の、太郎兵衛どんな、紅葉木山に、村の衆、七八人もしてや、お宮さまの、そだ取りに行った。
 上倉山には、鬼や住まう、すすきっ原には山姥と、日和もよげじゃ、谷内っぱら光る。
 はあてこのごろ、一人二人、いねえなったとようじゃ。
 そこらかっつと、やぶっ原、なた打っていたら、うんまげなしめじ、のっかり生いる。
「におい松茸、味やしめじ。」
「夕べな山の、草の露の、おくのしめじは、親にもやるな。」
「婿にも食わすな。」
 そやつ燃し火して、食おうという、
「よしたがええで。」
 と、太郎兵衛どんな、あたったらおおごっちゃと。
「どっこわりいってか。」
「かかのしめじがええってさ。」
 ほっときゃ仏と云って、燃し火焚く、
「かかと鳴くのは、田んぼの烏。」
「にしはふったかふた閉じる、西が曇れば、雨が降る。」
 太郎兵衛どんなおいて、みなしてしめじ平らげる。
 平らげるとからに、馬鹿陽気、秋の木山、紅葉かざしに、人々歌って、舞い踊る。
「戸倉山田の、さるけ谷内、腰もぬかるよな、深情け。」
「情けねえったら、ひえあわ蒔いて、烏鳴くたって、芽は生ひぬ。」
「老いぬはずだよ、姉ケ嶺さまは、万年ま白の、雪化粧。」
「雪ん中でも、願生寺の鐘は、七里八方に、がんと鳴りわたる。」
「がんが渡りゃあ、十寒夜、水ん呑みだて、米ん餅。」
「米ん餅食って、お蚕包み、生まれ中野の、大家さま。」
「大家さまには、お呼びもねえが、せめてなりたや、殿様に。」
 とつぜん、
「苦しやの世は、おうおう。」
 と云ってみな、四つん這いになって、そこら這う。
 太郎兵衛どんな、ぶったまげ、
「次郎兵衛、三左、与右衛門。」
 名呼びまわったが、一人も聞き分けず、
「だで云はねえこっちゃねえ、あんげなもの食らいやがって。」
 おろおろ云うて、つっ立った。
 どうっと風吹く。
 紅葉吹き散る。
 白髪丈にさらして、すすきっ原の山姥、
「うは。」
 太郎兵衛どんも、四つん這い、
「めんこい牛ども、
 わしのしめじの、味やみたか。
 こうやあ、
 山はだし風、
 雨は降る。」
 山姥、人牛どものけつっぺた、杖かっ食らわせる、吹き散る紅葉、太郎兵衛どんもいっしょくた、谷内っ原、奥の洞屋へと、追い立てた。
 どんがらぴっしゃ、雷。
 ざんざ時雨。
 山姥の、洞屋には、どんがらごおろと、屋敷のような、大臼が回る。
 何をひくやら、真赤なひき粉、くびっかせして、人牛どもが、押し回す。太郎兵衛どんも、ひきつながれ、
「姥の洞屋は、生き地獄、
 二度と日の目は、拝まれぬ。」
 どんがらごうろと、日も夜もなし。
 さらうて行っては山姥、がんがら煮え立てる。
「なんの因果か、堂々廻り、
 さかり狂うて、味噌も糞かて、いっしょくた。」
 なんたら、杖ぴったあ、牙てっかり、
「一つへんごが、引かれてかあや。」
 と、山姥、
「七つ七草、龍のひげ、
 陽の鼻くそ、九十九岩、
 あるものねえもの、こきまぜて、」
 吠え狂うやら、
「里の女っ子が、月のもの、
 十五夜の晩に、こねくりあわす、
 千歳秘法の、天の速舟。 
 かみくら山の、鬼や云った、
 大食らいが、すかしっ屁。」
 たけり狂って人牛どもは、ばったり倒れ、あとがひきつながれ、何日たったか。
 山姥歌う。
「髪蔵山の、鬼さへ来ねえば、
 請うて引かれて、玉の輿、
 村に知られた、小町娘が、
 日もまぶしい、花嫁御料。

 なんで年寄る、牙生にゃならぬ、
 生みの親御を、食ったわけでなし、
 丈の白髪、雪のよう、
 めくらの鬼だて、そっぽ向く。

 百舌鳥のはやにえ、高うにさせば、
 雪ははええぞ、熊んきも。
 だけのかんばの、さらやぐ春にゃ、
 いもりゃ蛙の、つかみ取り。

 人は来たかと、外に出て見れば、
 すすき原野に、十五夜の月、
 奥の洞屋に、老い朽ちたれば、
 弔ふは氷柱か、雪五尺。」
 押すつもりが、引き立てられて、太郎兵衛どんな、いっそしめじ食らうて、気触れていりゃあと。
「伝えては、
 月の神さま、おん目のしずく、
 一たれ盗って、汲み飲めば、
 十五七乙女に、生れ返る。」
 地獄の洞屋に、里の乙女が、さらわれて来た。なんぼしおれたが、蓮の花。
 よくよく見れば、
「お花でねえかや。」
 声かけた。
 髪もひげもざんばらの、お花、幽霊見たような、
「おら、太郎兵衛どんだ。」
「おう。」
 と、お花泣く、
「夕べな、水汲みに出て、したらはあやわかんのうなった。」
「助けてやるでな、泣くな。」
 どんがらごうろ、あっちへ行けば、杖ぴっしゃあ。こっちへ回れば、お花にっかり。
 山姥、なにやら瓶抱えて出る。
 むりやり、お花の口へ含ませた。
 ばったり倒れ。
 はてや、お花けったり笑って、よだれたらす。
「お日さま赤かい、
 すすきゃ白ろい、
 けーんと鳴いた、きつね、
 雨さんさら。」
 太郎兵衛どんな、
「杖ぴっしゃあ、
 雷どんがら、
 おら死んだら、
 かか後家。」
 たら、わかんのうなる。
 ふっと気がつくと、あたりやけに静まり返る。
 一人二人、死んだか生きたか、洞屋押し照る、月明かり、
「きええ、この舟は、こそともしねえ。」
 声が聞こえ。
 ふうらり立った、太郎兵衛どん。
 外は満月、真昼のような月明かり、丈の白髪ふは−り、山姥、
「白髪焼いて、牙おっかき、眠らず食わず、屁もひらずは、こさえた舟は、ぴくともしねえ、こそとも飛ばん、たらかしおったな、かみくら山が大食らい。」
 月の光をしらじら浴びて、丈八尺の土の舟。
 けったり笑って、生まれたまんまの形した、お花。
 月を指さす。
「きちがいあままで、こけにしくさって、えいこの舟は、こうしてくれる。」
 山姥、杖振り上げる、
「待った。」
 という、どうま声、
「しらみったかしが、頭かいいたって、りんき起こすな。」
 ぬうっと一本角、目鼻くしゃげて、口ばっかりの大鬼。
「すかしっぺえめが、たらしおったな。」
 鬼はいなして、
「ふんが。」
 丈八尺の土の舟を嗅ぐ。
「こやつは、ぬえこの草がちいっと足りん。」
 と云った。
「七草か。」
「ふむ、まだおそくはねえ、行って取ってこう。」
「よっしゃ、一走り。」
 山姥杖とって走る。
 あと見送って、鬼はふうわと大欠伸。洞屋の中の、太郎兵衛どんまで、吸い込まれそうな。
 月を仰ぐ、
「ばばあめ、たらされおったな、舟はあしたの露吸うて、飛ぶ。」
 へさきにきいらり。
 丈八尺がくらめきとおる。
「来たか。」
 鬼はばっさり乗り込んだ。
 ふうわり舟は浮かぶ。
 かっ消えた。
「うわっはっはっは。」
 大笑い、
「わるう思うな、しらみたかし、
 月の神さん、目覚めの涙、
 ひとたれ盗って、汲み飲めば、
 二十壮年に、若返る、
 ばばあ洞屋に、ふたばるころにゃ、
 十五七乙女が、よりどりみどり。」
 山姥叫ぶ。
「きええ、たらかしおったな、すかしっ屁め、てめえ大食らいの、くされ腹、鎌でかっ裂いて、千間谷内おっぱめこんで、犬は百匹けやしかけてやる。」
「おーいその舟待てえ。おめえとおれの仲じゃねえか、つれないことすな。」 
「舟は丈と八尺、その図体じゃ、行くは行ったが、帰りはもたねえ、月の神さん常乙女。」「おめえは一生、やもめ暮らし。」
 我に返った、太郎兵衛どんな、
「抜け出すんなら、今のうち。」
 洞屋の戸押し開ける、そうろり外へ、
「ふやわあおう。」
 たらまといつく。
 生まれたまんまのお花。
 ぶったまげた、太郎兵衛どんな、
「こらえてくれえ。」
 夢中でお花ひっぺがす。すんでに聞きつけて山姥、
「このうえ人めらに。」
 とて、もうそこらへ来る。
 袋のようなが、ぶら下がる、太郎兵衛どんな、めっくらめいて、もぐり込んだ。
「ふんが、ここらで見たが。」
 山姥そけて、太郎兵衛どんな森へ、夜っぴで、山馳せ下りて、あしたのしらじら明けは、村の口。
「助かったあ。」
 ぶっ倒れて寝入った。
 日は高うに上る。
 向こうにだれか来た。
「ごろったかあ、おーいおれだ。」
 呼べば、ごろったきょとん、
「声はすれども、姿は見えず。」
 化物だあとて、逃げる。
「はあて。」
 見れば、袋のようなが、着たっきり。
 死んだ仲間の、なめし皮
「なんまんだぶつ。」
 声はすれども、姿は見えず。
 そんだらこれが、噂に聞いた姥っ皮。
「死んだおめえにも、一献。」
 太郎兵衛どんな、酒屋へ入る。
 ただ酒食らって、しこたま飲んで、歌声ばっかり、そこら行く。
「姥は洞屋で、ふたれ死に、 
 月はてっかり、鬼ややもめ、
 うばっ皮にも、酒一升、
 すすきゃ白い、日は沈む、
 かわいそうなは、狂ったお花。」
 雪が降って、ぴえーと風。
 なんとした、うばっ皮、身にとっついて、はがれのうなる。

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とんとむかし

  天狗のわび証文

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし田安の、三郎右衛門、名に聞こえた、力自慢、嫁さまきっての、器量よし。
 お山の天狗が、力比べにやって来た、
「わしが負けたら、手下になろう、
 勝ったら嫁さま、もろうて行く。」
「力くらべは、無用のことじゃ。」
 三郎右衛門、云うたが、
「天狗の手下は、勝手がいいぞ。」
 きええおうりゃ、庭の大石、つっさし上げて、どーんと落とす、屋鳴振動。
 三郎右衛門、その石、もとの処へ、そろーり置いた、
「互角じゃな。」
 と天狗どの、
 ふわーり空を、舞い飛んで、
「そんでは次は、綱引きじゃ。」
 神明さまの、しめなわ取って、下りて来る、
「おうりゃ。」
「うむ。」
 中程は、二抱えもあるしめ縄、人と天狗は、引き合った。
 びーんと張った。
 天狗はむうと、引かれ立つ。真っ赤な面、火吹くようの、
「ばん。」
 としめなわ、ふっ切れた、
 天狗と人は、もんどりうった、
「またおあいこじゃ。」
 砂払って天狗どの、
「はっけよい、てっとりばよう、相撲でこい。」
 人と天狗は、がっきと組んだ。赤山大岩、一押し二た揉み。
 ぷうと天狗は、鼻の目潰し。ぺったり貼りつく、三郎右衛門、
「ううむこやつ。」
 どうと投げ。
 天狗はふうわり、舞い飛んだ。三郎右衛門の、右手とって、土に付け、
「勝った、そんでは嫁さま、もろうて行く。」
「卑怯。」
 云うたて、まっくらけ。
 嫁さまきっての、器量よし、
 にっこり咲もうて、そこへ出て、
「お力自慢の、天狗どの、では女のわたしと、勝負はいかが。」
「おっほう。」
 天狗、
「そりゃ祝言の、前祝い。」
 嫁さまたらいに、水を汲む、
「ではこのお水を、真っ二つ。」
 天狗は、
「きええおうりゃ。」
 真赤な大腕、ふり下ろす。
 なんたら水は、溢れるばかり。いくたびやっても、同じの。
 嫁さま、二つ手桶に、汲み分けた。
「はい、このとおり。」
「卑怯。」
「卑怯というは、おまえさま。」
 目つぶしはがれて、三郎右衛門、天狗の前に、仁王立ち。
「とっとと失せろ。」
 天狗は退散。
 神明さまには、分捕り品の、高足駄。
「二度と里には、現れ申さぬ。」
 わび証文がくっついた。
 天下無双と、人が云うには、
「いんや、かかのほうなが。」
 三郎右衛門、嫁さまぽおと、赤うなる、仲いいことも、天下一品、

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とんとむかし

  青葉の仙人

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、日向の村に、清兵衛という者がいた。
 ある年村に、野伏せりが出た。
 かすめとって、かかや娘うばい、火を放つ。
 手むかう者は殺す。
 にをに隠れて清兵衛、命ばかりは助かった。
 大事なかかいない。
 かか取られた。
「どうしようばや。」
 くわがら担いで、向かって行った、清兵衛、
「おらなたとても。」
 と思うとからに、へたりこんた。
 そこへ、まっしろいひげのじいさま現れた。
「かか取られて切ねえかや。」
 と聞く。
「切ねえわや。」
 おうおわめくと、
「からすでもあるめえがや、どんびゃく。」
「うっせえ。」
「ほっほ。」
 ひげのじいさま笑って、
「田んぼにかかだとさ、はーあ。」
 と大あくび。
 くわがら抱えたまんま、清兵衛、その口ん中へ、ふういと吸い込まれた。
「あわ。」
 じいさまの腹の中。
「さわぐな。」
 と云うて、じいさま、山川風のようにわたって、野伏せりどもの、砦へと来た。
 野ぶせりども、かすめとったお財に、かかや娘らたけて、飲めや歌えやの、酒盛りだ。
 ひげのじいさま見て、
「青葉の仙人か。」
 ぬすっとの頭云った。
「いいとこへ来た、飲め。」
「そんげな、すっけえ酒が飲めるか。」
「いい声だってなあ。」
「ふん。」
「なにを。」
 手下どもが景色ばむ、
「まあさ。」
 と頭。じいさま笑って、
「だばひとつ歌の代わりに、手妻を披露すっかや。」
 と云った。
「ほう、やれ。」
「どんびゃくのくわ踊りとござい。」
 と云ってじいさま、べろうり長い舌出す。
 舌の先に、くわがらかついだ清兵衛。
「ほんにこやつはどん百だ。」
「目むいてら。」
「わしのどん百と手合わせするもないねえか。」
 じいさま云った。
「おんもしれえ。」
「人を殺すな、飯食うより好きだ。」
 だんびら引っこ抜いて、はげ頭の大入道。
 ひゅーるりそこへどん百、
「どんかっつ。」
 はげ頭、血しぶきあげて真っ二つ。
「なんと。」
「入道、酒に目がねえでな。」
 槍をしごいて、かにのような毛むくじゃら。

「でやーがち。」
 かに男は泡吹いた。
 しーんとなった。
「意趣あるってか。」
「仙人だと、おうやっちめえ。」
 八方からてんでんの柄もの、
「かんぴっかり、どか。」
 のたうつぬすっとどもの山。
「いやお見事。」
 頭平服する。
「役立たずどもなざいらん、わしとおまえが組めば。」
「ふ−ん、つるべの重石にでもすっか。」
 ひげのじいさま云って、ぬすっとの頭飲み込んで、行ってしまった。
「助かりました。」
「なんてお強い、せいべえさま。」
 かかや娘どもが、泣いてよったかる。
「お、おれじゃねえ、ひげのじいさま。」
 じいさまいなかった。
「おっほう。」
 清兵衛のかかしなだれ。
 弱った。
「神さませえべえさま。」
 盗られたお財、車にのせて、かかや娘らして村へ凱旋。
 日向村に清兵衛あり、
「くわの名人。」
 と聞こえ、そのあとびくついて暮らす。
 かかの大根にだって、ぽっかりてえのに。仙人の云うとおり、田畑もかかも捨ててって、はあてそうは行かず。

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とんとむかし

  一夜神

 とんとむかしがあったとさ。
 むかし、いや村のよそうべえどの、女人禁制のとりや神の社で、姉さまのこと口にした。
 どんがらぴっしゃ雷、よそうべえどのまっ黒焦げと思いきや、ふうと消えた。
 姉さま家で、長い髪すいていた。
 手鏡に、ぺっかり稲光、夫の姿浮かんで消え、あとはおびえ上がった、姉さまの。
 よそうべえどの、それっきり、行方知れず。
 遠く近くの心当たり、親戚なとさがしたが、天に隠れたか、地にもぐったか、音もなし。
 手鏡に、姉さま香を焚き、夜には、夜の床には抱いても寝た。
 お山の修験者なと、ふれて来た。
「のうまくさまんだ、うんけんそわか。」
 祈ってもうすには、
「黒髪につなぎ止めたる命、水にひたてばおもかげを、火にふっくべりゃ声を聞く。」
 とて。
 姉さまそこで、手鏡を水にひたつと、夫のおもかげ浮かぶ。
 物も云わずは、火にふっくべた。
 ばっちとわれて、煙がひとすじ、
「おうわれな。」
 なにや聞こえて、消え。
 姉さま、とりや神に走る。
 その身は八つ裂き。
 ふいっとよそうべえどの、もとへ戻る。
 ふぬけになって、三日のちに、みぞへはまって死んだと。

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へきがんろく

第五則 雪峰尽大地

本則・挙す、雪峰衆に示して云く、(一盲衆盲を引く。分外と為さず。)尽大地撮し来るに、粟米粒の大いさの如し。(是れ何の手段ぞ、山僧従来鬼眼晴を弄せず。)面前に抛向す。(只恐らくは抛不下ならんことを。什麼の伎倆か有らん。)漆桶不会。(勢いに倚って人を欺く。自領出去。大衆を謾ずること莫くんば好し。)鼓を打って普請して看よ。(瞎。鼓を打つことは三軍の為なり。)

雪峰義存、徳山の嗣、三たび投子(義青)に上り、九たび洞山(良价)に到るとある、いたるところに飯頭となる、飯焚きやって歩いていた。一日洞山雪峰に問ふ、なにをか作す、峰云く、米をふるってます。山云く、砂をふるって米を去るか、米をふるって砂を去るか。峰云うく、砂米いっせいに去る。山云く、大衆箇のなにをか喫せん。峰即ち盆をくつがえす。これどうですか、洞山大師の接化、米と砂と篩と、観念思い込み、先入主を去って、まったくに見てごらんなさい。米をふるって砂を去るか、砂をふるって米を去るか、まさに如実なんです。身心いっせいに去るんですか、あっはっは、雪峰盆をくつがえす。まあ仕方ないですか。汝が縁徳山にありと、徳山に問う、従上宗乗中の事、学人還って分有り也また無しや。徳山打すること一棒して、什麼と道ふぞと。これによって省あり。ちらとも気がついたんです。さあ気がついて下さい、一棒にうってこれと。他にはないんです、生まれ本来これ、仏教周辺じゃないです。のち鰲山にいたって雪に隔てらる、兄弟子巌頭と雪に閉じ込められて、雪峰云く、我れそのかみ徳山の棒下に在って、桶底の脱するが如くに相似たりと。巌頭喝して云く、汝道うことを見ずや、門より入るものは是れ家珍にあらずと。須らく是れ自己胸中より流出して、蓋天蓋地にして、方に少分の相応有るべしと。雪峰忽然として大悟。礼拝して云く、師兄、今日始めて是れ鰲山成道と。尽大地撮し来るに粟米粒の如し、面前に抛向す、ほうら投げ出したぞ、漆桶不会、どこへ行ったかさっぱりわからん、鼓を打って普請して、作務太鼓うってさあ大衆みんなして捜せ、というんです。さあどうですか。一盲群盲を引く、分外にあらず、なんてえことはないっていうんです、一盲衆盲を引く=初心世の中ぜんたい、はーい、なんていうことないんです。これなんの手段ぞ、もと手段なし、山僧従来鬼眼晴にあずからず、あほなこと云って辺りをへいげいするなんざ最低だ。抛ったたって抛ってねえじゃねえか、勢いによって人を欺く、わっはっはこうれだまされるな、太鼓打つなんては軍隊の行進。まあさ、いい加減云いたい放題。

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2007年4月 2日 (月)

へきがんろく

頌・一勘破。(言猶ほ耳に在り。過。)二勘破。(両重の公案。)雪上に霜を加ふ。曾て嶮堕す。(三段同じからず、什麼の処にか在る。)飛騎将軍虜庭に入る。(嶮。敗軍の将再斬に労すること無けん。喪身失命。)再び完全を得る幾箇ぞ。(死中に活を得たり。)急に走過す。(傍若無人。三十六策、汝が神通を尽くすも何の用を作すにか堪へん。)放過せず。(理能く豹を伏す。鼻孔を穿卻す。)孤峰頂上草裏に坐す。(果然。鼻孔を穿過するも也未だ奇特とせず。什麼と為てか卻って草裏に在りて坐す。)咄。(会すや。両刃相傷る。両両三三旧路に行く。唱拍相随ふ。便ち打たん。)

勘破了也と一言云えば足る、てまえもわしも真っ二つ。もと無一物中無尽蔵、標準は自分なんです、いいの悪いの身心消えたの残ったの、とやこう一二三やっている、はいやっているそのもの、そのものと知れるときまったくなし。何を勘破了、すでに耳朶に在り、再来かすっともかすらんですか、かすっともかすらぬ宇宙それ。過なく不過なし、千変万化。両重の公案早に忘れるによく、雪上に霜を加える、これなんぞ。かつて嶮堕すと、東へ過ぎ西へ過ぎ、無無と云って出ず、虎のひげを撫でずに退散ですか、人物まねにそりゃ何やったって、所作が見事などいうお笑い番組です、たとい山門を掠めるとも嶮堕、人みな嶮あり堕ありと。い山の雪に徳山の霜を置くんですか、徳山の雪にい山の霜を加えるんですか、見た目まったく不変、はい正解、そこらへん謝三郎一般の見る、はい答え。かつて嶮堕して残屑なし。飛騎将軍李広は弓の名手であった、深く虜庭に入りという、捕虜になって死人のまねをして、隙を見て馬を奪い、追手を次々射倒して生還したという故事。徳山入室してい山に相見す。死中に活を得たりですか、これ世間一般、言い訳屁理屈、おれはえらいおまえはだめというしか、相見る事なく、若しやちらとそんなんありゃ、真っ二つ。虜庭に入って死んだ真似、あっはっは煮るなり焼くなりどうぞっていう、はてどうぞって云ったとたんに、三つに切られ。急に走過す、再び完全を得る幾箇ぞ、払子を擬せんとすれば即ち喝し、払袖して出ずと。傍若無人は西へ東への一件、三十六計逃げるに及かず、あっはっは真正面したです、神通などへたな斟酌なし、死体と同じこれわが宗旨なり、打てば響くんです。放過せず。い山盗人を追う、豹も理に契う、鼻の孔えぐるんですか。孤峰頂上草裏に坐す、なんだこりゃあってんです、座蒲団の真っ赤なの三十枚も敷かせりゃいいのに、なんで草裏だ、咄。二人破れて傷つく、旧態依然の、唱拍道中、三十棒ってわけです。

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2007年4月 1日 (日)

へきがんろく

第四則 徳山い山に到る

本則・挙す、徳山い山に到る。(担板漢、野狐精。)複子を挟んで法堂上に於て、(妨げず人をして疑著せしむ。敗缺を納る。)東より西に過ぎ、西より東に過ぎ、(可殺だ禅有りて什麼か作ん。)顧視して無無と云って便ち出ず。(好し三十棒を与ふるに。可殺だ気天を衝く。真の獅子子善く獅子吼す。)雪竇著語して云く、勘破了也。(錯、果然、点。)徳山門首に至り、卻って云く、也草草なることを得じと。(放去収来。頭上は大高生。末後は大低生。過ちを知って必ず改む、能く幾人か有らん。(便ち威儀を具し、再び入って相見す。(依前として這の去就を作す。已に是れ第二重の敗缺。けん。)い山坐する次、(冷眼にして這の老漢を看る。虎髭を撫ずることは也須らく是れ這般の人にして始めて得べし。)徳山坐具を提起して云く、和尚。(頭を改め面を換ふ。風無きに波を起す。)い山払子を取らんと擬す。(須らく是れ那漢にして、始めて得べし。籌を帷幄の中に運す。妨げず天下の人の舌頭を坐断することを。)徳山便ち喝して、払袖して出ず。(野狐精神の見解。這の一喝也権有り也実有り、也照有り也た用有り。一等に是れ雲を弩らひ霧を攫む者、中に就いて奇特なり。)雪竇著語して云く、勘破了也。(錯、果然、点。)徳山法堂を背却して、草鞋を著けて便ち行く。(風光愛しつべし。公案未だ円かならず。頂上の笠をかち得て、脚下の鞋を失却す。已に是れ喪身失命し了れり。)い山晩に至って首座に問ふ、適来の新到、什麼の処にか在る。(東辺に落節し西辺に抜本す。眼東南を観て意西北に在り。)首座云く、当時法堂を背却し、草鞋を著けて出で去れり。(霊亀尾を曳く。好し三十棒を与ふるに。這般の漢脳後に多少をか喫す合き。)い山云く、此の子已後孤峰頂上に向かって、草庵を盤結して、仏を呵し祖を罵り去ること在らん。(賊過ぎて後弓を張る。天下の衲僧跳不出。)雪竇著語して云く、雪上に霜を加ふ。(錯、果然、点。)

い山霊祐百丈の嗣、仰山とともにい仰宗の祖、いはさんずいに為、きと読むらしい川の名。徳山宣鑑は龍潭の嗣、婆子に三心不可得如何なる心によって団子を食うかと問われて、龍潭和尚を問ういきさつ。金剛経を焼いてきれいさっぱりですか、そりゃもうほんにかすっとも残らない、実にこの則の消息。担板漢野狐精、はいなってなもんです。板を担う、たいていの人思想信条こうあるべきの無細工、こっけいですか、野狐精は、たとい仏を知るについては不細工、我田引水しかできない、つまり物まねです。よくよく見てごらんなさい、あなたは物まね身上。複子をたばさむは旅装のまんま法堂に上がる、(これなにごとかっていうんでしょう、すなわち敗壊たり、たってさなにやっても同じですか。)東より西へ、西から東へ、お寺は南門という南向き。(おうまるっきり禅風だぜ、がんばってね。)かえりみて無といってそのまんま出る。(でかした三十棒、衝天の志気ですか、ライオンの子がライオンに吼えるぞ、あたりきよ、唯我独尊ふうわり一吹き。)雪竇つけて、かんぱりょうや。(錯、金属の溶け消える、果然、やったあっていうんです、点、動くな、これい山を徳山がかんぱりょうや、雪竇がかんぱりょうや、おまえさん方はどうだって点ずるんです。)徳山山門に至って待てよ、もうちょっとちゃんとせにゃいかんといって、引き返す。(放ったら収めんけりゃ、大威張りかいといて低姿勢ですか、でも過ちに気がついたら必ず改める、おっほっほえらいえらい。)威儀を具し、着襪塔袈裟です、ふたたび入って相見、(また例によってやっとる、二度の敗缺、もとまるっきり用事がないんでしょう、だったらなんで。)い山坐するついで、(冷眼にして、うは大い山坐す、触れなば落ちんて、首が飛ぶ、吸毛剣がそこにあるんです、虎のひげ撫でに行く、うっふうちょっと勇気要りますか。)徳山坐具を提起は、今もって同じふうにして坊主ども猿芝居問答、如何なるかとやっている、和尚。(開き直ってやって来た、すなわち風無きに波を起す。)い山払子を取る、取ろうとしたんです。(すわぶった斬る、天子ははかりごとを幄の中にする、将軍は塞外にあり。)徳山即ち喝して、袖を払って出る、うはすごいねこのおっさん。(杜撰な野郎め、聞いたふうなことするな。一喝権あり、お経全巻あるよってな、実あり仏そっくりです、照あり用あり、もって救いもって使うんです。いやたいしたもんですとさ。)雪竇また勘破了や。(はーいはい。)徳山わらじ履いてさっさと出て行く、いいですか参禅これ、ちらとも滞る、すなわち鞋を脱ぐよりないんです、卒業すると用なし。(まあさかわいらしいこったが、未だし、頭上の笠を奪ったが、却下の鞋をないがしろ、そんでもって死んじまいやがった。)い山晩にいたって首座に問う、さっきの新到はどうした、僧堂の新参をしんとうと云う。(東もいない、西もいない、南北を見て東西を知る、これ観音さまの世の常だけんどもさ。)首座云く、わらじ履いて出て行った。(おっほ首座まで感じ入っているぞ、よし三十棒。でくのぼうだって脳後に多少をか。)い山云く、あいついずれ孤峰頂上に向かって、草庵を結び、仏を呵しり、祖を罵る、たいへんなあほになるぞ。印下って云えばそりゃまあって、印下される玉かよ。(泥縄もいいとこだ、そんなんじゃ一匹も育たんぜ。)雪竇云く、雪上に霜を加える。無駄っことです、でも卒業式他にはなく。錯、果然、点。

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